デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第七十五話 新たな住まい

 互いに、相手の事を知っているようで知らなかった。知らぬまま敵対し、互いに譲る事が出来ず…最後は殺し合った。そんな折紙との話は、お互いもっと相手を知るという形に行き着いた、無知が戦いの引き金になった訳ではない。よく知る間柄だったとしても、似たような事は起きたのだろう。それでも、そんな過去を経ての今だからこそ、前へ進む為に知る…それは必要な事だと、侑理は思った。

 そんな折紙との、腹を割った話し合いの翌日。侑理が〈ラタトスク〉の所有する地下施設にある、仮の部屋で真那と共に過ごしていると、そこに琴里がやってきた。

 

「ハイ、真那に侑理」

「あ、琴里。いきなりどしたの?」

「ちょっと二人に話があってね」

「…何かありやがったんですか?」

 

 精霊が静粛現界で現れたのか、それともDEMに何か動きがあったのか。侑理が幾つか可能性を考える中、同様に考えたらしい真那が表情を引き締めながら琴里へ問い…しかしそうではないと、琴里は軽い調子で否定する。その反応に、侑理は真那と顔を見合わせる。

 

「そう身構えないで頂戴。話っていうのは、もっとプライベートな事よ」

「それって…もしかして、第一回士道にぃの妹談義開催の提案!?」

「違うわよ、っていうか何よそれ…」

「…あっ、語呂良く妹ークとかの方が良かった?」

「だから違うって言ってるじゃない、名称なんて気にしてないわよ。というか、貴女は妹じゃないでしょうが」

「ふふん、ところがどっこい士道にぃはうちの公式お兄ちゃんになる事を了承してくれたんだよね!」

『はい!?』

 

 胸を張って侑理が言えば、真那と琴里は同時に驚く。どうやら士道は、この話を口外していないらしい。…まあ、わざわざ誰かに話すような事でもないのだが。

 

「な、何を考えてるのよ士道は…!…はっ、まさかあの日二人きりになった時に何か……」

「私や琴里さんという妹がありながら、侑理までとは…!私達だけじゃ足りねーとでも言うんですか、兄様は……!」

(…士道にぃ、本当に好かれてるなー)

 

 がっつりブラコンな二人の姿を見て、侑理は内心でにまにまとする。しかし別に、今は二人にこの件を誇示したかった訳ではない。だから侑理はこほんと一つ咳払いをし、改めて琴里へと問う。

 

「それで、実際には何なの?」

「あ…そ、そうだったわね。…真那、侑理。唐突だけど…二人共、十香達のマンションに引っ越す気はない?」

『へ?』

 

 気を取り直した様子の、琴里からの投げ掛け。引っ越しの提案。全く予想していなかったその言葉を受けて、隣の真那は目を丸くする。というか恐らく、侑理の目も丸くなっている。

 

「えぇと…そりゃまた、どうして急に……」

「だってほら、今は〈フラクシナス〉が使えなくて、立ち入りも制限されてる状況でしょ?だから一時的に、二人にはここの部屋を使ってもらってるけど、こういう機会だし、いっその事ちゃんとした住まいに移るのはどうか…って考えたのよ。まあ、住まいに関しては厳密にはここ数日でぱっと思い付いた訳じゃなくて、少し前から考えてたんだけどね」

 

 そういう事か、と侑理は聞いて納得する。確かにこれまで使わせてもらっていた部屋が使用不能となった今は、引っ越しを考える上では絶好のタイミングであると言える。

 加えて、〈フラクシナス〉で普段から寝泊まりしているのは、基本的には令音達の様な機関員であり、一方で侑理達はそうではない…というのも関係しているのかもしれない。

 

「で、どう?流石に事が事だから即決しろとは言わないけど、現時点の気持ちとしてはどんな感じ?」

「うーん…どうかって言われたら、まあ…うちとしては構わないかな。真那は?」

「私も引っ越ししてほしいってなら、構わねーですよ。元から私達は、住まわせてもらってる身でいやがりますからね」

 

 肩を竦めた真那の言葉に、こくんと頷く。琴里…というか〈ラタトスク〉に魔術師(ウィザード)として協力しているとはいえ、色々と世話になっているのが現状。その魔術師(ウィザード)としても、CR-ユニットは〈ラタトスク〉から提供してもらっている以上、完全におんぶに抱っこなのである。

 

