デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第八十七話 知らなかった魅力

 どうやら後を付けていた(?)らしい美九を交えた、冬服選び。やはりと言うべきか、美九が大興奮する場面がちらほらあったものの、同時に彼女のおかげで良いコーディネートをする事が出来た。真那のファッションだけなら侑理だけでも選べただろうが、侑理自身のコーディネートを満足がいく内容にする事が出来たのは、美九のおかげと言っても過言ではない。

 故にこの服選びは、総合的に見て良いものだった。だから選んだ服を購入し、ショッピングは終了…と、思ったのだが……。

 

「それじゃあ次は、私が思う、お二人にぴったりな服を選んじゃいます〜」

「あ、この話続くんですね」

「前回ラストのアレでオチは付いてやがったと思うんですけどねぇ…」

「えぇと…侑理さんも真那さんも、何を言っているんですか……?」

 

 どうやら選んでもらう側の侑理達ではなく、選ぶ側の美九がまだ満足をしていないようだった。

 

「その、そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ…?普段は学校と仕事とで忙しい美九さんの貴重なお休みを、うち達の為に費やさせちゃうのも悪いですし……」

「もー、何を言ってるんですか侑理さん。貴重なお休みだからこそ、こういう普段は出来ない事したいんです」

「…美九さん、単に私達に好みの服を着させて楽しみてーだけでは?」

「はっ、真那さんどうしてそれを…!ひょっとして、私と真那さんは以心伝心なんですかー!?」

「ちげーますけど!?」

「そうですよ美九さん!真那と以心伝心なのは、うちですからね!」

「侑理も張り合ってんじゃねーです!」

 

 あっさりと真那の指摘を認める美九。その様子からして、元より取り繕うつもりはなかったようである。

 ともかく、美九はやる気満々。既にもう頭の中で組み合わせを色々考えているのか、その表情は輝いており…侑理は真那と顔を見合わせる。

 

「…どうしよっか、真那」

「どうもこうも、逃がしてくれそうな気がしねーです…まあ、本気で逃げようと思えば別でいやがりましょうが」

「だよね…ただでも、うちとしてはちょっと位だったら…とも思うんだよね。理由はどうあれ、服選びを手伝ってくれた訳だし」

「それはまあ……。…なら、その分位は付き合ってやるとしやがりますかね」

 

 真那と肩を竦め合い、どうするかを決める。そして美九に向き直り…こほん、と一つ咳払い。

 

「美九さん。あんまり変な服は選ばないで下さいね?明らかにおかしな服だったら、うち等は着ませんからね?」

「勿論です!というかここは普通のデパートの服売り場なんですから、そもそもそんなに変な服は取り扱っていませんよー」

「まぁ、それはそうでしょうけども…」

 

 そうしてまずは、先程とは逆に侑理の服から選ぶ事となった。理由としては、ついさっき感じたインスピレーションをすぐに形にしたいから…という事らしい。……そのインスピレーションというのは、ホットパンツに手を突っ込むセクハラをした事によるものだろうか。非常に気になる侑理だったが、確かめるのもそれはそれで怖い為、訊かなかった。

 

「侑理さんはちょっと背伸びした格好が好きみたいですし、そういう格好をした侑理さんも勿論キュートなんですけど、もっと素材を活かす可愛い系のコーディネートをしても良いと思うんですよねー」

「…それって、遠回しに大人っぽさは似合わない…って言ってません?というかそもそも、背伸び…って表現の時点で、大人っぽくないって言われてる気が……」

「まあ、正直に言えばそうですねー。でも侑理さん、大人っぽくなろう…っていうか、大人っぽく見られようと思う時点で、『大人』らしさからは外れてる気がしませんか?むしろそんなの気にせず、自分を活かすファッションや、求められる服装をする方が大人だとは思いませんか?」

「…それは…確かに……」

「侑理、結構簡単に丸め込まれていやがりますね」

「う、うっさいよ真那。納得は出来てるんだからいいじゃない」

 

 真偽の程は定かではないが、筋が通っているように聞こえたのは事実。特に芸能界に身を置いている美九の口から、『求められる服装』という言葉が出てきた事が、発言の説得力を補強していた。それに…侑理自身、分かってはいるのだ。大人っぽい服装をしたところで、美九やエレンの様な本当の大人っぽい魅力を持つ女性に並び立てる訳ではない事は。

 

