デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第四十二話 自分も役に立ちたくて

 士道と精霊達による、七罪の変身作戦。それは見事に上手くいき、正直不恰好と言わざるを得なかった七罪が、気品を感じる美少女へと変貌していた。美九のエステ、八舞姉妹によるヘアセット、三人に加えて十香、四糸乃、琴里も加わった服選び、そして士道…のもう一つ(?)の姿である、士織のメイクによって、七罪は見違えるようになっていた。

 されど、上手くいった=作戦成功、という事ではない。変身はさせられたものの、まだ七罪は士道に心を開いてくれていないようだった。モニタリングしていた令音曰く、精神状態は良くなっているものの、自分の容姿を褒められる事に慣れていない、自分が可愛いという事実をまだ受け入れられない…という、七罪の自己肯定感の低さがネックになっているとの事だった。…侑理と真那が怖がらせてしまった事が原因…ではないと、思いたい。

 

「そうだな…これに似た乳液ってなると、こんなのはどうだ?これだったら確か、うちの近くの薬局にもあった筈だしさ」

「そっか、因みに使った事はあるの?」

「一度だけな。後は、侑理の肌に合うかだが…こればっかりは、使ってみるしかないよな。自分の肌ならともかく、侑理の肌に合うかどうかなんて俺には分からねぇし」

「それなら、うちのほっぺ触ってもらってもいいんだけど…どうかな?」

「い、いや…それより自分で確かめた方がいいと思うな」

 

 頬に指を当てつつ侑理が首を傾げると、士道はほんの少し顔を赤くし目を逸らす。…侑理自身、今の発言はちょっと恥ずかしかったのだが…このような反応を見られたのだから、恥ずかしくてもやってみるものである。

 

「でも、ほんとにびっくりしちゃった。士道にぃが、うちより化粧上手だなんて…」

「そりゃ、俺の場合性別を誤魔化す必要があるからな。もう必死に学んだというか、学ばされたというか……」

「あはは……あ」

「うん?」

「もしかしてこれからは、士道にぃじゃなくて士道ねぇ…ううん、士織ねぇって呼んだ方がいい?」

「や、止めてくれ…!本当に、止めてくれ……!」

 

 冗談めかして侑理が言えば、今度は必死に、それはもう真剣に止めてくれと返してくる。…本当に、嫌そうだった。恐らく、余程の事があったのだろう。或いは尊厳的な意味で、もう大ダメージを負っているのかもしれない。

 

「…うん、そうだね。何かこう、士道にぃにこの呼び方は合わない気がするし、士道にぃは士道にぃって呼び方の方が合ってるもんね。大丈夫、これからもうちは、士道にぃを士道にぃって呼ぶから!」

「あぁ、そうしてくれ…そうしてくれると、本当に助かる……」

「……士道にぃ?…うん、うん…そうだよね、貴方に合うのは『にぃ』って呼び方…だもんね…」

「…侑理?」

 

 びっ、とサムズアップし笑う侑理。何気にこの時、侑理は初めて「士道にぃ」という呼び方にお墨付きを貰う事となった。当人はそんなつもりないのだろうが、そうしてくれ、と言ったのは事実。言葉にしたのは紛れもなく士道自身なのだから、後はこっちのものなのだ。

…と、思っていた侑理だが…ふと、疑問を抱く。何故か一瞬、引っ掛かりを覚える。されどその理由が分からない。何故呼び方に「あれ?」となったのか、全く理由が思い付かない。…冗談抜きに女装姿が似合っていて、士道が本当に男性なのか不安にでもなったのだろうか。割と否めない…と、いうか……。

 

「…一応、一応確認するんだけど…兄様だと信じている真那の為に男装しているだけで、本当は女性とか、そういう事は……」

「…………」

「な、ないよねっ!うん、士道にぃは男らしい!格好良い!素敵!」

 

