封印とその
そこからの流れを受けての、四糸乃の挑戦。四糸乃と士道がやり取りを交わす中、侑理は一度持ち場を離れ、建物の中へと入っていた。
「…ん、大丈夫そうだね。でも、ほんとに危ない真似はしないでよ?仮に士道にぃを助けられたとしても、今度は七罪が不調に…なんてなったら喜べないもん」
「…別に、士道が助かったなら、私の事は気にしなくても……」
「そういう言い方は、止めてほしいかな。うちは嫌だよ。友達がいつも通りにいられないのも…たとえ七罪自身の言葉だとしても、そんな風に言われるのは」
「……ごめん」
プールの端、機材の裏となる物陰にて、侑理は七罪と言葉を交わす。侑理の言葉に七罪は俯き…されど、侑理の気持ちを分かってくれた。…恐らく出会ったばかり、まだ霊力封印をされていない頃の七罪なら、こんな反応は見せてくれなかった。少しでも、自分の事を大切に思えるようになったのなら…友達として、侑理は嬉しい。
「助かったよ、侑理。何せ急造な分、設備面は足りていないものも多くてね」
「ふふ、
通信越しの感謝の言葉へ、侑理は少しだけ得意になって返す。侑理が施設内に入った理由、それは士道攻略中に霊力使用だ不調を起こした七罪の身体チェックの為だった。勿論それを依頼された侑理に大した医療知識はなく、
「…に、しても…なんか凄い、大胆な事してるよね……」
「四糸乃にあんな事させるなんて…やっぱり男は野獣なのね……」
「それはまた違うと思うけど…そもそも提案したのも四糸乃の方だったような……」
一先ず確認を終えたところで、ちらりと侑理は四糸乃の方を見る。士道攻略中である四糸乃は今、シートの上に寝転がった士道へと馬乗りになり、日焼け止めクリームを塗っていた。ここは屋内なのに日焼け止め?…と思わなくはないが…それよりも、やっている事の大胆さに目がいく。異性に日焼け止めクリームを塗るというだけでも凄いというのに、しかも四糸乃は馬乗りになって塗っているのだから…何というか、何かのプレイに見えてしまう。
「…って、え?ま、待って…四糸乃、何しようとしてるの…!?」
「へ?あ……」
初めはうつ伏せだった士道の背中に塗っていた四糸乃。それが今や、仰向けに移った士道の身体へと手を這わせている。どこか息を荒くしているようにも見える四糸乃は士道、それによしのんとも何か話した後、前後逆で腹部の上に座り直すと今度は脚へと指を当たる。そして、その太腿へと触れようとした瞬間……正に、その時だった。
「侑理!攻撃が来やがりますッ!」
「な……ッ!?」
突如耳に響いた真那の声。直後に響いた衝撃と轟音。四糸乃の悲鳴が聞こえる中、反射的に侑理は
倒壊し、崩れる天井。瓦礫や照明が落下し、壁にも亀裂が入るが、目に見える範囲にいる精霊達や、施設内の店の店員役をしていた機関員に被害はない。唯一四糸乃達のいた場所には照明が落下してきた…が、咄嗟に士道が四糸乃を抱えてプール内へダイブした事で、間一髪四糸乃も難を逃れる。
「……すまない、探知が遅れた。中の状況は?」
「場所的には全く無事じゃないですけど、皆は無事です…!けどまさか、よりにもよって今なんて……!」
調子は普段通りながら、声に緊迫の色を帯びた令音の言葉に、侑理はすぐさま返す。こうして施設の中に入ってから、何十分と経っている訳ではない。だというのに、中に入っているタイミングでというのは、あまりにも間が悪過ぎるというもの。
だが、それを嘆いたところで仕方がない。幸いここには司令官たる琴里がいるのだから、こちらの対応は何とかなる筈。ならば、と侑理は外へ…穴の空いた天井から見える〈バンダー・スナッチ〉の迎撃へと出る為に飛び上がろうとし……気付く。プールから出ていた士道が、天井の穴を見上げて不敵な笑みを浮かべている事に。
「おいおい、随分と派手にやってくれたな。──始めたのはそっちだぜ。勿論、覚悟は出来てるんだろうな?」