「うー…ならせめて、ばっちり可愛くして下さいね?流石の真那も、これは褒めざるを得ない!ってなる位に」

「任せて下さい!いやむしろ、言われなくても初めからばっちり可愛くしちゃうつもりでしたからねっ!」

「頼もしいような、何か不安なような…と、とにかく宜しくお願いします」

 

 めらめらと燃えるような美九に頼めば、次の瞬間には服を選びに駆けていく。自分ではなく他者の服を選ぶ為にここまでやる気になれるのは大したもの…と一瞬思った侑理だったが、よく考えたら侑理も真那の服を選ぶ時には毎回やる気に満ちていた。

 美九が着てほしい服を選ぶという事で、今回侑理達は一緒には回らない。という事で、暫しの間侑理は待ち…美九は戻ってきた。

 

「お待たせしましたー!さあ侑理さん、早速着てみて下さいー!」

「わわっ、押さなくても試着室には行きますから…!」

「あ、それか私が直接着せてあげても……」

「それは流石に結構ですっ!」

 

 シャッ、と勢いよくカーテンを締め、手をわきわきさせながら入ってこようとした美九をシャットアウト。流石にカーテンを開けてまで入ろうとはしないようだった。そんな事をしたら普通に店員に怒られるか、最悪出禁になりそうなものなのだから当然といえば当然だが。

 そうして侑理は、渡された服を見つめる。それを着た自分の姿を想像しながら着替えていき、着替え終えたところで鏡を使ってすぐに確認。十数秒程、じっくり自分を見つめ…それからカーテンを開く。

 

「…どう、かな…?うち的には、その…意外と悪くないと思うんだけど……」

 

 清潔感のある白のブラウスに、明るくも柔らかな色合いを見せるピンクのカーディガン。動き易いライトブラウンのミニスカートに、ここまでの明るい色は打って変わって黒一色のニーハイソックス。そして普段のショートハーフアップから二つ結びに変えた髪型を纏める、二つの細い赤リボン。自分がよくする格好からはかけ離れた…とは言わずとも、結構違う印象になる服装となったのが、今の侑理。

 その侑理を見て、真那と美九は沈黙する。数秒間の無言を経て、真那が何か言おうとし……びっ、と美九が手で制する。

 

「…侑理さん。カーディガンの袖を、もう少し手の側へ伸ばしてもらえますか…?具体的には、手の甲が概ね隠れる位に……」

「へ?あ、えっと…こうです……?」

 

 妙に静かな美九の要望。意図がいまいち読めないながらも、侑理は袖を引っ張り手の甲まで隠す。そして指だけが見える状態で、こうかな?と軽く手を振り……

 

「ぐっっっっじょぶです侑理さぁぁぁぁんっ!可愛いですっ!可愛い可愛いウルトラスーパーデラックス可愛いですぅううううっ!」

「ひぃぃぃぃッ!?」

 

 次の瞬間、感情を爆発させたような美九に抱き付かれた。目にも止まらぬ速度で抱き締めてきたかと思えば、顔に頬擦りをされていた。

 

「そうですそれですそれなんですよぉ!私が望んでいたのは、その萌え袖なんですぅー!」

「その萌え袖はもう美九さんからは見えなくなってると思うんですけど!?ちょっ、ち、近い!ほんとに近いですってぇ!」

「いいんです、一瞬で目と脳に焼き付けましたからっ!はぁぁ、思った通りでした〜♪やっぱり侑理さんは懐っこさと小悪魔っぽさを併せ持つ後輩の女の子感がぴったり合います〜♪」

「頬擦りしながらしみじみとするの止めてくれませんかねぇ!?っていうか、何その属性!?うち、そんなピンポイントな適性あったの!?」

 

 とにかくご満悦そうな美九ではあるが、抱き締められたまま頬擦りを繰り返される侑理としては堪ったものではない。そしてこうも激しいスキンシップをされてしまえば、まだ買ってもいない服がしわくちゃになってしまうのだが…それを美九は全く気にしていない様子だった。流石に普段から気にしていない訳ではないだろうが、恐らく今はそれが頭から吹っ飛んでいた。……先程の侑理の様に。

 

「余程お気に召したみてーですね…」

「軽く引いてないで助けてよ!?これもう多分襲われてる!襲われてるに該当するよ!?」

「いやでも、今の美九さんを止められる気がしねーというか……」

「それはうちもそう思うけどッ!全く以って同感だけどもッ!」

 

 うわぁ…という顔で見ているだけの真那に必死で救助を求めるも、とにかく真那は嫌そうな様子。…ただまあ、その気持ちも分からない事はない。侑理とて、逆の立場なら巻き込まれそうだと思って気は進まない事だろう。

