「上手く、いかなかったね…」
「途中までは、上手くいってる感じがありやがったんですけどねぇ…」
ラタトスクが所有する地下施設の一角、休憩用のスペースにて、溜め息と共に侑理は呟く。
士道と琴里からの要請を受け、七罪を前向きにさせる作戦の四弾目として侑理は真那と尽力した。ベストかどうかは分からないものの、中々良いと思える作戦を二人で進めていた。しかし、最後の最後で作戦は失敗。何故か七罪が…失敗した先の三つの作戦同様、どういう訳か突然怒り出してしまった事で、前向きにさせるという狙いは果たせず終いで終わってしまった。あれは仕方ない、二人は十分に頑張ってくれた、と士道達は言ってくれたものの、失敗は失敗、期待に応える事は出来なかった訳で…どうしても、侑理の気持ちは沈んでしまう。
「…役に、立ちたかったんだけどな……」
「…まあでも、どういう事をしたらどんな反応をされるか、っていうデータ収集にはなったんじゃねーでしょうか。思っていた成果ではないとはいえ、失敗は成功の元っつーか、決して何も得られなかった訳じゃねーと思いますよ?」
「うん…でもさ、三度失敗した上でうち達を頼ってきたって事は、もう自分達じゃ手詰まりだと考えたからでしょ?望みを託したようなものでしょ?…でも、うち達はそれに応えられなかった…ううん、作戦を主導したのはうちなんだから、期待に応えられなかったのもうち『達』じゃなくて……」
「…侑理…。…私は……」
情報は得られた筈、という真那の考えも分かる。しかし侑理が望んでいたのは、果たしたいと思っていたのは、もっと大きな成果。そして恐らく、士道達が期待していたのも、こんな小さな成果ではない。勿論だからと言って士道達が不満を抱くような事はない、そんな人間ではないという事は侑理も重々承知していたが…それでも、もっと上手くやれていたらという思いが渦巻く。意気込んでいたからこそ、失敗が心に突き刺さる。
そんな侑理へ、真那は何か言おうとする。されどそれよりも先に、侑理達はある人物と遭遇する。
「…あ」
「…琴里?」
ツインテールと肩に掛けたジャケットの袖、そのそれぞれを揺らしながら角を曲がってきたのは、つい先程話していた琴里。侑理達の姿を視認した琴里はぴくりと肩を跳ねさせ…一瞬、目を逸らす。
「…お、お疲れ様二人共。さっきは大変だったわね」
「う、ううん。うち達こそ、上手くやれなくてごめん…」
「侑理、それさっきも言ってやがりませんでしたか?何度も同じ事を謝るのは、琴里さん好きじゃねーと思いますよ?」
「あー…っと、そうね。…けど、仕方ないわよ。今回は相手が悪かった…というより、悪い相手だったんだから」
『悪い…?』
確かに真那の言う通りかもしれないと思う中、琴里が行った言い直し。それに侑理は、真那と共に疑問を抱く。しかし琴里は侑理達が疑問を抱いた事に気付いていないようで、そのまま溜め息を吐くように続ける。
「だってそうじゃない。見た目も悪ければ性格も根暗、おまけに貴女達を散々な目に遭わせた迷惑極まり精霊なんて、むしろ何をどうしたら良いと言えるんだって話でしょ?」
発された琴里の言葉に、侑理は真那と顔を見合わせる。そして視線を琴里へ返し…言う。
「…琴里、そろそろ琴里も休憩した方が良いと思うよ?」
「え?」
「今の発言は琴里さんらしくねーって言ってんですよ。元DEMの
「い、いや…でも、七罪はほんとどうしようもないっていうか……」
らしくない。それが、侑理達の率直な感想だった。厳しい部分や頑固な一面こそあるものの、懐の深い…士道に負けず劣らずのお人好しな琴里らしからぬ発言だと、それを変に思ったのである。
「というかそもそもの話として、私達は七罪さんの事をまだよく知らねーんですよね。勿論琴里さん達から一通り伺ってはいますけど、直接言葉を交わしたのなんて今日以外だと昨日のあれ位でいやがりますし、迷惑…ってのも、琴里さん達に比べれば大分軽微なもんですし」
