デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第七十八話 うちも実妹も最強も

 エレンは敵。侑理自身はそれを望まないが、出来る事ならまたエレンとも共に戦いたいと願っているが、現実として今は〈ラタトスク〉の側に付いている以上、立場としては敵対せざるを得ない。エレンが、DEMが精霊を狙うというのなら、友として、仲間として、それを見過ごす事は出来ない。

 士道は守りたい存在。真那の兄であり、恩人であり、側にいたいと思える士道の為ならば、侑理は幾らでも戦える。彼を、士道の思いを守る事こそが、今の侑理にとっての譲れない道の一つ。

 だから、士道とエレンが戦っているという状況において、侑理の選択肢は士道を助ける事、そしてこの機に乗じてエレンの無力化を図る事こそが、今取るべき唯一の選択肢……の、筈だった──。

 

「ふーっ!ふぅーっ!」

 

 突発的にして爆発的な興奮で息が荒くなる中、侑理は背にエレンを庇う形で、士道へと睨みを効かせる。自分でもよく分からないが、軽く前傾姿勢を取り、両腕を前へ軽く出し、いつでも飛び掛かれるポーズで士道の事を威嚇する。

 

「な、何をやっていやがるんですか侑理!?」

「ふしゃーッ!」

「獣か何かに乗っ取られてる!?」

 

 目を白黒させながら飛び出してきた真那の存在に、一拍置いてから気付く。そしてそれと共に、自分の状況とした事にも気付き…自分で自分に仰天する。

 勿論、動物霊辺りに乗っ取られた訳でも、変な電波を受信してしまった訳ではない。一応正気である。正気の筈である。…多分。

 

「はは、驚いたな。まさか、侑理に止められちまうとは」

「ゆ、侑理…何故貴女達がここに……」

「何故なんて関係ないです!エレンさんに手を出そうだなんて、お姉さん許しませんよ!?」

『お姉さん……?』

 

 全員から向けられる、困惑の視線。確かにその通りである。なんで今お姉さんと言ってしまったのだろうか。本当に自分は正気なのか、我ながら不安になる侑理だった。

 

「と、とにかくそんな事は許さないよ士道にぃ!駄目、絶対駄目!ダメ。ゼッタイ!」

「絶対、か。侑理にそこまで言われたとなっちゃ、公式お兄ちゃんとして無下にする事は出来ないな。分かった、この場は手を引くとするよ。…俺としても、無理矢理…っていうのは好みじゃないしな」

「…公式?侑理貴方、この男と一体何が……」

「あ…そういえばそれがありやがりました…!公式お兄ちゃんなんて、一体全体兄様はどうしてそんな事に了承を……」

 

 軽く笑い、肩を竦めた士道。手を引くという言葉にほっとした侑理だったが、同時に士道の様子…その雰囲気や立ち振る舞いが、普段と明らかに違うと気付く。

 だが、それについて訊くより先に、後ろと横から問い詰められそうになる。そういう流れになりかけていたが…それを、真那の肩に手を置いた士道が止める。

 

「それよりも、どうして二人はここにいるんだ?偶然出掛けていた…って訳じゃないんだろう?」

「それは、倒れたっていう兄様がいなくなっていたから、私達で探して……」

「そっか…ごめんな、心配掛けて。それと…ありがとな、いつも俺の事を気に掛けてくれて」

「へっ?い、いやそれは、妹として当然の事で……」

「何言ってるんだよ、真那。戦場だろうとなんだろうと、真那は俺の事を心配して、力になろうとしてくれる。それを当然なんて言葉で片付けるのは、真那の思いに不誠実ってもんさ」

「…兄様……?」

 

 その何かおかしい雰囲気のまま、士道が真那へ伝える感謝。まさかこの流れからこんな事を言われるとは思っていなかった様子の真那は、士道の言葉に目を丸くする。

 とはいえここまでなら、情に厚く誠実な士道らしい言葉とも思えた。思えたのだが…そこから更に、士道は逆の手も真那の肩へと優しく置く。

 

「俺は、前からずっと思ってたんだ。こんなにも俺を思ってくれる、思い続けてくれていた真那に、もっと報いなきゃな…って」

「報いる…?」

「ああ。我ながら愚かなもんだぜ。こんなに一途な真那が、可愛い女の子がいるってのに、ただの妹として接してきただなんて」

「……っ、兄様…それは、どういう意味でいやがりますか?」

「勿論、これまで通りじゃいたくないって事さ。真那が望むなら、俺は……」

「はッ、何を言い出すかと思えば…がっかりでいやがります、兄様。可愛い女の子?これまで通りじゃいたくない?兄様が私を、妹をそんな目で見ていただなんて、残念でならねーです」

