デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第五十話 今ある力

 基本的に侑理は、寝付きが悪いという事はない。横になればすぐ寝てしまうという訳でもなく、恐らくは平均的と呼べるレベル。しかしそんな侑理も、激動の一日を終えた夜は、ベットに入るや否や寝てしまった。翌日の朝まで、ぐっすりだった。ここ最近で、一番の快眠であった。

 後一歩で街が壊滅していたかもしれない程の出来事があっても、人の営みは続く。天宮市に済む殆どの人は、何があったのかなど知らずに、昨日までと対して変わらない日常を送る。それは学生であっても同じであり、士道や琴里、それに十香や八舞姉妹、美九といった精霊達もまた、それぞれ学校へと行った…らしい。

 そして侑理もまた、だらだらしている訳ではない。侑理は真那と共に、令音へと相談し…ラタトスクが管理する、ある地下施設へと訪れていた。

 

「にしても驚いたね。七罪が、士道にぃのベットに潜り込んでたなんて」

「昨日の今日で、一体何をやっていやがるんでしょうね…」

 

 その話を知ったのは、丁度令音に相談をしていた時の事。登校前の琴里から、七罪が大人の…即ち天使を用いて変身した姿になっていたという事と合わせて令音の下に連絡が入り、侑理は真那と共にぽかんとしてしまったのだ。

 因みに霊力封印された精霊が、限定的に力を取り戻す…というより、霊力を士道から逆流させるには、基本的に感情が大きく関わってくるとの事。昨日も士道を守りたいという思いや、このままでは士道も街も危ないという危機感、失う事への恐れが逆流のトリガーとなり…感情が関わるからこそ、負の方面に感情が乱れ易い七罪は、霊力の逆流も起こり易いのでは?…という事であった。……その結果やった行為が、寝ている士道のベットに潜り込み、更に琴里をからかうだけからかって逃走したという事なのだから、侑理からすれば本当に何やっているのだろう…という話だが。

 

「因みに真那は、士道にぃのベットに潜り込もうとした…というより、一緒に寝ようって思った事は?」

「ある訳ねーでしょう。もっと子供の頃ならともかく、私がそんな事をやるとでも?」

「うちの中では、添い寝どころか一緒にお風呂に入る事もやぶさかじゃない位だと思ってたんだけど……」

「侑理は私の事をなんだと思っていやがるんですかね…。…はぁ、無駄話はここまでにして、さっさと始めようじゃねーですか」

 

 なにって、筋金入りのブラコンでしょう?…と言いたい侑理だったが、真那の表情…そこに浮かぶやる気を見て、ぐっと飲み込む。そして小さく息を吐き…随意領域(テリトリー)を、展開。

 

「…こうして向かい合うのも、久し振りだね」

「そうでいやがりますね。前はこれが当たり前で、日本への出向が終わったらまたこうして普通にやると思っていて……」

「……あ、どうしよう。やっと真那との『普通』を取り戻せたんだって思ったら、なんか涙出そうに…」

「こ、こんな事で泣いてるんじゃねーですよ…気持ちはその、すげー分かりますけど……」

 

 思えば随分と掛かってしまった。真那との関係を取り戻した後も、魔術師(ウィザード)としての自分は失ってしまったままだったからこそ、今こうして向き合う事で、改めて魔術師(ウィザード)である事が自分の一部、日常の一部であった事を実感する。

 あの時交わした約束、その時思い浮かべていた形と、今は大きく違う。それでも侑理は今、真那と向き合っている。途切れてしまった日々の続きが、確かに今ここにある。

 

「…見せてあげるよ、真那。うちがあれから、どれだけ強くなったのかを。うちの、今の強さを」

 

 同じように随意領域(テリトリー)を、CR-ユニットを展開した真那に向けて、侑理は言う。勿論、真那が出向してから今に至るまでに、敵としても味方としても、侑理が今の強さを見せる場面はあった。それこそ〈ヨルムンガンド〉を使っての戦闘も、つい昨日見せたばかり。