 とはいえその後、なんだかんだで真那は美九を引き剥がすのに力を貸してくれた。正直今の美九はちょっと怖いレベルであった為、嫌々ながらの助力でも侑理は感謝しきりだった。

 

「はぁ…はぁ…疲れた……」

「お疲れですかー?それなら抱っこしてあげますよー?」

「全力でお断りさせてもらいます…。…けど、そっか…なんかこのカーディガン、サイズが大きいと思ってたけど、こういう事やる為に上のサイズにしてたんだ……」

 

 もう一度萌え袖を作り、その状態で鏡を見る。…確かに、我ながら可愛いと思う。更に言えば、サイズが大きい分少しだぼっとしている点も緩さのある可愛さに繋がっているような気がするし、全体的に女子学生の制服っぽいコーディネートである事も、美九の言う『後輩感』を出せている気がする。言動こそアレだが、本当にアレだが、やはり美九のセンスは信頼が置けるもので……そこでふと、侑理は大事な事を思い出す。

 

「…あ、ところで…真那は?真那は今のうち、どう思った?」

 

 視線を鏡から真那に向ければ、真那は「私に?」と自分を指差す。それはそうだよ、と侑理はすぐに頷いて返す。

 だが、真那が積極的に感想を言ってくれない事は、一度目の試着の時点ではっきりしている。故に訊きこそしたものの、侑理はあまり期待をせず……

 

「…私も、良いと思いますよ。普段の格好も侑理らしくて良いと思いますけど、偶にはそういう格好をしてみてもいいんじゃねーでしょうか」

「…………ふー、ぅ…。──やっぱり好き!真那だぁいすきっ!」

「まあそうくると思っていやがりましたよッ!あーもうッ!」

 

 美九の行動を否定出来ない位には、再びはしゃいで真那に抱き付いてしまうのだった。

 

 

 

 

 意外と可愛い系の服も良いかもしれない。そう思わせてくれた侑理への服選びは終わり、続いては真那のターン。美九が、今度は真那に着てほしい服を選ぶ時間。

 

「ふっふっふー、期待していて下さいね真那さん。これから真那さんにも、侑理さんに負けない位可愛い服を選んであげますからねー」

「いや全く期待してねーですし、する気もねーですけど…まあ、さっさと選んじまって下さい」

 

 下手に文句を言ったり対抗するより受け入れてぱぱっと済ませた方が早いと判断したのか、取り敢えず拒否はしない様子の真那。勿論侑理も反対するつもりはない。むしろ、美九のセンスは間違いないと十分に分かったのだから、そんな美九が今度は真那をどう可愛くしてくれるのか楽しみでならないのだ。

 

「けど、あれだよね。今美九さんはうちに負けない位…って言ってたけど、真那だったら全裸でもうちに圧勝だよね」

「そんな勝ち方ぜってー御免ですけどね。…と、いうか…侑理は時々そういう感じの事言いやがりますけど、ちっとばかり自分を過小評価し過ぎじゃねーですか?」

「そんな事ないよ。だって真那は世界一可愛いもん。その真那と比べたら、誰だって負けるって」

「…まぁ、侑理がそういう事にしてーってなら、それでも良いですけど……」

 

 そういう事にしたいのではなく、これが事実。真実で真理。…と言いたい侑理だったが、多分真那はまた軽くあしらうんだろうなぁと思い、今回は言わないでおいた。

 

「真ー那ーさん♪真那さんが間違いなく素敵になる…あ、勿論今も素敵ですよ?…コーディネートを仕上げて来ましたよ〜!」

「へいへい、それじゃあ早速……」

「あ、それと真那さん。真那さんはヘアゴムを外して、ストレートの状態にしてみて下さいー」

「……?そりゃまあ、この際それ位しても構わねーですけど……」

 

 選んできた服を受け取り、真那は試着室の中へ。その直前、髪型へのリクエストを受けた真那は小首を傾げており…侑理は美九と顔を見合わせる。

 

「真那さん、もしや髪型一つで印象ががらっと変わる事を分かっていないとか……」

「うーん…流石の真那も、それを全く分かってない事はないと思います。ただ、ほんとに真那は自分の可愛さを理解していないというか、多分髪型変えたところで自分はそんなに…って思ってるのかと」

