デート・ア・ライブ DEAR EL MANA   作:シモツキ

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第八十八話 夕飯時に

 冬服と着てほしい服、それぞれセットで一つずつ購入した…もとい、プレゼントされた侑理は、真那及び今回のコーディネートの協力者である美九と共に精霊マンションにまで戻ってきた。

 

「うー、寒かった…。やっぱりこの時間帯になると、寒さも深まってくるよねー……」

「寒さが身に染みるとは、正にこの事でいやがりますね……」

 

 敷地の前、丁度隣の五河宅との境辺りに着いたところで、侑理は自分の二の腕に手を擦り付けながら感情を漏らす。すると真那も言葉を発し、二人でうんうんと頷き合う。

 

「分かりますー。…因みに、イギリスの冬ってどんな感じなんですかー?」

「イギリスの冬は…んー、寒さ的には日本とそんなに変わらない…と思います。あ、でもあれか。日本は東西に長いから、日本って括りだと適切じゃないか……」

「まあ取り敢えず、この辺りの地域とはそこまで変わらねーって事でいいんじゃねーでしょうか。あーでも、イギリスの冬っていうと、曇り空ばっかりだった気もしやがりますね」

 

 そういえばそうだった、と真那の言葉に再び頷く。日本でもイギリスでも、冬の外出は防寒着が欠かせない。出来る事なら、買ったジャケットを早速着て帰りたいところだったが…色々あったせいで速攻デパートから退出したい状況だったのが悔やまれる。…自業自得な部分も大きい為、文句は言えないが。

 

「さて、それじゃあ改めて…美九さん、今日はありがとうございました。正直、全面的に感謝…する訳じゃねーですが、服を選んでくれた事と支払いの事は、本当にありがてーと思ってます」

「うちも、ありがとうございました。服、大事に着ますね」

「はいー、どう致しましてー。……って、あれ?これは、私を部屋には招いてくれない流れ…?」

『そうで(いやがりま)すけど?』

「あーん、そんな仲良く冷たい事を言わないで下さいよー!」

 

 ぷくー、っと頬を膨らませる美九に対し、駄目です、と両腕を交差させて再度拒否を示す。しかし言動程美九は不満そうにしている訳ではなく、侑理も実はそこまで拒絶していた訳ではない。要は、冗談に冗談で返した訳である。まあ尤も、隙を見せれば速攻で懐に飛び込まれるか、逆に胸元に抱えられているところだろうが。

 ともかく美九はどうしても部屋に上がりたい訳ではない様子。そして美九はこのマンションに住んでいる訳ではない為、本日はこれにてお別れ……となったところで、五河宅から微かに声が聞こえてきた。

 

「あれ、今の声…琴里?」

「そんな感じでいやがりましたね。それも、何か叫んでいたような……」

「…はっ!まさか琴里さんとだーりんが、兄妹から男女の仲に……!?」

『いやいやいや……』

 

 驚愕の面持ちを浮かべる美九だが、流石にそれはないだろうと侑理達は否定。…まあ、琴里がおにーちゃん大好きなのはもう疑う余地がないのだが、理性的で良識的な琴里が、他の精霊達と士道との関係に巨大な亀裂を入れ得る選択をするとは到底思えない。…いやまぁ、絶対あり得ないとまでは言えないが…流石にこんな何でもない日の夕方に、という事はないだろう。多分。

 ただ、それならそれで今の叫び声はなんなのか。単に何か騒いでいただけなら良いが…この五河宅には、エレンが侵入していた過去がある。それを思えば、何か聞こえたなぁ…で流す事は出来ず、念の為確認をするべく玄関口へ。

 

「…現実的に考えるなら、虫が出た…って事も考えられるよね。虫なんてどの時期でも嫌だけど、冬に出てきたら尚更ぎょっとするし……」

「それは嫌ですねー…私もいきなり虫とか男性とかが物陰から出てきたら、悲鳴を上げちゃいますし……」

 

 チャイムを鳴らして反応を待つ中、しれっと美九によって男性が虫と同列に扱われる。侑理はその部分については触れないようにし…数秒後、扉が開く。

 

「お邪魔しまー……あ」

「ほぅ、誰かと思えば美九に真那、侑理であったか」

「挨拶。少し早いかもしれませんが、こんばんは」

 