「そう?言っておくけど、世話になってて申し訳ない…なんて、思う必要ないんだからね?七罪の時も折紙の時も、二人は色々と協力してくれた訳だし、美九の時なんて真那がいなかったら私達も士道も皆終わりだっただろうし、こっちだってかなり二人には世話になってるのよ?」

「気にしなくていい、って言われても、こういうのは気にしちゃうものなんだよねぇ。ただ、それ抜きにしても別に引っ越しは嫌じゃないよ?生活する地域が変わる訳じゃないし、そもそも今住んでる場所もまだ数ヶ月程度で、そこまで名残惜しいとも思わないし」

「というかむしろ、『場所』としてはありがてー位ですね。あのマンションなら、これまでより気軽に兄様に会いに行けるってもんですし」

「あ、そっか。言われてみれば、それがあるじゃん!」

「それはまあ、そうね。…じゃあ、引っ越す…って事でいい?」

 

 もう一度、今度は琴里へ向けて首肯する。そうして話は決まり、琴里は侑理達を見て苦笑していた。恐らく、どちらも思いきりがいい…辺りの事を思っているのだろう。

 

「じゃ、早速明日から引越しの準備を進める、で大丈夫?」

「それも構わねーですけど、またはえーですね…マンションの方も〈ラタトスク〉管理下とはいえ、手続きとか色々大変なんじゃねーんですか?」

「その辺りはもう、スムーズに進められるようにマニュアル化されてるのよ。住まいのケアも、精霊へのサポートの一環でもう何度もやってる事だし」

 

 言われてみればそれもそうか、とこれまた侑理は納得する。明日となれば、今日の内からやれる事を…と思ったが、考えてみれば今使っている部屋に私物は最低限の物しかない。

 となれば、必要な作業は殆ど〈フラクシナス〉で使っていた部屋から、荷物を移動させる事のみ。随分と楽な引っ越しになりそうである。

 

「……あっ。念の為訊くけど、真那とは隣同士或いは二人部屋だよね?」

「…違うって言ったら?」

「多分だけど、割と本当に落ち込む」

「そ、そう…別に部屋ならまだ沢山空いてるし、隣同士の部屋を選んでくれればいいわ…」

「目がマジじゃねーですか、侑理……」

「それはそうだよ、死活問題みたいなものだもん!むしろ真那は、隣同士じゃなくてもいいの!?」

 

 ここまで引っ越しについて不満を唱える事のなかった侑理だが、この一点だけは譲れない。しかし真那はそうでもないらしく、けろっとした様子で言う。

 

「いや、別に?同じマンションなら大して距離がある訳じゃねーでしょうし、そもそも〈フラクシナス〉でもDEMの寮でも、いっつも侑理は私の部屋に来ていたじゃねーですか。それとも侑理は、距離が離れたら私の部屋に来る頻度が落ちるんで?」

「まさか。隣の県位なら毎日余裕で行くけど?」

「…侑理って、ほんと貴女が絡むと際限なくヤバくなるわね……」

「はは……」

 

 全く何を言い出すかと思えば、とばかりに侑理が返すと、琴里は表情を引き攣らせ、真那も乾いた笑いを漏らす。変な反応をされてしまったが、侑理は自らの気持ち、大切な思いに正直なだけ。だから恥じる必要などきっとないのだ。

 ともかくそんなこんなで、侑理と真那の引っ越しは決まった。そして翌日、侑理達は大規模作業中の〈フラクシナス〉へ入らせてもらい、決して多くはない私物を回収し、新たな住居となる精霊マンションへと向かうのだった。

 

 

 

 

 マンションへ到着してから約一時間。大して長くもないその時間で、引っ越しは完了した。当事者である侑理達自身が苦笑してしまう程の、スピード引っ越しである。

 

「んーっ、終わったぁ…!…って言いたいところだけど……」

「そういう気持ちになる程の疲労を、いまいちしてねーですね……」

 

 まるで達成感のない完了。それが欲しかった訳ではないが、何とも微妙な気持ちになる。

 とはいえ、この結果は当然と言えば当然の事。元々荷物が少なかった上、荷物の搬入も随意領域(テリトリー)を使った事で楽々進んだのだから、むしろ苦労する訳がないのだ。

 そして、それにもう一つ。大きい荷物だけでなく、細かい作業も手早く済んだ理由があった。

 

「お疲れ様……です。真那さん、侑理さん」

「な、何か置き方が間違ってるとか、位置が気に食わないとかない?…あったらその、直します…直して私もここから消えます……」

 