 とはいえ、そういう事ではない。一対一で、純粋にぶつかり合う事で伝わるものがあるし…何より侑理はこの形で、何度も何度も真那としてきた『模擬戦』の中で、自分がどれだけ強くなったのかを示したかった。真那と戦う事で、自分自身確かめたかった。

 そして…もしかするとそれは、真那もそうなのかもしれない。真那もまた、侑理とこうしてまた向き合い、今の強さを確かめ合う日を、待っていたのかもしれない。真っ直ぐ見つめる真那の目を見て、侑理はそう感じる。その目を受けて、一層のやる気が身を包む。

 

(うちの戦い方的にも、〈ヨルムンガンド〉と〈ヴァナルガンド〉それぞれの特徴的にも、とにかく距離を取って、中距離以上からの射撃に徹するのが定石。…けど、それじゃ負けない戦いは出来ても…真那には、勝てない)

 

 レイザーエッジの柄を握りながらも、構える事はしない…どこからでも掛かってこいとばかりの余裕を侑理へ見せ付けている真那。その真那に対して、侑理は思考を巡らせ…ふと、気付く。何気なく自分が、真那に『勝つ』為の戦いを考えていた事に。無論嘗ての模擬戦でも、初めから勝つのを諦めていた訳ではないが、意識して諦めないようにしているのと、自然に勝とうとしているのでは、大きく違う。

 同格のCR-ユニットを纏っているからか、それとも自分自身成長したのだと自覚しているからか。自然に勝つ事を考えていた理由は分からない。だがきっと、これは必要な事なのだ。隣に立ちたいのなら、共に歩み続けたいのなら、いつまでも背中を追うだけでは駄目なのだから。いつかは、肩を並べられる位にならなければならないのだから。

 緊張はない。あるのはこうしてまた模擬戦が出来る事への喜びと、今の自分が真那とどれだけやり合えるのかに対する意欲。調子は良好、やる気は十分、目指すは真那からの初勝利。その為の道筋を、戦法を練り、選び、侑理は小さく息を吐く。真那を見据え、全身に力を漲らせ…トレーニングルームの床を、蹴る。それと共に、背中のメインスラスターをフルスロットルで駆動させる。

 

「真那、勝負──!」

 

 選んだのは、真っ向からの突進。距離を取るなど、普通過ぎて間違いなく真那には想定されている。かと言って待ちの姿勢を取るのも、折角真那が構えていないチャンスを不意にする事となってしまう。だからこその突進であり…同時にお互いDEM所属だった頃の、最後の模擬戦を意識しての選択でもあった。

 当然ただ突っ込む訳ではない。意表を突いた上で、〈ヨルムンガンド〉が持つ火力を痛烈な初手として叩き込み戦いの流れを自身に引き込む事が侑理の狙い。故に必要なのは、真那の間合いに入らないギリギリの距離まで一気に接近する事であり、難度は高いが今の自分とこの装備なら、決して出来ない事ではない。…そう、思っていたのだが……。

 

「──え?」

「へ──?」

 

 全力で踏み込んだ次の瞬間、眼前に迫った真那の顔。一瞬、訳が分からなかった。まだ突進の途中である筈なのに、何故もう超至近距離に真那の顔があるのか。まさか真那はこちらの考えを読み、自身も突っ込んできたのか。そう考えもしたが…違う。思った直後に、真那は一歩も動いていない事に気付く。

 ならば何故か。何故こうなったのか。…答えは単純だった。ただ単に、シンプルに……一瞬で、侑理は真那の眼前まで近付いていた。フルスロットルの加速は、勢いは、侑理の…そして真那の想像を超える、一気に肉薄し得る程のものだった。