 再びの冗談五割、興味本位四割、まさか…まさかとは思うけど…という感情一割で口にした言葉。しかし悲しそうな……本当に悲しそうな顔をする士道を見て、侑理は速攻疑念を撤回するのだった。

 

「…こほん。でも、なんか嬉しいな。士道にぃとお化粧の話が出来るだなんて」

「…まあ、共通の話題があると嬉しいのは分かるよ。その辺り、真那はほんとさっぱりみたいだしな」

「そう、そうなの士道にぃ!女の子としてもうちょっと気にした方がいいって、士道にぃからも言ってあげて!」

「はは、あいよ」

「…あ、でも化粧なしでも真那は抜群に可愛いっていうのは前提だからね?士道にぃなら分かってると思うけど」

「お、おう。…さてと、そろそろ……」

「あ…そうだよね。士道にぃ、教えてくれてありがと」

 

 携帯で時間を確認する士道の動作を見て、侑理は長話になってしまった事を自覚。化粧品の質問に答えてくれた事を感謝すると共に、言外にこれにてお開きという意図を込める。

 つい先程、七罪の変身作戦は終了した。変身自体はさせられたものの、結局自分の変化を受け入れられない七罪が逃走してしまい、しかし余程動揺していた(自分と真那の責任も多分にある気がしてならない)せいか、逃走中に七罪はすっ転んでそのまま気絶。何とも変な形で作戦は終了し…折角だから、と戻る前に化粧の話をしていたのが、これまでの事。

 そして明日は、七罪が今の自分を、自分も綺麗で可愛いという事を受け入れられるようにする為の作戦を行うらしい。となれば当然、明日も忙しい訳で…これ以上士道を、侑理の都合で引き止める訳にはいかないというもの。

 

「じゃあな、侑理。明日もどうなるか分からないが…何かあったら、その時は頼むぜ?」

「勿論!任せて、士道にぃ!」

 

 ラタトスクの所有する施設から、侑理は〈フラクシナス〉へ、士道は自宅へそれぞれ戻る。軽く手を上げる士道に対し、侑理はしっかりと手を上げて返し……彼の姿が見えなくなったところで、侑理は最後の言葉を心の中で反芻する。

 

(…頼む、か…うちは、士道にぃの期待や信頼に応えられるのかな。今のうちに、応えられるものってあるのかな……)

 

 頼むと言われる事自体は別段プレッシャーではなく、士道にそう言ってもらえる事は嬉しい。その思いに、偽りはない。

 されど、侑理の頭に浮かぶのは、それに応えられるのか、応える力があるのかという不安。今日の作戦においては何も協力出来なかった…というのも一因としてなくはない…が、最も頭の中を締めるのは、自分自身の無力さ。狂三と遭遇した時も、エレン達と正対した時も、侑理には何も出来なかった。何とかなったとはいえ、それは単に運が良かっただけ、助けられただけ。そんな自分に何が出来るのかという思いは、侑理の中で渦巻き……ふるふると、首を左右に数度振る。それから自分の頬を、軽く叩く。

 

「…ううん、こんな考え方じゃ駄目だようち。今うちは、士道にぃに期待してもらいたいんじゃない。もう士道にぃは期待してくれてるんだ。だったら、何が何でもその期待に答える。それしかないじゃん」

 

 自分に言い聞かせるように、弱気な自分を心の隅へ追いやるように、侑理は呟く。

 実際本当に、何が出来るかは分からない。役に立てるかどうかも分からない。しかし、それを理由に尻込みしていては、それこそ絶対に何も出来ない、何の役にも立つ事が出来ない。そしてそれは嫌だからこそ、期待に応えたいからこそ、侑理は意気込むように胸の前で拳を握った。

 

 

 

 

 翌日、七罪の霊力封印へ向けた行程の第二段階…七罪が自分の良さを受け入れられるようにしようという作戦は実行された。昨晩意気込んでいた侑理だが、暫く応援要請を受ける事はなく…侑理と真那、二人に声が掛かったのは、昼を大きく過ぎた頃。

