デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第四十話 兄妹だから

 化粧品の購入を終え、服売り場でのドタバタも終え、士道は真那とデパート一階の食品売り場へと行った。安くなっている挽肉だけでなく、この際だからと減っていた食材や、今晩の料理用のあれやこれやも、纏めて買っていく事にした。

 ただ売り場を回り、商品を籠に入れていくだけなど、真那からすれば退屈なものではないだろうか。そんな風にも思った士道だが、意外とそうでもなかったらしく、また士道としても最近は減った『妹との普段の買い物』を、琴里ではなく真那としている事が、新鮮で中々楽しく感じられた。

 そうして食材の購入も終わり…今いるのは、フードコート。士道は買った物をまず降ろし、それから背のないベンチへ真那と共に並んで座る。

 

「ふぅ、良い匂いだよな」

「同感です。このソースの香りが食欲を唆るってもんです」

 

 荷物を置いた上で手に残ったのは、今し方買ったたこ焼き。ソースの匂いが香り、湯気が立ち、鰹節が揺れるたこ焼きは、正に出来立てほやほや。早速士道は頂きますと呟き、爪楊枝を刺して、たこ焼きを一つ口へと放り込む。

 

「あっつ…!く、ふっ…分かっちゃいたけど…ほんと、あっついな……!」

「それがいいんじゃねーですか。冷めたたこ焼きなんて、緩い炭酸と同じ位期待外れ…つぁ……ッ!」

 

 カリッとした食感の直後に襲ってくる高熱を士道が堪える中、余裕たっぷりに真那も食べ…びくっと肩を震わせる。暫くの間、ぷるぷると震え…飲み込んだのか、ふっと肩から力が抜ける。

 

「や…やっぱりこの熱さこそが、たこ焼きの醍醐味……」

「…無理、しなくていいんだぞ」

「…うぅ…はい、やっぱりあちーもんはあちーです…」

 

 肩に手を置き士道が言えば、真那は熱かった事を認める。…ちょっと笑ってしまいそうだったのだが、もし笑っていれば、笑わずとも口の端をぴくぴくさせていたら、真那は認めなかったかもしれない。それを思うと、我ながらよく頑張ったものである。

 そんな風に思いながら、今度は爪楊枝で一度たこ焼きを割り、ある程度熱を逃したから食べ進める。それでもやはりまだ熱い…が、真那の言った通り、熱さもまたたこ焼きの醍醐味というもの。

 

「そういや、真那は菓子とか何も買わなくて良かったのか?」

「え、いや別に問題ねーですけど…」

「うーん、そうか…琴里と買い物に出る時は、必ずチュッパチャップスのチェックしてるし、毎回琴里は買い物籠に入れてくるんだけどな…」

「そ、それはまた…ほんと琴里さんはチュッパチャップス好きでいやがりますね…」

「ああ。黒リボンの時も、チュッパチャップスが絡むと子供っぽくなる位だ」

 

 あれはもう好きを超えたチュッパチャップス狂と言うべきなんじゃないだろうか、と苦笑しつつ士道は思う。真那もまた苦笑いをし…それから「あ…」と小さく呟く。

 

「…何か思い出したのか?」

「思い出した、というか…たこ焼き、もう一つ買っても?」

「うん?…あぁ、侑理の分か」

「あ、あげる用とは言ってねーじゃねーですか…!…まぁ、そうでいやがりますけども……」

 

 やっぱりか、と再び士道は苦情を漏らす。一方真那は、見抜かれたからかちょっぴり恥ずかしそうな顔をする。

 琴里もそうだが、仕事や戦いとなれば凛々しく頼もしい、自分よりもずっと大人に感じる真那ではあるが、こうしている限りは本当にただの少女というか、士道にとっては単なる妹でしかない。そしてきっと、それでいいのだ。大人になりたくて、自分から大人びるのと、大人にならざるを得ないのは、全く違っていて…そうしていなくてもいい時間があるなら、その方がきっと幸せなのだ。

 

「ほんと、真那は侑理の事が大好きなんだな」

「んなっ……!」

 