 

 ふっ…と纏う空気が豹変したかと思えば、冷たい視線を士道へと向ける真那。いつもいつでも兄を敬愛する真那らしからぬその態度に、今度は侑理がぽかんとなる。

 しかし、理解出来ない訳ではない。常々真那をブラコンだと思っていた(というか間違いなくブラコンである)侑理には分かるが、真那の気持ちはあくまで兄に対する妹としてのものであり、決して恋慕ではないのだ。少なくとも真那自身はそういう認識なのだから、そんな自分へ向けて敬愛する兄から『妹』ではない見方をされるというのは、あまりにあんまりというものだろう。

 故に、これは不味い。これでは真那も士道も、侑理が大切に思う二人が両方辛い思いをする事になる。そして、そんな事にはなってほしくないと、侑理は慌てて止めようとし……

 

「おいおい、何を言ってるんだよ真那。俺が恥じているのは、真那を妹として見ていた事じゃない。そうじゃなくて、ただの、普通の妹として見ていた事だ。だって真那は、こんなにも可愛くて、頼もしくて、これ以上ない位の──最高の、妹なんだから」

「へぁっ!?…さ、最高の……?」

「最高さ。むしろそれ以外、何があるってんだ。俺にとって最も幸せで、最も誇れる事は何かと言えば、真那が妹である事、真那の兄ちゃんである事だって断言出来る位にな」

「に、兄様…兄様は、そこまで真那の事を……」

 

 甘くも真摯な声音と表情で語る士道に、剣呑だった真那の雰囲気は完全に吹き飛ぶ。更に紡がれる士道の言葉で、真那は声を震わせる。──士道は、乗り切っていた。誤った言葉選びが招いた危機を、完璧なまでに乗り越えむしろプラスに繋げていた。

 しかも、まだ止まらない。士道の言葉は、言動は、更に真那の心を掴んでいく。

 

「け、けど…そんな言い方をしちまったら、琴里さんが……」

「真那。確かに琴里だって、大事な妹だ。けど…今俺は、真那と話しているんだ。今、俺の目の前にいる妹は、真那なんだ。だから今だけは、真那の事だけを思う…それじゃあ、駄目か?」

「…そ、そんなの…駄目じゃ、ねーです…けど……」

「そういう正直なところも好きだぞ、真那」

「あぅ……」

 

 ぽふり、と真那の頭に触れる士道の手。完全にしおらしくなった真那が見つめる中…士道は、優しくゆっくりと頭を撫でる。

 

「本当に、いつもいつもありがとな。俺は真那が妹でいてくれて、幸せで堪らないよ。だからこそ、俺はこの幸せを俺だけじゃなくて真那とも、兄妹二人で分かち合いたいんだ。普通の兄妹じゃない、もっと深くて特別な兄妹になりたいんだ。…愛してるよ、真那」

「ふゃぁ…そ、そんな事…そんな事言われちまったらぁ……はきゅぅぅ……」

 

(ま…真那が落とされたぁああああああああっ!!?)

 

 溶かされるように、蕩けるように、真那はすとんと腰砕けになる。膝を突く瞬間に士道が真那の腰に手をやり、片手で支えて抱き寄せる。

 それは、あまりにも予想外の光景だった。完全に陥落する真那の姿など、侑理はこれまで一度も見た事がなかった。筋金入りのブラコンたる真那が、士道からこんな言葉を掛けられれば冷静でいられなくなっても何もおかしくはない…が、だとしても目の前で繰り広げられたやり取りは、士道による事実上の妹口説きは、侑理を愕然とさせるのに十分過ぎる程のインパクトを有していた。

 

「さて、と…待たせたな、侑理」

「うぇっ!?う、うち!?」

 

 籠絡された真那はどうなるのか、士道はこれからどうする気なのか。それが気になるような、知っちゃいけないような…そんな思考が侑理の脳内でぐるぐると回る中、真那を片手で抱いたままの士道が声を掛けてくる。

 