 この家の住人たる士道か琴里が出てくるものかと思っていた侑理だが、姿を現したのは耶倶矢と夕弦。更によく見れば、リビングに繋がる扉からちょっぴり顔を出す形で七罪もおり…奥から聞こえてくる声からして、精霊達が集まっているらしい。

 

「こんばんはです。今し方、琴里さんの叫びみてーなものが聞こえた気がしやがったんですが…何かあったんで?」

「返答。確かに琴里と士道は何やら話をしていましたが、特に気にするような事はない…と思います」

「…まあ、それを訊いた二人に対する琴里の有無を言わせない雰囲気からして、追求されたくない何かはあったっぽいけどね……」

 

 来客が知り合いでほっとしたのか、七罪が話しながら歩いてくる。どうやら本当に何もない…という訳ではないようだが、皆が平然としている辺り、危ない事ではないのだろう。

 

「して、お主等はどうしたのだ?八舞の好敵手たる機双の魔術師(デュアルマキナ・ウィッチ)の二人に美九とはまた、珍しい組み合わせではないか」

「デュアル……え、なんですって?」

「代弁。機双の魔術師(デュアルマキナ・ウィッチ)です。耶倶矢が嬉々として考えた名前ですよ」

「ちょっ、そういう事言わなくていいし!」

 

 ぽふり、と夕弦が耶倶矢の肩に手を置きつつ言うと、耶倶矢はかぁっと顔を赤くする。その恥ずかしがる耶倶矢の様子に美九は何やら興奮していたが、これにも侑理は触れない事にして咳払いを一つ。

 

「こほん。ここに来たのはさっき真那が言った事が気になったからで…さっきまでは、美九さんに服を選んでもらってたんです」

「…え、大丈夫なの?っていうか、大丈夫だった?」

「何か変な事されてない?絶対何の役にも立てないけど、話位なら聞くわよ…?」

「ちょっとー?耶倶矢さんも七罪さんも、私を何だと思ってるんですかー?」

「あはは…まあ、端的に言うと……危うくデパートを出禁になりそうだった、かな……」

「当惑。それはそれで何があったのですか……」

 

 速攻で心配をされ、侑理は真那と顔を見合わせつつ苦笑い。美九は不服そうだったが…こういう時は、日頃の行いがものを言うのである。

 

「もー、酷いですよぉ。…ところで、だーりんと琴里さんはどちらに?」

「この匂い…ひょっとして、兄様は夕飯の準備中なんじゃねーですか?」

 

 流れを切り替えるような美九の問いに対して、予想の形で返答する真那。確かに玄関には、焼き魚らしき香ばしい匂いが漂ってきている。そして真那の予想は当たっていたらしく、更に言えば十香や四糸乃もリビングにいる(というか侑理達が来るまでは各々準備を手伝っていた)んだとか。

 と、そこで名前を出したから…という訳ではないだろうが、リビングから更に一人が姿を現す。

 

「なんだ、皆やけに遅いと思ったら、真那達だったんだな」

「はーい♪貴方の美九と、可愛い真那さんと侑理さんですよー」

「違います美九さん。とびきり可愛くて格好良い真那です。だよね?士道にぃ」

「あー…取り敢えず、上がったらどうだ?外よりはマシだろうけど、玄関だって寒いだろ?」

 

 出てきた人物、士道は明らかに話を逸らしたが、ここで追求をする程侑理は意地悪ではない。それに実際寒いとも思っていた為、お言葉に甘えリビングへ入る。

 

「あ…真那さん、侑理さん……それに、美九さん…」

「やっほー三人共。いよいよ皆集まってきたねぇ」

「確かに後は折紙がいれば勢揃いね。…だからって本当に来たら驚くけど……」

「なんにせよ、これは賑やかな夕餉になりそうだな!」

 

 話に聞いていた通りリビングに残って準備の手伝いをしていた十香、琴里、四糸乃(とよしのん)とも侑理は挨拶。食卓には既によく炊けた白米や湯気を上げる味噌汁が並べられており、玄関にも漂っていた焼き魚の匂いも一層強く感じられる。本日の夕食タイムは、もう間も無くといったところなのだろう。

