デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第八十六話 冬服選び

 定期的に行っている検査は、今回も大事なく終了した。終わった事で、〈ラタトスク〉が所有する地下施設から、五河宅の隣にあるマンションへと帰る事になったのだが…その道中にて、侑理はある事を呟く。

 

「……ねぇ真那、寒くない?」

「さみーですね、十二月でいやがりますし」

「いやうんそうなんだけど、うちが言いたいのはそういう事じゃなくてね……」

 

 そんな事は分かっていると、侑理は手を擦り合わせながら返す。とはいえ、流石に今ので察しろというのは無理があったかもしれない。相棒にして大親友たる侑理と真那は勿論いつも以心伝心だが、そうに決まっているが、親しき仲にも礼儀あり、という言葉もある。何かを伝えたいのなら、相手に察する事を強いるのではなく、自分がちゃんと伝えようとするのが大事……というか、当たり前の事。

 

「こほん。真那、ちょっと冬の服、買いに行かない?」

「あぁ、そういう事でいやがりますか。…冬真っ盛りの時に買おうとすると、大概たけーんですよね……」

「それもそうなんだけど、うちも真那も冬服少ないでしょ?琴里に頼めば〈ラタトスク〉の方で用意してくれるかもだけど、そんな事でお世話になるのはなんか違うと思うし」

「まあ、そこは同感です。…なら、行くとしやがりますか。年末や年明けに、もっと寒くなるかもしれねーですし」

 

 真那が頷いてくれた事で、ショッピングが決定。検査という事で元々身軽だった為、マンションには戻る事なく、そのまま最寄りの店へと向かう事にする。

 

「ふんふんふ〜ん♪真那と真冬のお買い物デート〜♪」

「デートじゃねーでしょう。後それだと、真冬が人の名前っぽく聞こえますね」

「え…いやあの、流石に真那の言葉でも、うちとしては侑理って名前に結構愛着があるっていうか……」

「今の発言からどうしてそう捉えやがるんですかねぇ……」

 

 流石にもう慣れた住宅街を歩いていく。寒いし随意領域(テリトリー)を展開したい、という気持ちも湧き上がるが、流石に暖房器具代わりに戦術顕現装置(コンバット・リアライザ)を使うのは頼り過ぎというもの。第一、検査で変わらず悪い状態だと言われ、琴里や令音に心配もされているというのに、こんな事で使っていたら流石に合わせる顔がない。

 

「…けど、冬服…冬服でいやがりますか…うーむ……」

「ん?どしたの真那」

「や、冬服ってなると夏場より着る物身に付ける物が増えるじゃねーですか。だから選ぶのが大変というか、面倒というか……」

「面倒って…大変なのは分かるけど、女の子が服選びを面倒って言ったらお仕舞いだよ……」

「いいんですよ、私は自分を着飾るつもりなんてねーですから」

「もっと身嗜みを気にしようって話だよ。とはいえほんと、難しくはあるんだよね…真那に合う服なら自信を持って選べるけど、自分自身ってなるとうちも正直……」

 

 誇張なく、真那に合うファッションなら幾らでも思い付く気がする侑理だが、自分については微妙なところ。こういうのが好き、こういうファッションをしたいという思いはあるが、それが本当に似合っているのこ、自分にぴったりなのかと考えると、少し不安になってしまうもの。そして真那はファッションに無頓着…とまでは言わずとも、はっきり言って服選びにおいては全然頼りにならない為、自分のセンスを信じる他ない……

 

「そういう事なら、私に任せて下さい〜!」

『はい!?』

 

──そう、思っていた時だった。背後から、突然声が…何とも嬉々とした、弾むような声が聞こえてきたのは。

 

「え…み、美九さん!?」

「は〜い、皆のお姉さんの美九ですよ〜♪」

 

 驚いて振り返れば、そこにいたのは目をキラキラと輝かせた美九。彼女は温かそうな白のニットのセーターに黒のフレアスカート、そしてブラウンのロングコートという出で立ちをしており、彼女のスタイルの良さも相まって確かにお姉さんらしさ、大人っぽさが溢れ出ている。……まあ、自分からお姉さんと言ってしまう辺りで、大人っぽさが削られている感がなくもなかったが。

 

「美九さん、どうしてここに……?」

「今は冬休みで、今日はお仕事もないので、だーりんや十香さん達に会いに来たんですよー。でもだーりんの家に着く前に真那さんと侑理さんを見つけたので、お二人の仲良しな姿を見ていたくて暫く眺めていたんですー」