 

「漸く私達の出番でいやがりますね」

「えぇ…二人の力を借りたいわ…」

「頼む、力を貸してくれ…」

『……?』

 

 〈フラクシナス〉の一角、呼ばれた会議室で真那がぐるぐると肩を回す中、琴里と士道が答える…のだが、二人はやけに疲れた様子。それも体力的にというより、精神的に何やら疲弊したようだった。

 

「…難航してるの?」

「まぁ、ね。取り敢えずここまでの結果を軽く流すから、何があったか把握して頂戴」

 

 そう言って琴里は手元のコンソールを操作。すると部屋内のモニターが点き、早送りの映像が…七罪へ仕掛けた作戦の結果が映し出される。

 だがそれは、結論から言って惨敗だった。事情を知らない第三者に容姿を褒められれば、という事でまずは士道の学友が、続いて事情を知らない人間では上手くいかないという事で、神奈月というラタトスクの人間(彼は副司令、つまりこの艦内で琴里の次に偉い人物らしい)が、最後は褒める云々よりまず普通のコミュニケーションから始めよう…という段階としてファストフード店での店員…に扮したラタトスクの構成員が、それぞれ七罪と言葉を交わしていたものの、何故か毎回七罪はブチギレていた。何なら芸能事務所のスカウトを装っていた神奈月などは、何故か人殺し呼ばわりまでされていた。…精霊なのに人殺し?…と言わなくてもいい事を言った侑理が、全員からスルーされたのは言うまでもない。

 

「こんな感じで、現状全く上手くいってないわ。こっちも見通しが甘かったり、手探りでやらざるを得ない部分があるのも事実だけど…まさかここまで上手くいかないとはね……」

「うー、ん…よく分からねーんですけど、そもそも何故七罪さんは最後にキレていやがるんです?最初はナンパ風、二回目はスカウトって事で、七罪さんが警戒してた可能性も考えられなくはねーですけど…最後なんて、ポテトがいるかどうか訊いただけでキレていやがったような……」

「なんでだろうな…多分七罪の中では、ネガティヴな方面で凄い思い込みが発生してたんじゃないかな……」

 

 顔を見合わせ、再び疲れた顔をする五河兄妹。当然キレた七罪をその場から連れ帰ったり、宥めたりも二人はしている筈な訳で…それを思えば、心が疲弊してしまうのも無理はない。

 

「えぇと…それで、うち達はどうすれば?」

「二人には、七罪を服選びに誘ってほしいのよ」

「服選び?そりゃまたどういう事でいやがりますか?」

「これまでの結果で、七罪は容姿への言及関係なしに、他者からの言葉を曲解する…有り体に言えば、さっき士道が言った通り悪い方向に捉えがちな傾向があるって分かったわ。だから今度は、誰かに肯定されるんじゃなくて、自分で自分を肯定出来るように仕向けたいの」

「ははぁ、そういう…。でも、どうして服?それに、うち達に…っていうのも、何か理由があるの?」

 

 誰かからの言葉と、自分の内から生まれた思いでは、内容が同じだとしても受け取り方が全く変わるのは当然の事。しかしそれだけでは、まだ自分達との服選びに繋がらない。そう思って侑理は訊き、琴里こくんと頷いて続ける。

 

「モニタリングしていた結果を見る限り、昨日の『変身』が七罪にとって、認められずとも嬉しく思っていた事は間違いないわ。だから昨日やった事且つ、その中でセンスはともかく技術や準備は特に必要ないのは何かっていったら服選びでしょ?で、二人は七罪と体型が近いからお互い選ぶ難易度は低いでしょうし…そこら辺のセンスが未熟な真那が比較対象になれば、七罪も自分を肯定し易くなる筈って算段よ」

