デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第五十一話 譲れぬ意思

 空腹は最大の調味料、という言葉があるように、お腹が空いていると、食事は一層美味しくなる。その空腹がただの時間経過ではなく、何かを頑張った事による空腹となれば、食事はご褒美の様にも感じられて、更に美味しく食べられる。そしてその食事が、誰かとの…談笑しながらのものとなれば、美味しく楽しいものに変わる。

 今が、正にそうだった。鍛錬を終えた後の、空腹の中で真那や四糸乃、七罪と共に摂る食事。それは美味しく、楽しいひと時だった。

 

「ん、そろそろ良いかも。皆、食べて食べてっ」

『はーい』

 

 鉄板で焼き上げたもんじゃの完成を、皆に伝える。士道直伝の、もんじゃ焼き技術…と言える程立派なものではないが、それでもこの中でもんじゃを焼いた事があるのは侑理一人であった為、今回は侑理主体で作る事となっていた。

 無論、ただひたすら焼いて食べてをしていた訳ではない。四糸乃の話、真那の話、七罪の話…自分の話をした後、侑理は三人から士道との思い出を聞いた。話の内容が良かった事は勿論、話す三人の表情からは、士道への思いが感じられ…恐らく自分も話している間は、こんな顔をしていたのだろう。そう思うと、侑理は少し恥ずかしく…されど悪い気はしない、そんな気持ちに自然となる。

 

「けどまぁ、なんていうか…ほんと士道にぃって、無茶するよねぇ」

「全くです。幾ら回復が出来るとはいっても、それをされる側の身になってほしいってもんですよ」

「その気持ち、は…私も、分かります。…でも……」

「うんうん。その無茶に助けられたよしのん達的には、駄目とも言えないところだよね〜。んもう、士道君のいけずぅ〜!」

「え、そのいけずって使い方合ってる…?…でもほんとそうっていうか、私なんかの為に自分から危険に突っ込むなんて馬鹿過ぎるっていうか…。…そ、そこまでしてくれた事は…凄く、嬉しかった…けど……」

((あ、可愛い……))

 

 四糸乃の霊力を封印するまでにも危険を冒していたと知った侑理は真那と頷き合う…が、その流れの中で七罪が見せた、若干俯きながらも頬をほんのり赤くし、恥ずかしがるように段々と声が小さくなっていく姿に、なんだかほっこりしてしまう。というか恐らく、真那と四糸乃もほっこりしている。

 ただそれはそれとして、侑理はよしのんの言葉も一理あると思っていた。例えば昨日の件、実は七罪は行方不明となった際にチュッパチャップスへと変身し、それを拾った士道のポケットの中にずっといたのだという。その結果、士道(と侑理)がエレンにほぼ脅迫の取引を持ち掛けられても応じず、人工衛星が落ちてくるギリギリまで必死に探し続けていた姿を誰よりも側で見る事となり、それが七罪の心を動かす…否、本当は伝わっていた士道や皆の思いを七罪が受け入れる、最後の一押しになったとの事。

 言い換えればそれは、士道の危険を冒してでも、無茶をしてでも七罪を守りたいという思いが、その為の行動が、七罪の封印は勿論、結果的には土壇場で士道自身や天宮市を守る事にも繋がったという事。結果論とはいえ、もし士道の行動がなければ今こうして談笑する事も出来なかったかもしれないと思うと、一概には否定出来ない…そう言わざるを得なかった。

 

「…ま、だからと言って我が身可愛さに情けねー判断をする兄様も見たくはねーですし、やっぱり私達が守るしかねーって事でしょう」

「だね。うち達の力は、その為の…誰かの為のものなんだし」

「……そういえば…その、二人の力っていうのは、あの女…エレン、だっけ…?…と同じ……」

「あぁ、魔術師(ウィザード)の事でいやがりますか?」

「装備の開発元は違うけど、根本的な部分は同じだよ?なんなら元々は仲間でもあったしねー」

 

 うんうんと侑理が真那に頷く中、七罪が思い出したように発した言葉。それに侑理が肯定を示すと、七罪はびくりと肩を震わせる。

 