「そんなに驚く事はないだろ?それとも、エレンに手を出した俺とは話したくなかったか?」

「い、いや、そういう訳じゃないけど…てっきり、その…今は真那に夢中なのかと……」

「まさか。俺の頭の中から、侑理への思いが消えた事なんか一度だってないんだぜ?今も、これまでも」

「んなっ……!?」

 

 士道らしからぬ、キザで歯の浮くような言葉。しかしそれを士道は、恥じらい一つなく言ってのける。そして棒読みだったり、躊躇いがちに言っていたのならともかく、心と熱が籠った声音でそんな事を言われてしまえば…ドキッとしない訳がない。ドキドキせずにはいられない。

 

「侑理、俺は嬉しかったよ。呼び方で、公式お兄ちゃんって言葉で、俺との距離を詰めようとしてくれたのが。侑理みたいに可憐で、明るくて、自分の気持ちに真っ直ぐな女の子に好んでもらえるなんて、光栄以外の何物でもないんだから」

「ぁ、そ、そう…?そう思ってもらえるなら、うちも嬉しい…けど……」

「けど、なんだ?」

「…士道にぃ、本当にどうしちゃったの…?さっきからずっと、全然違うっていうか…なんか色んな意味で、士道にぃらしくないっていうか……」

「…ああ、そうかもしれないな。だって…気付いちまったんだから。侑理が距離を詰めてくれる、俺と親密になろうとしてくれる…それを喜んでいるのは、他の誰でもない俺自身だって」

「……っ!…し、士道にぃ…それって……」

 

 侑理を見つめる、士道の瞳。そこに映るのはたった一人、侑理だけ。その瞳と、眼差しと共に、士道は手を差し出してくる。掌を空へ向けた左手の指先で侑理の顎の裏へと触れ、擽るように指を踊らせ、顎を持ち上げ侑理に自身を見上げさせる。

 

「教えてくれ、侑理。侑理は俺と、どうなりたい?このまま兄の様に慕う、妹の様に気に掛ける…って関係で満足か?それとも…もっと先に、もっと深い関係に、なりたくはないか?」

「う、うちは…うちは……」

 

 頭の中で、士道の声が反響する。表情が、言葉が、縫い付けられたように離れない。

 まるで思考を覆い尽くされ、染め上げられていくような感覚。されど怖くはない。むしろ安堵にも似た、穏やかな気持ちが心の中に広がっていく。そして士道が見つめる中、士道に見つめられる中、半ば無意識の内に侑理の唇は震え……

 

「……っ、ぅ…侑、理…?真那……?」

 

──だがその時、不意に士道の表情が崩れる。これまでは常に余裕を帯びていた士道の面持ちが、ふっと解け…ぼんやりとした、心ここに在らずといったような様子へと変わる。

 

「…士道、にぃ……?」

 

 抱いていた真那から手を離し、ふらりと数歩後退る士道。今度こそ真那がぺたんと座り込む中、士道は片手で頭を押さえる。そして熱に浮かされるように、夢遊するように、先程までとは一変した様子でフラフラとどこかへ歩いていく。

 その瞳には、もう侑理も、真那の姿も映っていない。或いは、もしかすると…誰の事も、映っていないのかもしれない。

 

「…なん、だったの……?」

 

 エレンとのやり取りの時点で、なんだなんだと注目されていた。それが今や、路上ライブか大道芸でもやっているのかとばかりの人だかりが出来ており…そんな中で、緊張の糸が解けた侑理もまたへたり込む。

 本当に、一体何が起こったのか分からない。まるで別人の様であった士道、しかし彼は確かに士道であり…そんな彼の立ち振る舞いが、声が、今も侑理の頭に残っている。

 

(…士道にぃが言っていたのは、本心…?それに、もし士道にぃがあのままだったら、うちは……)

 

 分からない。先程まだの事が全て夢の中の出来事かのように、頭がぼんやりとしてしまう。士道の思いも、自身の気持ちも、今の侑理にはまともに考える事が出来ず……

 

「……いつまで惚けているのですか、貴女達は…ッ!」

「んぇ…?…あ……」

 

 背後からの、叱るような声。その声に、侑理の意識は現実へと返る。そして、その声を発したのは……不満で堪らないとばかりに表情を歪ませた、ずっと侑理の背後にいたらしいエレンであった。

 

「あのような男の、軽薄な言葉で籠絡されるなど、恥ずかしいとは思わないのですか…!?」

「え、いや、それは…っていうか、それを言うならエレンさんも大分士道にぃに翻弄されてたような……」

「──何か?」

「あ、なんでもないです……」

 