「わ、私は踏み台でいやがりますか!?失礼な!」

「じゃ、良い服を選んであげられる自信ある?」

「…それは…ねーですけども…!」

「でしょ?逆に侑理は真那に合う服選びなら得意だろうし、七罪に真那の服を選んでもらって、その中でそれとなく侑理がアドバイスすれば……」

「真那に似合う服装が完成して、七罪は自己肯定感を得られる…って訳だね。それなら任せて、真那の服選びなら得意分野だから!」

「なんで私の服選びが侑理の得意分野でいやがるんですかね…」

 

 実際に選んだ事はあんまりなくて、専ら妄想しているだけ…というのはさておき、本当にそれなら自信がある。その思いで侑理は答え、真那は色々と不服そうな顔をする…が、それはそれとして了承する。…因みに体型の話で言うと四糸乃やそれこそ琴里も近いのだが、琴里はここまで七罪と直接関わっていた為もう何か話を振っても警戒されそうだという事、四糸乃についてはパペットにして四糸乃の大切な存在、よしのんに一時期七罪が化けていた為、七罪の性格を考えると何か言われるのでは…と警戒してしまいそうである事から、二人の名前は挙がらなかったし、挙げなかった…という事らしい。

 そんなこんなで話は終わり、早速作戦の決行へ。用意しておいてくれた大量の衣類を持って、侑理達は七罪がいる部屋へと向かう。

 

「他でもねー兄様と琴里さんからの頼みって事で、受けるには受けた訳でいやがりますが…上手くいくもんでいやがりますかねぇ…」

「大丈夫だよ、真那。どんな服装をしても可愛くなるのは、真那自身が毎日証明してるようなものだし」

「ほほーぅ、それは私に喧嘩を売っていやがるんですね?後でツラ貸しやがれです」

「勿論!真那とであれば、どこへでも!」

「…………」

 

 自分でも分かる位に良い笑顔で侑理が返せば、真那は死んだ魚の楊な目で見やってくる。…これは呼ぶだけ呼んで、その場に行かず放置した方が効き目ありそうでいやがりますね…という微かな声が聞こえたような気もしたが、侑理は気にしない事にした。

 そして侑理達は七罪のいる部屋前に移動。そこで一度足を止め、真那と頷き合い…小さく深呼吸をした後、扉をノック。

 

「もしもーし、いるー?」

「誰もいないわ、日を改める事ね」

「そっか、お邪魔しまーす」

「なんでよ!?」

 

 反応があった為侑理が入ると、いきなり突っ込みが飛んでくる。ついでに部屋の中…ベットの上にいた七罪からの、唖然とした表情も返ってくる。

 

「な、なんでって…いるのが分かってるから、入っただけだけど…?」

「…い、言われてみたら確かに……」

 

 誰もいないなら返事がある訳がない、というのは至極当然の事。恐らく七罪は追い返す為に、わざと居留守ではなく拒絶の反応をしたのだろうが、侑理達はもう入る事を決めているのだから、そんな反応は全くの無意味。

 

「…っていうか、あんた達は……」

『……?』

「まさか…本当に私を洗脳しようとしにきたの…!?」

『いやいやいやいや……』

 

 洗脳とは何事か、と一瞬思った侑理だったが、恐らくそれは昨日侑理と真那がそれぞれ言った発言絡みの事。今は士道について語るつもりはないし、怯えられても困る、と侑理達は早々にその誤解を解き、持ってきた衣類、それを詰め込んだキャリーバッグ×2を開く。

 

「な、何する気よ…まさか、これからここで過ごすなんて言うんじゃないでしょうね…?」

「ちげーますよ?…えー、と……」

「今日はちょっと、今月の真那に合う服装を考えててね?でもうち一人で考えるより、誰かの意見を貰った方がもっと良い服装を選べるんじゃないかと思って」

『今月の…?』

「うん、今月の」

 

 困惑する七罪にさも当然の事であるかのようにそのまま返し、同時に真那へとアイコンタクト。今は説得力が必要なのだから、真那にも乗ってもらわなければ困るのである。

 