 

「わぁ、美味しそうです〜。だーりん、私達も一緒にお呼ばれしちゃってもいいですかー?」

「いや美九さん、いきなり来てそれは無理じゃねーですか?兄様だって、人数分しか用意してねーでしょうし……」

「ふっ、安心しろ真那。三人分位なら、十分賄えるからな」

『えっ?』

 

 不敵な笑みを浮かべた士道の言葉に、侑理や真那だけでなく、言い出した美九までもが目を丸くする。そしてそこから十数分後…士道の言った通り、五河家のリビングには、侑理達の分も含めた全員の夕食が出来上がっていた。

 

「さ、皆。冷めない内に食べてくれ」

『頂きまーす』

 

 流石に食卓だけでは狭過ぎるという事で、そちらとTV前にある別のテーブルとで二組に分かれて侑理達は食べ始める。

 

「…はふぅ…この温かな味噌汁が、優しい味噌の味が、身体に染み渡るようだぞシドー……」

「分かります。お味噌汁を飲むと、なんだか落ち着きます……よね」

 

 ほっこりとしたような、十香と四糸乃の声が聞こえてくる。侑理も味噌汁を一口啜った時、同じような気持ちになった。その時は確かに穏やかな気持ちだったが…今は塩鯖相手に悪戦苦闘の真っ最中。

 

「む、むむ……」

「あーあー、身がどんどん崩れてるじゃねーですか。相変わらず侑理は魚の骨を取るのが苦手でいやがりますね…」

「うぅ…助けて真那ぁ……」

 

 我ながら情けないと思いつつも、真那へと泣き付く。侑理はどうにも魚の骨を上手く取れないのだ。一方真那は器用に取れている辺り、純日本人か否かの部分が分かれ目になっているのかもしれない……というのは、流石に無理があるだろうか。…多分、無理があるのだろう。

 

「ほぅ、中々の箸捌きではないか。いつぞやの勝負を思い出すというものだ」

『勝負?』

 

 訊き返すと共に、小首を傾げる侑理と真那。すると耶倶矢は夕弦と頷き、続けて夕弦が口を開く。

 

「説明。夕弦達はこれまで数多くの勝負をしてきたのです。そして耶倶矢が言ったのは、嘗て行った箸による豆移し対決及び、玩具の番犬を起こす事なく餌を取っていくゲーム対決の事でしょう」

「豆移しは我の、餌取りは夕弦の勝利であったな。冥界の番犬が如き存在を前にしても一切手元が狂わぬ夕弦の姿は、見ていて惚れ惚れするものであった……」

「回顧。それを言うなら、速さと正確さを高い次元で両立していた耶倶矢の豆移しこそ、思わず見惚れてしまう程のものでした」

「そ、そう?でもやっぱ、夕弦の方が凄いって。あの全く動じない姿を見て、私心から格好良いし頼もしいと思ったし」

「謙遜。やはり凄いのは耶倶矢の方です。焦る事なく進めていったあのさまに、夕弦は感服を禁じ得ませんでしたから」

「いやいやいや、夕弦の方が凄かったってばー」

「連呼。いやいやいや、耶倶矢の方が……」

 

 懐かしむような雰囲気から、段々と二人の頬は緩んでいく。互いに称賛し合う八舞姉妹は、その内仲睦まじく互いの事をつっつき合う。…これを見せられた侑理は、一体どうすればいいのだろうか。

 

「…えぇと…どうして二人はそんな妙な勝負を……?」

「二人は元々『八舞』っていう一人の精霊だったのよ。それが何故か二人に分かれて、それからは真の八舞を決めるべく色々勝負をしてたんだって。で、二人共表面上はいがみ合ってたみたいなんだけど……」

「実際にはむしろ、こういう感じだった…って訳でいやがりますか」

 

 そういう事、と真那の返しに琴里は肩を竦める。因みに真の八舞を決めるとは即ち、一方がもう一方を吸収するという事、そして耶倶矢も夕弦も相手に対しては自分が真の八舞になると言いつつも、本当は自分が吸収される事で相手を生かそうとしていたらしい。既に過ぎた事であるからか、琴里はさらりと語っていたが…きっと、互いを思い合うが故にぶつかっていたという耶倶矢と夕弦が分かり合うまでには、苦難困難があったのだろうと侑理は思った。そして、そんな二人がこうして今、仲良く過ごす事が出来ているのも、士道の封印能力があってこそなのだろうと、話を聞きながら思っていた。