「…つまり、後をつけていたんで…?」

「違いますよ〜、お姉さんとして見守っていたんです〜。でも侑理さんがファッションでお困りとならば、黙っている訳にはいかない…そう思ったという訳ですよー」

 

 困惑顔の真那が発した二つの質問に、美九は調子を崩さず答える。…ならば、やっぱり後をつけていたんじゃないか。ストーカーみたいなものじゃないか。そう思う侑理なのだが、当人は全くそうは思っていないらしい。

 

「…うん?っていうか、そうなるとうちと真那はつけられてたのに全く気付かなかった…って事になるよね…?」

「そうなりやがりますね…私達両方に気取られないままレベルで気配を消していたとは、恐ろしい尾行能力でいやがります……」

「お二人共、内緒話ですか〜?ふふふー、本当にお二人は仲良しなんですねー」

 

 意図的に気配を消していたのかどうかは分からないものの…と、侑理達は揃って戦慄。そこへ掛けられた「本当にお二人は仲良し」という言葉は非常に嬉しいものだったが、それも素直には喜べない位にはゾッとしていた。何せ、相手は美九なのである。他の精霊であればまだしも、女の子大好きな美九の尾行に気付けないというのは、何というか怖いのである。

 

「それで、お二人はどこのお店に行くつもりなんですー?」

「え?あ、えっと…近くのデパートですけど……」

「分かりましたー。それじゃあ行きましょうか」

「へ?そりゃまた、何故……」

「だから、言ったじゃないですかー。私に任せて下さい、って」

 

 そういえばそうだった、と侑理は美九の第一声を思い出す。…ただの親切心だろうか。いや、違うだろう。100%ではないだろうが、絶対下心もあるのだろう。

 だが、美九のファッションセンスが良い事は、今の服装からも見て取れる。真那の事が大好きな侑理が真那に合うファッションを自信を持って選べるように、美九も女の子大好きだからこそ、侑理に合うファッションをばっちり選んでくれるのではないか…そんな期待も、少しだけある。だから侑理は数秒迷い……頷く。

 

「それじゃあ…お願いします」

「…本気でいやがりますか?侑理……」

「うんまあ、不安はあるけど…真那はうちにぴったりな服、選ぶ自信ある…?」

「…ねーですね……」

 

 それを言われたら反論出来ない、とばかりに真那は若干目を逸らす。そうして美九の同行が決定し、侑理達は三人でデパートに向かうのだった。

 

 

 

 

 訪れたのは、暫く前に真那が士道と買い物に出掛けたデパート。五河宅からそう遠くなく、それなりの規模があり、それでいて買い物客でごった返すといった程ではない、正に日常生活での買い物にぴったりなそのデパートには、侑理ももう何度も来た事があった。一人で来た事も、真那と来た事もあった。

 しかし実は、このデパートの服売り場で服を買うのは、今日が初めてだったりする。ファッションにおいて真那は頼りにならない、などと一方的に評した侑理だが、実際のところ侑理も胸を張れる程ファッションへの造形が深い訳ではないのである。

 

「さーて、それじゃあ早速お二人に合う服を探していきますよー!」

 

 誰よりも楽しそうな調子で美九はエスカレーターを降り、数歩進んだところで髪をなびかせながら振り返る。

 ただそれだけでも絵になる、美九の佇まい。その明るい言動が落ち着いた雰囲気のコーディネートとのギャップを生み出しており、こういうのも有りかと早速侑理は一つ学んだ。

 

「…えと、美九さん。今更な話になっちゃいますけど、デパートの服売り場で良かったんですか…?美九さんが選んでくれるなら、専門店とかの方が良かったんじゃ……」

「いえいえ、大丈夫ですよー。ここの服売り場も品揃えは悪くありませんし、専門店とか高級店とかは、結構人を選ぶラインナップをしてる事も多いですからねー」

「…そうなんです?」

「そうなんですー。だからこのブランドが好き、とかここの店主さんのセンスを気に入ってる、みたいな場合は専門店とかの方がいいですけど、そうじゃない場合はまずこういうお店から始めた方が良いって私は思ってます」

 

 調子はここまでと変わらないまま、美九はしっかりと語ってくれる。我ながらちょろいと思うが…この発言で、もう侑理は「あ、これはほんとに期待出来る」と思っていた。

 

「それじゃあ…まずは真那の服からでお願いしますねっ」

「あれ?元々冬服を買いたいのは侑理さんだったんじゃないんですかー?」

「元々はそうですけど、いついかなる時も真那を優先するのがうちの心情なので!」

「あー、愛ですね〜」

「そうです!愛です!」

「…なんかもう既に、この後どっと疲れていそうな気がしやがるんですが……」

 