臨戦態勢としか思えない声を発した士道は、床を踏み締めると、両手を揃えて腰溜めに構える。その士道に琴里が駆け寄り、何をする気かと訪ねると、これまた不敵に「見てな」と答える。
そんな士道の手の内に現れ、収束していくのは霊力の光。瞬く間に強く、激しく輝くようになった光は、更に収束し、眩いばかりの煌めきとなり……次の瞬間、士道は両腕を突き出す。それと共に──叫ぶ。
「奥義!瞬・閃・轟・爆──破ぁぁぁぁッ!」
『嘘ぉ!?』
閃光となり、空へと駆け上っていく霊力の奔流。それは天井の穴を貫くどころか穴周辺も完全に吹き飛ばし、一瞬で空中の〈バンダー・スナッチ〉を纏めて飲み込む。その攻撃に、侑理も琴里も、人も精霊も纏めて心底仰天する。
それは、信じ難い威力だった。魔力と霊力の違いはあれど、今の〈ヨルムンガンド〉を纏った侑理が目一杯の力を注いでも敵わないかもしれない、正に精霊の全力に匹敵するような一撃だった。
「な、何が起きやがったんですか!?侑理!中で一体何が……!」
テンパった様子で通信を掛けてくる真那。実際に見ていた侑理でも仰天してしまうのだから、施設外にいる真那がそれ以上の混乱に陥るのも当然の事。
何がといえば、答えは単純。士道が霊力の一閃で〈バンダー・スナッチ〉を一掃したというだけの事。何故出来たかも、想像は容易。今の士道は
「──か、格好良い……!」
『はい……?』
通信と肉声、真那と七罪、二人の声が同時に聞こえる。二人は困惑していた。侑理の言葉に。今起きた事に対する、侑理の反応に。
「瞬閃轟爆破…あれが、瞬閃轟爆破……!」
「え、何?もしかしてその、瞬なんとかについて侑理は知ってるの…?」
「ううん、全く知らない…けど、心に響く名前っていうか、身体が内側から震え出す感じっていうか…とにかくなんて格好良い名前なの……!」
「えぇ……?何を言ってるのよ、侑理は……」
「そういえば、侑理は名称関連の感性がアレでいやがりましたね……」
感銘を受ける侑理とは対照的に、二人は完全に呆れ声。どうしてこの良さが分からないかなぁ、と言いたくなる侑理であったが、そこで理性がブレーキを掛ける。
確かに今、士道の一撃は〈バンダー・スナッチ〉を一掃した。だが、これで終わりな訳がない。もし仮に〈バンダー・スナッチ〉が全滅していたとしても…間違いなく、エレンがまだいる。
先程までは迎撃しながら天井の穴を抜けようと思っていたが、士道が一掃してくれたおかげで、目立たず戻る事が出来る。そして善は急げと、七罪に断りを入れた侑理は今度こそ飛ぼうとし……
「ちょっ、ちょっと四糸乃!?」
再び、ぎょっとする声が聞こえた。今度は琴里の声だった。まさか四糸乃に何かあったのかと慌てて侑理は振り向き…その瞬間、目にする。士道の前、目の前で、四糸乃がワンピースタイプの水着を肩からぐいっと下ろすのを。あまりに大胆過ぎるその行為は、幾ら士道をドキッとさせる為でもやり過ぎで……されど、違った。四糸乃が脱いだ水着の下には、まだチューブトップタイプの水着があった。
そして直後、聞こえてきたのは四糸乃がクリアしたという令音の言葉。どうやら四糸乃のワンピース水着は今の騒動で破れてしまったらしく、ならばと脱いだだけだったらしいのだが…習い定めた一発より、無自覚に放たれた一撃の方が遥かに強い。そんな一幕を目にしたような気持ちになる侑理だった。
*
空爆と、遠隔操作型兵器〈バンダー・スナッチ〉による強襲。しかしそれが威力偵察、或いは先行部隊の行動に過ぎないと、真那は読んでいた。別段真那は兵法に詳しい訳でも戦術構築に長けている訳でもないが…元は元仲間として、DEMの攻撃がこの程度で終わる訳がないと、考えるまでもなく分かっていた。
そしてその予測のおかげで、真那は機先を制す事が出来た。放つ一撃。左腕に備える〈ヴォルフファング〉内臓の魔力砲より照射した光芒が、新たに現れた〈バンダー・スナッチ〉の内三機の頭部を吹き飛ばし…そのまま敵の指揮官へと、真那は刃を叩き付ける。
「──真那」