 咄嗟に侑理は随意領域(テリトリー)の防性を高める。強度を上げたのとほぼ同時に、侑理は真那へ、同じく防性を反射的に高めた様子の真那の随意領域(テリトリー)へと激突し、互いが互いを弾き飛ばす。あまりに強烈な、衝撃と負荷で脳が激しく揺さ振られるような正面衝突となり……ひっくり返った拍子に、信じられない位の勢いで床に後頭部を打ち付けた。

 

『い"ッ…たぁああああぁぁぁぁッ!!?』

 

 脳を貫くような…というか、頭が本当にカチ割れてしまったのではないかと思う程の、想像絶する激痛が後頭部から迸る。あまりの痛みに、侑理はその場で転げ回る。ごつんごつんとユニットを鳴らしながら、左へ右へのたうち回る。

 普通ならそれは、あまりにも大きな隙。しかし真那はそこを突いてこようとはしない。しないというか…真那も同じように転げ回っていた。二人揃って阿鼻叫喚である。

 

「うぅぅ…あ、頭が…頭が割れるぅ…割れるっていうか、割れてる気がするぅ"……」

「馬鹿な事言ってるんじゃねーです…割れるどころか、砕け散っててもおかしくねーですよぉ……」

 

 通常ならば、ここまではならない。侑理は勿論、恐らくは真那も驚きのあまり正面に防御を集中してしまい、背後への随意領域(テリトリー)制御が甘くなった為に、殆どそのまま強打という事態になってしまった。加えて実戦、敵意と殺意が濃厚な戦場ならばアドレナリンや本能が痛みを上回る事で立て直しが利いたかもしれないが、なまじ模擬戦であるばかりに、転げ回る羽目となった。

 そして散々のたうち回った末、蹲って悶絶する事数分。漸く絶叫レベルの激痛から普通の激痛(?)まで収まってきた事で、侑理はよろよろと立ち上がる。念の為頭を触ってみると、割れたり砕け散ったりする事はなく、ちゃんとそこに自分の頭があった。

 

「あぅ…こんなにいてー思いをしたのは、〈ナイトメア〉との戦闘以来かもしれねーです…」

「そ、それってうちもいた時のじゃなくて、それより前のやつだよね…。…ごめん、完全に速度を見誤ってた……」

「や、私がいてー思いをしたのは私の読みが甘かったからで、侑理が悪い訳じゃねーです…。…にしてもまさか、ここまでとは……」

 

 思えば昨日の戦闘では、久し振りである事と、今の自分と〈ヨルムンガンド〉を掛け合わせて作り出せる力がどれ程のものか分からなかった事を理由に、必要以上にスラスターを吹かす事を避けていた。おかげで実戦にてこんな事にならずに済んだと思えば、決して悪くはないのだが…それにしたって痛い。後できちんと冷やさないと、今は良くても後々不味い事になるかもしれない。

 

(…ほんとに、まさかここまでとは…これも〈ヨルムンガンド〉のおかげ?…いや……)

 

 昨日発揮した火力も、今の加速も、CR-ユニットの性能によるもの。されどCR-ユニットの性能を十全に引き出す為には、それに見合うだけの魔術師(ウィザード)が必須。だとすれば、つまり……そういう事。

 

「…んふ、んふふふふ……」

「な、なんでいやがりますか、いきなり気持ちの悪い笑い方をして…」

「し、失礼な。ぐへへとかふひひならともかく、んふふはまだ可愛げのある笑い方でしょー?」

「少なくとも、自分で可愛げがあるとか言うもんではねーです」

「いやまあそれはそうだけど…。…その、理由はどうあれうちは今、真那を驚かせて、一発与えたようなものでしょ?だから…ね」

「ほぼ同等のダメージを侑理も喰らっていやがりましたけどね…。…まあ、否定はしねーです」

 

 そう。想定とは大きく違うが、真那に一泡吹かせる事は出来た。これまで一度も敵わなかった真那を驚かせるだけでなく、自分も痛かったとはいえダメージにまで繋げられたのだから、これが嬉しくない訳がない。

 

「…で、ここからはどうしやがりますか?仕切り直して再開でも、私は一向に構わねーですよ?」

「そうだね、仕切り直してもう一度……」

 