 にこり、と柔らかな表情を見せてくれる四糸乃と、不安そうな顔から流れるようにネガティヴ発言を口にした七罪。引っ越しがスムーズに進んだもう一つの理由。それは、この二人が手伝いを申し出てくれたからである。

 

「四糸乃と七罪もお疲れ様。ありがとね、わざわざ手伝ってくれて」

「問題ねーですよ。位置はともかく、置き方なんて私もそんなに気にしてねーですから」

 

 精霊であり、友達であり、このマンションの先住民でもある二人は、侑理達が引っ越しをしている事を知るとすぐに手伝いに来てくれた。仕事の丁寧な四糸乃と、細かいところにまで意識の向く七罪は、引っ越しに大きな交換をしてくれたのだ。

 

「…けど、そっか…これからは士道にぃだけじゃなくて、四糸乃や七罪達にもこれまでより会い易くなるんだよね」

「そ、そうですね。…その…嬉しい、です」

「うんうん。日中七罪ちゃんと二人っきりの時間を過ごすのも良いけど、遊ぶならやっぱり大勢の方がいいよねぇ。この前の大富豪なんて、お互い手札が大量にあるからただ順番にカードを出すだけのゲームになっちゃってたしさー」

「二人でトランプは、確かに途中から空虚になりそうですね…。…っと、私とした事がお礼もまだでいやがりました。大したものはねーですが、何かお菓子でも……」

「あ、それならうちは紅茶煎れるね。二人は普通の紅茶でいい?それともミルクティーの方がいい?」

 

 二人に何もしていなかった、と言って立ち上がる真那に続いて、侑理もそさくさと台所へ向かう。人にもよるだろうが、少なくとも四糸乃と七罪の場合、こういう事を言ったら遠慮してくるのはほぼ確実。だからこそこんな時は、返答を待たずにさっさと用意してしまうのが吉というもの。

 という訳で、真那は棚からクッキーの缶を出し、侑理も別の棚からティーセットを取り出す。

 

「ふふ、今から淹れるのはうちのとっておきだよ?楽しみにしててね」

「とっておきって…ここ、真那の部屋よね…?なんで真那の部屋に侑理のとってときの茶葉があるの……?」

「だって、真那の部屋は実質うちの部屋でもあるようなものだからね。真那と一緒に飲むなら、こっちにも置いてあった方が良いでしょ?」

「…って言ってるけど…?」

「勝手に言いやがってるだけです…。…まあ、構わねーんですけども…」

 

 これこそが効率的、と侑理は胸を張る。四糸乃は頬を掻き、七罪は半眼でこちらを見ていたが…もう、こういう反応も慣れっこというもの。だから侑理はスルーしようとし…しかしそこで、四糸乃が言う。

 

「あの……お二人は、一緒の部屋じゃなくて良かったんですか…?」

「──え?…あるの…?」

「え、あ、はい。あるというか、耶倶矢さんと夕弦さんは、一緒の部屋で生活してる…ので……」

 

 寝耳に水、青天の霹靂。昨日琴里に確認を取った際には触れたものの、何も言われなかった為一人用なのだろうと考えていた、マンションの部屋。

 だが考えてみれば、このマンションの部屋には、二人でも十分過ごせる程度の広さがある。現状二人どころか四人でリビングにいても別段狭いとは感じないのだから、それに八舞姉妹という前例まであるのだから、困るような事もない筈。つまり……いける。相部屋、出来る。

 

「ま、真那…それじゃあうち達も一緒の……」

「嫌です」

「なんでッ!?」

 

 湧き上がる喜びの中、投げ掛けた声。ところが返ってきたのは、びっくりする程淡々とした否定の言葉。思わず侑理はびっくりしてしまった。びっくりする程だった為、それはもうびっくりした。

 

「なんでって…真面目な理由を訊きてーんで?」

「も、勿論だよ!言ってくれなきゃ納得出来ないよ!一体どこに嫌な理由が……」

「どこも何も、ずっと同じ部屋にいられるのは、流石に鬱陶しいからでいやがりますけど?」

「ほんとにただただ嫌なだけだった!?…うぅ……」

 

 どうしようもない徹底的拒否に、侑理は台所で崩れ落ちる。こんな事をしてたら紅茶は冷めてしまうが、たった今侑理が負ったダメージとショックは大きい。今は紅茶どころではない。

 