「…あ、あの…えと…昨日も言ったけど、ほんとに色々ごめんなさい…誓ってもうしません……」

「……?…あ、勘違いしねーで下さいね!?私は別に、七罪さんを斬ろうだなんて思ってやがりませんから!」

「そ、そうだよ七罪。同じ魔術師(ウィザード)ではあるけど、うち等はもう……」

『……侑理(さん)?』

「…とは、言いたくないな…言いたくないよ、エレンさん…」

「……!?ひっ、ひぃぃ……!」

「だ、大丈夫ですか七罪さん…!」

「ちょっ、今言う事じゃねーでしょう!七罪さんが完全に怯えちまったじゃねーですか!」

 

 五河宅でエレンから向けられた、冷たい意思。今でも尚、侑理はエレンに対する憧れの感情を抱いている。信じたい思いに揺らぎはない。…だからこそ、疑いようのない事実が、現実が、侑理の心に突き刺さっていて…気付けばいつの間にか、七罪が椅子の上で身体を丸めて頭を両手で抱えていた。…真那の指摘からして、多分自分が今良くない発言をしたのだろうが…エレンの事を考えていたせいで、自分でもなんと言ったのか覚えていない。

 

「し、深呼吸です七罪さんっ。こういう時は、深呼吸です…!」

「うぅ…すぅ…はぁ…すぅ…はぁぁ……」

「…お、落ち着きましたか…?」

「…う、うん…ありがとう、四糸乃…」

「…侑理、七罪さんに言う事があるんじゃねーですか?」

「…えと、ごめんなさい…あんまり自覚ないけど、ごめんなさい……」

 

 数十秒後、四糸乃の助言で何とか持ち直した七罪へ侑理は謝罪。その後四糸乃(と四糸乃の左手にいるよしのん)は七罪が平常心を取り戻せるよう、背中をゆっくりとさすっており……その間七罪は、なんだか表情が緩んでいた。ふへぇ…とか言いそうな顔をしていた。

 

「…でも、あれだね。折角だし、琴里もいれば良かったね」

「え?何故に琴里さんが?」

「だってほら、この面子に合いそうなのって琴里でしょ?…色んな意味で」

『あー……』

 

 困惑する真那に侑理が答えると、全員が納得したような声を出す。…言わなくても、伝わるものはあるのである。

 

「さて、この後はどうしやがりますか?もしお二人が午後も二人で出掛けてーと言うなら──」

「よしのんはー?真那ちゃん、よしのんの事はカウントしてくれないのかなー?」

「……二人と一匹で出掛けてーって事なら、私達はこれにてお暇しやがりますが」

「あ、えっと…七罪さん、どうしましょう…?」

「うぇっ…!?…わ、私は…えー、あー…そのぉ……」

 

 それから少しし、最後のもんじゃも大方食べ終えたところで、真那が問う。四糸乃は七罪の方を見やり、七罪は何やら言い辛そうな表情を見せる。一体どういう事なのか。何か言い辛い事があるのだろうか。

…と、一瞬困惑した侑理だったが、ふと思う。今の状況を単純化して考えれば、七罪の選択肢は二つ。真那の言葉に同意し、四糸乃と二人になるか、否定しこのまま四人でいるか。そして侑理達に会うまで二人だった以上、少なくとも四糸乃と二人でいるのは嫌ではない…更に言えば、二人でのお出掛けを楽しんでいた可能性もある。逆に、控えめな四糸乃の性格を思えば、七罪を無理矢理連れ出したという可能性は低い。つまり、状況的に七罪が言いたいのは前者。ただ、同意をすると侑理や真那を邪険にしている風になる、そう思われてしまうかもしれないというのを気にして言うに言えない…という事なのではないだろうか。…七罪であれば、結構あり得る。

 勿論これは推測に過ぎない。違っているかもしれない。だから侑理は真那にこっそり相談をしようとし…直後、真那の持っている携帯が鳴った。

 

「っと、失礼。──ぇ…?」

(…真那?)

