デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第三十九話 知らぬ一面

 妹と買い物に出掛ける。世の中の兄…性格には、妹のいる兄にとって、それは誰しも一度は経験している事だろう。ある程度成長してくると、そういう機会も減る、或いは全くなくなる兄妹もあるらしいが、少なくとも妹と出掛けるのは緊張するような事ではないし、自分からすればありふれた事。士道は、そう思っている。そういう生活を、これまでしてきた。

 だから当然、真那とも…義妹である琴里ではなく、実妹である彼女とも、あくまで買い物であればそう肩に力を込める必要もないだろうと思っていた。普通に行って、普通に会話しながら買い物をすればいい…そう思っていたし、それで良いのが兄妹だとも思っていた。…思って、いたのだが……

 

「兄様!これならば…これならは、どうでいやがりますか…ッ!?」

 

 ばっ、と勢い良くカーテンを開け、強い意思の籠った…まるで決戦に望む戦士が如き瞳を浮かべた真那。だが、その身を包むのは鎧でも、CR-ユニットでもなく…もう秋の終わり、冬の始まりに差し掛かっている今となっては明らかに寒いであろう、白のワンピース。それを纏い、どうかと尋ねてくる真那の姿に…士道は、自分の見込みの甘さを痛感していた。

 

 

 

 

 一体何故、真那が今の時期に合わないワンピースなど着たのか。その姿をどうかと訊いてきたのか。その発端は、今回の買い物の目的地、購入先である、最寄りのデパートでのある会話に起因する。

 

「え、ここは……」

 

 士道が足を止めた場所、そこにある店舗を見て、真那は困惑の表情を浮かべる。とはいえそれも、当然の事。何せ士道が足を止めたのは、化粧品売り場なのだから。

 

「…兄様、もしやここの店員に何か用事が…?」

「いや、違うぞ?」

「なら…あ、ひょっとして誰かへのプレゼントでいやがりますか?化粧品のプレゼントとは、兄様も中々……」

「プレゼントでもないからな?」

「じゃ、じゃあ…まさか、自分用で……?」

 

 困惑に加えて動揺すら見せる真那へ、それも少し違うと士道は返す。…まあ、余った場合やそもそも気に食わなかった場合は、自分用になるかもしれないのだが。あまり望ましくはない事だが。

 

「真那、俺が七罪に対してどうするかの話を覚えてるか?」

「それは…あー、そういう……」

「それに、やっぱこういうところに男一人で来るってのも抵抗があるからな。悪い、折角の買い物なのに内容がこんな感じでさ」

 

 データ中に他の女性の話題を出すなど以ての外。相手は実妹の真那で、あくまで買い物ではある…が、だとしても少し前までは精霊と戦っていた、それを生業にしていた真那からすれば、決して気分の上がる理由ではないだろうと思い、面と向かって謝罪した士道。しかし真那は、そんな必要はないとばかりにふるふると首を横に振る。

 

「謝らねーで下さい、兄様。どんな理由であれ、兄様のお役に立てるのなら、真那はそれが本望ですから!」

「そ、そうか。そう言ってもらえると助かるよ」

「…というか、謝るとしたらそれは私の方です。兄様もお忙しい中、侑理が妙な提案をしたばっかりにこんな……」

 

 そう言いながら、本当に真那は申し訳なさそうな顔を見せる。確かにこうして共に出掛ける事になったのは、侑理の「真那が士道の行いにもやもやしているのなら、真那も体験して楽しさを知ればいい」という提案があったが為。だが今度は、その言葉には士道の方が首を横に振って否定を示す。

 

「気にすんなって。昨日も言ったが、俺は元々買い物に行くつもりだったんだからさ。それに…妹との買い物なんて、俺にとっちゃ普通の日常なんだ。それを真那にも感じてもらえるなら…俺の事を知ってもらえるなら、それは俺としても嬉しいんだよ」

「兄様……」

 

 今の言葉に、気遣いなどない。ただ思っていた事を、事実を、そのまま真那に伝えただけ。だからそれ以上の事は言わず、代わりに「行こうぜ?」と売り場の中へ真那を誘う。一瞬の間を経て、快活な声で応えた真那と共に化粧品を見る。

 

「取り敢えず、化粧水から見ていこうと思うんだが…もし良かったら真那、参考にどんな化粧道具を使ってるか教えてくれないか?」

「あ、あー…えぇと、それは…その……」

「…真那?」

「…あるものを、適当に……?」

 

 何とも言い辛そうに、そして何故か疑問符まで付けて答える真那。…もう、この時点でほぼ確定した。どうやら真那は、化粧に拘らない…というか、普段殆どしないらしい。

 