 そういう事です!と侑理が力強く頷く中、斜め後ろから辟易としたような声が聞こえてくる。確かに真剣に考えれば、服選びといえど疲れるだろう。しかしそれも、真那に合うコーディネートの為を思えば苦にはならない。何か大きな誤解をしている気もするが、気にしない。

 

「じゃあ、真那さんの服を見繕うとして…真那さんは、どういう感じの服がいいか、何かリクエストありますかー?」

「いや、私は別に…取り敢えず、動き易くてちゃんと温かければ、それ以上は特に望まねーです」

「ふむふむ、それなら……」

「あ、女の子なのにそれはどうなの…って突っ込みはしないんですね」

「そういう女の子もいますからねー。それに、そういう子にぴったりなコーディネートをしてあげて、ファッションに目覚めてくれたら、何だかとっても達成感があると思うんですー」

「ははぁ、それは確かに…勉強になりますっ」

「ふふふー、私は色んな女の子を見てきましたからねー。それじゃあ侑理さん、まずはトップスから選んでいきましょうか」

「了解です!あ、因みにさっきはあんな事言ってた真那ですけど、青系統の服を好む傾向があってですね……」

 

 これは別に勝負ではないのだから、むしろより真那に合うファッションを見つけ出すなら協力する方が良いに決まってるのだからと、侑理は美九と共に服を見ていく。トップス、ボトムス、上着に足回りに防寒着と、意見を出し合いながら選んでいく。

 当初美九が妙な事をするのではないかと侑理は不安だったが、予想に反して美九はしっかり考えて選んでくれた。真那をより可愛くする為だからか、やはりファッションには一家言あるという事なのかは分からないが、真那の服選びなら絶対の自信を持つ侑理からしても、美九のセンスは頼もしかった。…ちょいちょい選んだ服を着た姿を妄想しているのか、一人できゃっきゃ言ってる場面もあったが、とにかく一緒に選んでいて楽しかった。そして……

 

「真那ー?着られたー?」

 

 試着室の前。美九と選んだ服を渡した侑理は、そろそろかな…というタイミングで声を掛ける。数秒後、真那の返事が試着室から聞こえ…カーテンが、開かれる。

 

「…ど、どうでいやがりますか……?」

 

 ほんの少し恥じらいながら出てきた真那。その真那の姿を見て…侑理は、息を呑む。

 ハイネックの水色パーカーと、飴色のミニスカート。藍色のサイハイソックスに、スニーカー。それ等を身に付けた上で羽織るのは、正面を開いた状態の黒のダッフルコート。そのコートのポケットから覗いているのは、ライトグレーのミトン手袋。真那の要望通り、動き易さと温かさを念頭に置いたそのコーディネートは、正直言ってあまり冒険をしていない、ともすれば無難な組み合わせであったのだが…それが良かった。それこそが良かった。

 そもそもの話として、ファッションは着る人のイメージに合わせるのが基本。イメージと違う着こなしをする事でギャップを狙う手もあるが、イメージに合わせるのが王道である事は間違いない。そしてその観点において、今のファッションは正にぴったり。パーカーもミニスカートも真那の活動的なイメージと合致しており、ダッフルコートも丈が長過ぎない事で、動き易いという要望についても応えられている。尚且つそこから、暗色系のサイハイソックスと、黒一色のダッフルコートが一気に雰囲気を引き締めているのだ。この二つにより、活動的な面だけでなく、真那の凛とした面も強調されており、更にはほんのりと大人っぽさも感じさせ……その上で、ミトンの手袋が光る。最後の最後でミトン手袋という可愛い成分を入れる事により、快活さ、格好良さ、可愛さという、真那の魅力三大要素を一つのファッションで網羅する至極の三位一体が完成していた。

 

「どうもこうも…良い、滅茶苦茶良いよ真那!似合ってるなんて範疇じゃない、これでもかって位に似合い過ぎてるよ!」

「キュートですー!クールですー!ファンタスティックですよ真那さぁーん!これはもう予想通り…いえ、予想以上も言う他ありませんね!」

「そ、そこまででいやがりますか…?…そう言ってくれるのは、その…悪い気は、しねーですけど……」

『〜〜〜〜っっ!』

 

 頬を掻き、ちょっぴり目を逸らし、そうして浮かべた照れの表情。普段は凛々しさと可愛らしさが共存し、戦闘となれば格好良さが際立つ真那の見せる、愛らしさばっちりの瞬間。これが、侑理の心にはクリティカルヒットだった。もう堪んないのだった。

