デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第五十三話 強襲、DEM

 互いの視界を覆わんばかりの撃ち合いを利用し、折紙は姿を消した。その策略に乗せられ、侑理は折紙を逃してしまった。そのミスは大きく、重く…しかし後悔したところで、折紙が出てきてくれる事などない。再び折紙を見つける以外、彼女を止める手立てはない。

 だから侑理は空を駆ける。〈ヨルムンガンド〉のメインスラスターを噴かす事で、天宮市の空を高速で掛け…同時にここまでの事を、真那とフラクシナスに通信する。情報共有の為に、事の顛末を双方に伝え……侑理は、思いっきり怒られる事になった。

 

「なんでもっと早く連絡しねーんですか!どうして一対一で交戦してやがるんですか!侑理の頭の中には慎重とか念の為って言葉がねーんですか!?」

「折角見つけられてもそれじゃあ駄目じゃない!ちょっとでも連絡してくれればサポートだって出来た筈だし、逃さずに済んだかもしれないのよ!?」

「うっ…ごめんなさい……」

 

 烈火の如く怒る真那と琴里の怒号に、侑理はしゅん…と小さくなる。通信越しなのに、目の前にいるかのようなプレッシャーを叩き付けられ、変な方向から改めて二人の凄まじさを思い知る。

 

『全く、侑理が無事だったから良いものを……あ』

「真那、琴里……」

 

 しかし次に発された、それも意図せず同じ事を言った様子の二人の言葉に、侑理は心がじーんとなる。

 そう。二人が怒っていたのは、何も連絡を疎かにした事、その結果折紙と遭遇出来たにも関わらず見失ってしまったという失態に対してのみではなく、侑理の身を案じてくれたからでもあったのだ。

 

「…ほんとごめん。うち、また戦えるようになって、前より強くなって…それでちょっと、気が大きくなってたのかも。前はちゃんと、もっと早い段階で連絡を入れるようにしてたのに…」

「…まぁ、状況が状況でいやがりますし、連絡を忘れちまう心境は理解してるつもりです。それよりも、侑理が反省してるってんなら……」

「えぇ、今はここからの事を考えるべきね。…侑理。折紙が十香達を狙ってるっていうのは本当?」

 

 意識を切り替えた真那と琴里、そこからの問いに侑理は肯定を返す。先のハモりといい、今の以心伝心な様子といい、士道の妹同士なだけあって相性バッチリ感のある二人に侑理は悔しさを覚えずにはいられなかった…が、本当に今は余計な事を考えている場合ではない。侑理自身もそう意識を切り替え、話しながらも折紙を探す。

 

「だとしたら、不味い…けど、ある意味分かり易くていいわね。十香達を〈フラクシナス〉に避難させるわ、皆の場所は分かる?」

「あ…まじーです!ひょっとするとまだ、四糸乃さんと七罪さんは外出から戻ってねーかもしれません!」

「二人で出掛けてるって事?あの二人が自発的に、っていうのは良い事だけど、タイミングが悪いわね…。もし十香達がまだ学校にいるなら、流石に折紙も手出しはしてこないでしょうし、まずは二人から……」

 

 相手の狙いが分かっているなら、そちらに目を向ければいい。ある意味単純で、しかし焦っていたが為に失念していたその観点に、侑理ははっとする。そして精霊として防御には長けていても、荒事にはとても向いていないであろう性格の四糸乃と、直接戦闘よりそれ以外の面で強力であろう天使を有する七罪を優先して回収しようとする琴里の判断は、誰もが納得するものであり……されどその瞬間、天宮市に警報の音が響き渡る。

 

「空間震警報……!?周囲の霊波反応は?」

 

 驚きはすれども、即座に状況への対応を始める琴里。通信機からのやり取りに耳を傾けつつ、侑理も空間震に備えて身構える。

…が、〈フラクシナス〉のブリッジから聞こえてきたのは、目立った反応はないという事と、ならば誤報かという返し。しかしそれに、ブリッジにいる令音が疑念を投げ掛ける。二ヶ月前…士道がDEMの日本支社に侵入を試みた際にも、同様に空間震警報が鳴っていたと。その発言を受け、琴里が誤報ではなく、意図的に鳴らしたもの…人払いをする為に、DEMや陸上自衛隊の上層部が発したものではないかという推測を立てる。…あれは〈ナイトメア〉…狂三が空間震と共に現れた事で発令された警報ではなく、彼女と士道の侵入そのものに対して鳴らされていたものだったのか、と驚く侑理だったが、それは今関係のない事。

 

「不味い…本当に不味いよ!この状況で人払いの為の警報なんて、そんなの……」

 