「ははぁ、それはありそうですねー。…でも、ふふっ」

「…美九さん?」

「あぁいえ、本当にお二人は仲良しさんなんだなぁって思っただけです。お二人を見ていると、一方的じゃない関係…お互い遠慮のない関係性だって伝わってきますから」

「…そう、ですか?ふふっ、ふふふっ…そうです?伝わっちゃいますー?」

 

 遠慮のない関係、気心の知れた間柄。それは言われるまでもない事なのだが、それを誰かに言われるというのは嬉しいというもの。思わずにやけてしまう侑理だったが…気付いたら美九も嬉しそうな顔をしていた。……上手く乗せられてしまったのかもしれない。

 

「あー、侑理?美九さん?…これは、見せた方がいーんで…?」

『むしろ見せないという選択肢があ(る・あります)!?』

「そ、即答……」

 

 カーテンを僅かに開け、姿は出さずに問い掛けてきた真那に、侑理は美九と速攻で返す。当たり前である。見せた方が良いに決まっている。むしろここまでやっておいて、どんな服装なのか見せないでどうするんだという話である。

 

「それじゃあ、まあ…こういう感じになりやがりましたけど……」

 

 ほんのり恥じらうような声と共に開かれるカーテン。姿を現した真那を見て……侑理の思考は、停止。

 

「…………」

「あ、あの、侑理…?侑理ー……?」

 

 フリーズ。処理落ち。ロードエラー。暫しの間、視界から得られた情報を脳が受け止めきれず、時間が掛かってしまう。侑理の頭の上に、読み込み中のあのマークみたいなものが浮かび上がっ……てはいないものの、そういうのが出ている気がする位には認識出来ず…それでもやっと、頭が真那の服装を理解し始める。

 袖口がフリル状になった白のブラウスに、リボン風のベルトが付いた群青色のスカートと、これまた真っ白なハイソックス。そして、ストレートとなった髪型。一見すれば、それはシンプルなコーディネート。ともすれば、無難に思われるかもしれないチョイス。だが……

 

「──流石に犯罪じゃないかな」

「何が!?」

 

 侑理は思った。思っていた。これは、脳を焼かれると。これまで真那に対して持っていたイメージ、抱いていた印象を焼き尽くされ、新たに刻まれていく……今正に、侑理はその最中にあった。

 

「いや、だって……え、お嬢様?真那って実はお嬢様だったの?いやお嬢様だったんだよね?今までうちを欺いていただけで、お嬢様以外の何者でもないよね?これ詐欺だよ?マナマナ詐欺だよ?」

「いやいやいや……まあ確かに、私も鏡を見た時は一瞬『え、ここに映っているのはどちら様で……?』とは思いましたけど、流石に混乱し過ぎじゃねーですか…?」

「混乱するよ混乱するって混乱しやがりますわよ。だってこんな…知らないよこんな真那。このうちが、相棒にして親友にして付き合い激深のうちが知らないこんなにも可憐で美目麗しい気品あるお嬢様みたいな真那ぁああああああああ可愛い綺麗素敵可愛い美しい最高ぅふぅううううぅぅぅぅっ!!」

「ぎゃああああああぁぁッ!?」

「あぁもう駄目反則だって反則過ぎるってぇっ!こんなのメロメロにならない訳ないじゃんいや元からメロメロだけどもうこれメロメロの限界突破だって可愛いと美しいの暴力過ぎるってぇええぇっ!」

 

 まともな思考は頭から吹き飛び、タックルせんばかりの勢いで侑理は再び真那に抱き付く。そのまま試着室に二人でインし……真那の頬に、触れる。

 

「──うちのお嫁さんに、なってくれる?或いは、旦那様になってくれる?」

「馬鹿な事言ってんじゃねーですよぉぉぉぉおおおおおおッ!」

 

 気付けば、侑理はプロポーズをしていた。なんか言ってしまっていた。だがこれは、それもこれも、全て真那のせいなのだ。偏に真那が素敵過ぎるのがいけないのだ。

 

「……はっ。というか、美九さんは……」

 

 目一杯密着するようにして侑理が真那を抱き締める中、真那が呟く。何故今他の女の事を……と思った侑理だったが、確かにあの美九が一言も発していないのはおかしな話。

 一体何がどうしたのだと侑理が振り向けば、そこにはちゃんと美九がいた。…いたのだが……。

 

「はぁぁ…♪ふふっ…はぁぁぁぁ……♡」

 

……なんというか、トリップしていた。余程真那の姿が気に入ったのか、とにかく幸せそうな顔をしていた。

 