 形は違えど、侑理も真那とぶつかり合ったのだ。元の仲に戻れたのは、士道が繋ぎ直してくれたからなのだ。だから…八舞姉妹に対し、侑理ははっきりと親近感を抱いていた。

 

「…でも、ほんとに流石だよね、士道にぃは。うち等三人分を追加で用意しても問題ない位には、食材を多めに用意して作ってたんだもん」

「同感です。やはり兄様は、他の追随を許さねー兄様です!」

「あー…実際には、そんな凄い事でもないけどな。少なくとも、真那達が来る可能性を考えていたとか、そうなった場合に備えて念の為多めに用意しておいたとか、そういう事では全くないし」

「…そうなの?え、だとしたらなんで食材が人数分以上にあったの……?」

「それは……ほら」

 

 苦笑をし、横を見やりながら士道は肩を竦める。そしてその視線の先、士道の隣にいるのは、幸福そうに食べる十香。彼女の食は他の面々より明らかに早く進んでおり…「おかわりだ、シドー!」と、これまたご機嫌そうに言っていた。それに士道は応え、空になった茶碗に大盛りの白米をよそっていた。

 元いた人数分以上の食材があったのは、人数が増える事を想定していたのではなく、単に一人分では物足りない少女がこの場にいるから。その答えに気付いた侑理は、先の士道の様に思わず苦笑いをするのだった。

 そんなこんなで談笑をしつつ、精霊達と共に楽しく夕飯の時間を過ごす。そうして食事を終えた後は、皆で手早く片付ける。こうしていると、まるで皆が家族の様で…温かさを、感じられる。

 

「耶倶矢!夕弦!今日もげぇむで勝負だ!今日こそ私は勝ってみせる…!」

「呵呵、その意気や良し。だが……」

「悠然。日々競い合い腕を磨いている夕弦達に、負ける道理はありません」

「あー、私もやりたいです〜!混ぜて下さーい!」

「あ……四糸乃、そろそろあの時間じゃない?ほら、四糸乃がよく見てる番組の……」

「え?…あ、そうでした…!ありがとうございます、七罪さん」

 

 夕食の後も、精霊達は賑やかなもの。わいわいと、ゲームやTV番組の事を話しており、侑理も混ざろうとした…が、そこで琴里にちょんちょんと肩をつつかれる。そしてその琴里からのアイコンタクトを受け、真那と共に廊下へ行く。

 

「琴里さん。十香さん達のいるリビングから廊下に移動したって事は…精霊か、DEM関係なんで?」

「そういう事よ。さっき…それこそ私達と話した後に、士道が精霊と遭遇したらしいわ」

 

 琴里の口から発される、意外な情報。その言葉に、侑理は真那と顔を見合わせ……言う。

 

「…なんか、ちょっと前にも似たような話をした覚えがあるんだけど……」

「同感よ。全く、士道はどんな縁を持ってるんだか……まあ、私達的には、ある意味ありがたくもあるんだけど」

 

 困った顔で肩を竦める琴里に、侑理は苦笑で返す。確かに〈ラタトスク〉の目的は精霊の保護であり、それは士道自身も望む事である以上、探し回ったり空間震と共に現界するのを待ったりするよりはずっと好都合ではあるのだが、だとしても先月の『折紙が転校してきて、またクラスメイトになった』という出来事に続いて二ヶ月連続というのは、なんというか凄過ぎる。

 

「じゃあ、その精霊はどういう存在なんでいやがりますか?兄様の様子からして、危ない目に遭ったみてーな事はなかったんでしょうが……」

「何でも、空腹で倒れていたところを発見して、住居のマンションまで連れていったんだって。…尤も、正しくは()()()()()()()、意図的に倒れてた…みたいなんだけどね」

『意図的に…?』

「えぇ。精霊の名前は本条二亜。有する天使の力は、彼女の話した通り且つ、士道の認識した通りなら──全知よ」

 

