デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第四十一話 攻略の為に

 精霊〈ウィッチ〉…七罪の霊力を封印する為、その第一歩とする為に士道が考案した、彼女へ前向きになってもらおうという作戦。士道やラタトスクの面々からすれば、これまで何度も行ってきた霊力封印までの道のりの一つなのだろうが、侑理からすればそれは初めてみるもの。どうやって士道が封印をするのか、そこに行き着くのか…一通り説明は受けているが、それでも百聞は一見に如かずというもの。興味があったし、上手くいくのだろうかと気になっていた。

 そうして作戦実行当日。エレンにやられた七罪が保護されている地下施設(ラタトスク所有)へ士道達と訪れた侑理は、その作戦を見守る事となった。霊力の封印を、ラタトスクがしてした事を、士道が望む事を…自分の目で、知る為に。

 

「きゃぁぁぁっ!何!?何してるの!?」

「ほらほらぁ、暴れちゃ駄目ですってばぁ。最高級のアロマオイルですよぉ」

 

目の前…厳密にはガラス越しの部屋の中で、悲鳴を上げる少女(全裸)と、慣れた手付きでその少女の背に指を這わせる美九。……侑理は霊力封印や士道の思いを知るべく、ここに訪れた。だから、きっとその一端は見る事が、知る事が出来る…筈なのである。…多分。恐らく。勘違いとかが、特になければ。

 

「えっと、通報は……」

「しなくていいわよ、なんで美九がこういう事してるのか分かってるでしょ?」

「いや分かってる、分かってるけど…その、凄く犯罪感が……」

「うん、まぁ…それは、うん……」

 

 何とも微妙な顔をする琴里。そう、侑理も状況は分かっている。経緯も理解している。だが分かっていても尚、美九がこういう事をしていると、何か別の意図を感じてしまうのだ。侑理とて、伊達(?)に髪を嗅がれたり、幼児化している時にスカートの中へ侵入されそうになった訳ではないのだ。

 では、実際のところ美九が何をしているのか。…それは、エステである。別に下心で全裸に剥いて触っている訳ではなく、あくまでスキンケアなのである。

 

「けど、本当に驚きでいやがりますね。まさかこれが、七罪さんの本当の姿とは」

「だね。…だから士道にぃは、こういう作戦を……」

 

 呟くように言う真那に、侑理は頷きながら返す。侑理達が七罪の居場所に向かった時、彼女がDEMに強襲をされていた時、七罪は艶のある鮮やかな髪と、色香溢れる妖艶な容姿、それに同じ女として羨ましいとしか言いようがない程のプロポーションを備えた、正に隙のない姿をしていた。見た目含めエレンに憧れる侑理を以ってしても、即座に素敵と思ってしまう程だった。

 されど、今美九にエステを受けている七罪は、そうではない。長いもののぼさぼさの髪に、表情が歪んでいる…のは状況的に仕方ないにしても、なんだか陰気さを感じさせる容姿に、侑理や真那、琴里や四糸乃といった少しばかり体躯が慎ましい(少しばかりである。圧倒的にではないのである)面々と同じか、もしかしたらそれ以上に慎ましいもしれない体型という、救出前までとは別人レベルで違う外見となっていた。

 勿論、どちらかが偽者という訳でも、精霊は重傷を負うと外見が変化するという訳でもない。ただ単に、侑理達を幼児に変化させたように、自らの姿を変えていたというだけの話。そして、外見のせいで自己肯定感が低いという士道の見立ても、この見た目なら理解出来る…そう、侑理は思っていた。

 と、そこで部屋の中の美九がある言葉を口にした時、真那はぴくりと肩を揺らす。そして、へぇ…と感心混じりの吐息を漏らす。

 

「…真那、どうかしたの?」

「や、今美九さんが、世の女性達は皆頑張って綺麗になろうとしてる…って言ったじゃねーですか。それに少しばかり共感をしたまでです」

「えっ、もしかして真那もお洒落に目覚めたとか?ひょっとして、士道にぃとのデー…もとい、お買い物を切っ掛けに?」

「いやいやそうではなくて…というか、侑理も分かるんじゃねーですか?…才能ってのは、努力で磨いてこそ本当の力を発揮するものだって事は」

 