 ついでに、直撃を受けたのは侑理だけではない。隣の美九も、効果抜群で急所だった。今の真那の可愛さは、一撃必殺級なのである。

 

「……美九さん。貴女に、心からの感謝を。美九さんに一緒に来てもらって、本当に良かった」

「こちらこそです、侑理さん。こんなに可愛らしい姿を見られたのは、今日侑理さん達に巡り会えたからですから」

 

 そうして美九と交わす、固い握手。込めたのは、感謝だけではない。侑理は、そして恐らくは美九も、その握手に「これからも宜しく」という思いを込めていた。

 

「…さっきから、ずっと楽しそうでいやがりますね」

「勿論です〜!さてと、それじゃあ次は侑理さんの番ですよ?侑理さんは、どんな服が良い…っていうのはありますかー?」

「えと、うち的にはネクタイとトレンカは外せないかな…って思ってます。後、やっぱり冬服ですしうちも温かい服にはしたいかなー…って」

「あー、そういえばそのアイテム二つはよく身に付けてますもんねー。外したくないアイテムがあるって気持ち、よく分かりますー」

 

 今日も身に付けている自分にとっての定番を挙げると、美九はうんうんと頷いてくれる。その一方で、真那は怪訝そうな視線を向けてくる。

 

「…であれば、足先と踵が出てるトレンカは合ってねーんじゃねーですか?」

「んもう、真那ってばすぐそういう事言うんだから。自分の好みと実用性を如何に合致させるかも服選びの視点の一つなんだからねー?」

 

 これだから真那は…とばかりに肩を竦め、やれやれと首を振ると、真那はむっとした顔をする。とはいえこれ位は、普段のじゃれ合いの範疇。実際真那も本気で不機嫌になったかといえばそうでもなく、一先ずお披露目は終わったという事で真那が元々着ていた服に戻ったところで、今度は侑理の服選びがスタートした。

 

「ネクタイとなると、トップスはシャツかブラウスで…んー、侑理さんとしてはちょっと大人っぽいコーディネートがしたいんですよね?」

「あ、分かります?」

「ふふふー、だと思いましたー。それなら侑理さんの好きなイメージは固まってる訳ですし、それをアップデートする形で冬仕様にして……」

 

 真那の時と同様に、美九は侑理の意見を訊きつつ選んでいく。違うのは、真那の時は侑理も提案をよく返していた一方、今は選択の主体を美九に任せているという事。ここまでで既に信頼するようになっていた侑理は美九の服選びを疑う事はなく、美九もその信頼が伝わっているのか、しっかりと服を選んでくれる。

 そうして一式の選択が終了。そのセットを持って、侑理は試着室の中に入る。まずは上着を、次にトップスとボトムスを脱いで、軽く畳んだ後に試着をしていく。

 

(これは…予想以上、かも……)

 

 自分も一緒に選んでいた為、着た場合どうなるかのイメージは何となくしていたが、いざ実際に着て、それを鏡で見るとまた印象が、抱く感想が変わってくる。

 そして次に抱いたのは、これを見てもらいたい、感想を聞きたいという思い。当然真那も美九も、カーテンの向こうで自分の事を待っている筈。だから侑理は今のファッションに対する自信と、その裏に潜む僅かな不安を感じながら、カーテンを開く。

 

「真那、美九さん、うちはどう?…似合ってる?」

 

 この服に合うのはこんなポーズかな、というのを表現しながら、二人の前に立つ侑理。それと共に、少しだけ首を傾けて問う。

 今侑理が身に纏っているのは、フランネル生地の赤チェックシャツに、ジーンズのホットパンツ。黒のアシンメトリートレンカハイソックスの上にブラウンのブーツを履き、黄色のネクタイを緩く結んだ上で、白色系のボアジャケットを羽織っている。更に青のマフラーも巻いており…これが、美九プロデュースの冬用ファッション。選んでもらった、侑理の好みをばっちりと取り入れた服装。

 

「いいですっ、すっごく良いですよ侑理さん!私、侑理さんには明るい色合いが似合うと思って選んだんですけど、思った通りぴったりですー!やっぱり侑理さんは、大人っぽいけど本当に大人って感じじゃない、可愛い女の子が少しだけ背伸びした感じのあるファッションが一番似合いますー!」

「えぇ、っと…あの、前半はともかく後半に関しては、褒めて……」

「褒めてるに決まってるじゃないですか!こんな愛らしくて素敵な侑理さんの姿を見て褒めない人がいたら、その人の目は例外なく節穴ですよ節穴!」

 