「て、適当か…まあでも確かに、拘ればいいってもんでもないしな…。…って、うん?あるものを…って事は、自分で買ったりはしてるのか?」

「いや、そういう事もしてねーです…基本、侑理に『これ位はしなきゃ駄目だよ!』…って言われて押し付けられ…もとい、貰った物をそのまま使ってるだけで……」

「あー…」

 

 そういう事か、と士道は納得。確かに侑理なら、それ位の事はしそうである。しそうというか、渡す姿が士道の目にはありありと浮かぶ。

 

「けど、そっか…どうすっかな…。それじゃあここにいても真那は面白くないだろうし、化粧品は後に回すか……」

「あ、いえ、私の事は気にしねーで下さい。これは兄様の買い物でいやがるんですから!」

「でも、真那との買い物だろ?だったらやっぱり、真那も楽しくなくっちゃ…な?」

「それは、そうかもしれねーですけど…。…というか、兄様はどの化粧品がいいかって分かるもんでいやがるんですか?」

「…まぁ、な……」

「……?」

 

 至極当然な真那の疑問に士道が答えると、真那は目を瞬かせて小首を傾げる。…恐らく、士道は今複雑な…物凄く複雑な表情になっているのだろう。真那はそれが気になったのだろう。

 しかし士道は、それについて触れないでおく。隠し通せるとは思えない…というか真那は既に()()()()()()()()姿()を知っているようだが、せめてこの兄妹での買い物の間位は、微妙な心境にならずに過ごしていたいのだ。

 

「取り敢えず、あれだ。さっきは拘ればいいってもんでもない、とは言ったが、肌がぴりぴりするとか荒れるとか、そういうおかしさを感じる事があれば、その化粧品は止めた方がいいぞ。同じ化粧品でも人によって合う合わないがあるし、何なら高ければ良い、安いものは良くない…って訳でもないからな」

「そ、そうなのでいやがりますか。…これは、勉強になるかもしれねーですね…」

「兄として、妹に化粧品の事を教えるのは凄く微妙な心境なんだけどな…はは……」

「いや、まあ…はは……」

 

 真那と二人、乾いた笑いを漏らし合う。もし真那ではなく琴里なら…白リボンならハイテンションで妙な返しを、黒リボンなら切れ味鋭い言の葉を受けていた事だろう。そう思うだけでも、同じ『妹との買い物』でも凄く新鮮だ、と感じる士道だった。

 それから士道なりに化粧品の事を話しつつ、商品を見る事数十分。ある程度は買い揃えられた事で、士道は店舗を後にする。

 

「はー…化粧がこうも奥深いものだったとは、これまで考えもしやがりませんでした…」

「俺もつい最近までは同じようなものだったよ。それと…やっぱり、真那に来てもらって正解だったな」

「へ?私は何もしてねーんですが…」

「けど、俺の質問に答えてくれたり、自分ならこの色が好みだ…って教えてくれたりしただろ?それは俺一人じゃ絶対に得られなかったものだし、『女の子の観点』があれば、俺も自分の選択に自信が持てるしさ」

 

 自分一人で決めるより、賛成であれ反対であれ、誰かの意見を受けた上で決めたものの方が、ずっと自信を持てるのは摂理。そしてこれは真那でなければならない事ではない…が、今ここで力になってくれたのは、紛れもなく真那。だから助かったのだと士道は伝え…言われた真那は、「あぁ…」と呟き頬を掻く。

 

「…まあ、さっきも言った通り、兄様のお役に立てるのなら本望でいやがりますが…あんまり私の感性には期待しねーで下さい。何せ、私自身がイマイチ自分の感性に自信を持ってねーので……」

「それでも男の俺の感性よりは信頼出来るさ。んじゃ、次は……って、あ」

「…どうかしやがりましたか?」

「や、その…そういや今日は、挽肉が安くなる曜日だったな…って」

「…主婦…いえ、主夫みてーな思い出しですね…」

「す、すまん…色々台無しだな、これは……」

 

 ここは最寄りのスーパーや商店街よりは遠いとはいえ、それなりに来る機会もあるデパート。故に五河家の台所を預かる士道は、いつ何が安かなるかきっちり把握してる…というより自然と覚えているのだが、今はそれが完全に裏目。どう考えても、悪い意味で気の抜ける事を言ってしまったのであり…しかし士道の予想に反して、真那が浮かべていたのは柔らかな笑み。

 