「だよね。…だから、うちとしては七罪の事をもっとちゃんと知りたいかな。琴里や四糸乃もそうだけど、七罪もうちと背格好が近いし、これまで自分より見るからに大人な人達ばっかりのところにいたうち的には、それだけで親近感も湧いてくるしね」
「知り、たい…?なんで、そんな…どう見ても、良いところなんて一つもない相手を……」
「そんな事ないと思うよ?だって七罪、最初はともかく、途中からはちゃんと『どれが似合うか』を考えてくれてたみたいだもん。単にさっさと終わらせたい、士道にぃの話は避けたいってだけなら、きちんと見ずに適当に答えたっていい訳だし。後、多分だけど服選びの感性もそう悪くはないんじゃないかな。少なくとも見た目や色の組み合わせ、全体像を踏まえての選択…って意味じゃ、間違いなく真那よりしっかりしてるし」
「うっ…悪かったですね、碌な感性のねー女で。…まぁ、兄様に散々迷惑を掛けた件は、いつかきっちり謝ってもらうつもりでいやがりますが、兄様にも琴里さん達にも直接的な暴力は殆どしてねー辺り、〈ナイトメア〉みてーな救いようのない殺人鬼よりは遥かに真っ当な心を持ってるんじゃねーかと思いますよ」
上手くいかなかったのは事実。理不尽にキレられたのも事実。されど侑理は、七罪に対してそう悪感情を抱いてはいなかった。幼児化させられた事に関しても、短時間で済んだ事、エレンや第二執行部とのやり取りの方が心に残っている事、そして何より真那のとんでもなく可愛い&イケナイ姿を見られた事等理由は色々あるが…というより、そういう色々な事があるおかげで、大して怒りの感情は芽生えていなかった。更にそれは真那も同じらしく、軽く肩を竦めて吐息を漏らす。
だからこそ、侑理は思うのだ。もっと七罪の事を、ちゃんと知りたいと。DEMにいた頃は討伐対象としか思わなかった、されどその心の有り様は人と…自分達と変わらないのだと知った侑理だからこそ、誰かから聞いた、教えられた話だけで判断するのではなく、直接向き合って、話して…自分自身で知って、決めたいのだ。七罪は、どういう存在なのかを。本人が言うような、駄目な存在なのかどうかを。
「…どうして、そこまで…どうして貴女達は、貴女達も……」
『……?』
俯き、ぼそぼそと何かを呟く琴里。はっきりとは聞こえないが、雰囲気からは動揺が伝わってくる。そしてそのまま、琴里は歩いていってしまう。
「…どうしたんだろうね、琴里。なんていうか、疲れてる…ってだけじゃない感じだったし」
「何かあったのかもしれねーですね。何かってなんだ、って言われたら、それは思い付かねーで……あ」
「真那?」
「そういや琴里さんさっき、『貴女達を散々な目に…』って言ってたじゃねーですか。けどこれ、なんか不自然じゃねーですか?」
「…言われてみると、確かに……」
真那の指摘に、侑理は頷く。侑理達が散々な目に遭った事そのものは事実だが、その被害を被ったのは琴里も同じ事。だから文脈としては、『貴女達』ではなく『私達』と表現する方が自然なのだ。
とはいえ、間違った事を言っている訳ではないし、常に適切な言葉選びを出来る者というのもそうそういない。仮に侑理達の見立て通り琴里が疲れているのなら、普段より頭が回らず不自然な表現をしてしまったという事も十分あり得る訳で…後で疲労回復に良さそうなものでも差し入れをしよう。そんな風に思い、侑理は思考を切り上げる。
(…そういえば、さっき真那が何か言い掛けてたような……)
それからふと、琴里が現れる直前の事を思い出す。一体何を言おうとしたのか。…気にはなったが、侑理は訊かない事にした。すぐに伝えたい事なら切り出してくるだろうし、今はもう言い辛い、日を改めて言いたいような事であれば、今訊いても気不味くなるだけ…そんな風に、思ったのだ。
そうして侑理は琴里へ何を差し入れするかという思考と、今度こそ役に立ちたい、何でもいいから期待に応えたいという心に燻る思いを抱えたまま、真那と共に休憩スペースを後にし……慌てた様子の『琴里』からの連絡で、七罪がいなくなった事を知らされる。そしてその瞬間、抱いていた疑問が全て一つに繋がる。
