デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第四十八話 ヨルムンガンド

 DEMの空中艦と出撃した〈バンダースナッチ〉、少なく見積もっても数十は展開している機械人形の部隊、その両方の注意を真那が引く中で、侑理は全身全霊の一撃を放った。真那と思いを伝え合い、自らの意思を確かめ、託されたCR-ユニット〈ヨルムンガンド〉と共に戦場へと降り立ち、全力全開の一射を撃ち込んだ。

 そして空は、薙ぎ払われた。侑理によって、侑理の力で、魔力の光芒が薙ぎ払い……何十といた〈バンダースナッチ〉を、一掃する。

 

「はぁっ…はぁっ…ぁ、く…はぁ……」

 

 まるで暫く息を止めていた後のような、急激な呼吸の乱れが侑理を襲う。心拍数が跳ね上がり、頭痛が走る。集中力の乱れ、心拍数の急上昇と頭痛による負荷で随意領域(テリトリー)とスラスターの操作にもミスが生じ、侑理は空中でぐらつく…が、奥歯を噛み締め立て直す。

 

「ま、まさか…こんなにも滅茶苦茶な出力が、出るなんて……」

 

 心を落ち着かせようとする侑理の中で渦巻くのは、驚愕。他でもない、自分自身が放った攻撃により、侑理は激しく動揺する。

 確かにまだ〈ヨルムンガンド〉の性能も、何をどれだけ出来るかも分からない。だからこそ、とにかく今は全力で…という判断の下、侑理は目一杯魔力を注ぎ込み、撃ち込んだ。とはいえ放つ直前までは、〈バンダースナッチ〉を何機か纏めて吹き飛ばし、そのまま照射で薙ぎ払う事により回避を強いる位の事しか考えていなかった。第二執行部の魔術師(ウィザード)であった頃によく使っていたレイザーカノン〈メリーラム〉の延長線上位のものとして想定していた。

 だが実際には、まるで違った。桁違いだった。かなり充填した筈の、連続で何射も出来ると思っていた筈の魔力がたったの一撃で全て持っていかれ…結果放たれた光芒は、二桁の〈バンダースナッチ〉を爆散させ、残る機体も薙ぎ払いでその尽くを撃ち落とすに至った。流石に空中艦の収束魔力砲には及ばないにしても、魔術師(ウィザード)が個人で放つには過剰過ぎる…それこそリコリス・シリーズの〈ブラスターク〉位しか比較にならない程の一閃を、侑理は撃っていた。この結果に、この長距離攻撃に、さぞや空中艦の乗組員は驚いている事だろう。だが侑理は断言出来る。今の攻撃に一番驚いているのは、間違いなく自分自身だと。

 

(…けど、これは消耗が激し過ぎる…こんな攻撃をぽんぽんやってたら、こっちの身が持たない……)

 

 もっと時間が掛かると思っていた〈バンダースナッチ〉部隊の撃破をたったの一射で行えたのは、十二分の成果。しかし一発撃つだけでこうも消耗してしまうのでは、ここぞという時以外に使えない。慣れればもう少し楽なのかもしれないが、ここ最近は魔術師(ウィザード)を休業していた今の侑理にとってこれは、寝起きにいきなり全力疾走したようなもの。同じ事をまたすぐにやるのは、流石に危険過ぎる。

 

「……!やっぱり、まだいた…!」

 

 そう。まだ終わりではない。それを示すように、空中艦のハッチが開き、新たな〈バンダースナッチ〉が射出される。もう予備戦力しか残っていなかったのか、数は今し方撃ち落とした総数より少なそうだが…まだ侑理の務めは終わっていない。

 スラスターを吹かす〈バンダースナッチ〉は、真っ直ぐ侑理の方へと向かってくる。対する侑理は正確な数を数え、陣形から狙いを予想し…右腕のレイザーカノン〈オルムスファング〉を向ける。それと共に、脳内で指示を出す。

 とはいえ勿論、先と同じ照射などしない。侑理が狙う中、〈バンダースナッチ〉は避けるように大きく広がり…予想通りの動きをしてくれた敵機へ向けて、侑理は二発目のトリガーを引く。

 

「相手が〈バンダースナッチ〉なら、人じゃない…ッ!」

 