 まさかこれで満足という訳ではねーでしょう?…そう言うように、真那は訊いてくる。…勿論、その通り。一泡吹かせられたとはいえ、これで満足する程侑理の目指す先は低くない。だから侑理は小さく肩を竦め……言った。

 

「…と言いたいところだけど、今日は今の自分の力を確かめるだけにしようかな…この調子だと、またなんか起きそうだし……」

「まあ、それが良さそうでいやがりますね……」

 

 

 

 

 模擬戦改め自主練をする事数時間。昨日の今日であまり負荷の大きい事をするのは良くないだろうという事で、空腹感と共に侑理は鍛錬を切り上げる。

 

「お疲れ様です。随意領域(テリトリー)の制御はともかく、射撃の腕は鈍っちゃいねーようですね」

 

 そう言って、一足先に鍛錬を終えていた真那は飲み物の入ったコップを渡してくる。受け取った侑理はその中身、スポーツドリンクをぐっと煽り、それからふぅ…と一息吐く。

 

「…じゃあ、制御の方は鈍ってた?」

「鈍ってたのか、〈ヨルムンガンド〉にまだ慣れきってねーからなのかは定かじゃねーですけど、私にはそう見えました。まあそれも、段々良くなっていったようですが」

「それなら良かった。…今思うと、第二執行部の皆と戦ってた時の真那も、普段よりは直線的な動きが多かったような……」

「うっ…ま、まあその時は私も初使用でいやがりましたからね…」

 

 トレーニングルームの床に真那と二人でちょこんと座り、会話する事数分。一休み終了、という事で侑理は残ったスポーツドリンクを全て飲み干し、跳ねるようにして立ち上がる。

 

「じゃ、シャワー浴びてお昼にしよっか。……あっ、お風呂にする?ご飯にする?それとも…もっかい模擬戦、やる?」

「じゃ、模擬戦で。私としちゃ、不完全燃焼極まりねーので」

「あぁ嘘です模擬戦はやらないです!お腹空いたから、お昼ご飯食べさせて……」

「全く、しょーもねー事言うからです」

 

 呆れた調子で歩いていく真那を追い、トレーニングルームから隣に位置するシャワー室へ。ぱぱっと軽くシャワーを浴びて、今いる地下施設を管理している機関員へと挨拶をし、食事を取る為地下から地上へ。

 

「ね、お昼はどうする?〈フラクシナス〉に戻っても良いけど…今は、どこかで食べたい気分かなー」

「構わねーですよ。なんなら侑理の復帰祝いとして、豪勢にいってみやがりますか?」

「…真那、うちが魔術師(ウィザード)として復帰する事を、前向きに捉えてくれてるんだね」

「それは、まぁ……相棒で、いやがりますから…」

 

 ちょっぴり目を逸らし、気恥ずかしそうに頬を掻く真那。その反応が堪らなく可愛くて、侑理は思わず抱き着きたくなった…が、平日の午前中で人通りは決して多くないとはいえ、ここは人が行き交う道路。非常識な人間ではないつもりの侑理はぐっと堪え、代わりに何を食べるか考える。鍛錬後でお腹も空いているし、がっつりと何か食べたい。ついでにもう冬も近い時期なのだから、あったまるものにしたい。そんな風に考えながら、繁華街があった方へと十字路を曲がり……見覚えのある、二つの人影を発見する。

 

「あっ」

「……?どうかしやがりましたか?」

「ほら、あそこ。四糸乃ー!七罪ー!」

 

 名前を呼んだ直後、ぴくりと肩を震わせた二人組。やや驚いた様子の四糸乃と、大分驚いてビビった様子の七罪。士道が霊力封印を施した精霊の内、学校へ通っていないらしい二人の姿がそこにはあった。

 