 軽く笑って士道が言えば、真那は声を詰まらせる。さっきよりも、更に顔が赤くなり…それから真那は、ぷくっと頬を膨らませながら目を逸らす。

 

「…そーです。侑理は私の相棒、大事な親友でいやがります。ほら、これで文句はねーですか?」

「拗ねるなって、別に悪いと言ってる訳じゃないんだからさ。…というか、そうやって言える相手がいるのは、良い事じゃねぇか。俺には相棒とか、そこまで言える相手はいないし、ちょっと羨ましいよ」

 

 戦いを生業としていたり、団体競技をしていたりする訳ではない士道に、わざわざ『相棒』と呼ぶような相手がいたらそれはそれでちょっと変…と言ってしまえばそれまでだが、だとしてもそこまで言える程の友はいない(勿論同級生の友人はいる…が、相棒ではない。彼を相棒とは呼びたくない)士道からすれば、真那と侑理の関係は素敵に思えるものだった。だから今の言葉は、士道からすれば率直な、素直な思いからくるものだった。

 だか、そんな士道の言葉をどう思ったのか、真那は頬を萎ませ黙り込む。士道が見つめる中、真那はふっと目を伏せ…それから静かに、口を開く。

 

「…侑理は、どう思っていやがるんでしょう…」

「…真那?」

 

 発されたのは、予想しなかった言葉。単なる真剣とも違う、心の奥から滲み出たような声。

 

「あの時…エレンや第二執行部と対峙した時、侑理の心は揺れていやがりました。最後ははっきり言い切っていたとはいえ…やっぱり侑理は、私とは考えが違うみてーです…」

「…けど、侑理は真那を信じた。真那と一緒にいる事を選んだ…そうだろ?」

「分かってます、それは分かっていやがります。でも……」

 

 心配する事はない、と言うように返した士道だが、言いたい事は分かった。その気持ちは分かった。真那にとって侑理は、侑理との絆は、一度は失いかけた大切なもの。ならば取り戻せたとしても、何かあれば不安を抱くのは当然の事。

 

「それに、私は戦う力のねー侑理を〈ナイトメア〉の追跡に連れていきました。そのせいで、侑理は危険な目に遭っちまったんです。こういう事が起こる可能性は承知していて、その上で私は守るって決めていたのに、結果はあのざま…間一髪で間に合ったから大丈夫なんて、そんな事はねーんです…」

「…だから、侑理の中に迷いが…いや、後悔があるのかもしれない…そういう事か…」

 

 何も言わず、ただ静かに真那は頷く。真那がそんな事を考えていたなんて、今の今まで士道は気付きもしなかった。ここまで真那は、いつも通りの真那に見えた。そう見えただけで、本当は悩んでいたのか。それとも不意に思い出して心を痛めるように、真那自身も常に気にしている訳じゃなく、何かの拍子に不安に駆られてしまうという事なのか。

 いや、それはどちらでもいい。重要なのは、そこじゃない。士道は一度真那から目を離し、フードコートの中をぼんやりと眺め…そのままの視線で、真那へと言う。

 

「…ごめんな、真那。大丈夫だとか、きっと侑理はそんな事思ってないだとか…そういう言葉は、真那にかけてやれない。根拠もなしに、侑理の心を決め付けるような事は出来ないし…真那にも、耳障りがいいだけの適当な言葉はかけたくない」

「…全然、それで構わねーです。むしろ、そういう誠実な兄様を尊敬します」

「おう。…でもな、一つ言える事があるとすれば…多分それは、考えたって仕方ねぇよ。真那にも分からないんだったら、侑理がどう思ってるかなんてきっと誰にも分からない。分からないし、考えて分かるものじゃない」

「…無駄、って事でいやがりますか…?分かりもしねー事に悩むなんて、そんなの無意味だって……」

「いいや、違う」

 

 そういう事じゃない、と士道は否定する。確かに士道も、じっくり考えて推測した方がいいとは思っていない。だが、無駄とか無意味とか、そういう後ろ向きな事を真那に言いたい訳ではない。

 

「別にいいんだよ、分からない事は分からなくたって。俺だって、真那の…妹の考えが分からないなんて事、この買い物の最中にだってあったし、真那だって俺が何考えてるんだかさっぱりだ、って事はこれまで何度もあっただろ?」