 もし先と同じ射撃なら、全機避けていた事だろう。だが違う。侑理の二射目は、拡散する。散弾の様に広がり、回避からの反撃をしようとしていた〈バンダースナッチ〉を次々と撃ち抜く。拡散している分一つ一つの威力や口径は当然一射目より低く、中には撃墜に至らない機体もあった…が、それでも大半が被弾。撃墜を免れた〈バンダースナッチ〉は大きく距離を取るように旋回していき…ヘッドセット越しに、侑理は真那へと通信を掛ける。

 

「…これだけやれば、十分だよね?」

「…………」

「…真那?あれ、周波数合ってない…?」

「…あ…い、いや聞こえてます、問題ねーです。…えぇ、ばっちり過ぎる位ばっちりでいやがりますよ、侑理」

「でしょ?だから…ここからは頼むよ、真那」

 

 初め反応がなかった事が少々気になるものの、真那の声には覇気がある。それを示すように、真那は空中で鋭いターンを掛けると、砲火を張り切りレイザーエッジを空中艦の随意領域(テリトリー)へ向けて突き立てる。もう、真那を後ろから襲わんとする存在はいない。空中艦の迎撃兵装は健在だが…それだけでは、真那を捉えられない。

 そして空中艦を真那に託した侑理は、随意領域(テリトリー)による重量軽減とスラスターの噴射を緩めて自由落下。地上に墜落する直前で再稼働させる事でしっかりと着地し、路面を蹴る。まだ慣れないCR-ユニットのスラスターは使わず、強化された脚力だけで跳ぶように駆け…地上で戦う『皆』の前へと真っ直ぐ飛び込む。

 

「──士道にぃ、皆、大丈夫!?大分遅れちゃったけど…侑理・フォグウィステリア、皆を支援するよ!」

「ゆ、侑理!?その格好は……」

 

 びしっ、と力強くサムズアップする侑理に、士道は驚き目を見開く。同様に驚きながらもすぐ頷く十香と夕弦、侑理…というより恐らくはCR-ユニットを見てびくっと肩を震わせる四糸乃とやはり見間違いではなかった七罪、驚きの中に若干の興奮が混ざっているようにも見える耶倶矢、「きゃー!侑理さんのその格好、格好良くて素敵ですー!」…と違う方向性で興奮している感のある美九と、精霊達の反応はそれぞれ。

 

「細かい話は後!〈バンダースナッチ〉は大方撃破したし、空中艦も真那が引き受けてくれてるから、人工衛星の防衛も、こっちへの攻撃もかなり減る筈だよ!だから後は……」

「…ああ。後は俺が…俺と十香と七罪で、あれをぶっ壊すだけだ…!」

「うむ!」

「あ、あんまり期待しないでよね…!…やれる限りの事は、するけど……」

「…そっか。それなら、うちは……」

 

 士道の言葉に十香は力強く、七罪は少しだけ目を逸らしながらも頷きを返す。そして三人は、それぞれに剣を…本来ならこの世に一つしかない筈の〈鏖殺公(サンダルフォン)〉三振りを構えて、七罪の天使で巨大なぬいぐるみの様になった人工衛星を強く見据える。…恐らく、七罪の持つ一振りは、彼女の変化させる能力で形成した、謂わば模倣版なのだろう。七罪自身精霊とはいえ、そんな芸当が出来るというのは恐ろしいもの。しかしだからこそ、そんな七罪が今は、力を貸してくれている…その事実が、頼もしい。

 撃破する為の攻撃力は揃っている。そう侑理は判断し、随意領域(テリトリー)の防性を高めた上で大きく広げる。士道達をすっぽりと包むように展開し、守る為の盾となる。

 

(これなら、きっと…ううん。皆となら、絶対…やれるッ!)

 

 氷壁と烈風が、四糸乃と八舞姉妹が人工衛星を捉えている。美九の奏でる音色が、精霊達を…侑理をも後押ししてくれている。空では真那と琴里達が、DEMの空中艦の対応を全力でしてくれている。全員が一丸となって、皆で同じものを掴まんとしている。

 それは、少し不思議な感覚だった。勿論第二執行部にも組織、部隊としての考えはあったが、基本は成果が上がれば、目的が達成されればそれで良いという意識が強く、個々の強者を更なる強者が従えているというべき状態だった。しかし士道達は違う。ASTにも似た、自分がではなく、皆でという意識が伝わってきて…その雰囲気は、心地良い。

 だから感じる、感じられる心強さ。自ら選んだ道での、希望と確信。そして……

 

「兄様!皆さん!後は……」

「頼むわよッ!」

 