「…それもよく分からないけど…なんで私な訳?他にもっと適任な人がいるでしょ……」

「ううん。少し聞いたけど、貴女は変装が得意なんでしょ?得意って事は、相手の事をよく見てる…って事でしょ?だから、そんな七罪なら、真那にどんな服が合いそうか見極めるだけの力もありそうかな、って」

「それとこれとは話が別よ…第一、なんで私がそんな……」

「…どうしても、嫌?」

「嫌に決まってるじゃない」

 

 そう言って、七罪はむすっとした顔を見せてくる。だからさっさと出ていけ、そんな雰囲気すらも漂わせている。

 とはいえ、この反応は予想の範疇。そして予想していたからこそ…それに対する一手を、侑理達は打つ。

 

「嫌か…どうしても嫌なら、仕方ないよね…精霊の視点から見たお洒落にも興味があったんだけど……」

「…そういう事なら、それこそ私の視点なんて必要ないじゃない。センスだって、他の精霊の方がずっとあるだろうし」

「や、他の精霊は他の精霊で、一概に良いとも言い切れねーと思いますが…。…けど、断固拒否ってなるとこっちも強要は出来ねーですし、そうなると時間が空いちまいますね」

「うん。となると、アレしかないかな」

「アレしかねーですね」

「あ、アレって何よアレって。言っとくけど、何があろうと私は服選びなんて──」

「よーし真那、時間が空いちゃったし今度こそ七罪の頭の中を士道にぃ一色に……」

「服選びをさせて下さいお願いします」

 

 一転して服選びに意欲的となる七罪。先程までの完全拒絶はどこへやら、今ややりたいとお願いしてくる程である。……そこまで自分達は恐れられているのだろうか。自分達で打った手とはいえ、何だか悲しくもなるのだった。

 

「…こほん。それじゃあ、七罪、宜しくね?」

「くっ……。…宜しくって言ったって、どうすればいいのよ…」

「んー…取り敢えず真那、普通に服選んでみてくれない?で、そこからうち達が改善していくって感じで」

「…一応訊きてーんですけど、私が選んだ時点でばっちりだった場合は……」

「あはは、そんな事ある訳ないから大丈夫」

「……そうでいやがりますね…」

「…え、なんか今あんた達の仲に亀裂が入ってなかった?まあ、私にはどうなろうと関係ないけど…」

 

 という訳で、作戦開始。何やらしょんぼりした真那が服を選び始め、七罪と共に侑理は待つ。ちらりと七罪の方を見てみれば、さっきまで嫌がっていた割には、服を選ぶ真那の様子を七罪はじっと観察していて…やはり七罪という精霊は、聞いていた通り他者の事をよく見ているらしい。

 

「…ま、こんなものでいやがりますかね」

「ふむふむ…うん、真那可愛いよ!いつも通り、とっても可愛い!」

「はいはい。で、こっからお二人はどうするんでして?」

「んーと、そうだねぇ…」

 

 着替えた真那(流石にまじまじ見られるのは恥ずかしいだろう、と着替え中は侑理も七罪も背を向けていた)が選んだのは、白のセーターにジャージ素材のショートパンツと、黒のニーハイ。そう悪くはない、シンプルに纏まった服装で…されどお洒落かと言われると、侑理は首を縦に振れない。目立つマイナスポイントはないが、プラスもない…素材の味は出ているが、逆に言うと素材の味しか出ていない、謂うなれば上手く調理されていないというのが、侑理から見た率直な感想。

 されどだからこそ、作戦的にはばっちりな初期状態。流石琴里、流石の采配と心の中で侑理は思い…侑理もまた、行動に移る。

 

「あんまりまるっきり変えちゃうのは、真那らしさがなくなっちゃうし…ここは、セーターはそのままにするのも一手だよね。七罪はどう思う?」

「…それでいいんじゃない?」

 