 これまでお洒落方面は二の次だった真那が遂に!?…と期待し落胆した侑理だったが、続く真那の言葉に納得する。それから侑理は、こくりと頷く。

 それは、見るからに身嗜みを整えていない、最低限の事もしていない様子の七罪に対する、美容の観点からの言葉。だが努力は、凡ゆる場面、凡ゆる分野で必要となる。努力が才能を凌駕するとは限らず、十分な才能があればそれだけである程度のレベルまで登れるのは事実だが…真の一流、真なる高みに至る事が出来るのは、才能を努力で磨き、現状に満足せずに歩み続け、更なる高みへ行けると自らを信じた者のみだと、侑理は知っている。自分の相棒も、憧れの相手も、そういう人間だからこそ強いのだと、侑理は自らの目で見てきている。

 

「……まぁ、真那はその直前に美九さんが言及した十香さんと同じ、素でとびきり可愛い女の子だと思うけどねっ!」

「あー、それはどうも」

「んもう、冷たいなー」

 

 予想通りの反応だとばかりに冷たくあしらう真那だったが、それこそ侑理にとっての予想通り。…予想出来たのに言ってしまった自分が少し悲しくなったが、まあ別にいいのだ。真那が可愛いとアピールするチャンスがあれば逃さない、それが侑理のモットーなのである。

 

(…というか、美九さん自身含めて、精霊の皆は全員そうだよね)

 

 綺麗になる為には努力が必要。それには同感な侑理だが、それはそれとして精霊は全員間違いなく可愛い。あの狂三も見た目だけなら間違いなく美人なのだから、見た目と力という二物を天は与えたものだ、と何となく思う侑理であった。

…などと思っている内に、美九のエステは終了する。初めは騒いでいた七罪も、今では寝てしまう程リラックス(?)をしており…いつの間にか部屋の中に入っていた琴里に促され、剥かれた病衣を着直した七罪は別の部屋へと向かっていく。それを、侑理達も追い掛ける。

 そうして向かった次の部屋で待っていたのは、何故か格好良いポーズを、それも二人で揃ってしている一組の精霊。容姿は双子そのものな、耶倶矢と夕弦。

 

「くくく、よく来たな。我等八舞の領域に!」

「賞賛。その度胸だけは褒めてあげます」

 

 別に七罪は自分の意思で来た訳ではない…というのはさておき、困惑する七罪を今度は八舞姉妹が奥へ誘導。そこで七罪はリクライニング式の椅子に座らされ…ヘアセットが、始まった。

 

「…わっ…うっま…。なんで精霊がこんな、髪洗ったり散髪したりするのが上手な訳…?」

「なんでもお二人は、これまで真の八舞を決める為に多種多様な勝負をしてきたんだとか。だから勝つ為に、色々な努力をしてきた…って事じゃねーですかね」

「…何がどうしたら、シャンプー勝負とか散髪勝負になるの…?」

「それは私に訊かれても…。…まあ、内容の被りなく何度も勝負を繰り返していれば、ネタが尽きたり迷走したりする事もあるんじゃねーかと」

 

 お湯で濡らした髪を夕弦がシャンプーで丁寧に洗い、流した上でトリートメントによる仕上げを施す。ばっちり綺麗になったところで耶倶矢と交代し、耶倶矢は枝毛や絡んで束になった毛を切り落として髪全体を整える。夕弦は端的な言葉と無駄のない指捌きで、耶倶矢は大仰な言葉とダイナミックながらもちゃんとした鋏捌きで、七罪の髪をセットしていく。

 本当に、二人の技術は見事であった。プロ並み…と言うと本職の美容師に怒られそうな気がするが、少なくとも素人の侑理にはとても真似出来ないようなレベルの腕前を、今正に八舞姉妹は披露している。

 

「…あ、因みに二人の本気の戦いを止めたのは、他でもねー兄様です。風の精霊の激突を、一振りの下制した兄様…それを直接見る事が出来なかったのは、今でも残念でならねーです」

(一振りの下…?)