 通信越しに聞こえてくる、真那と琴里の声。直後、DEMの空中艦より上空で何かが輝き、直後に空中艦の一部が爆発する。墜落こそしないものの、艦体は大きく揺れ…その瞬間は、訪れる。

 

『これ、でぇええええええええッ!!』

 

 放たれる、三つの斬撃。濃密な霊力を帯びた、飛翔する剣撃。それ等は同じく霊力で編まれた風により加速し、空へと翔け……人工衛星を、強かに斬り裂く。

 強固な防性随意領域(プロテクトテリトリー)に覆われていた人工衛星。しかしその発生源たる空中艦が余裕を失い、加えて七罪の能力により人工衛星と合体していた〈バンダースナッチ〉も十中八九弱体化した今、三振りもの〈鏖殺公(サンダルフォン)〉から放たれる斬撃を受け止める力など、どこにもありはしなかった。

 

 

 

 

 いともあっさりと斬り裂かれた人工衛星は、爆発し…これまた七罪の能力の影響か、破片一つ一つがチュッパチャップスとなって、天宮市へと降り注いだ。ついさっきまでは街全体の危機だったというのに、一転して雨ではなく飴が降り注ぐさまは、まるでSF映画のクライマックスからファンタジー作品になってしまったかのようだった。

 そんな中で、士道は皆への感謝を告げ、精霊達は笑みで返し…今は、立ち去ろうとしていた七罪を士道が呼び止め、話をしている。それを侑理は、気分の良い疲労感を抱きながらのんびりと眺める。

 

「取り敢えず、一件落着だね」

「向こうの空中艦には逃げられちまいましたが…〈ナイトメア〉ならともかく、尻尾を巻いて逃げる相手に追い討ちを掛けるのも気が乗らねーですし、まあいいとしましょう」

「はは…ところで空中艦に直接的なダメージを与えたのって、多分真那じゃないよね?あれって……」

「えぇ、あれは〈フラクシナス〉からの〈世界樹の葉(ユグド・フォリウム)〉でいやがります。大して大きい穴は開けてねーってのに、しっかりその穴を潜らせてくるなんて、神奈月さんは一体何者なんでいやがりましょうね…」

 

 〈世界樹の葉(ユグド・フォリアム)〉。それは小型の顕現装置(リアライザ)を搭載した〈フラクシナス〉の遠隔操作端末であり、DEMの空中艦へ収束魔力砲による攻撃が出来なくなって以降は、この端末を爆弾や機雷の様にして攻撃していた。侑理が艦橋から見ていた時点では有効打になっていなかったが、真那が空中艦の随意領域(テリトリー)を一時的に破り、その僅かな隙を突く事で、先程の爆発を起こしていた…という事らしい。

 

「それより侑理、身体の方は大丈夫でいやがりますか?」

「え?見ての通り、無傷だよ?」

「ああいや、怪我云々ではなく…でも、その様子じゃ確かに大丈夫そうでいやがりますね」

「うん。…心配してくれてありがと、真那」

 

 言いたい事は分かる。同じような事を真那自身もやっているとはいえ、未調整且つ初使用のCR-ユニットを、ここ最近碌に魔術師(ウィザード)として動いていなかった人間がぶっつけ本番で使うなど、無茶もいいところ。だから侑理は真那に安心してもらえるよう、軽く髪を揺らして笑い…真那もこくりと頷いてくれる。

 

「けど、驚いたな。まさか士道にぃが、天使を使えるなんて…」

「理屈としちゃ分からねーでもねーですが、封印能力も含めて、私達よりよっぽど特殊でいやがりますよね。本当にどうして、兄様にそんな力が……」

「まさかとは思うけど、もしや士道にぃもそういう力を持った精霊……あ。士道にぃが七罪を泣かした」

「へ?…ってうわ、本当に泣いてるじゃねーですか。兄様!女性を泣かすとは一体どういう了見でいやがりますか!」

 

 士道達と七罪、被害者と加害者の和解が進む中、士道が七罪に対して発した、友達になれないかという言葉。酷い事をしてしまった、それなのに自分に優しくしてくれて、自分を綺麗に『変身』させてくれた事が嬉しかった。だから、ありがとう。…今に至るまでに、七罪は士道達へそう伝えていて、その中で涙を流していて…それから一度は止まっていた涙が、士道のその言葉で再び溢れ出してしまっていた。

 考えるまでもなく、それは嬉し涙。しかし侑理同様美九も士道が泣かした、とわざと間違った事を言い、士道の力について考えていた様子の真那は勘違いしたまま士道に詰め寄る。そんな中で、十香達は七罪と自身も友達になりたいと言い…やっぱりこういう雰囲気は良いな、と思いながら、侑理もまたその輪に飛び込む。