「そんな…こんな真正面から真那に拒絶されるなんて……」

「…いや、うん…これを機に、もうちょっと落ち着いた言動を見せればいいんじゃないの…?」

「真那が側にいる時に、落ち着いてなんかいられないよ…!だって真那なんだよ…!?超絶究極至高の美少女、崇宮真那なんだよ…!?」

「なんだよ、って言われても…。…そういうのが、鬱陶しいんじゃない…?」

「はぐぅ……っ!」

「わーぉ、七罪ちゃん容赦ないねぇ」

「えっと……げ、元気出して下さい、侑理さん…」

 

 言い返しようのない七罪の言の葉に、侑理の心は撃沈。四糸乃は励ましてくれたが…なんというか、その口振りは碌に掛ける言葉が見つからないという感じであった。

 と、そこで何を思ったのか、真那が側にやってくる。気付いた侑理が顔を上げると、真那は呆れたような表情を見せつつ、侑理の肩に手を置き……言った。

 

「全く…何を些細な事に拘っていやがるんですか、侑理は。──私と侑理の友情に、距離なんて関係ない。そうでいやがりましょう?」

「……!ま、真那……」

 

 優しく穏やかな声と面持ち。その言葉が、侑理の心に染み渡る。それと共に、自らの浅はかさを痛感する。

 そうだ、その通りだ。自身と真那との絆に、距離などは関係ない。イギリスと日本という遥かに離れた場所にいても、自分達の繋がりは消えていなかったのだから、それを思えば相部屋か否かなど大したどころか全く問題ではないというもの。そして、それを言ってくれたのは真那。言ったのだから、そう思っているに違いない。きっと、間違いない。

 

「ごめん、真那…うちが間違ってた、真那の言う通りだよ…!」

「ふっ、侑理なら分かってくれると思ってやがりましたよ」

 

 立ち上がり、真那の手をぎゅっと握る。真那はそれに、ゆっくりと頷く。…何やら七罪の方から「ちょろくない…?」とか何とか聞こえてきたが、恐らく侑理には関係のない事だろう。

 

「っと、そうだ。紅茶を淹れてる途中だったんだ…遅くなってごめんね、二人共。さ、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。…良い匂い……」

「うん、なんかこうふわっと広がる感じが良いっていうか……」

「でしょ?香りから楽しむのが紅茶だからね」

 

 ポットからカップに注ぎ、ソーサーと共に二人へ差し出す。偉そうに言ってはみたものの、侑理とて別に紅茶を淹れるのが上手い訳ではない…が、香りを楽しんだ後に一口飲んだ四糸乃と七罪は、ほぅ…と一つ吐息を漏らす。その吐息には、しみじみとした響きがあり…どうやら満足してくれたような二人の反応に、侑理は内心でほっとする。

 

「クッキーも食べやがって下さい。侑理が紅茶と合わせて選んでいたものでいやがりますから、きっと合う筈です」

「へぇ…あ、ほんとだ。紅茶と交互に食べると、凄く味に深みを感じられる……かも」

「私もそう、思います…。…あれ、でも…それじゃあこのクッキーは、侑理さんのもの…なんですか…?」

「いやいや、勧めてきたのは侑理でも、買ったのは私です。流石に人のクッキーを勝手に出したりはしねーです」

「…でも、侑理のお勧めはちゃんと聞いて買うのね」

「それは……まあ、そうなっちまいますね…」

「ふふっ…やっぱりお二人は、仲良しなんですね」

「ふふん、もっちろん!」

 

 当然だと答えると共に、侑理は真那の腕へと自身への腕を絡ませる。すると真那は驚き、若干顔を赤くする…が、振り解きはしない。呆れ気味の表情を見せつつも、なんだかんだで受け入れてくれるのが真那。そんな真那の隣に立てる事が、侑理は嬉しいのであり…見ていた四糸乃と七罪は、顔を見合わせた後に微笑む。

 そうしてそのまま、侑理は三人とティータイムに突入。手早く引っ越しが済んだおかげで、のんびりとする時間はあった。四糸乃にしても七罪にしても、他愛ない話をするのは初めてではない。それこそこの四人で、昼食を取った事もある。しかし新居で、ティータイムと共にというのは、また違った趣が、ある種の新鮮さがあり…後から思えば特筆する点のない、しかし楽しい雑談は、紅茶が完全に冷め切ってしまっても尚続いたのだった。

 

 

 

 

 日が暮れ、もう冬が近いのだと感じさせる肌寒さを覚える夜。侑理は部屋の中を、集まった面々をぐるりと見回し…こほんと一つ咳払い。

 