 折紙が精霊の内の誰かを捕捉した以外に考えられない。…その予想は、当たってしまう。ブリッジから、五河宅のすぐ近くに折紙と十香、八舞姉妹に美九の姿がある事、更に折紙が攻撃を開始したという声が耳に届く。

 

「一足遅かった…!十香達の方は私達が向かうわ!真那と侑理は……」

「四糸乃さん達の保護でいやがりますね!」

「気を付けて!今の折紙さんは…強い……!」

 

 言われるまでもないと、侑理は急旋回。昼食を食べたもんじゃ屋の方へと向き直り飛ぶ。勿論まだもんじゃ屋にいるとは思えないし、そもそも空間震警報が出た以上、近くのシェルターに避難している可能性が高い…が、避難してくれているならそれで良し。仮に逃げ遅れていたとしても、避難によって街から人の姿が消えつつある今、探す難易度は下がっている。

 捜索の為侑理と真那が勢い良く飛ぶ中、〈フラクシナス〉も動き出す。琴里の指示と、それに応じるクルーの声が通信機から次々と聞こえ……

 

『な……ッ!?』

 

 次の瞬間、侑理と真那は揃って愕然とした。聞こえてきた真那の声は、侑理が発したものと全く同じであった。

 侑理達を愕然とさせたもの。それは、通信機越しに響いた激しい衝撃音。まるで何かに激突したような…或いは高威力の攻撃を受けたような音に、思わず急ブレーキを掛け…続けて聞こえた幾つかの声、その内の『敵影』と『空中艦』という言葉に、何が起きたのかを理解する。

 

(DEMからの攻撃…〈フラクシナス〉が折紙さんの行動を妨害すると読んで、伏兵として展開していたって事?…それともまさか、折紙さんは陽動で、〈フラクシナス〉が本当の目標…?)

 

 理由はどうあれ、今は完全にしてやられた状況。自分にどうこう出来る事ではないとはいえ、それでも侑理は歯噛みをする。

 〈フラクシナス〉にしろDEMの空中艦にしろ、非戦闘時は基本不可視迷彩(インビジブル)を展開しており、周囲の風景に随意領域(テリトリー)を用いて溶け込む性質上、静止している状態であればまあまず発見する事は出来ない。だが逆に言えば、多少なりとも動いていれば機能が落ちる…移動しているが故に変わり続ける風景に対し、反映能力が追い付かなくなるという欠点を持つ。それでも普通は発見など困難な訳だが、空中艦の存在を見越し、同じく空中艦という巨大な装置で監視と観測をしていたのなら、補足するのは不可能ではない。

 

「…前言撤回よ。二人共、十香達の援護に行って頂戴」

「え?いや、でも…うちと真那のどっちかは、そっちに行った方が……」

「ラタトスクは精霊の為の組織なの。貴女達の装備がうちの物である以上、その使い方もラタトスクの理念に準じるべきよ」

 

 若干婉曲的に申し出た援護を、琴里はきっぱりと断る。その迷いのない口振りに、侑理はすぐには言葉を返せず…一拍の間を置いて、琴里は続ける。

 

「大丈夫。そう簡単にはやられたりしないわ。確かに昨日の今日で大変なところはあるけど…〈フラクシナス〉はラタトスクの技術の粋を集めた艦で、ここにいるのは誰もが優秀なクルーだもの」

 

 今正に強襲を受けた者とは思えない程落ち着いた…艦にもクルーにも深い信頼を置いている事が分かる琴里の声。それと共に、何となくだがブリッジの面々がサムズアップをしている光景が目に浮かぶ。

 こんな風に言われてしまえば、食い下がる事など出来ない。返すべき言葉など、一つ。

 

「…分かった。でも、気を付けて!」

 

 戦闘が主目的ではなかった上、侑理達の存在もあったとはいえ、DEMの空中艦は昨日敗北し撤退したばかり。にも関わらず再び現れた以上、何かしらの策や戦力を用意していると見て間違いない。そう思うからこそ、侑理は最後に忠告の言葉を返し、一度〈フラクシナス〉との通信を切る。そうして再度動き出し…真那の声に反応する。

 

「…侑理。十香さん達の下へ向かう前に、一旦合流しやがりましょう」

「合流?…そうか、伏兵が今の空中艦だけとは限らないもんね…」

 

 侑理自身はともかく、DEM側で真那を倒し得る戦力などエレン位しか思い付かないが、足止めだけであれば別。そして今は時間が惜しいからこそ、それぞれに足止めされる事は避けなければいけない。真那が言いたいのは、そういう『急がば回れ』の考えであり、了解した侑理は合流ポイントを決めてそこへ急行。同じく猛スピードで飛んできた真那と頷き合い、今度こそ十香達の下へ向かう。