「あ…侑理さん…と、真那さん…」

「な、なんだ二人か…びっくりさせないでよ……」

「あー、ごめん。…そんなにびっくりした?」

「は、はい。ちょっと、ですけど……」

「びっくりし過ぎて、そこに隠れそうになったわ…」

「え、そこって…どう見ても側溝でいやがるんですけど……」

「あらー?真那ちゃんそれは『そこ』と『側溝』を掛けた駄洒落かなー?」

「ちげーますよ…!?」

 

 不衛生極まりない、しかも重い蓋を開けなければならない側溝に隠れる程の事なのか…と侑理が唖然とする中、真那とよしのんの何とも緩いやり取りが交わされる。それに四糸乃は小さく笑い…相変わらずよく動き喋るよしのん、四糸乃の腹話術であるパペットの存在に感心する。

 詳しくは知らないが、聞いたところによるとよしのんは本人が自覚していない四糸乃の別人格…らしい。しかし側から見れば、四糸乃とよしのんは完全に別個の存在であり…やはり凄い。なんだか凄いと言わざるを得ない。

 

「それで、二人は何してたの?お出掛け?」

「お出掛け、というか…七罪さんに、街の案内をしていたん…です」

「あ、案内されてました。…私なんかが四糸乃の貴重な時間を奪ってごめんなさい…」

『えぇ…?』

 

 突然のネガティヴ発言に、侑理達は揃って困惑。こちらもこちらで相変わらず凄い。しかも四糸乃の表情からして、この場に至るまでにも何度か似たような事はあったらしく…七罪が前向きに、自己肯定感を高く持って生きるのはまだまだ難しそうである。

 

「…えー、っと…そうだ。二人って、お昼ご飯はもう食べた?もしまだなら、良かったら一緒に食べない?」

「え?…まだ、ですけど……」

「…わ、私は…その、四糸乃がいいなら…後、こんなちんちくりんと一緒に食べても吐き気がしないなら……」

「ちんちくりんって…うち等も七罪とそんなに体型変わらない気がするんだけど……」

「あ…ち、違っ、違うの…!一見同じでも、皆は品の良いちんちくりんっていうか、私と皆とじゃ月とスッポンどころかダイヤモンドと腐ったアーモンド位の差っていうか…ッ!」

「ひ、品の良いちんちくりん…?」

「それもでいやがりますけど、何故七罪さんは『モンド』の方に注目を……?」

 

 湯水の如く出てくる、しかもなんだかセンスが独特な自虐の数々に、侑理も真那も思わず呆気に取られてしまう。そしてその後によしのんが言った、「七罪ちゃんって、面白い子だよねぇ」…という言葉には、苦笑をするしかなかった。

 

「その…お昼ご飯は、何を食べましょう…?」

「皆は何が食べたいのかなー?よしのんにお任せなら、人参と牧草の美味しいお店を紹介しちゃうよー?」

「…あ…そういえばうさぎって、人参も食べるけど別に特別好きって訳じゃない…みたいなのを、どこかで見たような……」

『……!?』

「へぇ、それは初耳です。…私は…特にこれが食べたい、ってものはねーですね」

「うちも別に、特定の何かを食べたいって訳じゃないけど……って、そういえばここは…」

 

 七罪の呟きに四糸乃とよしのんが愕然とする中、自分も特に要望はない、と侑理は返し……そこでふと、再び「見覚えがある」という感覚を抱く。しかしそれは、また知り合いを見つけたという訳ではない。特定の何か、誰かではなく、今いる通り自体に見覚えがあり…それが何だったのか思い出すと共に、一つ案を思い付く。

 

「…ねぇ皆。もんじゃなんてどう?」

「もんじゃ…ですか…?」

「うん。興味ない?うちが、士道にぃに教えてもらったもんじゃ屋さん」

 

 その瞬間、三人の肩がぴくっと跳ねる。気になる…そんな色が、瞳へと浮かぶ。そうして真那達は顔を見合わせ…首肯。お昼ご飯が、もんじゃに決まる。

 

「確か、ここ…じゃないや。えっと、だからこの次の通りを曲がって……あ、あった」

 