 

「じゃあ、うちもいいかな?真那の服を選ぶセンスのある七罪とは、これから仲良くしていきたいし」

「あ…そ、その…ごめんなさい、二人にも色々悪い事をしちゃって……」

「…ほんとに悪いと思ってる?反省してる?」

「し、してる…!…して、ます……」

「そっか。ならうち的には、得した部分もあったから水に流そうと思うんだけど…真那はどう?」

「兄様、たとえ悪気がなくとも言葉というのは…っと、残りは後です。…七罪さん、貴女が最後まで隠れる事なく、姿を現したのはどうしてでいやがりますか?このままだと自分の身も危ねーと思ったからでやがりますか?」

「ち、違う…!…自分でも、よく分からないけど…これじゃ駄目だって、誰でもいいから士道達を助けてほしいって思って…でも、今それが出来るのは自分しかいないって思ったら、いつの間にか出てて……」

「ふむ…つまり兄様の為という事でいやがりますね?なら、許さねー理由がねーです!」

「……っ…二人共、ありがとう…皆々、ありがとう…っ!」

 

 腕を組み、力強く頷いた真那。それに続くように侑理も七罪の方を見て頷けば、三度七罪は瞳を潤ませ…されど、今度は笑った。まだ慣れていないような…それでも心からのものだと分かる、可愛らしい表情で。

 

(これで、本当に一件落着かな。エレンさんがいる中で落としてきた事とか、魔術師(ウィザード)は出てこなかった事とか、気になる部分はあるけど、まずはそれを喜んでもいいよね)

 

 妙な事は多々あれど、誰一人欠ける事なく、街を守る事が出来た。士道達を、自分が守れた。だからこれで良いのだと、侑理は自分の中で結論付ける。

 それから一行は、〈フラクシナス〉がまだ伏兵が残っていないか索敵中である事、安全を確認出来るまでは隙を晒す事になる転送を出来るだけ使いたくないという事から、歩いてラタトスクの保有する地下施設へ移動する事になり、侑理と真那はCR-ユニットを解除する。十香達も、霊装…それも封印状態故に本来よりも性能の落ちているらしい、『限定霊装』というものを解除し、話をしながら歩き出す。

 

「でも、びっくりしちゃったよー。侑理ちゃんが武装して現れた時は、まさか可愛い四糸乃を狙って!?って思っちゃったからさー」

「同意。貴女とは一度ですが交戦経験もありましたし、一瞬ひやりとしました」

「されど蓋を開けてみれば、お主が担ったのは最後の増援。呵呵、中々洒落た登場をするではないか」

「私も驚いたぞ!…だが、安心だ。侑理はもう、元気なようだからな」

「だけど、無理はしてない…ですか…?」

「だいじょーぶですよー。もし無理をしてたなら、その時は私がたっぷり、たーっぷり診てあげますからねー」

「み、皆さん…うぅ、うちもまた泣きそうかも……」

 

 戦闘前は気遣ってくれた、慰めてくれた十香達が、今度は共に戦った仲間として察してくれている。その喜びで侑理は胸が一杯になり…改めて、思う。真那を支えたくて、士道や琴里の役に立ちたくて、でもそれが出来ずに落ち込んでいた。しかし今はもうそれだけではない。ここにいる精霊達は、自分を仲間として、友として見てくれている。そんな彼女達との時間を、自分は大切なものだと思っている。だから、精霊達の為にも頑張ろうと。今日の様に、これからも力を合わせていこうと。

 

「…って、あれ?そういえば、士道にぃと七罪は?」

「うん?それなら二人共、後ろの方にいやがりま──」

 

 二名の不在に気付いた侑理が声を上げると、ぐるりと真那が後ろを向く。つられるように、全員同じ方向へと視線を動かす。そして…侑理と真那は、硬直した。──士道と七罪が、口付けを交わしていた事で。

 

「こ、これは……」

「…あ…霊力、封印……」

 

 数秒思考が止まり、そこから頭の中が白く塗り潰されていく…が、侑理は先日聞いた説明の事を思い出す。

 心を開いてもらう…即ち好感度を高めた状態でのキス。今思い出しても何の冗談だと言いたくなるような封印方法だが、現にこうして唇を重ねている以上、そういうものだと飲み込む他ない。でなければこのキスは、封印以外の目的で行われたという事になってしまう。