「全然、台無しなんかじゃねーです。兄妹で、食事の買い物をする…それを兄様とする事が出来て、むしろ私は嬉しい位でいやがります」

「そうか…?…いや、でも…そうだよな。特別な何かをするより、こういうありふれた事をする方が、兄妹らしいもんな」

「そういう事です。あぁでも、今食材の買い物をすると、荷物になっちまいますかね…?」

「なっちまうな。って訳で、挽肉は最後にするか」

「なら、侑理に頼みますか?私と兄様が揃って頼めば、何をおいてもすっ飛んでくるんじゃねーかと」

 

 いや真那は侑理の事を何だと思っているのか、と苦笑する士道。…まあ実際、すっ飛んできそうだが。来るのだろうが。

 ともかく食材の買い物は後に回し、士道は次の目的地である服売り場へ向かう。その為にエスカレーターへ乗り…肉の話をしたからか、真那がこんな話を振ってくる。

 

「にしても、兄様は料理がお上手でいやがりますよね。何度かご相伴に預かっちまってますが、いつも美味しいとは大したものです」

「ご相伴って、また固い言い方を…。…食事は毎日の様に作ってるからな。しかもここ最近は作る相手が増えたから、その分力も入るんだよ」

「…増えた分、大変で手抜きを考えちまうのではなく…?」

「それがな、十香達は皆本当に美味そうに食べてくれるし、喜んでくれるんだよ。自分の作ったもので、笑顔になってくれる、また食べたいと言ってくれる…それって、凄く嬉しい事なんだぜ?」

 

 エスカレーターから降りつつ、大変でも作り甲斐があるんだと士道は答える。以前は今の両親が家を空けがちな事もあり、料理を振る舞う相手が基本琴里一人だったからこそ、多くの相手に喜んでもらえるのには充実感があり…賑やかな食事そのものも、士道は楽しく感じていた。毎日毎食精霊達は五河家に来る訳ではないのだが、いつ来ても料理を振る舞おう、振る舞いたい…そんな風に、思っていた。

 

「…立派でいやがりますね、兄様は。妹として…いえ、これに関しちゃ妹関係なしに尊敬します」

「好きでやってるだけだし、そんな大したものじゃないさ。…尊敬してくれるなら、ありがたいけどな」

「いやいや、本当に兄様はすげーです。琴里さん達が幼児化してた時に軽く見させてもらいましたが、料理のみならず洗濯に掃除、その他家事と呼ぶべきものをどれもきっちり…それも自然にこなすなんて、私にはとても真似出来ねー事ですから」

 

 いつもの勢いある…というより逆にこっちが戸惑うような称賛とは違う、落ち着いた雰囲気での真那の言葉に、士道は少し照れ臭くなる。士道からすれば、DEMの魔術師(ウィザード)をしていた真那の方がずっと凄いのだが…これも、隣の芝は青く見える…の一種なのかもしれない。

 

「…いや、ほんと、なんというか…女だ男だ言う気はねーですが、流石にちょっと自分を顧みてー気持ちになってくるというか……」

「…えーと…真那?」

「あっ…き、気にしねーで下さい。妹の独り言は、聞き流すのがイカした兄ってもんでいやがりますよ、兄様」

 

 そんなピンポイントな評価なんてあるだろうか…と思いつつも、本人がそう言うならばと士道は触れない事にする。そうして服売り場に到着し…士道は、ある事を頼む。

 

「…真那、失礼を承知でお願いしたい事がある。真那を七罪に見立てさせてくれないか?」

「へ?み、見立てるって…いやあの、良い悪い以前に、それは私で大丈夫な事でいやがるんですか…?」

「大丈夫だ。七罪の本当の姿…本来の体型は、真那と近いからな」

「は、はぁ…まあ、それなら構わねーですけど……」

 

 まさかそんな頼み事をされるとは、という表情をしつつも、真那は頷き了承する。

 何故真那を七罪に見立てるかというと、作戦の予行練習を行う為。何事もぶっつけ本番より一度でも練習しておいた方がいいに決まっているし、練習の内容がなんであれ、『練習をした』という事実そのものが、一定の安堵をもたらしてくれる。その為に真那を七罪に見立て、当日へ向けたイメージトレーニングに繋げようというのが、士道の考えであった。そして、真那の同意を得られた事で、早速士道は何種類か真那に服を見繕ったのだが…それが後の事態の引き金になるとは、この時の士道は夢にも思っていなかった。

 

「まずはシンプルだけどさ、パーカーにショートパンツ、ニーハイソックスなんてどうかな。…いや、どうかなっていうか、取り敢えず動き易い格好って事で考えてみたんだが……」