「……側から見たら、通報されてもおかしくねーですよ、あれは…」

「う、うん…。…そういえば…兄妹だから当然…かもしれないけど、髪を下ろした真那って、女の子の姿をした士道にぃとそっくりだよね?…もしかして美九さん、そういう意味でも感激してるんじゃ……」

「だとしたら、それに私はどう答えろと……?」

 

 それはうちにも分からない、と侑理は真那から目を逸らす。無論そっくりと言っても真那の方が若干幼い容姿なのだが…美九であれば、それもまた良しと考えている事だろう。少なくとも、侑理ならそう考える。

 

「…こほん。侑理、少しは冷静になったんで?」

「まぁうん一応。精神的には、世界の中心で真那への愛を叫びたい感じだけど」

「騒音被害で近所迷惑になるからやらねーで下さい。後、着替えてーんで蹴られたくなかったら離れて下さい」

「正直今の真那に蹴られたらそれはそれで嬉しい……あ、ごめん。離れます」

 

 お嬢様真那のキックなら一度は受けておきたい…と大分不味い思考になっていた侑理だが、真那の本気で嫌そうな瞳を見て即刻退散。真那が本気で嫌がっているのに我を通そうとするなど、真那好きの風上にも置けない…というか、友達として普通に駄目に決まっている。それに真那は恥じらってこそいたようだが、今の格好についてはそこまで嫌そうな気配はない。それは即ち、何かの拍子にまた同じような服装をしてくれるかもしれないという事であり、それならこの辺りで気持ちを鎮め、真那が今の服装自体を嫌に思ったりしないようにするのが賢明というもの。だから侑理は大人しく待つ事にし、真那は嘆息と共にカーテンを閉め……るかに、思われた。されど、カーテンは閉まらなかった。閉じられる直前……ばっ、と手を突き出した美九が、その手でカーテンを掴んだ事で。

 

『……美九さん?』

 

 試着室の中と外、その双方から共に怪訝そうな声が…というか侑理と真那が声を発する。しかし美九は何も言う事はなく、ゆっくりとカーテンを再び開く。そして無言で試着室へと入り……がしっと真那の両肩を掴む。

 

「あ、あの、美九さん?美九さーん……?」

 

 背丈の関係から見下ろす形の美九と、見上げる形の真那。動揺した様子で真那は再度呼び掛けるが、相変わらず美九は何も言わない。何も言う事なく…だからこその無言の圧と物理的な行動で、真那を試着室の壁へ追い詰める。

 明らかに普通ではない美九の雰囲気。そして美九はそのまま顔を近付け……真那に向けて、囁く。

 

「──I Love You」

「ちょっとぉおおおおおおおぉッ!!?」

 

 飛び込むようにして、侑理は真那と美九の間に割って入る。フルパワーで美九の両手を引き剥がし、そのまま真那を抱き寄せる。

 

「あぁんっ!邪魔しないで下さい侑理さぁんっ!」

「いや何言っちゃってくれてるんですか貴女はッ!真那はうちのですよッ!?」

「私は侑理のものでもねーんですけど!?」

 

 身悶えするように自身の肩を抱く美九に対し、あげませんからね!…と侑理は強調。真那に強めの突っ込みを返されたが、とにかくこれは譲れない、譲る訳にはいかないのだ。

 

「というか何なんですかさっきまでの無言は!」

「あまりの可愛さと綺麗さに言葉を失っていました!」

「それは分かります!」

「だからこの思いを届けさせて下さいっ!」

「駄目ですー!言葉で届けるのは一向に構いませんけど、それ以上の事は許しませんからねっ!」

「勝手に話を進めねーでくれませんからねぇ!?…くっ…いつになく侑理の力が強い……!」

 

 ぎゅぅぅ…!と真那を抱き締めるのはそのままに、美九の頼みを突っ撥ねる。こんなに強く抱き締めたら絶対試着している服に皺が付いてしまうのだが…今の侑理に、そこまで気を配る余裕はなかった。

 

「むむむ…かくなる上は、侑理さんごとハグしちゃいますー!」

「おわっ!?なんて欲張りな…!」

「可愛い可愛い真那さんと侑理さんを一度に抱きしめられるチャンスがあるなら、そんなの逃せる訳がないじゃないですかー!ふふふふ、優しく抱っこしてあげますからねー♪」

「退路を塞ぎながら言う事じゃないですよねぇそれ!ぐぅっ、試着室じゃ逃げようがない…!」

「だから…勝手に話を進めてんじゃねーですよぉぉぉぉおおおおッ!」

 