 

 着信に応じつつ、一旦店を出ていく真那。その間際、微かに聞こえた動揺の声。ただ驚いたのとは違うその響きにじわりと不安が芽生える中、数十秒程で真那は戻ってきて……その表情を見た瞬間、侑理は理解する。何か、緊急事態が起きたのだと。あからさまに感情が出ている訳ではない。だが、分かるのだ。だからこそ分かるのだ。これは動揺や焦りを気取られないよう、取り繕っている表情なのだと。

 

「…何かあったの?」

「四糸乃さんや七罪さんを不安がらせちまうので、状況だけ伝えます。──兄様と、連絡がつかねーみてーです」

「……ッ!」

 

 自身も席を立ち、侑理は小声なら二人に聞こえないであろう距離まで来てから真那へと問う。そしてその返答で、予想通りの…それも考えたくない類いの緊急事態だと認識する。

 恐らく真那に連絡が入ったのは、士道の所在を知らないかという確認と、捜索に協力してほしいという頼みの為。であればやる事は一つ…ではなく、二つ。士道を探す事と……今この場から、四糸乃と七罪に本当の事を上手く誤魔化しながら離れる事。

 

「あー、っと…四糸乃さん、七罪さん……」

「はい…?」

「…えと、何…?」

 

 席の前に戻った真那は、話を切り出そうとする…が、具体的なプランは何も考えてなかったのか、ぴたりと声が止まったかと思えば、侑理へ視線を送ってくる。こ、ここでうちに振る!?打ち合わせもなしにいきなり言い出した挙句、こっちに丸投げ!?…とぎょっとした侑理だったが、黙っていれば怪しまれる上、侑理の中には一刻も早く士道を探しに向かいたい気持ちがある。だから侑理は頭をフル回転させ、策を捻り出し…即断即決、即実行へと移す。

 

「…と……」

『と?』

「──突然だけど、ちょっと今からうちと真那は逢い引きするから失礼するね!ごめんねっ、二人共!」

「はぁぁぁぁッ!?」

 

 言うが早いか、がしっと真那の手を、それもばっちり恋人繋ぎで握る侑理。我ながらあんまりにもあんまりだとは思うが、実際真那は目を剥き、四糸乃と七罪も仰天していたが、もう言っちゃった以上やるしかない。

 

「あ、勿論逢い引きって言ってもお肉の方じゃないよ?それからうちも真那も女の子だよ?まあ愛の前には性別なんて二の次だよねっ!」

「ぶふ…ッ!?ちょっ、侑理!?いや、ほんとに何を言って……」

「まぁまぁ行こうよ真那、さぁ行こうすぐ行こうれっつらごー!」

「そんなテンションで連れて行かれたくねーんですけど!?あぁっ、二人だけじゃなく周囲からも変な目で…!」

「という訳で、さらば!四糸乃、七罪、お会計はここに置いておくから!それと、楽しかったよ!また一緒に食事しようね!」

「あ、は、はい…私も、楽しかったです…」

「えー、っと…お、お幸せに……?」

「ちげーます!私と侑理はそういう関係じゃねーですからぁああああぁぁっ!!」

 

 叫ぶ真那を連行するように、速攻で侑理は店の外へ。勿論恋人繋ぎは離さない。普段であれば恋人繋ぎへ真っ当に(?)興奮していただろうが、今はそれどころではない。

 そうして店を出た後は、そのままぐるりと店舗の裏手へ。誰もいない事を確認してから、侑理は立ち止まり…そこで手が振り解かれた。

 

「な、な、何のつもりでいやがりますか!ま、まさか侑理、この人気のない場所で本当に真那を……!?」

「そ、そんな訳ないでしょう!?何を考えてるの!?」

「それはこっちの台詞でいやがるんですけど!?」

「こっちの台詞って…うちだって恥ずかしかったんだからね!?というかそもそも、真那がいきなり切り出した上即ぶん投げてくるなんて事をしなければ、うちだってこんな真似する必要なかったんだから!」

「…その事については…ほんと、申し訳ねーです……」

 

 自分でも分かる程に頬が熱く、即ち赤くなっているのを感じながら侑理が抗議をすれは、真那はバツの悪そうな顔をした後、両手を合わせて謝ってきた。これが平時ならば、お詫びの一つでも要求したいところだが…今はそれよりやるべき事がある。

 

「全くもう…それで真那、士道にぃが最後にいた場所とかは分かってる?〈フラクシナス〉も士道にぃを探してるの?」

「最後にいたらしい場所は高校、〈フラクシナス〉も捜索中みてーです。それから…鳶一一曹が、転校になったんだとか」

「それって……」

 

