電子機器とサブカルの街、秋葉原。京都や奈良を始めとする、外国から見た日本の代表的観光スポットには知名度で劣るものの、一部界隈…所謂クールジャパンと呼ばれる類いに興味を持つ者からすれば、時に日本最大の観光地ともなり得る、ディープな街。昔からそういった土壌があった訳ではなく、今も近年の『オタク文化といえば秋葉原』というイメージから想像されるものとはまた少し変化をしつつあるらしいこの街が、今回のデートの舞台……即ち、精霊との心の戦場となっていた。……因みに今上げた情報は、今日に至るまでに侑理が調べた事である。今度行ってみたいな、と思ったのはまた別の話である。
「真那、侑理、こっちの声は聞こえてる?」
「問題ねーです」
「ばっちり聞こえてるよ」
ヘッドセットから聞こえる琴里の声に、真那に続いて答える。前回…折紙とのデート同様、そして今回は真那だけでなく侑理も、初めからCR-ユニットを纏い街に出ていた。
目的は勿論、士道を守る事と、緊急事態発生時の迅速な行動。精霊に士道が襲われるという可能性は、かなりイレギュラーな状態だった折紙の時より低いだろうが、絶対ないとは言い切れない。加えてDEMに見つかる可能性もゼロではないのだから、備えておくに越した事はない。
「万が一の時は、君達の判断で動いてほしい。…頼んだよ、真那、侑理」
続く言葉は、令音のもの。折紙の一件で大きく損傷した〈フラクシナス〉は今も修理と改修の真っ最中であり、それは即ち何かあっても空中艦からの援護は出来ないという事。加えて今は地下の臨時司令室を用いている為、そういう意味でもこれまで通りにはいかないとの事。今回のデートにおいて、侑理と真那は結構重大な責任を負っているのである。
とはいえ、それはあくまで「もしも」の話。荒事皆無で終わる可能性もある事を思えば、初めから戦闘前提で出撃するよりは気も楽であり…また一つ声が、クルーの一員である箕輪の声が響く。
「来ました!目標……二亜です!」
「……!来たか」
「じゃあ、行くわよ、士道。──私達の
「ああ──!」
交わされる、士道と琴里のやり取り。侑理はあるビルの屋上から、強化された視力で待ち合わせ場所に目を凝らし…二亜の姿を、視認する。
落ち着きを感じる灰色の外跳ねボブに、セルリアンブルーを思わせる瞳。端正であると共に女性的な意味での格好良さを併せ持つ容姿。遠目である為正確な事は分からないが、背格好的には二十歳になるかどうかの女性が、そこにはいた。エレンや美九とはまた違ったタイプの大人っぽさを外見から感じる彼女が、恐らくは二亜、つまりは今回のデートの相手…なのだが……
「…なんというか…洒落っ気のねー格好ですね……」
「…やっぱり、そう思う……?」
ぼそり、と呟く真那の言葉に、侑理も困惑を抱きながら同意で返す。一目で美人であると分かる二亜だが、今の格好はよく言えば着慣れた、悪く言えばくたびれたダウンジャケットとジーンズという、デートらしさがまるで感じられない装い。一応紫のマフラーは悪くなく、着ている二亜が美人なおかげで辛うじてさまにはなっているものの、流石にちょっとアレだった。真那ですら難色を示す辺りがその証左である。
しかも、二亜はその格好で中身が入っていない様子のリュックを背負い、大きなスーツケースを転がしている。そのスーツケースには、折り畳み式らしきキャリーカートすらベルトで装着されている。どう見ても、何か大量の物品を運ぼうとしているようにしか思えない。
「…琴里、これほんとにデートなの…?二亜さんは今月の頭までDEMに囚われてたって事だし、実は色々買い出しに来たかっただけとかじゃないの……?」
「それは……その、割と間違いではないのよね…。どうも二亜は買いたい物が沢山あって、デートはそれも兼ねてるというか、デートのついでに士道に荷物持ちもしてもらおうとしてるっぽいっていうか……」
『えぇ……』
天使の力で色々と把握した上で向こうからデートに誘ってきたのだから、何かしら魂胆があるのだろうとは思っていた侑理だが、こうも私利私欲全開だとは流石に思わなかった。…買いたい物…というのは、十中八九サブカル関係だろう。何か、秋葉原はそういう街なのだから。
「…まあでも、やりたい事をやってもらって、それに付き合う…って事自体は、悪くねーのかもしれませんね。自分の好きなもの、好きな事に付き合ってくれるってのは、気分が良いものでいやがりましょう?」
「…驚いた。真那がそんな視点を持ってるなんて。さっきも服について触れてたし…ひょっとして、美九さんに服を選んでもらってから、何かに目覚めちゃった?」
「な、何かって…変な事言うんじゃねーです。今言ったのは、何もデートに限った話じゃねーでしょうが……」
「はいはい、お喋りはそこまでよ。──士道、選択肢が出たわ」
選択肢。それはAIによって適宜提示される、デートをより良く、より円滑に進める為のサポート。折紙の時と同様、三つの選択肢が発生し、その内容について琴里と司令室のメンバーが迅速に吟味していく。そうして素早く決定にまで至った選択肢を琴里が士道へと伝え……士道は、言う。
「へ、へえ……脱がし甲斐のありそうな格好してくれてるじゃないか」
開口一番、出会い頭に何を言っているんだこの人は。…そう思われそうな発言を、士道は口にした。これが、三つの中から選ばれた内容だった。