「えー、改めまして、本日よりこのマンションでお世話になる、侑理・フォグウィステリアです。こっちはうちの相棒にして最高の親友で有名な崇宮真那です」

「どこでそんな話が有名になったのかは知らねーですが…えぇと、宜しくしやがって下さい」

『おー!』

 

 ぱちぱちぱち、と簡易的な自己紹介に送られる拍手。どうもどうも、と侑理は軽く頭を下げ、話を続ける。

 

「皆とはもう雑談したり、一緒に戦った仲ではあるけど、改めて宜しくしてほしいなと思って、皆に集まってもらいました。そして、日本には引っ越し蕎麦という風習があります。という事で…皆、蕎麦を召し上がれ!」

「うむっ!頂くぞ!」

 

 じゃん!と手を広げて蕎麦を披露する…ようなジェスチャーをする侑理。実際にはもうそれぞれが座る席に蕎麦の丼を配っている為、今更もいいところなのだが…こういう時、侑理は形を大事にしたいタイプなのだ。

 そして、召し上がれという言葉を待っていたとばかりに、集まった面々の一人…十香が手を合わせて箸を持つ。そこから豪快に蕎麦を啜り…ぱっと表情を明るくさせた。

 

「美味いぞ、侑理!真那!」

「それは良かったです。さ、皆も食べて食べて」

「まあ、蕎麦は茹でただけ、汁も天ぷらも市販のものっていう、何も手の込んでねー温蕎麦でいやがりますけどね」

「そう卑下する事はない。美味であれば良いのだぞ、二人共」

「同意。それに簡単であっても、作ってくれたのなら感謝するのは当然の事です」

 

 気にしなくていいと言って、耶倶矢と夕弦も食べ始める。あの後一旦別れた四糸乃や七罪も口に付け、各々美味しいと言ってくれる。

 ここは、精霊マンション一階にある厨房…と繋がった、食堂の様な部屋。集まっているのは、ここで日々寝泊まりをしている精霊達。即ち侑理と真那からすれば、これから同じ屋根の下で過ごす仲間であり…そんな皆と食事を共にしたい。その思いもあった上での、引っ越し蕎麦なのだ。

 

「…ん、確かにただ茹でただけなのに、結構美味しいかも。やっぱり日本って、食材がどれも良いよね」

「あー、それはありやがりますね。…ところで十香さん、その蕎麦の上に乗っている大量の天ぷらは……」

「む、取り過ぎだったか?…だが、どれか一つだけを選ぶ事など、出来なかったのだ……」

「いやぁ、十香ちゃんは本当に食べるのが好きだねぇ〜」

「や、それにしたってもうトッピングし過ぎて、某大盛りラーメン店みたいになってるじゃない…」

 

 申し訳なさそうにする十香の器に乗っているのは、山の様なトッピングの数々。好みも食べる量も分からなかった為、侑理達は様々な天ぷらを多めに買っておいたのだが…その大部分は、十香の蕎麦のトッピングへと取り込まれていった。

 

「…まあ、それはともかく…隣に家のある琴里とか、同じく自分のマンションがある折紙さんだけじゃなく、美九さんもここには住んでなかったんだね」

「うん?侑理は知らなかったんで?」

「いやまあ、よく考えてみれば皆に初めて自己紹介した時も、美九さんだけはここに入っていかなかったような気もするけど、その時は皆がここに住んでるって事の方が衝撃的で、あんまり意識に残ってなかったっていうか……」

 

 視界に映っていても、意識を向けていなければあまり頭に残らないというのは、理解は出来ても不思議なもの。

 因みに美九も、自分の家があるのだとか。当たり前ではあるが、人間社会で普通に生活している(していた)精霊は、住居があってもおかしくない…どころか、むしろなければおかしいのだ。

 

「やっぱり、住み慣れたところから離れるのは……寂しい、ですもんね」

「…けどまあ、私達にとっても助かる事じゃない?」

「追従。朝も夜も、更には寝ている間も日々美九がいると思うと、貞操の危機を感じざるを得ません」

『あー……』

 

 まあまあ酷い言いようの夕弦だが、侑理含め全員が同意の声を漏らす。恐らく全員、美九の事が嫌いな訳ではない。あのスタイルは羨ましいと思うし、戦闘時における彼女のサポートは非常に心強い。だが、それはそれ、これはこれ…という事なのだ。

 そして、全員が同じような反応をした事で、思わず侑理は吹き出す。こういうものは波及するもので、一人、また一人と笑ってしまう。

 