 

(…封印の為の、キス…精霊が、普通に暮らせるようにする為のキス…なん、だよね。うん、そう…そういう話、だし……)

 

 先に封印の話をして同意を得たのか、それとも元々知っていたのか、体勢からして恐らくそのキスは七罪から士道へと行ったもの。これも必要な事と頭では理解しつつも、侑理の心の中では上手く形容出来ない思いが渦巻く。しかし、それも無理のない事かもしれない。何せまだ若い乙女のつもりである侑理にとって、キスというのはそれだけで衝撃的且つ、刺激的なものなのだから。

 そう、そうなのだ。故にもやっとした気持ちになるのも、仕方のない事なのだ。……多分。

 

「…あ、あれでいやがりますね。これは先に行っていた方が良さそうですね」

「そ、そうだね。こういうのはじろじろ見るものじゃ……」

 

 顔を赤くした真那の言葉に、侑理は速攻で同意。言うが早いか、すぐに侑理は顔を逸らし、その場から反転しようとする。しようとした。…だが、出来なかった。次の瞬間、突然七罪の身体…というより、魔女やハロウィンを思わせる霊装が淡く輝き出した事で。頭に被った帽子から靴まで、全てが光の粒子となって消えていき……七罪が、一糸纏わぬ姿となった事で。

 

『ぶ……ッ!?えっ、ちょっ…はぁああああぁぁッ!!?』

 

 ぎょっとする。愕然とする。真那と揃って絶叫する。訳が分からない。分からないが、たった今目の前でとんでもない事が、とんでもないセクハラが起こった。いや、これはセクハラなのだろうか。セクハラだとして、士道から七罪に対するものなのだろうか。むしろ逆で、七罪からのセクハラなのではないだろうか。…そんな自分でも方向性が謎過ぎると思う思考が侑理の頭の中を駆け巡り…絶叫で気付いた様子の士道が、胸元を押さえてへたり込む七罪の肩に上着を掛けつつ慌てた様子でこちらを振り向く。

 

「ち、違っ、違うぞ!?これはだな、その……」

「シドー!こんなところで何をしているのだ!」

「……!あ、あの……私、見ていませんから……」

「くく、このような街中で封印とは、見上げた性癖よのう」

「首肯。無人の街という非日常空間をプレイに利用する貪欲さは流石です」

「きゃー!だーりんたらダイターン!」

「なんか皆反応が慣れてない!?…ま、まさか…皆も経験済み!?皆も士道にぃとは全裸を晒すような間柄なの!?」

「に、兄様の…兄様の不埒者ぉぉぉぉおおおおおおッ!!」

「だから違うんだってぇぇぇぇええええええッ!!」

 

 再び戦場だった街に響く、二つの絶叫。ある意味今日一日で一番の衝撃である。なにかもう、侑理のメンタルはぐちゃぐちゃだった。一周半回って、やっぱり何もかも訳が分からなかった。

 

「修正です!不埒な兄様には、修正が必要でいやがりますッ!」

「は、話を聞いてくれ真那!これは別にわざとじゃなくて、霊装も霊力で作られているから──え?」

 

 今にも殴り掛かりそうな、或いは飛び膝蹴りでもしそうな勢いの真那へ、必死の弁明をする士道。だがその声が、不意に止まる。士道はぴくっと肩を震わせ…それから表情が驚愕に染まる。

 

「む……?どうしたのだ、シドー」

「ああ……どうやら、まだ終わりじゃあないらしい。また、さっきと同じ爆弾が落ちてくるんだってよ」

『な……!』

 

 発された言葉に、全員が愕然とする。第三の爆弾、その存在を聞いて、全員が反射的に空を見上げる。

 インカムで琴里から話を受けた士道曰く、撤退した…否、撤退したと見せかけたDEMの空中艦から、人工衛星を用いていない、純粋な魔力爆弾の反応が検知されたとの事。先の二つ目すら囮であり、これこそが真の本命だったのか、それとも万が一に備えた保険だったのか、その辺りは全くの不明。されど真実が何であろうと、それが落ち爆発すれば、これまでの努力は全て水の泡。

 

「やらせるかよ…何度だって、絶対に…ぅぐ……ッ!」

「士道…!」

 

 右手を突き出し、士道は何かを掴もうとする…が、直後に士道は膝を突く。掛けてもらった上着がはだけてしまう事も構わず七罪が寄り添い、十香達も駆け寄る。そんな精霊達に士道は大丈夫だと返すが、脂汗の浮かぶその表情は、明らかに大丈夫などではない。