「…それは…そうで、いやがりますけど……」

「な?…良いとか悪いとかじゃなくて、それが人なんだよ。親友だって家族だって、別の人間なんだから。…だから…よーく聞けよ真那、兄ちゃんからのアドバイスだ」

「は、はい…!」

「分からない時は……直接言って、訊いて、話せばいいんだよ」

「……へ?」

 

 真那へ向き直った俺に、真那もまた向き直る。そして俺は、真剣そのものな表情を作り……言った。言って…真那は、浮かべた。ぽかんとした、それはもうぽかーんとした…拍子抜けの、表情を。

 

「…え、いや…アドバイスも何も、それは……」

「普通の事過ぎる、ってか?確かにそれはそうだ、けど…結局それが、一番なんだよ。調べたり、観察したり、予想したり、他にも方法はいろいろあるけどさ…やっぱり面と向かって、気持ちを聞いて、自分の思いもぶつけるのが、一番お互いの事を理解出来る方法だって、俺は思う」

 

 言いながら、士道は思い出す。他ならぬ自分自身がそうだった。十香も、四糸乃も、琴里も、耶倶矢と夕弦も、美九も、皆そうだった。真那や侑理だって同じだった。相手の事を、思いを本当の意味で理解出来たのは、真っ向から話して、心に触れた時だった。だから士道は、自信を持って言える。それが一番だと。相手の事を知りたいなら、相手にぶつかっていけと。

 

「それに、今はいつでも侑理と話せるだろ?今すぐだっていいし、状況を作る事だって出来るし、望んだ時に真那は侑理と話せるんだ。だったら、思いきり話そうぜ?言わなくても分かる、伝わるってのも格好良いけどさ、話せるなら話した方が、そっちの方が気持ち良いじゃねぇか」

 

 自信と共に最後まで言い切り、士道は笑ってみせる。これが兄ちゃんからのアドバイスだと、そう示すように。

 初めは拍子抜けの、その次は困惑の面持ちとなっていた真那。だが士道が言い切る頃には、そんな表情も変わっていた。静かに士道の言葉を聞いていて、士道が言い終わると前を見て、黙って……それから真那は、息を吐く。深く深く、ゆっくりと。そしてその末に…笑う。

 

「…ははっ、そうですね。その通りでいやがります。当然過ぎて、言われるまでもねー事です。…それなのに、そんな当然の事が頭から抜け落ちてるだなんて…私も随分と鈍ったものです」

 

 呆れたような、真那の声音。きっとそれは、自分自身に対する呆れの思いで…されどその表情は、暗くない。

 

「兄様。私、面と向かって侑理と話してみます。直接訊いてみてーと思います」

「おう」

「侑理ならきっと話してくれる、答えてくれる…それは、間違いねーです。自信を持って言えます。何せ私と侑理の仲でいやがりますから」

「ああ、真那が言うならきっとそうだろうな」

「貰ったアドバイス、無駄にはしねーです。だから…もし聞いて後悔するような事になったら、その時は兄様のせいでいやがりますからね?」

「分かった、その時は俺の…ってえぇ!?俺の責任になるのか…!?」

「あはは、冗談ですよ兄様…っと!」

 

 軽く勢いを付け、ぱっとベンチから立ち上がる真那。してやったりという顔で笑う真那に、士道は全く…と肩を竦める。

 

「それじゃあ兄様、私はもう一つたこ焼きを買ってきやがります」

「あー、元々そういう話だったな。ほら、これで買ってこい」

「いやだから、私も少し位は手持ちが……」

「兄としても男としても、帰るまでの支払いは俺が持ちたいんだよ。ここは俺の顔を立てると思って、素直に受け取ってくれ」

 

 こういう言い方には弱いのか、真那は受け取り買いに行く。実際真那は狂三の追跡であったり、真那の使うCR-ユニットの運用データ提供等で報酬を受けているらしく、士道が払うというのも余計な気遣いなのかもしれない。…が、たとえ相手が妹だとしても、意地を張りたい時がある位には、指導とて男児なのだ。