 まさか、と思う侑理に、真那は頷く。昨晩話した、折紙についての件。学校で本人に会う事は叶わず、それどころか転校の話を聞いた士道は、自ら確かめるべく折紙を探しにいった…その可能性は、十分にある。

 もしそうなら不味い。非常に不味い。折紙が士道に何かするとは思えないが、もしも本当に彼女がDEMに鞍替えしたのだとしたら、士道が無事で済む保証はない。

 

「〈フラクシナス〉は各地にカメラを飛ばしつつ、DEMと繋がりのある施設や企業を片っ端から調べてるみてーです。だから私達は、それ以外で心当たりのある場所を探してみやがりますよ!」

「了解!」

 

 侑理は首肯し、随意領域(テリトリー)展開から〈ヨルムンガンド〉を装着。同じく〈ヴァナルガンド〉を纏った真那と同時に飛び立ち、手分けして士道の捜索に入る。…が、ものの数秒で侑理はある問題に直面する。

 

(さっきは何も考えず流しちゃったけど…よく考えたらうち、折紙さん絡みで心当たりなんて何もないじゃん…どうしよう……)

 

 魔術師(ウィザード)として共に戦った事もある折紙だが、彼女絡みでぱっと思い付くのは自衛隊の天宮駐屯地位のもの。しかし幾らDEMがAST含む自衛隊への影響力を持っているといっても、何の罪もない一般人(という事になっている筈の)士道を連れ込めるとは思えない。勿論絶対あり得ない訳ではないにしても、優先的に探すような場所ではない。

 となるとどこか。一体どこを探せばいいのか。滞空したまま、侑理は数秒考え…かなりありきたりだが、一つ思い付く。

 

「…〈フラクシナス〉、聞こえる?」

「琴里よ、聞こえてるわ。悪いわね、うちのアホ兄がアホな事して」

「ううん。うち等の士道にぃだもん、謝らないで。…因みに今の『うち』っていうのは、うちの真似……」

「ではないわ。…っていうか、うち等のって何ようち等のって…。百歩譲って真那ならまだしも、侑理にまでそんな言い方を許す私じゃ……」

「司令」

 

 通信越しでのやり取りをする中、聞こえた男性の声。恐らくは副司令である神奈月の声。その声で我に返った様子の琴里はこほんと一つ咳払いし…侑理もまた、気を取り直す。

 

「それで、何かしら?」

「うん。折紙さんの家の場所は分かる?」

「え?…分かるけど、彼女の家の中を捜索するのは困難よ。何せ下手な金融機関や行政機関より厳重なセキュリティや対侵入者トラップが仕掛けてあるもの」

「…な、何故…?」

「さ、さぁ……」

「そう…。…けど、場所は分かるんだよね?だったら教えて」

 

 やたら大きい疑問が一つ出来てしまったものの、それは一旦脇に置いて場所を聞く侑理。そして把握をしたところで、スラスターを噴かし速攻で折紙の住居があるというマンションへ。人目に付かないよう、ある程度の高度で空を駆け、マンションの屋上へ着地をする。

 

「ここか……よし」

 

 屋上の真ん中辺りまで移動をした侑理は、ふぅ…と一つ息を吐く。それから意識を集中し、随意領域(テリトリー)を拡大。薄く薄く、その分広く展開し、マンションをすっぽりと包み込む。

 

(もし、ここに折紙さんがいるのなら……)

 

 そこから侑理は何かをする訳ではない。ただ、待つ。反応を、折紙が動きを見せるのを。

 思い出すのは、昨日の事。常人ならば、随意領域(テリトリー)の範囲内に入ったところで何も感じる事などない。だが、普段から随意領域(テリトリー)に慣れ親しんでいる魔術師(ウィザード)であれば、昨日五河宅に入った瞬間の侑理の様に、何かしら肌で感じる筈。そして、何者かの随意領域(テリトリー)…文字通り敵かもしれない存在の『領域』に入ってしまっていると気付けば、すぐに行動に移す筈。そこまで考えての展開であり…しかし、五秒経とうと十秒立とうと、マンションには何も起こらない。

 

「…駄目、か……」

 