「確かに動き易そうでいやがりますね。私もこういう服装は好みです」

「やっぱそうか。けどちょっと無難過ぎるし…シャツとカーディガンに、ワイドパンツ…だっけ?…を組み合わせてみてもいいか?」

「それはまた、えぇと…カジュアル?…な格好でいやがりますね。悪くはねーと思います」

「だよな。後は…マックネックのセーターに、デニムのパンツで…ふわっとした帽子と、ブーツを合わせて……」

「…あ、あー…はいはい分かります、そういうのも素敵でいやがります…よ、ね…?」

 

 色々と考えては、真那に意見を貰いつつ、更にその都度着てもらう士道。先に言ってしまうと、真那はどれを着てもそれなりに似合っていた。身体のメリハリこそやや控えめなものの、すらりとしたスタイルと、愛らしくも頼もしい容姿を持つ士道の実妹は、素体のレベルが高いが故に安定して良い感じに仕上がっていた。

 しかし今回の目的は、あくまで七罪に見立てる事であり、七罪らしい(といっても、まだ士道は七罪の事を深くは知らないのだが)格好かというと微妙なところ。どうにもそこが納得いかない為に、士道は色々と試してもらい…その内に、段々と真那の表情が怪しくなっていく。初めは普通だった真那の表情や調子が曇っていき…気付いた時には、明らかに様子がおかしくなっていた。具体的には…俯き、肩をぷるぷる震わせていたのである。

 

「多分七罪はもっと…って、真那…?えっと…あの、真那さん……?」

「…情け、ねーです……」

「へ?」

「真那は、あまりにも情けねーです!家事に化粧に着こなしまで、凡そ女子力と呼ぶべきもの全てにおいて兄様に劣っている私自身が!」

「お、おおぅ……?」

 

 流石に真那に無理強いし過ぎたか、と一瞬士道は思った。だが直後の言葉で、むしろ士道は困惑する。真那の、まさかの言葉に。女子力という、真那が口にしたという意味でも意外過ぎるその言葉に。

 

「こんな、こんな…さっきは女だ男だ言う気はねーと言いましたが…ここまでとなると、悔しいというか恥ずかしいというか…とにかく敗北感が押し寄せてきやがるんです…!」

「いや、それは…俺も大した事は……」

「兄様で大した事ねーのなら、私は小童ですらねーです!」

「小童って……」

 

 真那は口調だけじゃなく言葉選びも時々謎だ…と思った士道だが、ともかく真那が凄まじくショックを受けている事は伝わった。士道からすれば、家事や化粧はともかくファッションについては頭の中の引き出しを引っ掻き回して何とか出した程度のつもりなのだが、精霊達との関わりの中で、皆の着こなしを見る中で、多少は引き出しの中身が増えていた…という事だろう。

 と、我が身を振り返っている場合ではない。理由はどうあれ真那がショックを受けているなら、フォローしてやらねば…と思った士道だが、真那のフットワークは軽く、その行動はとにかく早い。

 

「けど、ここでおめおめ引き下がる訳にはいかねーんです…!私にも、少し位は女子力があるって事を見せてやりますよ、兄様!」

「あ、おい真那…!…女子力って、そんな鬼気迫る表情で発揮するものだったか…?」

 

 言うが早いか、真那は見回し売り場の服…のハンガーを引っ掴むと、試着室へと突っ走っていく。一応やりたい事は理解出来た士道が後を追い、更衣室の前で待っていると、中から衣擦れの音が聞こえてくる。そして数分後、試着室のカーテンが開き…真那が、姿を現す。

 

「さあ、どうでいやがりますか!?」

 

 そう言って出てきた真那の身を包んでいるのは、青と白のストライプシャツに、ボタンの飾りが付いたスカートと、黒のジャケット。女の子女の子していない、必要以上に盛ったりはしないそのコーディネートは正に真那らしい、さっぱりとした格好良さがあり……

 

「ど、どうって…まぁ、その…似合ってると思うぞ…?」

「なっ…なんでいやがりますか、その反応はー!足りねーと、こんなんじゃ女子力なんて見えてこねーと言いたいので!?だったらもっと攻めるまで…!侑理、私に力を……!」

「いやそんな事は…ってあぁまた…!」

 

 だが、女子力…恐らく真那が主張する「女の子らしさ」があるかといえば、正直それは微妙だった。本当に似合っている、真那に合う服装ではあると思うが、女の子っぽいファッションではなかった。スカートを履けばそれだけで女の子っぽくなる…訳ではない事位、士道にだって分かるのだ。

 そして士道の微妙な反応から言わんとしてる事を(若干の曲解はありつつも)察した様子の真那は、士道からの返答も聞かずに再度試着室へと突進していく。

 

(…女子力…女子力か……)

 