 ギロリ、と睨み付けるエレンの形相に気圧され、言っていた言葉を引っ込める侑理。そんな反応をする事自体、侑理の指摘を認めるようなものな気がするが…それを言うと実力行使に出られそうである為、心の中に仕舞っておく。

 

「…って、いうか…真那、真那ー…?」

「……はっ…!」

 

 一喝されて我に返った侑理とは対照的に、真那はまだへたり込んだまま。その真那の肩を揺すると、漸く真那の意識も現実へと返ってきた。

 

「わ、私は何を…一体、何が……」

「それはうちだって訊きたいよ…」

 

 戦いの中ではどんな窮地でも凛々しさを失わない真那が見せる、これでもかという程の狼狽えた様子。冷静な思考を取り戻した今でも尚、やはり士道の言動は理解を遥かに超えており…そこから真那は、ゆっくりと周囲を見回す。

 

「…ところで、兄様は今どこに……?」

「……あ」

 

 言われて気付いた侑理は士道が歩いていった方向へと目をやるも、既にそちらに士道の姿はない。あるのはこちらを見てひそひそと話している、奇異に満ちた人々の視線のみであり…恥ずかしい事この上ない。

 

「…と、取り敢えず士道にぃを探さないと…!色んな意味で、このままじゃ色々アレだし……!」

「何を言いたいのかさっぱり分からねー…と言いてーところですが、全くの同感でいやがります…!今の兄様をそのままにするのは、絶対に何かやべーです…!」

 

 上手く言葉には出来ないが、とにかく駄目な気がする。その思いを真那と確かめ合った侑理は、向けられる目から逃れる事も兼ねて駆け出……そうとして、周囲とは別の視線がもう一つ、まだ自分達へ向けられている事を思い出す。

 

「…あの、ところでエレンさんは……」

「…この私が、まさか協力するとでも?」

「そんな事に期待なんて、微塵もしてねーです。というか、協力するつもりもねーならどうしていつまでもここにいやがるんですかね?」

「それは……ふん。敵対しているとはいえ、貴女方は私の元部下。その二人がいつまでも無様な姿を晒すのは忍びないと、心配りをしたまでですが?」

「…………」

「…………」

 

「……多分これ、立ち去る機を逃したままどうしたらいいか分からなくなっちゃった、的なあれだよね…?」

「そんなところでいやがりましょうね…しかも理由を私達へひっ被せてこようとするとは……」

 

 顔を寄せ、お互いだけに聞こえる声量でこそこそと話す。…なんというか、本当に今日のエレンは調子が狂っていた。恐らくは士道に調子を狂わされたまま、まだ回復出来ていないようだった。

 

「何をひそひそと…もし私を倒す算段を立てているのなら、諦める事ですね。今の私は、これ以上ない程に不愉快な気分なのですから」

『……っ…』

 

 だが、調子が狂っていても最強は最強。むしろ調子が狂っているからこそ、普段は理性で抑えられているのであろう感情が、抜き身の刃の様に尖った怒りがひしひしと伝わってくる。

 このまま戦えば、無事では済まないだろう。今のエレンがそのまま見逃してくれるとも限らない。…だが……

 

「…その…ここは一つ、お互い会わなかった事にしませんか……?」

「おや、随分と弱腰ですね。まあ、この距離では侑理が臆するのも無理はないのかもしれませんが」

「いや、そういう事じゃなくて…お互い士道にぃにされた事、それを見られてたって事を、これからも覚えてたいですか…?多分会わなかった事にしないと、顔を合わせる度思い出しますよ……?」

「…………」

「…それは、まぁ…割とあり得る気がしやがりますね……」

 

 エレンは士道に手篭めにされかけ、侑理と真那は骨抜きにされた。それをがっつり見られていたのだという事実を前に、エレンは黙り、真那も何とも言えない表情を浮かべる。そして……

 

「…いいでしょう。確かにこの場においては……貴女の言う通りです、侑理…」

「で、ですよね…じゃあ、そういう事で…(あぁっ、エレンさんが見た事ない表情を……!)」

 