 まだまだ慣れているとまでは言えない天宮市の街。多少の時間は掛かりながらも、侑理は三人を案内し、店へと入る。店員へと人数を伝え、誘導された席へと着く。

 

「ここが士道くんと来たお店かー。ねぇねぇ侑理ちゃん、それってデート?デートなのかなぁー?」

「ぶ……ッ!」

「え、なんであんたが咽せたの…?」

「あはは、昨日士道にぃとのデート云々でうちが真那をからかったからかも。…それとももしかして、嫉妬?嫉妬しちゃった?だとしたら、それはうちに?それとも、士道にぃに?」

「…侑理、自分の質問を無視されたよしのんと四糸乃さんが悲しそうな顔をしてやがりますよ?」

「え!?あ、ご、ごめんね!別に無視した訳じゃ──」

「……?」

「って、特にそんな顔してないじゃん!だ、騙したね真那!」

 

 図られた!と抗議する侑理だったが、真那は涼しい顔。…明らかに弄った(実際嫉妬してくれたのなら嬉しいのだが)事へ対する仕返しであり、ならばと侑理もお返しをしたいところながら、よしのんの質問に答えていないのも事実。だから侑理は一旦心を落ち着け…それから、頷く。

 

「…うん。デートと呼ぶかどうかは、人によると思うけど…うちにとっては大事な、士道にぃとの思い出だよ」

 

 これが、よしのんの…四糸乃の求めた答えになっているかどうかは分からない。だがこれが、士道と出掛けたあの日に対する素直な思い。

 

「思い出…あの、その時の話って…訊いても、いいですか…?」

「うぇ?…良いけど…それならさ、四糸乃も士道にぃとの話、してくれないかな?霊力封印するまでの事も勿論だけど、その後だって色々あるでしょ?」

「あ…それは、私も聞きたいかも…!」

「…思えば兄様の存在に気付いたのも、四糸乃さんとASTの戦闘映像を見ていた時でいやがりましたね…私もその話、聞いてみてーです」

 

 侑理に続いて七罪と真那も興味を示せば、四糸乃は少し恥ずかしそうに頬を赤くし…先の侑理と同じように、しかし侑理よりも小さく首肯。それは間違いなく、侑理よりも控えめで慎ましさを感じる頷きであり……何故かそれを見て、七罪は拝んでいた。尊いものを見たかのような反応をしていた。

 

「ふふっ、それじゃあ真那と七罪も何か話してよ。真那がこっち来てからの事はこれまで色々聞いたけど、何かまだ一つ位、士道にぃとの話ってあるでしょ?それか、あの日の夜に話してくれた、真那と士道にぃのお出掛けの話をもう一度してくれてもいいよ?」

「おやおやー?真那ちゃんも士道くんと二人っきりでどこかに行ったのかなー?」

「い、一応言っておきますけど、ただの買い物でいやがりますからね?」

「…あの、私は大して話す事なんてないっていうか、多分皆も知ってるような事しかないんだけど……」

「え、でも今日の朝、詳しくは知らないけど何かあったんだよね?」

「…七罪さん、そうなんですか…?」

「うっ…いや、あの、それは…あ、あったけど訊かないで…!代わりに何か話すから、今日の朝の事は掘り下げないで……!」

 

 本当に一体何があったんだろうか、と若干心配になる程頭を下げて拒否する七罪。…これは訊かない方が良いのかもしれない。お互いの為にそうしよう。侑理は二人及び一匹と無言の意思疎通から頷き合い、それからこほんと咳払い。皆に注目される中、ゆっくりと口を開き……

 

「すみませーん、注文良いですかー?」

『そっち!?』

「まあほら、お客さんとして注文しないでただ話してるのも…ね?」

 

 半分は冗談、半分は真面目にもんじゃの注文を先に済ませて、改めて前回ここに来た時の事、そしてその日士道と過ごした時間の事を、真那達に語るのだった。

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