「しかし、折角の歓迎なのだから、やはりシドー達も呼んだ方が良かったのではないか?隣に住んでいるのだから、呼べばすぐにでも……」

「いや、少なくとも引っ越し蕎麦は同じマンションに住んでる私達に向けて作ってくれたものなんだから、ここに士道がいたら変でしょ…。…あ、でも、隣の家に住んでるって意味じゃ、変じゃない…のかも…?」

「疑問。マンションの場合も、近隣の家に蕎麦を贈るものなのでしょうか?」

「えっ?そ、それは…えっと、どうなんでしょう…?」

「わ、私に訊く…!?私だって、そういう事は全然知らないっていうか……」

 

 こういう場合、引っ越し蕎麦はどこまで贈るのか。浮かんだ疑問に皆が首を捻るも、精霊たる十香達が日本の風習…それも引っ越しという滅多にない出来事への細かな知識がある訳もなく、それはイギリスから日本に来た侑理や真那も同じ事。結局この疑問への答えは出ず、携帯で調べてみてもはっきりした答えは得られず…結果残ったのは、微妙な雰囲気。

 

「…ま、まあうん!正直そこはよく分からないけど、取り敢えず今回は皆と食べたいと思ったって事で!」

「そ、そうでいやがりますね。…実際、四糸乃さんや七罪さんとは先日も一緒に食事をしやがりましたが、十香さん達とゆっくり食事をするのはこれまでなかったような気がしやがりますので、偶にはこういうのも良いかな…と思います」

「そうか…そういう事なら、私は構わないぞ!食事を共にする、それが仲良くなる秘訣なのだからな!」

「おやおやー?つまり十香ちゃんは、これまで真那ちゃんや侑理ちゃんとそんなに仲良くなかったのかなー?」

「あ…そ、そういう訳ではないぞ!?い、今のはえぇと……」

『言葉の綾、で(いやがりま)すよね?』

「そ、そう!アヤだ!アヤヤだ!」

 

 わたわたと慌てる十香へ侑理と真那が助け舟を出せば、十香はぶんぶんと首を縦に振って肯定する。なんなら勢い余って、『や』を一つ付けてしまう。その姿に全員苦笑し…偶々真那と顔の合った侑理は、苦笑から更に表情が緩む。同じタイミングで、同じ言葉でフォローをした…それがなんだか心が通じ合っているからこその反応な気がして、嬉しかったのだ。…尤も、侑理と真那の心は通じ合っているに決まっているのだが。真那の相棒、大親友たる侑理は伊達ではないのだが。

 

「…ところで、この後は何かやるつもりなの?」

「うーん、この後の予定は特に考えてない…けど、折角だしうち、耶倶矢さん夕弦さんとゲームか何かで勝負してみたいかな。真那と魔術師(ウィザード)界きっての相棒を組んでるうちとしては、精霊界を代表する相棒の二人を前々から意識してたところあるし」

「ほほぅ、我等に勝負を挑むと申すか。良い度胸ではないか、侑理よ!」

「承諾。勝負というのなら、私達のコンビネーションを見せてあげます」

「…え?なんで私抜きで、勝負する流れが出来上がってやがるんですか…?」

 

 ふふん、と左右対称の立ち方で腕を組む八舞姉妹。精霊界を代表する…の部分は正直適当だが、平時でも戦闘時でも以心伝心な二人に対して、負けていられない…と侑理が思っていたのは事実。相棒たる真那は現状あまりやる気がなさそうだが…なんだかんだ言っても、勝負となれば熱くなるのが真那。だからきっと、乗ってくれないという事はないだろう。

 

「…ね、真那」

「うん?どうかしやがりましたか?」

「これから、楽しくなりそうだね」

「…えぇ、そんな気がしやがりますね」

 

 これまでも、真那と共に過ごせるのならどこであろうと楽しかった。これまでとて、精霊達との交流はあった。だがやはり、同じ場所に住んでいる…というのは違う。そして、同じ場所に住む者達と仲良くというのは、DEMの魔術師(ウィザード)だった頃を…第二執行部の一員として皆と過ごしていた頃を思い出させてくれるものであり……こういう繋がりに、人も精霊も関係ない。そんな風に思いながら、侑理は皆と共に食事を進め…それからは、ゲーム大会で大いに盛り上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

……因みにその後行った、アナログデジタルを問わないゲームの内、二人で答えを合わせる…というゲームでは、四糸乃とよしのんがぶっちぎりでトップだった。…流石にこれはズルいのではないだろうか。

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