 何かもう、色々な感情の果てにあるような面持ちと共に、エレンが口にした同意。こうして間合いに入ってしまっている状態からの戦闘という、危機的状況は回避され……侑理も真那も、多分エレンも、まだ何か始まるのか?…と完全に見世物感覚で見物している街の人々の視線から逃げるようにして、そさくさとその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 奇奇怪怪な状況を経て侑理と真那は再度士道の捜索に出たが、惚けている内に…そしてエレンとやり取りを交わしている内に、士道は完全にどこかに行ってしまった。

 ただ、士道はあの後も行く先々で衆目を集めていたらしく、情報を得た令音の話を受けて琴里達が士道の下へ向かっていた。それは良かったのだが、残念ながら琴里達も士道を保護する事は出来なかったらしく、侑理や真那と同様結局は見失ってしまったという。それも士道と言葉を交わす中で、大分大変な事になったらしく……現在琴里達と合流した侑理と真那は、〈ラタトスク〉のある施設にあるブリーフィングルームに訪れていた。ここに来た理由は勿論、それぞれにあった事の確認と、今後に向けた作戦会議の為である。

 

「えー、うちと真那は口説かれました。真那は攻略されてました。うちもふわふわした感じになりました。後、士道にぃはエレンさんにまで手を出そうとしました。うち、危うくDEMに復帰するところでした。以上」

『いや色々起こり過ぎてない!?』

 

 流れるように侑理が話した事の顛末。何があってどうなったのかを掻い摘んで説明したところ、精霊達からぎょっとした顔で突っ込まれた。これには流石の令音も、理解が追い付かないようにぱちぱちと目を瞬かせていた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい侑理!え、口説かれた?エレンにまで手を出そうとした?最初から最後までぜんぶ訳が分からないんだけど!?」

「うん…本当に、訳が分からないって言うしかないよね。士道にぃ、一体どうしちゃったの……」

「そこじゃないし!いや、それもそうなんだけど…今はそれより二人の事だし!」

「訂正。あのエレンもいたとの事なので、厳密には三人です」

「それもそうなんだけども!」

 

 こくりと琴里の言葉に侑理が頷くと、今度は耶倶矢が突っ込んでくる。…まあ、言わんとする事は分かる。本当に、色々と衝撃的な事続きだったのだから。

 

「な、何をしているのだ、シドーは……」

「でも確かに、私達があった時も…凄く、いつもの士道さんとは違う感じでした……」

「っていうか、エレンってあのDEMの美人さんの事ですよね?確かにあの方が魅力的なのは分かりますし、私も手を出したくなっちゃいますけどぉ、流石にちょっと危ない橋過ぎるというか……」

「なんでDEMの魔術師(ウィザード)にまで手を出したくなるのよ…。……それより、真那が口説かれて攻略されたって…それ本当なの?ちょっと、信じられないんだけど…」

 

 そんな馬鹿な、と真那を見やる七罪。その表情には、なんというか根拠が、そんな訳ないと思える実体験か何かがあるような雰囲気があった。…何か、七罪と真那の間であったのだろうか。

 

「いや、その…そもそもの話として、私は口説かれた訳でも、ましてや攻略された訳でもねーんですけど……」

「え、明らかに口説かれてたし攻略されてたよね?最後なんて『はきゅぅぅ……』とか言いながらへたり込みそうになって、士道にぃに抱き寄せられてたよね?」

『…………』

「ちょっ…ッ!わ、わざわざ具体的な事まで言う事はねーでしょう侑理…!」

「ひ、否定しないの…?真那貴女、士道の事はあくまで兄として好きなだけなのよね…?そうだった筈よね……?」

「だったじゃなくて、今もそうでいやがるんですけどぉ!?」

 

 全員からの注目と、唖然としたような琴里からの指摘を受けて、真那は大慌て。ポニーテールが左右にぶんぶんと振り回される程強く首を振って否定をすると、それから頬をほんのり朱色に染め…恥ずかしがりながらも、静かに言う。

 

「…びっくりするに、決まってるじゃねーですか…あんな面と向かって、私だけを見て、最高の妹だとか、真那が妹で幸せだとか言われちまったら……」

 

 それはまるで、恋する乙女。あくまで兄に対する、妹としての発言だというのは分かっている。だとしてもやはり、とびきりの愛らしさといじらしさがそこにはあって……

 

『か…可愛過ぎ(る・ます)ぅぅぅぅううううっ!!』

「うぉわっ!?ちょっ、止め…引っ付くんじゃねーですよぉぉッ!」

 