 当然中に入って止める訳になどいかない為再び待つ中、士道はぼんやりと考える。確かにまあ、真那の女子力は高くないかもしれない。だがそれは別に悪い事ではないし、女子力が高くなければ女性としての魅力が低いかといえば、そんな事はない。断じてない。しかし、今の真那がそう言って止まるような状態にあるかといえば、そうでもない訳で…そうこうしている内に、またカーテンが開き着替えた真那がその姿を見せる。それを数度繰り返し……最終的に行き着いたのが、白のワンピースであった。

 

「いや、その…あー、っと……」

「こ、これでも足りねーんですか…!?だ…だったらもう、ドレスとかそういうのを着るしか……」

「ドレスはないだろ流石に…真那、一回落ち着け。それから、一つだけ言わせてくれ」

 

 最早狼狽えすらする真那に突っ込みを入れつつ、士道は指を一本立てる。そのジェスチャーと言葉に、一体何を言うのか…と真那が緊張の面持ちを浮かべる中、士道は改めて真那の姿を脚の先から頭まで見やり……言う。

 

「…流石にもう、今の季節にその格好は寒くないか…?」

「……それは、まぁ…はい…」

 

 今の真那が纏っているのは、涼しげな白のワンピースのみ。勿論下着は着ているだろうが、逆に今は靴下さえも履いていない。髪を纏めるヘアゴム…は、カウントしても仕方ない。もう長袖が標準な時期に、ノースリーブのワンピース一枚など絶対寒い訳で…我に返った様子の真那も、若干目を逸らしつつ頷いた。

 

「…けど、言うじゃねーですか。お洒落は我慢だって…」

「まあ確かにそういう言葉もあるが…真那はそこまで考えてその格好にしたと?」

 

 問いに対する反応は沈黙。どうやらそうではないらしい。大方ぱっと思い付いた事を言っただけなのだろう。

 

「…取り敢えず、服を戻してこような?」

「はい…」

 

 しょぼくれる真那と共に士道も服を持ち、ハンガーに掛け直して、或いは畳んで戻していく。それ自体は大して時間も掛からなかったが…終わってもまた、真那はしょぼくれたまま。完全に玉砕した様子の真那の背からは、なんだか物悲しさすら漂ってくる。

 

「女子力…私には、なかったみてーですね……」

 

 そこまで真那は女子力を気にしていたのか。そこまでではなくとも、男である士道の方がずっと上である(と本人は思っている)事へ複雑な気持ちを抱いてしまうのが、女心という事なのか。それは、到底士道には分かるものではなく…されど、何も分からない訳ではない。

 

「…なあ、真那。俺も別にファッションに詳しい訳じゃないから、個人的な意見に過ぎないけどさ…別にファッションって、可愛いとか綺麗とか、そういうのが全てじゃないだろ?誰でもそういうのを着ればいい、それが正解なんだ…なんて事はないだろ?」

「…そりゃまあ…人によって、どういう服装が似合うかはちげーますし…」

「だよな。って事は、ファッションってのは自分含め、着る相手に合ったものを選べるかどうか…ってものだと思うんだよ」

「…えぇと、つまり…?」

 

 困惑する真那は、士道の事を見上げてくる。そんな真那、気落ちした実妹へと肩を竦め、士道はぽふりと真那の頭へ手を置く。それから軽く真那を撫でて…言った。

 

「つまり、ファッションに関してはそこまで真那も悪くないって事だよ。後半は暴走してたけど…最初は確かに似合ってたし、真那らしくて良いって、俺は本当に思ったんだからさ」

 

 そう。段々と迷走していった真那だが、最初は真那に合う、真那らしさのあるコーディネートだった。多分もっとお洒落に精通している者が選べば、より真那の魅力を引き出せる服装や、それこそ真那の目指したのであろう、可愛い格好なども実現出来るのだろうが…だとしても、いつもの真那らしさを感じられるコーディネートを真那が出来ていた事には変わりない。そして…士道は思ったのだ。いつもの真那らしい格好をする真那も、可愛らしいじゃないか、と。

 

「…ふっ、私もまだまだだったみてーですね。一番大事な事を、忘れていたとは……」

「納得してくれたなら何よりだよ。やっぱ服装ってのは、似合うかどうかと、TPOに沿ったコーディネートになってるかが一番──」

「兄様が良いと思うかどうか、それが一番大事に決まっていやがりますよねっ!」

「そっちかよ!?」

 

 ぱっと表情を明るくさせた、いつも通りの元気さを取り戻した真那の、全然違う方向の答え。真那らしいといえば真那らしい…しかし結論としてはあまりに独特過ぎるその答えに、なんだか拍子抜けしてしまう士道だった。

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