 くわっ、と目を見開いて言い切る美九の言葉に、侑理は軽く圧倒される。何故褒められているのに、圧倒されているのだろう。それがどうにも分からない侑理であった。

 

「じゃ、じゃあ、真那は?真那はこれ、似合ってると思う?」

「んー…まあ、似合ってるんじゃねーですか?」

「え…な、なんか投げやりじゃない…?もしかして、似合ってない……?」

「いや、そんな事はねーですよ?似合ってるかどうかで言えば、本当に似合ってると思っていやがりますし」

「だったらその、もうちょっと言い方を……」

 

 似合ってると言いつつも、いまいち感情が乗っているようには感じられない。先程の美九と比較するのは酷だとしても、ちょっと淡白過ぎる…そんな風に思えてしまって、侑理は軽く落ち込む。

 そんな中、困ったように頬を掻く真那。そして真那は、あー…と呟くように声を漏らし……言う。

 

「ファッションなんてよく分からねー私としては、今が特別良いとは思えねーというか、侑理だったら大概何を着ても似合ってやがる気がするんですけどね……」

 

…………。

 

……………。

 

………………。

 

「そういうところだよ真那ぁぁああああっ!あぁもう大好きっ、大好き大好き大好きぃいいいいいいっ!!」

「ぎゃあっ!?こ、こんな場所で引っ付くんじゃねーですよぉおおおおおおッ!」

 

 心を芯から撃ち抜かれ、湧き上がり溢れる感動と感激そのままに侑理は真那へと抱き着く。素っ気ない反応で落ち込ませておきながら、こんな言葉を後から出すのは幾ら何でもズル過ぎる。遠回しに『いつも侑理のファッションは似合ってると思っていた』と言われれば、一度下げてからこうも持ち上げられれば、嬉しくならない筈がないのだ。

 

「真那っ真那っ、それってアレだよね?服云々じゃなくて、うち自体が良いって事だよね?そう言ってくれたんだよね?」

「そ、それは……否定は、しねー…ですけども……」

「だよねだよねっ!つまり真那もうちの事が大好きって事だよね!?そうに決まってるもんね!そう、そうだ!そうに決まってる!!」

「いやそこまでは言ってねーんですけど!?ちょっ、ほんとに離れろってんです…!というか服!まだ買った訳でもねー服でそこまで動くのは店にわりーと思わねーんですかッ!?」

「あ、それはその…はい……」

 

 滅茶苦茶に舞い上がり盛り上がっていた侑理だが、真那の一喝で我に返る。まだ買ってもいない物で動き回るな、それはご尤も過ぎる程にご尤もだった。

 それに、激しく燃やすだけが喜びではない。喜びは、しみじみと噛み締めるのもまた良いもの。そうして冷静さを取り戻した侑理は、真那の背中に回していた腕を離し……

 

「そうですよぉ侑理さん。これはまだ買っていないんですから、はしゃぐ前にぬぎぬぎしましょうねー」

「ちょおッ!?み、美九さん!?ここ試着室の中じゃないんですけどぉ!?」

 

 美九に、捕まった。油断(?)していた事もあり、あっさりとジャケットを脱がされた。だが美九の手はそれだけでは止まらず……さも当然のように、シャツのボタンにまで伸びてくる。

 

「大丈夫ですよー。侑理さんの身体に、恥ずかしいところなんて一つもないですからねー」

「そういう問題でもないんですけど!?ちょっ、ま、真那助けて……」

「……そういえば侑理、検査の時は私を見捨てて琴里さんの側に付いていやがりましたよね」

「ここにきて意趣返し!?あれは必要な検査を嫌がる真那にも問題が……って、美九さぁん!?ホットパンツ!ホットパンツの中にも手が伸びてる気がするんですけどもッ!?」

 

 ジャケットのみならず、トップスまで脱がそうとしてくる時点でもうアウトだが、ボトムスすらもとなったら尚更アウト。しかも明らかに冗談でやっている訳ではない(いや、冗談だとしても悪いのだが)、指が這いずるような怪しい手付きに侑理は逃れようとするも、完全に背後からホールドされている事と、体格の差から中々逃げられない。最悪顕現装置(リアライザ)を使えば何とかなるが、こんな流れで使うというのは流石に嫌過ぎる。

 とか何とか思っている内に、いよいよ美九の手ががっつりとホットパンツの中へ。同時にいつの間にかシャツのボタンも既に下側が幾つか外されている事に気付き……この日侑理は、初めて同姓からのセクハラで悲鳴を上げるという経験をするのだった。

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