 こちらの考えを読んで息を潜めているのかも、ともう少し維持する侑理だったが、やはり何の反応もない。まだ続けるか、それとも止めるか、侑理は考え…随意領域(テリトリー)を、普段の規模へと縮小する。

 

(どうしよう、ここ以外の心当たりなんて後はもう学校位しかない…けど、まさか学校にいる訳ないよね……)

 

 それはない、と思うものの、他には本当に思い付かない。しかしここにいたところで状況は変わらないのも事実だと、駄目元で侑理は折紙の…そして士道達も通う、来禅高校へ向けて飛び立つ。場所は聞いた事があるものの、実際行くのは初めてだという事に気付きながら、真っ直ぐに向かう。

 そうして来禅高校…と思われる学校が見える距離まで移動してきた侑理だったが、よくよく考えればこの高校には士道や折紙だけでなく、ASTの一員である美紀恵も通っている。つまり先と同じ方法を取った場合、彼女が出てきてしまう可能性もある訳で…そうなってしまうと非常に厄介。となれば目視で見る位しか出来ないが、そんな方法で見つかるのなら苦労はなく、侑理はがっくりと肩を落とした……その時だった。

 

「…え?あれ、って……」

 

 視界の端に見えた、魔力と思しき光。一瞬真那かとも思ったが、視力を強化した目を凝らす事で違うと気付く。距離があるせいではっきりとは見えないが、装備のカラーリングが違う。ぼんやり見える外見も違う。そう、それは…彼女は恐らく……

 

「──折紙さんッ!」

 

 叫んだ瞬間、急減速を掛けた魔術師(ウィザード)。その存在へ向けて近付き…彼女の姿を、DEMのものと思われるCR-ユニットを装備した折紙の姿をはっきりと捉える。

 

「…侑理」

 

 静かな、それでいて重みを感じる、折紙の視線。それを真っ向から見た目返し、侑理は数秒考える。考え…一縷の望みに掛けて、折紙へ言う。

 

「折紙さん、大変なんです!士道にぃが……」

「知っている」

「……っ…!」

 

 端的な…だがそれ故に明確な折紙の返し。疑いようのないその言葉に、侑理は黙り込む。

 侑理は思ったのだ。そもそも連絡の付かなくなった士道に折紙が関わっているというのは、状況からの推測でしかない。だからこそ、折紙が無関係である可能性もゼロではなく、もしそうなら協力してくれるかもしれないと思っていたのだが…そんなある種甘い期待は、一瞬の内に崩れて終わった。

 

「…じゃあ、士道にぃは折紙さんが……」

「そう。彼は今、安全な所にいる。心配しなくてもいい」

 

 淡々と発されるその言葉は、折紙が士道を捕らえていると認めたようなもの。安全という言葉を疑うつもりはない…が、だからといって安心出来る訳などない。

 

「…どうして、DEMに……」

「それを、貴女が訊くの?」

「元々DEMにいた、今だって出来れば敵対したくないうちだから訊くんです。うちにはまだ、DEMを信じたい理由がある。だけど、折紙さんはそうじゃないでしょう…!?〈ホワイト・リコリス〉を使ってまで…その後もまともじゃない状態でエレンさんと戦った折紙さんが、どうして…!」

 

 一刻も早く士道を見つけ出したいのは事実。されど、侑理は折紙の事も放ってはおけない。何故という思いが、そのまま侑理の口を衝き…折紙は、答える。

 

「私の両親は、精霊に殺された。あの日から私は、私の人生は、両親の仇を取る為の…これ以上精霊によって涙を流す人が生まれないようにする為のものになった」

「……ッ…!…それは…その思いをどうこう言う気はない、です。でも、それはASTでも……」

「ASTで、それは叶わない。装備も、情報も、組織としても…ASTには、限界がある」

 

 瞳から、言葉から伝わる、意思の固さ。仇という後ろ向きの思いと、自分と同じ悲しみを抱く者を生みたくないという前向きな思いの織り混ざった、一本調子の筈なのにどこか悲痛にも聞こえる声。そしてそこから続く理由を、侑理は否定出来なかった。…全て、その通りであるから。ASTにはDEMではあまり重んじられていない『集団』としての強さがあり、自衛隊という国が直接管理する組織故の融通の効かなさがある事は仕方のない事だろうが…実力があり、自分の命を軽視しているとしか思えない程の決意を持つ折紙にとっては、DEMの方が遥かにやり易い、その思いを遂げられる可能性が高いのは、否定のしようがない事実。