 

「……っ、侑理!」

「うん!皆は、士道にぃの側に居てあげて!爆弾は、うちと真那で撃ち落とす!」 

 

 声を上げると共に、再度〈ヨルムンガンド〉を装着。それとほぼ同時に、ユニットの通信機から琴里達のやり取りが、爆破術式の搭載された〈バンダースナッチ〉が投下されたという声が、〈フラクシナス〉も今いる位置からでは間に合わないという言葉と共に聞こえてくる。

 当然それだけでは、爆弾の具体的な性能など分からない。だが空中艦に搭載出来るレベルとなれば、爆発した場合の規模も、展開出来る随意領域(テリトリー)の性能も人工衛星を利用したものより大きく劣るのはほぼ確実。万が一、爆弾と同時に空中艦が再び降下し、自殺覚悟で艦の随意領域(テリトリー)で守り続けるとなれば話は変わってくる…が、それはないと思いたい。

 真那は飛び上がり、侑理は右腕のレイザーカノンを空に掲げる。一個人が使う武器としては少々大き過ぎると思う程に大型且つ長砲身である〈オルムスファング〉の射程距離の長さは、最初の射撃で把握出来ている。きちんと技術さえあれば、狙撃砲として運用する事も十分に出来る。そして真那の〈ヴァナルガンド〉に搭載された複合兵装、〈ヴォルフファング〉の魔力砲との同時攻撃を掛ければ、随意領域(テリトリー)を突破し撃ち抜く事は不可能ではない。出来る、落とせる。その確信が、侑理にはある。

 

「目標捕捉、タイミングは任せやがります!」

「こっちも見えたよ!真那、一発で確実に──」

 

 空高くに見えた、特殊仕様の〈バンダースナッチ〉。距離はまだ遠く…だがそれなりに大きい事と、ただ落ちてきているだけなおかげで、狙えない程ではない。

 とはいえ外した場合、狙い直す程の時間があるかは分からない。爆発の正確な規模が分からない以上、出来る限り高高度で落としたい。だから決める、一撃で落とす。

 その意思と共に侑理は狙いを定め、トリガーに指を掛ける。同じく空で砲を構える真那に合図を送ろうとする。だが……

 

『なッ!?』

 

 次の瞬間、愕然とする。ほんの一瞬前まで落下していた〈バンダースナッチ〉が爆発し、空に轟音と凄まじい爆炎が広がった事で、目を見開く。

 されど、何故?…とは思わなかった。自爆か、それともまさかの誤爆かなどとは考えもしなかった。…光芒が、見えていたから。爆発する直前、〈バンダースナッチ〉を貫くように一条の光が、それも魔力の輝きが駆け抜けるさまが、侑理の目には映っていたから。

 魔力光であった以上、魔術師(ウィザード)ないしは随意領域(テリトリー)の関わる攻撃である事は間違いない。しかしそれならば何者か。ASTか、ラタトスクが増援を寄越してくれたのか。正体がなんであれ、随意領域(テリトリー)に守られていたであろう〈バンダースナッチ〉を一射で、それも恐らくは遠距離から容易く貫ける人物や兵器が都合良くこの場に間に合うだろうか。様々な疑問が浮かびながらも、警戒と共に侑理は視線を光芒の放たれた元へと向ける。そちらを向き、目を凝らし……再び、愕然とする。そこにいた存在…宙に立つ『少女』の姿に、言葉を失う。

 

「あれは……」

 

 士道の呟きが聞こえる中、少女はゆっくりと近付いてくる。こちらの状態を、無事を確かめるように、高度を落としてくる。

 それは、魔術師(ウィザード)だった。それもエレンのCR-ユニットに似た外観と、侑理の〈オルムスファング〉に負けず劣らずの火器を手にした…恐らくは、DEMの魔術師(ウィザード)だった。

 それだけでも驚きのもの。しかし一番の理由は、その行為でも、装備でもない。そして全員が静寂に包まれる中、降りてきた少女を前に……士道が、茫然としたような声を漏らす。

 

「折、紙……?」

 

 その言葉に反応するように、少女は視線を向けてくる。感情の読めない瞳で、士道を、それから侑理達を一瞥する。

 そう。見間違いではない。見間違える筈もない。少女は、彼女は、DEMの魔術師(ウィザード)の装いをしていたのは──他でもない、ASTの一員であった筈の鳶一折紙だった。

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