 そうして真那が買ってきたところで、それが冷めてしまう前にと士道達は帰る事にする。結局真那を七罪に見立てる事は上手くいかなかった…が、「本人に似合うかどうか、らしいかどうか」という、化粧にも通じる要素を再認識する事の出来た。加えて予定通り挽肉…それに他にも野菜やら何やらを買って、今はもう時間としてもいい頃合い。

 

「悪いな、真那。持ってもらっちゃってさ」

「いえいえ、こんなの苦でもねーですから」

 

 半分持ってくれている…というより半分持つと言って譲らなかった真那と共に、五河家への帰路を歩く。言葉通り、難なく持っている様子の真那の手には、食材の袋の他に、一着だけ服の入った袋もあり…それは服売り場でドタバタしていた際、真那が気に入ったものであった。

 無論その代金は、士道が払っている。そこでもどっちが払うかて多少時間がかかったのだが…それはどうでもいい話。

 

「兄様は、琴里さんとも普段からこうして買い物に出るのでいやがりますか?」

「んー?まあ、そうだな。最近は琴里も色々大変みたいで、そんなに多くないけどさ」

「琴里さんは働き者でいやがりますからねぇ。けど、人には『自分を大切にしろ』と言う癖に、自分は根を詰めようとしやがるんですから、困ったものです」

「だよなぁ。というか、真那もそんな事言われてたのか」

「えぇ、まあ。…琴里さん含め、兄妹は似るもんでいやがりますね」

「それはそうだろ、だって兄妹なんだしな」

 

 そう言って、真那とにやりと笑い合う。だが真那も琴里もそういうタイプだとすると、そうなった原因…影響元は、士道なのかもしれない。…ちょっと申し訳なくなる。

 

「…にしても…ははっ」

「…兄様?いきなり何を笑い出してるので?」

「や、十香達と出掛ける時は、大概ちょっとは緊張したり、変に意気込んじまったりするもんだし、前に侑理と出掛けた時もそうだったんだが…今回は、最後までそんな事なく、気楽に買い物出来たな…って」

「…それは、私としては喜んでいい事でいやがりますか…?」

「あ、すまん。別に悪い意味で言ってるんじゃないんだよ。ただ、本当に気張らず、最初から最後まで自然にいられたっていうか…きっとこれも、兄妹だからなんだろうな」

 

 家族の前で緊張しないのは当然の事。凄くも何ともない事だが、少し前までその存在を知らなかった、覚えていなかった真那に対してもそういう感覚を抱けるのは、なんとも悪い気分ではなかった。

 そんな士道の言葉に思うところがあったのか、真那は数歩前に行く。士道から見て斜め前の位置へと出て、歩きながら真那は返す。

 

「私は…正直、もっと色んな事があるかと思いました。何せ、やっと再会出来た兄様との、再会してから初めての二人きりでの外出でいやがりましたから」

「…割と、色々な事があったような気がするんだが……」

「い、いやまあそれも否定はしねーですけど、もっとこう…なんというか、こう……」

「まあ、言いたい事は分かるよ。再会してから初めての…って割には、いたでも出来るような買い物だったしな。…じゃあ、真那の期待には答えられなかったか?」

 

 期待外れだったか。士道がそう尋ねると、真那は首を横に振る。ふるふると、後頭部で纏めた真那の髪も左右に揺れる。

 

「まさか。私が望んでいたのは、兄様と普通に過ごす、過ごせる日々です。こうやって、普通に兄妹で買い物をしたり、気兼ねなく話せる事です。だから…今日は最高に楽しい一日でいやがりましたよ、兄様っ!」

 

 軽やかにターンを決め、振り返った真那はにっと白い歯を見せて笑う。そこに偽りなんて微塵もない、心から出た、自然に浮かんだのだと伝わってくる、眩しい位の笑みを士道へ見せてくれる。

 妹が、最高に楽しかったと言ってくれる。それは兄である士道にとって、これ以上ない程嬉しい、喜ばしい言葉だった。ただそれだけでも一緒に出掛けられて良かったと思える、これからもまた出掛けようと心に決める位の思いだった。そして、士道の前で明るく笑う真那は…本当に、可愛らしかった。