 

「現に、DEMには五年前の災害…〈イフリート〉による大火災の中で、〈イフリート〉とは別の精霊がいた事を把握している。それは、ASTに所属したままでは得られなかった情報。士道の言葉以外では知り得なかった事実。…それに私は、ASTを懲戒解雇になっている。何度も命令違反をしている以上、それは自業自得に過ぎない…けど、どの道DEMを頼る以外、私に道はない」

「…だと、しても…DEMは、士道にぃをも狙った組織なんですよ!?昨日だって、七罪…〈ウィッチ〉の情報を得る為に、士道にぃを脅していて…うちだって、あの日…折紙さんが第二執行部と戦った日、うちが受けていた命令は、士道にぃの狙撃なんです…ッ!」

「……っ…」

 

 折紙の意思、精霊を討たんとする覚悟は十分に伝わってくる。それを、侑理に止める権利はない。されど、止めたい理由はある。だからこその言葉、だからこその訴えであり…初めて折紙は、『士道への狙撃』という言葉で何かを思い出したように肩を震わせる。…しかし、それだけ。見せた反応は、ただそれのみ。

 

「…エレン・ミラ・メイザースは言っていた。当面士道に手を出すつもりはないと」

「…それを、信じるんですか…!?」

「全面的に信じている訳ではない。けれど、DEMのスカウトに応じなければ、私の力は何もなくなる。そうなれば何れにせよ、士道を守る事は出来ない。だったらまだ、DEMにいた方が、私が成果を上げる方が、士道を守れる可能性は高い」

「成果、って…まさか……」

「私が討ちたいのは、私の両親を殺した精霊のみ。でも、討つべきなのは、無差別に人を害する可能性があるのは、あの精霊だけじゃない。だから、私は討つ。夜刀神十香達も含めた、全ての精霊を」

 

 DEMからスカウトされた。その言葉と、DEMからのスカウトが前々からあったものではなく、幼児化が解けてからのものだと仮定した場合、七罪救出時にエレンが言っていた「やるべき事」とは、折紙をDEMへと引き入れる事だったのかもしれない。頭の隅でそんな風に思う侑理だったが、今はどうでも良い事。今考えるべきは、そこではない。

 まだDEMを信じたい侑理が、信じるのかと問うのは、酷く歪なように思えた。DEMに所属していた方が士道を守れるというのも…いや、折紙の言葉全てが、一定の理があるように感じられた。しかしそれでも、侑理は許容する事など出来ない。折紙の為という事も勿論ある。しかしそれ以上に…折紙は、言ったのだ。十香達も、討つのだと。DEMの魔術師(ウィザード)であった侑理を友として受け入れてくれて、傷心の時には気遣ってもくれて、今や共に戦った仲間でもある精霊達へ…確かに空間震の事を思えば『無差別な死』を人に与える可能性もある、だとしても今は霊力封印により『人』の様に日々を重ねている皆へ、矛を向けるのだと。

 

「…折紙さん。考え直しては、くれませんか?取り敢えずお互い武装解除して、ゆっくり話しましょうよ…。うちの装備が、DEMのものじゃない事は分かりますよね…?うちに話せる事なら、なんでも話します。だから……」

「それは、出来ない。…退いて、侑理。私には、為すべき事がある。果たすべき──使命がある」

 

 そう言って、折紙は視線を鋭くさせる。まだ武器を構えてはいない。いないが、纏う雰囲気は完全に臨戦態勢のそれ。

 もう、このまま話し合う事は出来ない。侑理に残された道は二つ。一つは言われた通り、退く事。そして、もう一つは……

 

「…うちは、折紙さんと戦いたくないです。折紙さんの意思も…うちにはやっぱり、否定出来ないです」

「なら……」

「だけど、退けません。うちにとってはもう、十香さん達はただの精霊なんかじゃないですし、折紙さんの事もこのまま見過ごしちゃいけない…そう、思うんです。だから……」

 

 侑理もまた、戦意を向ける。敵意はない、ある筈などないが…退きもしないと、戦ってでも止めると…それが自分の意思なのだと、はっきりと示す。

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