 

 残念そうに拳を震わせる真那に苦笑しつつも、侑理の頭に浮かぶ疑問。一振りとはどういう事なのか、士道が割って入ったのか、そういう事であれば一体何を振ったのか…そこが気になる侑理だったが、問うより先に散髪が終わる。最後に櫛とドライヤーで髪を梳かされ…全て終わった時、七罪の髪は間違えるようになっていた。無造作に、伸びるがままとなっていた寝癖だらけの髪が、ボリュームはありつつも野暮ったくない、見栄え十分なロングヘアーへと変貌していた。

 

『おぉー…!』

 

 思わず拍手をする侑理と真那。それに気付いた耶倶矢はふふんと自慢気に胸を張り、夕弦もむふー、と腰に手を当てる。それから二人は顔を見合わせ…ぱんっ、と気持ち良くハイタッチ。…本当に、仲の良い精霊である。真侑コンビの片割れとしては、やはり負けられないと思う侑理だった。

 と、そんなこんなでヘアセットも終わり、またまた七罪は別室へ。侑理と真那と琴里、それにここまで関わってきた美九と八舞姉妹、更にさっきまで寝ていた十香と四糸乃までもがぞろぞろとその後を追い…三つ目の部屋、まるでブティックの様に様々な洋服が用意された場所へと入る。

 

「さ、皆」

「うむ!」

 

 言うまでもなく、始まったのは服選び。精霊達は思い思いの…何名かは明らかに自分の趣味を前面に押し出した服を手にしては、七罪へとそれを渡していく。圧倒される七罪へこれはどうか、この方が良いのではないか、これも合わせたらもっと良さそう…と、次々提案を重ねていく。

 

「…あー……」

「いー?」

「…うー」

「えー」

「おー…って、変な事をするんじゃねーです。これじゃあ文字数稼ぎだと思われちまうじゃねーですか」

「いやまあ、うちはその突っ込みも大分どうかと思うけど…。…で、何か思うところでもあったの?」

「思うところというか…昨日、私も兄様と服選び…服選び?…を、したもので…」

「……?」

 

 暫しの後、耶倶矢と美九…特に趣味に走っていた二人以外から服を受け取った七罪が試着室で着替える中、真那は思い出すように言う。その時の真那は、複雑そうな…けれど少しだけ嬉しそうな表情を浮かべていて、一体何があったのだろうと侑理は隣で首を傾げる。

 そしてその後も、精霊達による服選びと七罪の試着は続いていく。初めは無難な、何が合うか調べていくようなコーディネートから、段々と七罪の外見に合う内容へブラッシュアップされていった…かと思えば、女の子の性か次第に全員楽しみ始め、その内七罪が着せ替え人形の様になっていく。そうして気付けば数時間が経過しており……七罪の服装が完成した時、精霊達は皆満足気な、ご満悦そうな表情をしていた。…散々振り回された、七罪以外は。

 

「──よし!これなら間違いないでしょ」

「はい……素敵です」

『うんうん、いいんじゃないかなー』

「うむ!良いと思うぞ!」

 

 満場一致の、ばっちりという評価。楽しかったとばかりの顔をする精霊達とは対照的に、疲れ切った様子の七罪も、今の服装は悪くないと思っているのか、案外その表情は暗くない。そしてその服装だが…確かに良かった。ずっと眺めていた(流石に途中うとうとしたりもしたが)侑理からしても、確かにその服装はばったりだった。

 今、七罪の身を包んでいるのは、白と紫のワンピース。グラデーションの様に濃度が変わる紫のスカートには、アクセント程度に星や蝶の模様が散りばめられており、腰には服装全体の雰囲気をクールに引き締めるが如くベルトが存在。更に花の飾りが付いた二つのシュシュが、七罪の髪を低い位置でのツインテールに纏めており…可愛らしくも品のある、名家のお嬢様を思わせる服装が、今の七罪の装いだった。

 だが、まだ終わりではない。肌を、髪を、服装を整えて既に見違えるようになった七罪だが…まだ、最後の行程が残っている。

 

「そういえば、士道にぃは何の役なんだろう…やっぱり、褒める係とか?」

「あー…そっか、侑理はまだ知らないのよね。…ふふっ、びっくりすると思うわよ?」

 

 最後に残った行程がなんなのかは、侑理も聞かされていない。ずっと姿の見えない士道がその担当なのだろうという事は予想出来るが、内容は全く分からない。ある意味今の侑理は七罪と同じ状態であり…最後の部屋へ、一行に続いて侑理も入室。しかしその直後、侑理は一人首を傾げた。

 

(…あれ?士道にぃ…じゃない?)