 

 

「…一日って言っても、家を出てからせいぜい数時間なんだけどな」

「そ、そういうこまけー事は言わなくてもいいんですよっ!」

 

 

 

 

 やはりと言うべきか、五河宅に戻った(真那の住居はここではない…が、ここから出発したのだから戻ったと言っても良い筈である)真那と士道を迎えたのは、侑理と琴里の二人だった。士道が玄関の扉を開け、ただいまと言うや否や出てきた侑理と、いつも通り落ち着いた様子で…されどちょっぴり気になっているような面持ちを浮かべながら玄関へ来た二人に迎えられて、真那は士道と共に中へと入る。

 

「ね、どうだった?楽しかったでしょ?凄く充実してたでしょ?」

「それはまあ、そうでいやがりますね。何せ、兄妹水入らずの買い物でいやがりましたし」

「でしょでしょー?いやぁ、真那にも士道にぃとのお出掛けの良さを知ってもらえて嬉しいなー」

「なんでそれについて侑理が自慢気でいやがるんですかね…」

「士道にぃはどうだった?買い物中の真那、可愛かった?勿論可愛かったよね?可愛いに輪をかけて可愛かったよね?」

「自分から振っといて聞いてねーとはどういう了見でいやがるんですか侑理…!」

 

 言うだけ言って無視してくる侑理に、思わず真那は突っ込みを入れる。それからちらりと横を見れば、琴里がやれやれといった様子で肩を竦める。どうやら待っている間から、侑理はこんな感じでそわそわしていたらしい。

 

「落ち着きなさい、侑理。それとも貴女は、大好きな真那とその兄の士道に、荷物を持たせたまま玄関で立たせておきたいのかしら?」

「あ…ご、ごめんね二人共…」

「はは、まあ気にするな。それより琴里も侑理も留守番ありがとな」

「別に、こんなのお礼を言われる程の事じゃないわ」

「うん。うちも、留守番っていうかお邪魔してただけだしね」

 

 割って入った琴里の的確な指摘で侑理は大人しくなり、四人は玄関からリビングへ。奥の台所で食材を降ろし…それから真那は侑理を呼ぶ。

 

「侑理。理由はどうあれ、侑理の提案のおかげで、私は今日兄様と出掛ける事が出来ました。…って、訳じゃねーですが…これを」

「あ、ソースの匂いするなぁと思ってたけど、これだったんだね。ありがと、真那」

「まあ、払ってくれたのは兄様でいやがるんですけどね」

「でも、うちにって言ったのは真那でしょ?だからやっぱりありがとう、だよ」

 

 受け取りにこりと笑う侑理、そんな侑理にあっさりと見抜かれた真那は、恥ずかしいような照れ臭いような、そういう気持ちを胸に抱く。だが、悪い気はしない。見抜かれたのも、それだけ自分を理解してくれていると思うと、気恥ずかしさはあってもそれを嫌だとは思わない。

 

「ふぅん…で、士道。私の分は?」

「…すまん、忘れてた…」

「へぇ、忘れてたのね。実妹とのお出掛けで、実妹の親友にもお土産を買った上で、義妹の私の分は忘れた訳ね」

 

 と、そこで聞こえてきたのは士道へちくりと言の葉を刺す琴里の声。見てみれば琴里は分かり易く拗ねた顔で、士道の方は「あちゃー…」と言っていそうな顔。

 

「いいのよ別に。真那とのお出掛けで、侑理への気遣いはあって、私にはなかった…ただそれだけだもの」

「…え、っと…ほ、ほら!士道にぃはお金を出しただけで、気遣いをしてくれたのは真那みたいだし!謂わば士道にぃはお財布だっただけだし、ね?」

『いやその言い方はちょっと……』

「うっ…流石兄妹、揃って仲が良い……」

 