 だよね、と侑理は言葉を返し、用意していた服を広げていく。暫しそれ等を眺め、頭の中で組み合わせを考え…まずはこれ、とボトムスを掴む。

 

「セーターに合わせるなら、同系統のニットショートパンツか、逆にちょっと引き締める感じでデニムだよね。色はこれ…ううん、これで…七罪、参考にさせてほしいんだけど、この二つならどっちがいい?」

「どっちでもいいでしょ」

「あ、やっぱりそう思う?うちもどっちも合うと思ったんだよね。真那を語らせたら右に出る者はいない、真那学の権威にして第一人者と呼ばれたいうちと同じ結論に至るなんて…やるね、七罪」

「…ねぇちょっと、あいつが何言ってるんだか全然分からないんだけど」

「あぁ、気にしねーで下さい。私もよく分からねーまま、これまで適当に流してきましたので」

「あ、それでいいんだ…っていうか、呼ばれたいだけなんだ……」

 

 女の子の「どっちがいい?」にどっちでも、で答えるのは悪手…というのはベタな話だが、むしろ今回は高得点だとばかりに侑理は返す。勿論選ぶのはボトムスだけでなく、そこから更に侑理は選び、訊いていく。

 

「じゃ、それぞれの場合で更に選んでみるね。ニットの場合は、ニーハイもそのままで…けど、デニムパンツの場合はこれかこれ…かな?」

「それかそれでしょ」

「うんうん。となると靴…は、一旦置いておくとして…上着も外に出るならほしいかな。ジャケットとコートだと、どっちが良さそう?」

「…そのコートはまだ暑いでしょ。下にセーター着るんだし」

「あ、そっか。ありがとね七罪。うち、まだ日本に長くいる訳じゃないから、その辺りの視点が欠けてたかも」

「…言っておくけど、似合うかどうかは分からないからね?私は単に、暑そうだって言っただけで……」

「だけどほら、ジャケットの場合はこんなにも似合うでしょ?これなら間違いないって!…っと、そうだ。折角だしマフラーとかも選んでみる?これも七罪の意見を貰いたいんだけど、この色とこの色だったら……」

 

 一つ一つ、訊いては真那に着てもらう。少しずつ、コーディネートを組み上げていく。そして……

 

「うん、完成!これは中々、良いと思わない?」

「確かにこれは…私としても、結構良いんじゃねーかと思います…。いやほんと、私が選ぶよりずっと色々考えられてるって感じがしやがりますし、しかも動き辛いって事もなくて……」

「もー、真那はすぐ動き易さを重視するんだから。ふふっ、でもほんとにばっちり。もしうち一人で選んでたら辿り着けなかったかもしれないし…これも七罪のおかげだねっ!」

「…へ?わ、私…?」

 

 うんうん、と数度頷いた後、侑理は七罪へと振り返り笑う。ぽかん、とする七罪に対して、更に侑理は畳み掛ける。

 

「だってそうでしょ?今回の組み合わせは、全部七罪が選んでくれた通りのものだもん」

「あぁ、そういえば確かにそうでいやがりますね。私と七罪さんはこれまで殆ど接点がありませんでしたし…それでばっちり選べたってなら、それはもう十分誇れる事じゃねーでしょうか」

「え、い、いや…だって、そんな……」

 

 言いつつちらりと視線を送れば、真那も今度はしっかり乗ってくれる。これまでは一貫して、嫌々答えてるという雰囲気だった七罪が、初めて戸惑いを…自分で自分に驚くような反応を見せる。それは明らかな、確かな変化で…その隙にもう一度真那を見た侑理は、軽く笑うと共にウインク。

 

(作戦通り…!これなら、きっと七罪も……!)