 

 そこにいたのは、背が高く髪の長い女性。背中を見せていた、青髪の女性は侑理…というか七罪が入ってきた事で、ゆっくりと振り向き……

 

「ま──真那似の謎のお姉さんッ!!?」

「うわぁっ!?え、何!?何!?」

 

 びっくりした。仰天した。唖然となった。何故ならそれは、振り向いた女性は…真那にそっくりだったのだから。勿論背丈は違うし、スタイルも違う。だがそれでも、容姿は物凄く似ている…それこそ真那に姉がいるなら、きっとこんな感じなのだろうと思うようなレベルで、女性は真那に酷似していた。

 仰天した侑理の叫びで、七罪も仰天。その反応は、明らかにビビっているそれだが…それどころではない。それどころである筈がない。

 

「どっ、どどどどういう事!?え、まさか成長!?今度は幼児化じゃなくて大人化したの!?」

「いや、私はここにいますから…というか、ずっと隣にいたじゃねーですか…」

「あ、そっか…なら尚更誰!?どちら様!?…はっ…もしや真那も知らない、生き別れのお姉様!?兄に続いて今度は姉!?」

「いやいやちげーますから、私に姉様はいねーですから…。取り敢えず侑理、ここは一度落ち着いて……」

「いられる訳がないでしょう!?だって、こんなにも真那と似てるんだよ!?このうちが、身体の半分は真那への愛で出来ている事で有名なうちが、こんな事態を前にして落ち着いていられる訳──」

「…美九、私が許可するわ。手段は問わないから、ちょっと侑理を黙らせて頂戴」

「はぁーい、任せて下さ〜い!ぎゅ〜♪」

「わぷっ!?」

 

 頭の中を凄まじい勢いで可能性が駆け巡り、侑理は混乱しながら捲し立てる。だが次の瞬間、何やらやたら嬉しそうな声が聞こえたと思った直後、侑理の視界は柔らかいものによって覆われてしまう。

 

「むぐ、ぐ…ぐ…ぷはぁ!…な、なんて質量…なんて柔らかさ…羨ましい……じゃなくてっ!な、何をするんですか!」

「いやぁ、琴里さんからお墨付きをもらっちゃったのでぇ、つい」

「侑理、貴女に説明しないでいたのは私の判断ミスだし、それは謝るわ。…けど、今は重要な時なの。貴女の疑問もすぐ晴れる事になるから…静かにしてて」

 

 全く悪びれる様子のない…どころか普通に喜んでいる美九はともかくとして、琴里に真面目に言われてしまえば、侑理も黙らざるを得ない。というか、侑理とてぎゃーぎゃー騒ぐより、大人しくしていた方が望む答えを得られそうだという事位分かっている。ただ、頭でそれを理解していても尚冷静にならない程、目の前の存在が衝撃的だったのだ。

 

「こ、こほん…じゃあ、改めて…私のメイクで、貴女を変身させてみせます!」

 

 ここまで何とも言えない顔をしていた女性が、気を取り直すようにして七罪へと言う。本当に誰なのだろう、どうしてこんなにも真那と似ているのだろう、と思いながら侑理がその女性を見つめていると、女性はなんだか切なそうな顔になり…しかしぶんぶんと顔を振ると、その視線を七罪へ戻す。

 どうやら七罪への最後の仕上げは、メイクらしい。だがやはりというか、それを七罪は否定する。メイク…化粧なんかで変われるものかと言い返す。

 変われる、変われないの問答をする事数度。断固として譲らない七罪の姿勢を前に、女性は手にしていた化粧道具を腰のポーチへ仕舞うと、その手を首へ…そこへ貼られた絆創膏らしきものへと伸ばす。そして……

 

「それは、私が……いや──俺が、男だとしてもかぁっ!」

「は……!?」

 

 剥がされた瞬間、豹変する雰囲気と声。明らかにこれまでとは違う…男口調と、男性そのものな声音。それに七罪は目を見開き…しかし気付く。その声の主、目の前の人物が、一体誰かという事に。

 唖然とした状態から我に返った七罪が次に発したのは、「変態」という豪速球発言。その言葉に彼女…いや、彼?…は、ばっさり心を斬られたように胸を押さえ、琴里や美九は何やらひそひそと言葉を交わす。

 だが、それもそうだろう。いきなりこんなものを見てしまえば、変態と言うのも仕方のない事。しかし、侑理はそうは思わない。むしろ理解した、全てを理解した。真那によく似た女性が、男性の声を…それも非常に聞き覚えのある声を発したのであれば、答えは一つ。──そう!