「流石はエレン。簡単にやられちゃくれねーですね」
砲撃で注意を逸らした上で、全力の加速と急降下の勢いを乗せて放った斬撃。しかしそれを、〈バンダー・スナッチ〉を率いる女性…最強の
実体剣に魔力を纏わせたレイザーエッジと、純粋に魔力のみで刀身を形成するレイザーブレイド。真那とエレン、それぞれの刃が激突したのは数瞬の事。受け止められ、押し切れないと感覚で理解した時点で真那は飛び退き、空中で即座に構え直す。
「やはり出てきましたか。器用に隠れていたものです」
「それはお互い様じゃねーですか?まあ、今となっちゃどうでも良い事でいやがりますが」
言われた通り、真那はギリギリまで身を潜めていた。エレンが出てくる事を予想し、そのエレンに奇襲する為先の〈バンダー・スナッチ〉部隊の対処も、施設内に移動していた侑理に任せるつもりだった。…まあ、結果的には兄である士道のとんでもない技(?)で一掃されるという、予想外過ぎる展開になったのだが。
「相変わらず、貴女は私の気分を害してくれる。兄妹揃って、不愉快にしてくれる。貴女さえいなければ……」
忌々しげに言葉を吐くエレン。しかし目の前にいるのは裏切り者であり、離反する前から素直な部下とは程遠かった真那なのだから、当然の事…と一瞬真那は思ったが、どこか違和感がある。それだけではないような、もっと前からの恨みつらみであるような雰囲気を感じる。
そしてそれは、その感覚は、初めて抱くものではない。過去にも一度、改変前の過去の世界…侑理を五年前へ送った後にエレンと正対した時にも、真那は同じような感覚を抱いていて……だがそれについて、じっくりと考える暇はない。相手はあのエレン。戦闘に関係のない思考へ意識を向けようものなら、直後に敗北してもおかしくはない。
「まあ、いいでしょう。今日ここで斬り伏せてしまえばそれで済む事です」
「はッ、出来るもんならやってみろってんですッ!」
空気を踏み締め蹴る要領で、再度突撃。一瞬で距離を詰めて刺突を放つが、エレンはひらりと軽やかに躱す。上を取ると共に、すぐさま横薙ぎで返してくる。そこから数度、打ち合い斬り結ぶ。
これは防戦である以上、必要以上に攻める必要はない。されど後手に、ましてや及び腰になるようでは、エレンは止まらない。止められない。故に求められるのは、攻めの姿勢。
(全く…こんな規格外の相手とやれるのが模擬戦なら、この上なく嬉しいところでいやがったんですけどね……)
袈裟懸けを左に、高出力の魔力の塊である事を活かした峰側での横薙ぎを後ろに躱して、即座に距離を詰めてくるエレンへ合わせる形で逆袈裟を打ち込む。それをレイザーブレイドで止められれば、こちらもすぐさま身体を回転させて横一閃の回転斬りに繋げるが、それも同じく止められる。まだもう一撃打ち込む余裕はあったが、バックステップをするようにこの場は下がる。
エレンを止める為には攻めの姿勢が必要だが、エレンは格上である以上、下手に深く踏み込む訳にもいかない。攻めの姿勢を見せつつも、常に一歩引いた立ち回りを強いられるのが、防戦を行う今の真那。それは常に神経を擦り減らされる、もう一歩踏み込みたいところを我慢しなければならない、精神的負荷も大きい戦い。
とはいえ真那に焦りはない。今回の戦闘は極論士道と精霊達との封印状態が正常化するまで持ち堪えれば勝利である以上、元より無理をする必要などない。それに、真那は……一人ではない。
「でぇいッ!」
幾度目かの斬り結びとなった瞬間、真那はエレンへと
「……ッ!」
恐らくは反射的に飛び退くエレン。距離を取った直後にエレンは光線の放たれた元へと視線を向けようとし…そこで再び光線が駆ける。二度目の光は、エレンが纏う
更に数度放たれる光線。エレンは上に下に、左に右にと回避行動を取るも、次々と光はエレンを掠め、或いは
「この狙撃……侑理ですか」
「ご明察…って程でもねーんでしょうね」