琴里の妙な言動。その琴里からの連絡と、七罪がいなくなったのだという事実。それ等が示す事は一つ。何の事はない、つい先程侑理達が話していたのは……恐らく、
*
冬が近いという事もあり、もう大分暗くなってしまった空と街並み。その一角を、侑理は士道と共に歩く。
「…やっぱり、焦り過ぎちまったのかな…七罪だって本当は肯定されたい筈だ、そういう経験をすれば心を開いてくれる筈だって、いつの間にか勝手な思いを押し付けちまってたのかな……」
「そんな事ないよ、士道にぃ。余程の捻くれ者でもない限り、肯定されたくないなんて思う筈ないし…昨日、自分の姿を見た時の七罪は、絶対嫌がってなんかなかったもん」
弱気な言葉を漏らす士道を、侑理は励ます。今侑理は、ラタトスクの面々と共に全力で探しても尚七罪を探しても尚見つからないという状況の中、着替えを始めとする地下への泊まり込みセットを自宅へ持ち帰る士道に同行している真っ最中。
しかし別に、士道に誘われた訳でも、誰かに同行を頼まれた訳でもない。自分から望んで同行したのであり…何をする訳でもないのに同行している自分の事を、士道は変に思っているんじゃないかと今更ながら少し不安になったりもしていた。…したの、だが……。
「…その通りなら、いいんだけどさ」
「大丈夫。七罪の事はまだ知らない部分も多いけど、士道にぃが優しくて頼れる、安心出来る人だって事はうち、断言出来るから。今のところはほんのちょっぴりかもだけど…きっとそれは、七罪にも伝わってると思うから」
「侑理…。…はぁ、駄目だな俺は。こんな風に弱気になったって、何も良い事なんてない。むしろ今みたいに気を遣わせるだけだって分かってる筈なのに…。…けど、侑理のおかげで気付けた。ありがとな、侑理」
「えへへ…もっと褒めてくれてもいいんだよー?」
呆れたように顔を振った後、表情を引き締める士道。それから士道は笑い、侑理の頭へ片手を置く。感謝と共に、侑理の事を撫でてくれる。
何となく感じる子供扱い。実際士道は妹である真那や琴里へやるのと同じような感覚で、侑理の事も撫でているのだろう。しかし何も問題はない。子供扱いされるのは好ましくないが…士道を元気付けられた事と、撫でられて感じる心地良さの前では、多少の子供扱いなど大した問題ではなかった。
「…って…す、すまん。つい、何気なく撫でちまった…」
「え、うん。士道にぃなら、うちは全然構わないよ?ほら、うちにとつて士道にぃは公式お兄ちゃんだし。あ、因みに公認は貰える?」
「い、いや公認も何も…そ、それよりさっきちょろっと話したが、侑理は殿町の事知ってたんだな」
「士道にぃ、話逸らそうとしてるのバレバレだよ?…まぁ、士道にぃにとってはまだ実妹の真那との仲を深めてる最中だろうし、うちへの公認は追い追いでいいけど…ね」
作戦失敗の映像を見ていた際、前に街で軽く話した男子学生が出てきた…そして、なんとそれが士道の学友で驚いたという出来事があったのだが、それを誤魔化しに使おうとしているのは流石にバレバレ。とはいえ公認を貰おうとしている自分がその相手を困らせては了承が遠退くだけだろう、と一先ず話を取り下げて、その上で侑理は追い追い、と次への布石を打っておく。
からかうように、軽い調子で言った侑理だが、内心侑理は嬉しかった。士道を元気付けられた、些細だが役に立てた…そう感じる事が出来て、少し心が軽くなった。しかしまだ、満足には程遠い。この位で満足していては皆の頑張りにとても及ばないと、もっと士道や皆の役に立ちたい気持ちを強め…五河宅に、到着する。
「…よし。荷物を置いたら、もう一度探してみるか。こういう時は、とにかく動いてみるしかないしな」
「…士道にぃ、休まなくても大丈夫?琴里もだけど、士道にぃも動きっ放しでしょ?」
「大丈夫だ、ってか怪我が治りきってない筈の七罪に万が一の事があったらって思うと、むしろ休もうと思っても休めな…うん?」