 

「…真那。もし…というかこのまま間に合って、折紙さんと対峙したら……」

「…本気の鳶一一曹…あぁいや、もう自衛官じゃねーんでしょうが…は、油断のならねー人です。その彼女が、これまでより遥かにつえー力を手にしたってなら…覚悟を、しなきゃいけねーんでしょうね」

 

 覚悟。それが意味するものは二つ。命を落とす覚悟と…命を奪う覚悟。戦場に立つ以上、その二つは常に持つべきものではあるが…漠然と、「その可能性は常にある」と思うだけなのと、明確に「ここでそうなるかもしれない」と感じるのとでは、まるで違う。

 そして真那の言う通り、覚悟はいる。先の戦闘は、お互い余力を残していたからこそこれといって怪我をする事も負わせる事もなかったが…次は恐らく、そうはいかない。……だからこそ。

 

「うち等で止めよう。うちだけなら、真那一人なら、そうなるのかもしれないけど…二人なら、きっとそうはならないから」

「…ですね。私達で、やってやろうじゃねーですか」

 

 一対一でそうなるのなら、二人で戦えば良い。それは単純にして、最大の方法。ASTも重んじていた、連携の力。

 その思いを確かめ合い、十香達のいる五河宅付近へ。到着はもう間も無く、即座に戦闘となる事も十分に考えられる。その想定で、〈オルムスファング〉は長距離の単射仕様へと設定を切り替え……その直後、凄まじい斬撃が住宅街を駆け抜ける。

 

「……!これ、って……」

「──ッ!侑理!」

 

 濃密な霊力を帯びた、複数の民家を紙細工か何かのように両断し進む斬撃。それに侑理が気を取られる中、真那は声を上げ…反射的に見やった先、そこにいたのは二つの人影。猛烈な勢いで地上から空に飛び、魔力と霊力の激突を繰り返しながら空の彼方へと消えていく、二人の姿。

 ぶつかり合う戦士の一方はやはり、DEMのCR-ユニットを纏った折紙。そしてもう一方は、天使〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を携えた十香。だが、その装いは違う。今の彼女の身を包んでいたのは、これまでも何度か見た限定霊装…文字通り限定的な、その時着ている服と合わさったような霊装ではなく、身体の随所を覆う…それでいて関節部分を中心に動きの阻害となり得る部分や、恐らくは装甲など不要と判断された部位は防御力を最低限のものに抑えられた、彫刻の様な美しさと機能美を併せ持つ紫根の甲冑と、光を編んで形にしたかのようなスカート。これまで直接見た事はない…されど精霊〈プリンセス〉のデータとしては目にした事がある、完全完璧な状態の霊装。霊力封印が施されている今、身に纏う事は出来ない筈である本来の装い。

 

(…え?十香さん、今……)

 

 昨日とは段違いの動きで折紙と斬り結び、十香は離れていく。その最中、一瞬十香の瞳は侑理達の方を向き…僅かに、微かに、頷いた。何かを、頼むように。託すように。その意味を図りかねる侑理だったが…視線を少し落としたところで、すぐに気付く。

 

「耶倶矢さん!?夕弦さん!?」

「美九さんも…!一体何が…なんて、訊くまでもねーですね…!」

 

 元々は住宅だったのであろう無数の瓦礫が散乱する住宅街。その一角に、八舞姉妹と美九は倒れていた。

 即座に侑理は真那と降り立ち、随意領域(テリトリー)で外傷を確認。傷だらけではあるものの、幸い重傷はない事に安堵をしつつ、止血を図る。

 

「二人共…どうして、ここに……」

「〈フラクシナス〉からの情報で駆け付けたんです。無事…じゃないけど、手遅れになる前に間に合って良かった……」

「…動揺…。マスター折紙……」

(…マスター……?)