「当然です。初撃は敢えて直撃させず目の前に撃ち込む事で、防御ではなく回避を誘発。それにより真那から引き剥がした上で、そこからは私の動きを完全に読んで射撃を合わせるなど、侑理以外に出来る筈がありません。技量に加え、私と貴女、両方の立ち回りを熟知した侑理でなければ」
回避の為に意識が逸れた瞬間を狙い、鋭く仕掛ける。今一度斬り結んだ刃越しに、視線が交錯する。
この為に、ここまで侑理もまた潜んでいた。当然エレンも侑理の存在は念頭に入れていただろうが、目の前の戦闘に集中すればする程、他の事への注意や警戒は薄れてしまう。真那の攻めの姿勢は、それを引き出す事も狙っていた。
「はんッ、いつまでも余裕ぶっていられるなんて思わねー事ですッ!」
当然、侑理の狙撃とエレンの反応をただ見ている真那ではない。狙撃によって生まれた僅かな隙を突く形で仕掛け、今度は強く、大きく踏み込む。逆にエレンは受け流す動きを見せ、真那の斬撃は身体ごと斜め前方、エレンから見た斜め後方へと逸らされてしまうが、その背にエレンが一太刀浴びせようとしたタイミングでまた狙撃が襲う。防御で動きが鈍っている内に真那は素早く反転し、再びの回転斬りへと繋げる。
そこから真那は、立て続けに攻勢を掛ける。激しく、重みのある連撃を打ち込む。攻撃に偏った立ち回りをすれば、当然防御は手薄になり、反撃を受ける危険も増すが…その危険がある度に、狙撃がエレンの邪魔をする。逆に真那が攻勢を通して押し切れば、今度は狙撃がエレンの立て直しを阻害する。攻めも守りも、欲しい瞬間に支援射撃が来る。そしてそれが分かっているから、真那も迷わず攻め込める。
「そこッ!」
「ちっ……」
何度も深く踏み込んだ上で一度浅く仕掛け、カウンターを誘った上でその斬撃を受け止める。同時に〈ヴォルフファング〉を閉じた状態のまま、打突として腹部へ打ち込む。突き出した殴打は
しかし、真那は分かっている。これは、決して好機という訳ではないと。これを以て、流れがこちらに来ていると判断するのは早計であり……次の瞬間、エレンのCR-ユニットのスラスターが唸る。その姿がブレたように見える程の勢いでエレンは一気に間合いを詰め、上段からの斬撃を振るう。
「まだまだ余力有り、とでも言いだけな動きでやがるじゃねーですか…!」
「言いたいのではなく、事実です。それと、貴女は侑理と通信が繋がっているのでしょう?であれば侑理に、私の
圧倒的な力にものを合わせた打ち込みで真那を弾いたエレンは、すぐさままた距離を詰めてくる。徹底的に、距離を離さずの攻勢と連撃を仕掛けてくる。
確かにそれは、侑理の狙撃に対して有効な対策。味方と相手の距離が近ければ、その分誤射の危険性が上がる事は射撃の常であり、侑理は百発百中の狙撃手でもない。ぴったりくっ付かれると撃てなくなる事は真那も分かっていた為、要所要所で距離が開く立ち回りをしていたのだが…エレンはそれを、潰してきている。
「…ですが、私には届かない。貴女の動きもまあ、評価はしますが…これが今の、貴女達の限界です」
レイザーブレイドを押し付けたまま、先の真那の様にエレンが
エレンは切り替えていた。速攻で斬り伏せるのではなく、じわじわと削り取る戦法に。その上で、これが格の違いだと…自身の方が上だと言い切った。…それを真那は、否定出来ない。悔しいが、認める他ない。…だが、だとしても……
「…えぇ、そんなのは百も承知です。私じゃ貴女には勝てねーですし、侑理じゃ尚更勝てねーです。──それでも」
「侑理となら、私達二人なら、届くかもしれない。一人で最強な貴女には分からねーでしょうが…これが、私達にとっての強さってもんですッ!」
前と横、その両方からの攻撃で体勢が僅かに崩れた瞬間を狙い、スラスターで身体を張って向きを変える。この動きについて、侑理には何も伝えていない。いないが…真那の意図した通り、侑理はすぐさま撃ってくれる。そしてその魔力狙撃は、エレンの