 咄嗟にフォローしようとした様子の侑理だったが、言葉選びが致命的。流石に酷い、と真那は突っ込みを入れ…偶然にもそれが、士道と琴里の両方と重なる。

 実と義のダブル兄妹による、トリプル突っ込み。真那はともかく、さっきまで良くない雰囲気だった士道と琴里は意図せず息ぴったりな反応をした事により、何とも微妙な空気になり…次の瞬間、ぱんっ、と両手を合わせる音が響く。

 

「ほんとにすまん、琴里!…代わり、って訳じゃないが…今日は買ってきた挽肉でハンバーグを作ろうと思うんだが、どうかな…?」

「…………」

「勿論ただのハンバーグじゃないぞ?俺なりに全力再現を行う、お店のハンバーグだ」

「……大きさは?」

「当然いつもより増量する。けど、琴里はハンバーグの厚みにも拘りがあるだろ?だからそっちも大きさに合わせる」

 

 謝るように手を合わせたまま、琴里の事を見つめる士道。腕を組んでぷいっとしたまま、横目で士道を見る琴里。そこから数秒の沈黙が流れ…琴里はツインテールの片側を手の甲で払う。

 

「…ま、誰しもうっかりしてる時はあるものね。デート中は一緒にいる女の子の事だけを考える、それを忠実に守っていたって事で、今回は大目に見てあげるわ」

「あぁ、そう言ってもらえると助かるよ。…因みにロコモコにする事も考えたんだが…普通のハンバーグとどっちがいい?」

「…ロコモコで」

「よし、決定だな。真那達も食べていくだろ?」

「あ、はい。兄様と、琴里さんが構わねーのなら。ですよね?侑理」

「ですよね?って、何言ってるの真那。うちがこの流れで真那に同意しない訳がないでしょ?」

 

 何やら激しく取って付けたような事を言う琴里だったが、士道は勿論、真那もそれに触れはしない。折角纏まった話をひっくり返す理由がない。

 そうして早速士道はエプロンを身に付け、調理開始。流石は兄様、エプロン姿もやはり様になる…と少しだけ兄を眺めたところで、真那は小さく息を吐き…琴里を、廊下へと呼ぶ。

 

「どうしたのよ、真那。わざわざ廊下に呼ぶなんて、何か聞かれたくない話でもあるの?」

「いやぁ、まぁ。…にしても琴里さん、自分の分のたこ焼きがなくて拗ねたり、ハンバーグで機嫌を直したり、デパートでも兄様と話しましたけど結構子供っぽいというか、可愛いところがあるじゃねーですか」

「…そんな話をする為に呼んだ訳?っていうか、そんな話を士道はしていたのね」

「あっ…」

 

 しまった、と気付く真那だが時既に遅し。これはもう、また士道がちくりと刺される事は間違いない。そしてその原因となったのは自分なのだから、後で全力で謝ろう…と真那は心の中で決め、こほんと一つ咳払い。

 

「でも実際、子供っぽくったっていいんじゃねーですか?っぽいも何も琴里さんはまだ中学生なんでいやがりますし、その話をしてる時の兄様、苦笑の後に凄く柔らかい表情をしていやがりましたし」

「…そうなの?」

「えぇ。私の想像ですけど、そういう子供っぽい…飾らない姿を見せられるだけの余裕がある事に、兄様は安心してるんじゃねーでしょうか」

「…余裕があるとしたら、それは私を支えてくれる皆と…士道がいてくれるおかげよ。勿論、真那も含めて…ね」

 

 まさかそんな返しをされるとは、と真那は軽くびっくりとする。それから、士道に対しても普段からこれ位ストレートに気持ちを伝えればいいのに…と思ったものの、それを言おうものなら更なる話の脱線は必至。そもそも雑談する為に呼んだ訳ではないのだから、と真那は真面目な面持ちで琴里を見る。

 

「…ふぅ、まあ丁度良いわ。私からも、貴女に伝えたい…ううん、相談したい事があったし。で…話したい事って、何?」

 

 琴里さんからも?…と一瞬そちらが気になる真那だが、琴里は先を譲ってくれているのだから、と疑問を一旦飲み込む真那。そしてじっと見つめる琴里に対し、真那は考えていた事を…士道と話したから、頭と心の中で考え続けていた事を、言った。

 

「琴里さん。侑理について、お願いしてー事があります」

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