 狭い試着室の中で、どったんばったん大騒ぎ。完全に欲に目が眩んでいる美九だが、理性が弾け飛んでいるからか逆に反応速度が凄まじく、すり抜けようにもすり抜けられない。

 そんな中、いよいよ真那もキレる。強引に振り解かれ、更に試着室内はカオス状態に。侑理が無事に脱出出来るのか、それとも美九の魔の手に囚われてしまうか、或いはキレた真那に二人揃ってコテンパンにされちゃったりするのか。ここからの展開は、到底予想出来るものではなく……

 

「──お客様?大変申し訳ないのですが、店内で騒がれると他のお客様のご迷惑となるので、お静かにして頂けますか?」

『あっ……』

 

 魔術師(ウィザード)二名と精霊による試着室内での大騒ぎは、責任者らしき男性の登場によって、何とも予想外の形で閉幕するのだった。

 

 

 

 

「はぁ…ひでー目に遭いました……」

『全く(だ・です)よねー』

「元凶二人が何同調してやがるんですかねぇ…!」

 

 ギロリ、と睨みを効かせてくる真那から目を逸らす。店員から「これ以上騒ぐなら出ていってね?(意訳)」と言われてから十数分後。現在侑理達は、冬服と美九チョイスの服をそれぞれ購入した上で、デパートを後にしていた。…冬服だけでなく、美九が着てほしいという服も購入したのは、やはり皺が付いてしまっていたのと、店員の方々への申し訳なさからである。

 

「ほんとに、侑理と美九は混ぜるな危険が過ぎるってんです……」

「んふふー、それは私と侑理さんの相性が良いって事ですかー?そういう事ですよねー?」

「あ、ちょっ、腕を組もうとしないで下さい……!」

「あーん、振られちゃいましたよ真那さーん」

「だからってこっちに来るんじゃねーですよ…!」

 

 引っ付いてきた美九を侑理が突っ撥ね、美九が弾かれるように擦り寄れば今度は真那も突っ撥ねる。酷い!という雰囲気を出していた美九だったが、数秒後にはけろっとした顔をしている辺り、こういう反応にも慣れているのだろう。

 

「…でも、良かったんですか美九さん。うちと真那の服、全部自分一人で支払うなんて……」

「いいんですよー。私が着てほしいって思って選んだ服なんですから、むしろ私が払うのが筋ってものですしー」

「そう言ってくれるならまあ、ありがたく受け取りますけど……」

「…それに、今日私はとっても楽しかったんです。お二人とこれまでより仲良くなれた気もしますし、感謝するのは私の方なんですよ。侑理さん、真那さん」

 

 数歩先を行き、それから振り向いた美九が見せる笑み。今日何度も見せてきた欲望に忠実なそれではない、柔らかく穏やかな微笑み。そんな笑みを見せられてしまえば、侑理も表情が緩んでしまう。隣を見れば、真那も同じように頬が緩んでいて……これもまた、美九の強みなのかもしれない。

 それに…なんだかんだ言って、美九は器が大きいのだろう。支払いの件もそう。趣味に走りつつも、思いきり興奮しつつも、ちゃんと服を選んでくれたのもそう。とにかくスキンシップが激しい美九ではあるが…不思議とそこまで不快感はなかった。……貞操の危機は若干感じもしたのだが。

 

(…うん。ちゃんと感謝、しなきゃだよね)

 

 楽しかったのは、侑理も同じ事。良い服を選んでもらえた、自分の可能性にも気付かせてくれたという点は本当に感謝している。

 しかし、感謝していてもそれを心に留めておくだけでは意味がない…訳ではないが、ちゃんと伝えなければ、思いは伝わらない。折角の感謝なのだから、伝わってくれた方が良い。だから侑理は美九を追い越すように前へ出て……

 

「という訳で、私が選んだ服、ちゃーんと着て下さいね♪あ、それか今からお二人の部屋に行って、服にぴったりな下着を選んであげても良いですよー?なんなら今から下着を買いに行っても……」

「……ほんと…ぶれねーですね、この人は…」

「はは…ぶれないね、ほんとに……」

 

 にっこにこの笑顔で更に欲を満たそうとする美九の姿に、侑理は真那と呆れ笑いを交わすのだった。…自分が支払う事で着るよう仕向けるのを企んでいたのなら、誘宵美九という女性は、ほんわかしているようでその実結構抜け目ないのかもしれない。

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