真那は喰らい付く。これまでとは打って変わって、今度は真那がエレンを逃がさない。その間、何度もエレンを狙撃が叩く。…真那一人では、削り合いをしようものなら確実に自分が先に削り切られる。侑理の狙撃も、エレンにとっては邪魔以上のものではない。単独ではやはり、真那も侑理も敵わない。だが二人だからこそ、可能性がある。真那は自分の力と同じ位に、侑理の力も信じている。だから迷わず戦える、頼りに出来る。
「……別に、否定などしませんよ。少々癪ではありますが、連携も一つの力です。重要なのは、強いかどうか。むしろ使える力は全て使う姿勢こそ、評価に値すべきものでしょう」
「そりゃ、どうも…ッ!」
「だからこそ、恥じる必要もありません。ただ…やはり届かないようですね。この戦いにおける、勝利には」
「……っ!」
どうせこの傲慢な
そんなエレンが浮かべるのは、余裕の面持ち。そして次の瞬間…真那の視界の端を、異形の人型が駆け抜けていく。
「〈バンダー・スナッチ〉……!」
「この後に及んでも誰も出てこないのであれば、この場におけるそちらの戦力は貴女達だけという事。先の攻撃も反応がないという事は、小回りの利く迎撃手段ではないのでしょう。であれば、面制圧を掛けるまでです」
「ちッ、やらせる訳──」
「やらせる訳がないでしょう?」
咄嗟に後退しようとした真那の背、|随意領域の後方に衝撃が走る。続けざまに刺突を貰い、振り向きながら辛うじて身を捻って致命傷は避けたものの、装甲に覆われていない腹部を浅く裂かれる。
「私が逃すとお思いで?」
「……ッ…侑理!何とか私は持ち堪えます!だから侑理は、〈バンダー・スナッチ〉を……!」
刺突の勢いのまま突き出された膝蹴りを
この傷も痛みも、反射的にエレンへ背を向けてしまった自分のミス。折紙の一件で思い出した、改変前の世界でも、似たように真那は隙を晒してしまった事がある。だから真那はこれを教訓と受け止め、侑理へ叫ぶ。この教訓を、今後活かす為に。守るべきもの、大切なものを、失わない為に。──だが。
「……え?」
ヘッドセット越しに返ってきたのは、全く予想していなかった言葉。その言葉に、真那は驚き…笑う。
「…何がおかしいのです」
「あぁいや、別におかしい訳じゃねーです。それより…さっきの言葉は貴女との距離が近かったからか聞こえてたみてーで、伝えるまでもなくやたらと喜んでいやがりましたよ、侑理」
「そうですか。敵の言葉で素直に喜ぶとは…侑理も相変わらずですね」
「それに関しちゃ同感でいやがります。それからもう一つ、今度は侑理からの伝言です」
「伝言?」
矢継ぎ早に放たれる斬撃を〈ヴォルフテイル〉と
「えぇ。──今のうちの限界は、こんなものじゃないじゃないですよ?エレンさん、だと」
「……──!」
その瞬間、新たに遥か遠くから放たれた狙撃が、先頭の〈バンダー・スナッチ〉を撃ち抜く。続けて伸びる光線、二条目は別の〈バンダー・スナッチ〉の肩口を、三条目は進路を貫く。その上でまた一発、四条目が空を駆け抜け…エレンへと喰らい付く。
エレン、〈バンダー・スナッチ〉、〈バンダー・スナッチ〉。その後はエレン、更にその後は〈バンダー・スナッチ〉と、侑理の狙撃は次々とその狙いが変わる。自分の支援はいいから、と言いかけた真那に対して、侑理は言った。今の自分になら、どちらも出来ると。
そしてその言葉通り、侑理は両立している。流石に両方は負担が大きいらしく、〈バンダー・スナッチ〉への狙撃はちらほら外れているが…それでも、陣形を崩し、その行動を大幅に阻害している。エレンの、DEMの目論見を、一人で挫いている。
「今、兄様と琴里さん達は忙しいんです。だからもう暫く、私と侑理に付き合ってもらおうじゃねーですか」
驚いたエレンへ袈裟懸け。防御態勢を取らせた上で〈ヴォルフファング〉を展開し、超至近距離から魔力砲照射。砲撃と
深追いはせず、構え直す真那。〈バンダー・スナッチ〉の迎撃へ移り、また数機を撃ち落とす侑理。士道達を守る為の、琴里達が士道を助けるまでの時間を稼ぐ為の防衛戦は……まだ、続く。