 

「し…士道にぃは、これまで男装してたって事!?』

『そっち!?』

 

 辿り着いてしまった真実に、戦慄く侑理。目の前の女性が、見知らぬ女性ではなく真那に似ていて当然な士道であった…そしてこれが、士道という人間の真の姿だったのかと、理解しても尚驚く侑理。だがしかし、侑理の発した言葉に対し、返ってきたのは突っ込みで……この日侑理は、初めて周りの人物が全員ずっこけるという経験をするのだった。

 

 

 

 

「ふむふむふむ、美九さん絡みで前に女装をする事になって、その時にメイク技術を色々叩き込まれて、その経験と能力が活きるって事で、士道にぃが最後のメイク担当になった訳ね。実際にメイクで性別を誤認させられるレベルまでいけるって示す為に、今も女装をしてたって訳ね。うん、完全に理解した!」

「あぁうん、理解してもらえて良かったわ…」

 

 気を取り直して士道が七罪のメイクをする中、侑理は琴里から事のあらましを聞いていた。ついでに真那も、士道の女装姿は知っていても経緯までは知らなかったらしく、隣で揃って聞いていた。

 成る程確かに納得である。美九が女の子大好きなのは、もう侑理も十分に知っているし…対照的に男性の事は(士道以外)避けているという事も聞いた今、霊力封印の為、心を開いてもらう為に女装するのは道理に適っていると侑理も思う。

 

「…けど、士道にぃがあんなに女の子な姿になっちゃってるのは、別にメイクだけの力じゃないんじゃ?だって、超級に可愛い真那のお兄さんで、容姿にも近しいものを感じる時点で、もう大分…女の子適性?…があるようなものだし」

「あ、侑理もそう思う?士道は頑なに認めないけど、絶対元の素養があるわよねぇ」

 

 そう言って、琴里はにやりと笑みを浮かべる。その背後では、四糸乃と八舞姉妹が士道のメイクを興味深そうに見つめていて…十香だけは、よく分かっていない様子だった。

 

「…けど、そっか…うん、そっかそっかぁ……」

「何を一人でぶつぶつ言いやがってるんですか?」

「ううん、ただちょっと、士道にぃって可愛くもあるんだなぁって思っただけ」

「よく分かってますねぇ、侑理さん。そうです、だーりんは士織さん…あ、今の姿の時の名前ですよ?…の時は勿論ですけど、だーりんとしても可愛いんです。特に、困った時の顔なんてとっても可愛いです〜」

 

 思えば…いや、わざわざ考えるまでもなく、真那は可愛いだけじゃない。可愛さと格好良さを高次元で兼ね備えたのが侑理の親友真那であり、ならば士道もその両立をしていたとしても何らおかしな事はない。そして侑理に乗っかってきた美九の発言…それが侑理の琴線に触れる。

 

「分かります分かります。後、ちょっとしゅんとしてる時なんかも今思うと可愛いような…」

「あー、分かります〜!というか、分かるんですね侑理さん!」

「こう、一回完全に可愛い姿を見た事で、気付けるものがあるというか…。…けど、逆も言えません?ほら、今のメイクをしてる時の真剣な顔、目付きとかきゅっと締まった口元とかは、むしろ可愛いというより格好良いですし」

「そうでそうです、そうなんですぅ〜!だーりんに可愛いところがあるように、士織さんにも格好良いところがあるんです〜!実は前に、士織さんに宣戦布告っていうか、啖呵を切られた事があってぇ、その時は見た目より別の事に意識が向いていたんですけど、今更ながらすっごく格好良いというか…うぅ、写真か何かに収めなかった過去の自分を叱り付けてやりたい位なんですよねー!」

「それはうちも見てみたかった…。…でも美九さん。これだけは言わせて下さい。そういう格好良さは…真那も持ち合わせているって!何なら背が低い分、士道にぃよりギャップ的な格好良さが強くて、更に可愛さだったらもう言葉じゃ言い表せない位の域に達してるって!」

「もー、何言ってるんですか侑理さん。真那さんのいつものきりっとした格好良さも、笑って柔らかい笑みになった時の可愛らしさも、だーりんの事を得意気に語る時の愛らしさも…全部、分かってるに決まってるじゃないですかー」

 