 気付けば侑理は、隣の真那へ抱き着いていた。もう可愛くて可愛くて、抱き付かずにはいられなかった。可愛いの暴力。愛でたいの圧倒的衝動。これに抗える訳がない。耐えられる道理など存在しない。

…というか、そこからの真那の返しで侑理は認識したが、逆側からは美九も抱き着いていた。今の侑理と同じ状態となっていた。…やはり真那に関して、美九は同志でありライバルたり得る存在なのかもしれない。

 

「そこ、興奮しない。…けど、それはそれとして……くっ、心底真那の気持ちは理解出来るような、どうしようもなく悔しいような、なんて言ったらいいのよこの気持ちは……」

「…琴里も、落ち着こうか」

 

 複雑そうな顔をする琴里を、令音がいつもの調子で窘める。それから真那の抵抗と周囲の「話が進まないから自重してね?」…という視線を受けた事で、侑理は美九と共に渋々ながらも真那から離れ…そこで折紙からの視線に気付く。

 

「…えっと…折紙さん?」

「真那の件は理解した。士道の深い家族愛は、素晴らしい事。だから次は、侑理の件を聞かせてほしい」

「う、うちですか?まあ確かに情報共有の場ですし、士道にぃの現状把握に役立つかもしれないので話しますけど──」

「内容によっては今後の参考にする」

「何のです!?うちの件の何を参考にするんです!?」

 

 真顔で答えた折紙の言葉に、思わず侑理は突っ込みで返す。普通に考えれば、異常な状態となっている士道を助ける為の参考と捉えるべきところだが…何か別の意図が、もっと私利私欲があるような気がしてならなかった。

 

「…まあ、実際今のシンの状態…特に心理の傾向を把握しておくのは、これからの行動において重要になる。恥ずかしいかもしれないが、侑理も話してくれないかな?」

「そ、そうですね…じゃあ……」

 

 自分が口説かれた内容について話すなど、それ自体が何か変なプレイかと思う程恥ずかしいもの。だがこれも士道の為だと思い、侑理は話した。…ある一点、最後の問いに関する部分だけは、ぼかす形で。

 

「親密、ね…うん、改めて考えると侑理の『士道にぃ』呼びってかなり攻めてるというか、アグレッシブよね……」

「うんうん、この積極さは中々手強いかもしれないね〜、四糸乃」

「な、何の話をしているの、よしのん……」

「ふむ、そうか…そうか……」

「…令音?」

 

 隣同士で座る四糸乃と七罪(とよしのん)の声が聞こえる中、令音は静かに、数度そうか、と繰り返す。しかし琴里に呼び掛けられるとすぐに顔を上げ、何でもないと言うように頷いてみせる。

 

「ありがとう。調べられた限りでの目撃情報、それに二人のみならずあのエレン・ミラ・メイザースにまで接触をした事を踏まえて考えると、シンは無軌道に、言い方は良くないが出会った知り合いへ手当たり次第に口説き文句を言っているのかもしれないね」

「怪訝。ですが私達が話した時には、特にそんな素振りはありませんでした」

「それについては、口説ける流れではなかった…或いは、君達を口説いたとしてもそれはもう『今更』だと思っていた…辺りが考えられるね。勿論、私はその場で起きた事、交わしたやり取りを全て把握している訳ではないから、単なる予想に過ぎないが」

「む…確かにそれどころではない状況であったな。……今思うと、色々と何が何だか…」

 

 遠い目をする十香に、精霊達がうんうんと頷く。美九だけは表情を緩めていたが、彼女が特殊である事はもう今更の事。

 そしてここまで、侑理と真那の経験は話した。故にここからは、琴里達の番。

 

「それじゃあ、皆も何があったのか話してくれる?」

「そうね。令音にもちゃんと伝えておきたいし。…けど、どこから話したものかしらね。順番に話すとなると、まずは最初に私達が見たものの事になるけど……」

「やっぱり一番印象的だったのは、私達自身を含めて見渡す限りの全員が士織さんになっちゃった事ですかねー。はぁぁ、今思い出しても素敵でしたぁ…♪」

『いやそっちも一体何が(あったの・ありやがったんですか)!?』

 

 悪い夢か何かのようなカミングアウトに、先程の全員の様にぎょっとする侑理と真那。大変な事態だったらしい事は、ここに来るまでにさらっと聞いていたのだが……本当に、今の士道はとんでもないトリックスターと化してしまったようである。

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