 全知。読んで字の如く、全てを知るという事。一瞬、そんな馬鹿な…と思ったが、すぐに侑理は思い直す。精霊の持つ天使の中には、致命傷レベルの怪我でもみるみる内に再生させたり、時間遡行を実現させたり出来るようなものもあるのだから、全知の天使が存在したとしても、別弾おかしな事はない。

 

「…つまり、その二亜って精霊は天使の力で士道にぃの行動を把握して、待ち伏せしていた…って事?…けど、だったらなんて倒れてたの……?」

「恐らくだけど、士道がお人好しだって事も把握してたんじゃないかしら。で、警戒される事なく接触する方法として、倒れている女性を演出した…ってところでしょ。……まあ、士道の話を聞く限りじゃ、シンプルに空腹でへろへろになってた部分もありそうだけど」

「だとしたら、なんというか…締まらねー話ですね……」

「…それと、二亜の天使はただ知る事が出来るだけじゃなくて、これから起こる出来事を決められる…言うなれば、未来の確定能力もあるっぽいわ」

『……ッ!?』

「……でも、それをするには『起こしたい事を漫画の形で描く』必要があるみたいなの。だから、戦闘中みたいな余裕のない状況じゃ使えないだろうし、漠然とした事……例えば、世界から凡ゆる争いがなくなる、みたいな事は実現出来ないか、不可能じゃないけど極めて困難って感じなんだと思うわ。あくまで私の推測だけどね」

 

 森羅万象を知る事に加えて、未来の確定能力すらある。琴里の語る、二亜という精霊の力は絶大であり……それなのに、何というか圧倒される感じはなかった。今し方真那も言ったが、凄まじい力でありながら、どうにも締まらないのが理由だろう。尤も、情報としてただ聞くだけと、実際にその力を目の当たりにするのとではまた違うのかもしれないが。

 

「まあ、何があったのかと、その精霊については理解しました。…勿論、二亜さん?…の霊力も封印しやがるんでしょう?」

「当然よ。どんな精霊であろうと保護するのが〈ラタトスク〉の理念だし…どんな事でも把握出来る力なんて、危な過ぎるわ。それがもし、またDEMの手に渡りでもしたら……」

 

 言葉を紡ぎながら、琴里は表情を固くする。全てを知る事が出来る…それは即ち、情報戦において誇張抜きに世界最強たり得るという事。それそのものに破壊力はなくとも、敵対者の能力、居場所、弱点、今何をしているか、過去にどんな事があったか…そういった事柄を全てを把握出来るアドバンテージは計り知れない。

 だからこそ、力を悪用されないようにする為にも動かなければいけないという琴里の話は、至極筋が通っており…しかしそこで、侑理はある部分が引っ掛かった。

 

「…()()?琴里、また…ってどういう事?」

「っと、その部分を話してなかったわね。どうも二亜はDEMに囚われてたらしいのよ」

「囚われてた…って、ならDEMは既に精霊を手中に収めてたって事でいやがりますか?それに、だとしたらどうして今は天宮市に……」

「それなんだけど、移送されているところを士道が助けたみたいなの。……十二月一日の、あの時に」

『それって……』

 

 侑理は真那と顔を見合わせる。それは、士道が暴走していた日の事。一体あの日のいつ、士道がそんな事を…と思ったが、思い返せば士道が正気どころか自我すら失った状態になった時、或いはその少し前に、彼は空に向けて霊力の奔流を放っていた。〈バンダー・スナッチ〉迎撃の為ではない、あの場では何故放ったのか全く分からない攻撃を行っていた。

 だがもし、あの時を二亜を乗せた輸送機か何かが近くの空を飛んでいたとすれば。士道自身が感知したのか、二亜が何らかの方法で自分の存在を教えたのかは分からないが、その二亜を助ける為の攻撃として放ったのだとすれば。そういう事であれば、辻褄が合う。士道からその話をこれまで聞いた事がなかったのも、正気ではない状態で記憶が曖昧だから…という事ならば、おかしな点はない。

 

「…となると、二亜さんは自分を助けてくれた兄様の事が気になって、接触を図った…ってところでいやがりますかね。いやでも、全知の力があるってなら、接触しなくても調べりゃいいだけのような……」