『…………』

 

 

 

 

「……ふっ。侑理さん、これからも仲良くしましょうね」

「こちらこそ、宜しくお願いします美九さん」

 

 がっしりと、強く交わし合う握手。どうも周囲から「あ、不味い。これはよくない組み合わせが生まれたかも…」やら、「う、何やら寒気が…私と兄様、両方の身に不安が……」やら聞こえてきたが、気にしない事にする侑理だった。

 

『おぉ……!』

 

 とか何とかやっている内にそこそこ過ぎていた時間。いきなり聞こえた、感嘆の吐息。どうやら士道によるメイクが終わったらしく…十香達は、その結果に目を見開いていた。七罪を見て、驚いていた。…そして、侑理もすぐにその驚きを理解する。七罪の姿を見た事で…言葉を、失う。

 

「……っ…!」

 

 天然の癖を残しながらも、綺麗さと柔らかさを同時に感じさせる明るい青竹色の髪。初めに見た時の陰気さなどもう欠片もない、翠玉を思わせる程ぱっちりとした青緑の瞳。エステとメイクの効果によって、艶もハリもばっちりな肌。身を着飾る事を放棄したような、色々おざなりにしていった結果そのものだった七罪は、今や間違いなく綺麗になっていた。可愛くなっていた。元々令嬢の様だった服装は、完全に整った容姿と合わさる事で、更にその品の良さを増していた。

 

「こ、これ……私……?」

「ああ、間違いなく、七罪、お前だよ」

 

 用意された姿見を、『変身』した自分の姿を見て、信じられないとばかりの顔をする七罪。言葉を返す士道に続き、周りも七罪を綺麗だと言う。美九などは、自宅に招待なんてしている。そして何より…七罪自身の表情が、違っていた。驚きに満ちた顔ではあるが、それを…今の自分の姿を否定するような色は、どこにもなかった。

 だがどうやら、嬉しがっている訳でもない様子。というより、本当に信じられないようで、七罪は後退り、周囲を見回し…ぴたり、とそこで侑理と目が合う。

 

「あ…あぁ、あんた達…そういえば、いつの間に……」

「え、今更…?確かに途中から入ってきたけど…今更……?」

「侑理なんて、一回大声出してぎょっとされていやがりましたしねー」

「そうだ。二人には今回見学しててもらったけど…二人も何か、七罪にしてあげられそうな事ってある?」

「うぇ?…うーん…既にばっちりって感じだし、うちもこういう事に関しては人並み程度だろうし、出来る事なんて……」

 

 片手を腰に当てた琴里に問われ、侑理は考える。何も浮かばない訳ではないが、今の時点でもう十分良い以上、下手に何かしても完成度を落としてしまうだけ。ただそれでも、何かないかと頭を捻り……侑理は、言う。

 

「……うちと真那に三日か四日位貰えれば、士道にぃの素晴らしさを骨の髄まで教えてあげられるかな」

「怖っ!?お、教わりたくなんてないんだけど…!?」

「いや、なんで怖がらせるのよ…。っていうか、三日四日って、本気…?」

「うん」

 

 甘く見ないでほしい、と侑理は琴里に視線を返す。すると琴里は、「そ、そう…」と一応納得してくれたようで…されど侑理からは目を逸らす。

 

「…ねぇ真那、侑理ってまだ士道と出会ってからそこまで経ってないわよね…?なのになんで、こんな自信満々に言える訳…?」

「それはまぁ…多分、私がDEMにいた頃散々兄様について語ったからでいやがりましょうね…」

「貴女が原因かい…。…一応訊くけど、真那はあんな妙な事言わないでくれるわよね…?」

「妙な事?失礼な。四日もあれば、私一人で七罪さんを四六時中兄様の事が頭から離れねーようにしてやりますよ?」

「こっちもこっちで怖っ!もっと怖ッ!な、何なのよ!?貴女達はなんなの!?その素晴らしさとやらを骨の髄まで知ってたり、頭から離れなかったりするっての!?」

『そう(だ・でいやがります)けど?』

「ひッ……!?」

 

 顔を見合わせ、真那と共に何を当然の事を…と頷く侑理。次の瞬間、七罪は恐怖に顔を引き攣らせ…周囲にも、個人差はあれど引かれてしまう侑理達だった。…士道にも後退られたのは、流石にちょっと凹んだ。

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