鍵穴へと鍵を挿し、扉を開け…ようとしたところで、士道は怪訝そうな声を漏らす。何事かと思って侑理が問えば、士道は鍵が開いていたと言う。
閉め忘れか、実は先に琴里が帰っていたのか、はてまた士道と琴里の両親がこのタイミングで家に戻ったのか。そんな風に可能性を思い浮かべる侑理。しかし士道が考えたのは、そのどれとも違う可能性。
「七罪…!?」
「あ、ちょっ…!」
言うが早いか、勢い良く扉を開けた士道は中へと飛び込んでいく。いきなりの行動に面食らいつつも、侑理は慌てて追い掛ける。
確かにその可能性もあり得る。七罪が五河宅を知っているのは明白。だが十中八九、七罪は精霊の力を…変化の能力を行使出来る状態であり、現状七罪が友好的でない事も明白。であれば士道の行動は、あまりに危険過ぎるものであり、侑理はそれを見過ごせる訳がなかった。
(…あれ…?この感覚、って……)
玄関へ足を踏み入れた瞬間、薄っすらと…本当に薄っすらと、肌に何か触れたような感覚を抱く。何かあった訳ではない。そよ風が吹いた訳でもない。しかし確かに触れた、感じたと侑理の中で直感が伝え…だがそれについて考える間もなく、反射的に身体が動く。
「わ…っ!?」
既のところで身を翻し、戦闘中さながらのターンで辛うじて侑理は衝突を回避。大きく片足を踏み込むような体勢で何とか踏み留まり、セーフ…と内心で冷や汗を拭う。それからどうして士道はこんな位置で立ち止まっていたのかと、視線を上げつつ問い掛けようとし……
「……驚きですね。まさか、貴女まで来るとは」
──愕然とした。リビングの中にいた人物に。その人物の存在に。数日前にも相対する事となった…エレン・メイザースに。
「なッ…ぇ……」
「エレン…!一体なんでこんなところに……!」
「詳しくお話し致します。どうぞ」
侑理が言葉を詰まらせる中、同じように驚愕していた様子の士道が声を上げる。数瞬前、侑理を見て目を丸くしていたエレンだが、士道の言葉に対してすぐに普段の余裕が戻り、自身が座っているのとは向かいのソファを手で示す。
それに困惑と警戒の混じった声を返しながらも、侑理の隣で士道は僅かに腕を動かす。…が、次の瞬間士道の動きは止まり…彼のポケットから、携帯が出てきて飛んでいく。宙を滑るように飛び…掌を上に向けたエレンの手に、携帯が収まる。
「別に助けを呼ばれたところで不都合はありませんが、話の邪魔をされるのは面倒です。申し訳ありませんが、少し預からせて頂きますよ」
抵抗はお勧めしない。そうエレンは言葉を続ける。今はこの家の中全体が、自分にとっての
それは、誇張でも何でもない。世界最強の
「く……」
聞こえてくるのは、士道の歯噛みする声。感じるのは、士道の視線。ほんの一瞬、士道の視線は侑理に向けられ…それだけで、分かった。今士道は、自分の身を案じてくれたのだと。自分自身も危険な状態でありながら、侑理の事を思ってくれたのだと。
侑理は知っている。士道はそういう人なのだと。知っているからこそ、分かるのであり…知っているのは、彼の事だけではない。
「…座ろう、士道にぃ。大丈夫、エレンさんは悪戯に力を振るったり、不必要に他者を傷付けたりするような人じゃないから」
大丈夫だと伝え、それを示すように自らソファへ腰を下ろす。元からこの状況で、侑理達に選択肢はない。だがその上で、侑理の言葉と行動が士道に心を決めさせたのか、士道は小さく息を吐き…隣に、座る。
「…エレンさん、初めに一つだけいいですか?」
「なんですか、侑理」
「不法侵入は、良くないと思います」
「それはその通りですね。ですので、それについては謝罪をさせて頂きます」
初めに言うのがそれか、と内心思うものの、不法侵入をするエレンというのが何となく嫌だった侑理は指摘。するとエレンは軽く肩を竦め、素直に謝る。だがやはりというべきか、丁寧な言葉使いで謝ってはいるものの…悪びれている様子はない。
「なら、もうこんな事はしないで下さい。もし、ただ話をするだけなら…うちが、窓口になりますから」
「えぇ、ならば今後はそうするとしましょう」