「んー…むしろそれは、調べた事で余計気になったって感じなんじゃないかなー?本でもゲームでも、気になって調べてみたら満足するどころか余計興味が湧いた、ただの情報じゃなくて実際に読んだり遊んだりしてみたくなった…みたいな事ってあるでしょ」

「あー、確かにそういう事ってあるわよね。…けどまさか、DEMが精霊を捕らえてたなんて…本人はけろっとしてたみたいだけど、あのDEMが精霊を丁重に扱う訳がないし……」

「全くです。人間の私と侑理にすら滅茶苦茶な魔力処置をしやがるんですから、二亜さんも何をされてるか分かったもんじゃねーです」

 

 互いに腕を組み、真那と琴里は頷き合う。二人が言ったのは尤もな発言。真那自身が言った通り、この場には実例が二件もあるのだから、そう考えるのが…そして憤るのが当然の事。されどこの時、侑理はある事を思い出していた。それを思うと、侑理は二人の様に考える事が出来ず……いつの間にか、侑理の思考は内向きになっていたらしい。気付けば真那と琴里が、揃って侑理の顔を覗き込んでいた。

 

「……侑理?何か気になる事でもありやがるんですか?」

「…真那は言うまでもない、っていうか常日頃から言ってるけど…琴里も相当可愛いっていうか、美少女だよね」

「えっ、いきなり何?…ほんとに何……」

 

 じぃっ、と自身を見つめていた二人の顔。その印象は違えど、どちらもハイレベルな容姿の二人。こんな可愛い妹が二人もいるのだから、やはり士道は幸せものだろう、と侑理は何気なく思い……それはそれとして、思わず変な発言をしてしまった、とすぐに琴里に謝罪。

 

「こめん、琴里…あ、でも今のごめんは、心にもない事を言っちゃったとか、そういう意味じゃないよ?」

「全く、美九じゃないんだからいきなりそんな事言わないでよね。…こほん。とにかく今分かっている情報はこんなところよ。そしてもう分かってると思うけど、私達は二亜の霊力を封印する為に、デートを行うわ。日程は次の土曜日よ、二人とも心しておいて」

「次の土曜とは、また性急でいやがりますね…というか、今日会ったばかりでもうそこまで事を進められていやがると?」

「デートの事は向こうから言い出したのよ。どうも〈ラタトスク〉の事まで二亜には把握されてるみたいでね。けどだとしても、私達のやる事は変わらないし、やれる限りの事をするまでよ。身体の事で今日話をしたばっかりなのに、こう言うのは申し訳ないけど…二人の事も、頼りにさせて頂戴」

「申し訳ないなんて思わないでよ。うち等は色々お世話になってるし、そうでなくともうちと琴里は友達なんだから、むしろじゃんじゃん頼ってよね」

「侑理の言う通りです。それに、兄様ももうやる気でいやがるでしょう?なら私達は妹として、兄様の力になるまでです」

 

 笑みを見せ、真那と共に快諾で返す。琴里もまた、こくりと一つ頷いて、同じように笑みを浮かべる。そうしてまた、琴里や士道、それに〈ラタトスク〉にとってはもう何度も行っている、一方で侑理からすれば折紙に続いて二人目となる精霊攻略へ向けて、早速動き出すのだった。

 

 

 

 

「…にしても、十香や四糸乃の時は普通に空間震と共に現れた精霊にこっちから接触して交流をして…って想定した通りの流れがあったのに、なんか段々精霊が転校してきたり、修学旅行先で遭遇したり、知り合いが精霊になったりって、どんどん想定外のパターンばっかり増えてるわね…今回もそうだし、美九や七罪の時なんて想定外過ぎる形で順調だったところから転がり落ちたし、なんでこう思った通りにいかないのかしら……」

「…琴里さんも、いつも大変でいやがりますね……」

「うん…でも士道にぃからすらば、妹とデートしてキスまでする事になったのも中々の想定外だったんじゃないかな……」

「私は……いいのよ。ほら、こういう思わぬ事態ばっかりになってきた事を思えば、むしろ身内っていう初めから信頼出来る相手で想定外の経験を積めた事は、きっと士道にとって大きなプラスになってる筈だし」

((都合が良いなぁ……))

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