 

 そう。ここまでの事は全て、侑理が考えていた作戦の内。嘘は一つも言っていない。何故なら、本当に似合っているのだから。似合うように、したのだから。

 今に至るまで、侑理は服選びの主導権を握り続けていた。常にまず侑理が選び…選択肢を用意した上で、それを七罪へと問う形を取っていた。そしてこの行程のミソは、先に侑理が選んでいるという事。『選択肢』というと、あたかも正解と間違いがそれぞれあるように思いがちだが、真那の事が大好きな侑理からすれば、似合う服を複数選ぶ事など造作もない。複数提示する選択肢、その全てを『正解』にする事など、なんら難しい事ではない。つまり七罪への問いは、選択肢の中から選ぶ限りは100%正解になる、謂わば『接待選択肢』であり…それでいて、選んだという前提は、どれが良さそうか自分で決めたという事実は、確かに残る。そうして全て自分が選んだ結果、ばっちりなコーディネートとなれば、大概の者はそう思うのだ。あれ、意外と自分ってセンスある?…と。

 

「…………」

 

 貴女のおかげ…その言葉を受け取った七罪は、黙り込む。七罪の瞳が、真那を見つめる。もし七罪が冷静で、心に余裕もあるのなら、この結果が侑理ありきである事に気付いたかもしれない。されど幸いにも、七罪は侑理達に多少なりともビビっている。加えて今日一日色々な場所に出ていた事で、恐らくだが疲労もしている。図らずして、作戦にぴったりな状況が出来上がっていたのであり…この時侑理は確信していた。どれ程かまでは分からない。けれど間違いなく、七罪はこの結果を前向きに捉えてくれた筈だと。

 じわりと喜びが湧き上がる。士道達の役に立てた、期待に応えられた、そう思うと嬉しくなる。だがそれだけでなく、喜びの裏では、期待に応えられて良かったという安堵の気持ちも広がっていて……

 

「…ふ、ふふっ…ふふふふっ……」

『……?えと、七罪(さん)…?』

「はッ、漸く尻尾を出したわね!どうせこんな碌でなし女なら騙して悦に入れると思ったんでしょうけど、そうはいかないんだから!」

『えぇ!?』

 

 突然笑い出した次の瞬間、何故かいきなりブチギレる七罪。あまりに唐突過ぎるブチギレに、訳も分からず侑理はぎょっとし…その隙を突くように、侑理も真那も捲し立てられる。

 

 

「そーよ私はチビで貧相でブスの三拍子揃った残念女よ!残念オブ残念、残念オブザイヤー常連よ!けどそんなの分かってるっての!言われなくても分かってるんだから、事更に目の当たりにさせようとするんじゃないわよ美人共がッ!鬼!悪魔!精霊殺しッ!」

『はいぃ!?いや、確かにこれまでそういう事をしてきた魔術師(ウィザード)ではあるけども!』

「ひ、否定しないの…!?ま、まさかあんた達はあの…ひッ……!」

 

 思わず返してしまった突っ込み、その一部に反応した七罪は、恐怖に表情を引き攣らせる。恐らく七罪が考えているのは、先日エレンに斬られた事。襲われた時の、あの記憶。不味い、と慌てて侑理は取り繕うとするが、半ば恐慌状態となってしまった七罪に侑理達の言葉は届かず…数秒後、モニタリングしていた士道と琴里が泡を食って入ってきた事により、作戦は強制終了するのだった。作戦は、失敗に終わってしまうのだった。

 一体何故、こんな事になったのか。何が悪かったのか。それが分からず、混乱したまま退出する侑理と真那。そして後に分かった事だが、この時七罪は、

 

他人の服選びではそれなりのセンスを発揮する事が出来た

にも関わらず、自分はこれまで目も当てられないような姿だった

センスがあるのに酷い、これは服ではなく着る側に原因がある

良いセンスしてるのにそれを活かせないブサイク女だなんて可哀想ねー、プークスクス

 

……という、とんでもない論理の飛躍をしていたようであった。そしてこの結果を以って、侑理達は何度か聞いていた七罪のネガティヴや過度なマイナス思考が、自分達の予想の遥か上を行っているのだと思い知るのだった。

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