「いや、勝手に話を進めるなよ…そんな事したら、琴里が怒るどころじゃ済まないぞ……?」
隣に座る士道からの突っ込みに、今度は侑理が肩を竦める。…別に、ふざけた訳ではない。勝手に決めるなというのはご尤もだが…もしエレンが本当に、穏便に話だけをしようというなら、自分がエレンとラタトスクの間に立とう。この時侑理は、本当にそう思っていた。
されどそれは、今ではない。侑理が口を噤んだ事で、エレンが静かに本題へ切り出す。
「単刀直入に訊きます。──先日貴方方が連れ去った精霊〈ウィッチ〉は、今どこにいるのですか?」
「……ッ、ふざけるな!そんな事教えられる訳ないだろうが!」
淡々と問うエレンに対し、怒るように言い返す士道。その返しに、一瞬侑理は疑問を抱き…しかしすぐに気付く。エレンの、DEMの目的は当然精霊であり、今はそれを訊き出そうとしている状況。ならば実際には逃げられてしまっている訳だが、知っているというスタンスを取る方が得策だと判断し、知っているが教えない、という文脈で返したのだと。
そしてそれを信じた様子のエレンは、まあそう返すだろう、と予想の範疇らしき反応を見せる。それから数度、士道と言葉を交わし…会話の中で士道が料理担当だと知り素敵だと評したエレンは、更にここは良い家だと、団欒が見えてくるようだと穏やかに語る。
(エレンさん、何を……)
〈ウィッチ〉…七罪の事を追求しない、その意図が読まずに侑理は困惑。同様の疑問を抱いた様子の士道も、何が言いたいんだとエレンに問い…エレンは返す。その団欒は、誰のおかげで存在しているのか、と。そして、それを琴里…ひいてはラタトスクのおかげだと言いかけた士道へ、更に言う。団欒が存在しているのは、出来ているのは、ラタトスクのおかげなどではなく──自身が、ウェストコットが、見逃しているからだと。今はまだそのままにしてあげているから、平和を享受出来ているのだと。
それに士道は、息を呑む。一見すれば暴論でしかないその言葉に、絶句する。それを言う、言い切ってしまえるエレンに…まるで相手が人ではない、精霊以上に人ならざる存在であるかのように、圧倒されている。…だが、それは侑理も同じ事。エレンの実力と、DEMの巨大な組織力を以ってすれば、それは決して暴論でも誇張でもないと分かるからこそ…何も、言えない。
「簡潔に言いましょう。五河士道、並びに〈プリンセス〉、〈イフリート〉、〈ハーミット〉、〈ベルセルク〉、〈ディーヴァ〉、それに崇宮真那と…侑理・フォグウィステリアの安全の代償として、〈ウィッチ〉の居場所を教えて下さい」
「ふ、ふざけ──」
「勘違いしないで下さい。これはこの上ない譲歩です。貴方に選択権はありません」
ちらり、と一瞬エレンは侑理を見やる。視線同士が絡み合い…されど侑理には、エレンの感情が読めなかった。感じるのは、冷たさ…それも冷たくしようとしているのではなく、初めからそうであったかのような、凍て付いたような冷たさしか伝わってこなかった。
そんなエレンに気圧される、完全に気圧されてしまっている士道。だがそれでも、士道は言う。単純な計算、一先ずだとしても七罪一人で全員の安全を得られるのなら悪くないだろうと言うエレンに、算数は昔から苦手なんでね、と鼻を鳴らして皮肉で返す。
「…そうですか。残念です」
しかしエレンも、動じはしない。予想の範疇だとばかりに…それでいて本当に残念そうな、一方で士道の度胸に少し感心したような、一言では表現出来ないような表情を浮かべ…着ていたスーツ、そのジャケットの内側に手を入れると、片手サイズのある物を取り出す。
エレンが手にしているのは、持ち手だけの道具。何も知らない物なら、本当にそうだとしか思えないそれに、士道は怪訝そうな顔を見せ…だが知っている侑理は、じわりと全身から汗が噴き出す。しかして侑理の思った通り…次の瞬間、『柄』から刃が現れる。生成された魔力が刃物の形となり、レイザーエッジとしての姿を見せる。そして、目を見開く士道に向けて……エレンは刃を、突き付ける。