 

 応急手当てを行う中、夕弦が空を見上げながらぽつりと呟いた言葉。この時侑理はその意味が全く分からなかった…が、夕弦が折紙に対して信用や敬意…そんな感情を抱いていた事、だからこそ心が揺さ振られていた事は、声だけではっきりと伝わってきた。

 

「真那。〈フラクシナス〉…は恐らくまだ交戦中だから、別の場所に運ぼう。えっと……」

「今日訓練に使った施設がいいんじゃねーでしょうか。勿論あそこに十分な医療設備があるかどうかは分からねーですが、ないならないである場所を訊けばいいだけです」

 

 確かにそれもそうだ、と侑理は首肯。取り敢えず止血をしたとはいえ、通常の顕現装置(リアライザ)で本格的な治療は出来ない。そして重傷こそないものの、三人の怪我の具合は早く治療するべきレベル。のんびり考えている場合ではない。

 

「じゃあ、耶倶矢さんと夕弦さんは私が。美九さんは侑理に任せちまってもいいですか?」

「あ、ちょっ…運んでくれなくたって、自分で……」

「怪我人は黙って運ばれるもんです。…それにまだ、安全とは限りません。道中に奇襲された場合の事を考えて、今は残ってる体力の温存に努めてくれねーですか?」

「…了承。真那の言葉は、一理あります」

 

 言うが早いか、真那は八舞姉妹を随意領域(テリトリー)でふわりと浮かせる。真那は勿論、侑理も三人程度纏めて運べるのは訳ないが、もしまだ伏兵がいる場合、怪我人を運ぶ最中という絶好のチャンスを狙ってこない筈がない。それを踏まえて、侑理達は二人で運ぶ事にする。……因みに美九はというと、自分の名前が出た時点で侑理へ向けて両手を広げていた。さぁ抱っこして、抱き抱えてと言わんばかりの様子だった。…侑理は真那と同じく、随意領域(テリトリー)で抱える事にした。

 

「あ〜ん、侑理さんの意地悪〜!」

「いや、抱えると武器が使えなくなって、襲撃された時に瞬時の反撃が出来なくなるので……」

「…でもこの、全身をぴったりと触られてるような感覚は、悪くないかもです〜!あぁっ、侑理さんが私のあーんなところからこーんなところまで熱心に触れてると思うと、とっても心が……」

「抱っこしますっ!抱き抱えますから変な表現はしないでぇええええぇぇっ!!」

「…ねぇ夕弦。美九もかなりダメージ受けてた筈だよね…?」

「唖然。彼女は論理の外にいるとしか思えません…」

 

 前代未聞のセクハラ(?)を経て、結局美九を抱えた侑理は飛翔。真那達三人からの同情的な視線が、ひしひしと肌に感じられた。

 

「…侑理さん」

「…なんですか。もっと密着してとか言ったら、流石に怒りますよ…?」

「あはは、流石にそこまでは言わないですよぉ〜。…私は〈破軍歌姫(ガブリエル)〉の力で、ダメージを誤魔化す事が出来ます。だから私の事よりも、十香さんの事を……」

 

 一体何を言い出すつもりかと思えば、美九が口にしたのは十香の身を案じる言葉。気付けばいつの間にか、浮かべているのも真剣な顔。それに侑理は少しだけ驚き…首を、横に振る。

 

「嫌です。回復出来るならまだしも、誤魔化せるなんて、要は無理をすればって事じゃないですか。…うちには無理して無理して、自分の命を対価にしてまで無茶し続けた、大切な仲間がいました。うちはそれを止められませんでした。だから…そういう無理は、例え命の危険がないとしても、してほしくないんです」

「…侑理……」

 

 それとこれとはまるで違う。そんな事は分かっている。分かった上で、やっぱり無理はしてほしくなくて、侑理は言った。真那の方は見なかった。見たらきっと、お互い切なく、苦しくなる…そんな気が、していたから。

 

「それに、十香さんならきっと大丈夫です。理由は分かりませんけど…あの姿、精霊としての完全な状態…でしたよね?」

「動きも音に聞く〈プリンセス〉そのものでいやがりましたしね。しかし、何故霊力が元に戻って……」

「不明。それは夕弦達も知りたいです」

「もし私達も本来の力が出せたら、こんな情けない事にはならなかったのに…悔しいな……」

「そんな事ないですよぉ、耶倶矢さん。耶倶矢さんも夕弦さんも、とーっても格好良かったんですから。ほんとにもう、格好良くて、でも可愛らしくて、思わず頬擦りしたくなるって言うかぁ……」

 

 状態が状態だからか完全に普通の喋り方になっている耶倶矢と、止血したとはいえまだ痛む筈の身体をやたら滑らかにくねらせる美九と、なんだかんだ平常運転が一切崩れていない気がする夕弦。三人共本当に大丈夫そうだと侑理は改めて安心し、それから恐らく今も戦っているであろう十香へと思いを馳せる。

 間違いなく、先程見た十香の力は、AAAクラスの精霊、〈プリンセス〉のそれだった。そして彼女は、天候への干渉や自然災害を思わせる力を有している訳でもなければ、魔法の様な…魔術師(ウィザード)のそれではない、ファンタジー作品に出てくるような多彩にして変幻自在な特殊能力を持っている訳でもない。にも関わらず、AAAという高ランクに位置している。即ち、特異な力があるだとか、空間震の規模が凄いとかではなく…ただただ純粋に『強い』というのが、本来の〈プリンセス〉──夜刀神十香という精霊なのである。

 

(それにあれは、うち等に三人の事を任せる…って目だった。だったら、それに応えなきゃいけない。十香さんは、うち等を信じてくれたんだから)

 

 あの時の瞳から、首肯から感じた、自分への信頼。純粋で、真っ直ぐな思い。それに侑理は、応えたかった。仲間として、友として、応えなければならないと感じた。そして恐らく、真那も同じように感じたからこそ、三人を優先する事にした。

 そうして侑理達は、地下施設の上空へと到達。真那と頷き合い、出来る限り随意領域(テリトリー)を広げる事で周囲を確認。探知出来る異常や不審な存在は何もない事を確認した上で、急降下し地下施設の中へ。

 

「皆さん、うち等は行きます。まだ何があるか分かりませんので、お気を付けて」

「侑理の言う通りでいやがります。もしもの時、少しでも動けるように……」

「分かってますよ〜。…ちゃんと自分の身は、自分で守ります」

「万が一の際は、我等に任せよ。助けられるばかりの我等ではない事を、見せてやろうぞ」

「同意。お二人もお気を付けて」

((あ、口調が戻ってる……))

 

 三人の言葉に頷き、すぐに真那と施設を出る。上空へと一気に昇り、ぐるりと見回す。

 

「さて侑理。私達は二人、今求められている事は十香さんの援護と、四糸乃さん達の捜索と、〈フラクシナス〉の支援の三つ。どうしやがりますか?」

「多分琴里は、自分達の事は考えなくて良いって言うだろうけど…今危険に瀕してるのはって言ったら、十香さんと〈フラクシナス〉だよね。四糸乃達はもう避難してる可能性もあるし」

「同感でいやがります。となると後は、どっちがどっちに向かうかでいやがりますが……」

「うちは中距離以上の射撃戦、真那は近・中距離の高機動戦が本領だって事を考えれば、うちが〈フラクシナス〉で、真那が十香さん…かな。真那はどう思う?」

「異論はねーです。…まあ、侑理が琴里さんに文句言われても構わなねーならですけども」

「それならそれで良いよ。文句言える位余裕があるなら、そっちの方が…ね」

 

 大した事はない、と侑理は肩を竦めてみせる。今回〈フラクシナス〉を襲った艦がどういうものかは分からないが、昨日と同じような対艦戦を繰り広げているなら、接近する必要のある真那は〈フラクシナス〉の砲撃の邪魔になってしまう可能性が高い。逆に十香と組む事を考えた場合、侑理も自信がない訳ではないものの、七罪を救出する際、共に前衛を担い連携をした真那の方が恐らく経験値の分上手くやれる。あくまで限られた情報での判断ではあるが、情報が限られているからこそ、分かる範囲でのベストを選択するのが吉。

 

「…侑理。琴里さんや令音さん、〈フラクシナス〉の皆さんを頼みます」

「うん。真那も、十香さんをお願い」

 

 人数によってやる気が変わる訳ではない…が、空中艦である〈フラクシナス〉には、多くの人が乗っている。そして不時着程度で済むならまだしも、もしも空中艦で撃墜されるような事があれば、全滅すらも十分にあり得る。自分の戦い次第で、そんな乗組員達全員の命を左右するかもしれないと思うと、肩に掛かるプレッシャーは重く…それでも考えてみれば、昨日の人工衛星を用いた魔力爆弾よりは遥かに危機に瀕した人数は少ない。そう思うと、少しだけ気が軽くなった。……冷静に考えるとやっぱり人数の問題ではないというか、〈フラクシナス〉だけでもやはり重い気もしそうだった為、それ以上は考えない事にした。

 そうして侑理は真那と別れ、〈フラクシナス〉へ急行しようとする。だが……。

 

『──え?』

 

 今正に動こうとしていた時、その時不意に空の一角が輝いた。閃光が放たれた。だが、反射的にそちらへと目をやっても、視界には何も映らない。そこにあるのは、大空だけ。

 だからこそ、侑理は戦慄する。今の閃光は、魔力によるものに見えた。にも関わらず、視界に何も映らないという事はつまり…随意領域(テリトリー)で強化された視力であっても認識出来ない程の遠くで、それ程の距離でありながら閃光が届く程の、凄まじい何かが起きたという事。そして、今この状況で思い当たる事など…一つしかなかった。

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