一応フォローをしておくと、琴里達はふざけている訳ではない。他の選択肢としては『その服、可愛いよ。よく似合ってる』というのと、『ダサい服着てるな。俺が新しいの選んでやるよ』というのがあり、前者は一見無難そうながら今の二亜の格好を思うとむしろ嫌味に聞こえそうだから、後者は悪く言いつつもお洒落な服を選ぶ事で好感度を稼ぐ事に繋げられる一方、オタクグッズを買う事が目的な二亜を服屋に連れ込むのは逆効果になりかねないからという、まあまあ筋が通った理由で却下されて第三の選択肢であったこれが選ばれた……のだが、それでもやっぱりどうかしてる気しかしなかった。
(というか、最近服を買いに行って、普通に褒めてもらえたうち的には一層嫌過ぎる…これ、初手としては完全に間違いだったんじゃ──)
「うぇっへっへ、何少年、今日あたしとそこまでいくつもりなのー?見た目に似合わず結構肉食じゃーん」
「あれぇ……?」
だが、初めに驚いた反応こそしていたものの、予想に反して二亜の返答はそう嫌そうな感じでもなかった。更に士道が曖昧な反応を返すと、二亜は(これも調べていたのか)霊力封印にはキスだけでは足らなかったのか、その先までするなら下着を変えてきてもいいかと驚きの発言を口にする。どうやらそれは冗談だったらしく、仰天する士道を見て二亜は笑いながら士道の肩を叩いていた…が、全然冗談を言っているように見えない表情と声音だったのがまた恐ろしい。
二亜はかなり軽い性格をしており、セクシャルな話への抵抗も薄い…というのは、士道から事前情報として聞いていた。聞いてはいた。しかしいざ実際に見ると、やはりそのインパクトは強く……
「ちゃんと勝負パンツ穿いてきてるって」
「冗談ってそっちかよ!?」
「あっはははは!」
……なんというか、全知の天使という壮大な力から想像出来るような性格とは、色々正反対な感じの女性であった。
「テンション高いわねー……」
『ねー……』
呆れたような琴里の呟きに、真那と揃って同感を示す。とはいえ、感触としては悪くなさそうであり、この調子でいこうと琴里は士道と話し…するとそこで、また二亜が口を開く。
「んー?あ、もしかして今司令部と連絡中?」
「え!?いや、それは」
「その辺にカメラとか飛んでたりするのかな。イエーイ、琴里ちゃーん、見てるー?」
そう言いながら、頭上へ向けてピースサインをする二亜。その言動に、侑理も臨時司令室の面々も呆気に取られ…琴里は苦々しげな声を漏らす。
初めから分かっている事ではあるが、二亜はこちらの事を、デートをモニタリングし適宜サポートしようとしている事を把握している。つまりは、このデートが霊力封印という目的の為の『手段』である事ばかりか、進める上での作戦概要もバレてしまっているようなもの。その場その場の具体的な動きは事前に決めている訳ではない為大丈夫だろうが、だとしてもやり辛い、攻略難度が高い事には変わりない。
「…もしかして今回って、過去最高に難しい条件下だったりする?」
「……いや、そんな事はないよ。結局封印に至れなかったとはいえ、狂三の時はトリプルブッキングデートだったし、耶倶矢と夕弦の時はかなり変則的且つ私一人で支援する形になっていたからね」
「と、トリプルブッキングって……」
「……それに、こちらの事情を把握されているというのも、今回が初めてではない。琴里からすれば、初めてだろうけど、ね」
「……?…あ……」
どういう事だろうか、と令音の言葉の意味が一瞬分からなかった侑理だが、名前を挙げられた琴里が黙っていた事で気付く。言うまでもなく、琴里も精霊…即ち、デートをした事があってもおかしくはないなだ。しかも琴里の場合、知っているどころか当事者として関わっているのだから、今の二亜以上に理解している筈というもの。…何というか、聞けば聞く程色々あり過ぎる。その内容を上手く纏めたら、何か長編の物語に出来るのではないかと思う侑理であった。
「…状況、動いてるわよ。二人共集中して」
至極尤もな琴里の注意。それを受けて意識を街中へと戻せば、士道がスーツケースを持っていた。気を利かせ、自分が持つと申し出たらしい。
そしてそこから更に、二人は手を繋ぐ流れに。二亜から軽い調子で言い出し、そこでまた二亜が士道をからかうやり取りを挟んで、二人は手を繋ぐ。そうして二人のデートがスタート…したのだが、数分も経たない内に二亜は繋いでいた手を離して道の真ん中へ。
「んー!久々!アキバよ!あたしは帰ってきた!」
何やら凄まじい破壊力の一撃を放ちそうな叫びと共に、二亜は両腕を広げる。…まあ、早速デートを楽しんでいる事は間違いなさそうである。
そうして秋葉原の光景を確かめるように周囲を見回した二亜は、記憶と色々違っている、新鮮だと感想を口にする。それに対し士道が天使の力でその辺りは把握していなかったのかと問うと、二亜は軽く唸って答える。
「や、あたし、必要ないとこでは出来るだけ〈
「え?そうなのか?一体何でまた」
「んー……ほら、言ったでしょ?あたしネタバレが嫌いなの。それに、〈
知る事と感じる事とは違うのだと、二亜は士道に語る。調べて知る事でより興味が湧く、と先日言った侑理としては、納得の出来る理由であり…しかし答える直前にあった、二亜の沈黙が何となく気になった。単に答え方を考えていただけかもしれないが、そうではない別の理由がある……ような、気もした。
「ネタバレが嫌い…これは好都合でいやがりますね。事あるごとにこっちのやろうとしてる事を調べられちゃ、兄様に何もしてやれなくなりますし」
「確かにね。まあ、この場合はネタバレっていうか、舞台の裏側を覗くような事……っと、うん?」
侑理が真那と話している間、二亜も何やら考え事をしていた。これは助けてもらったお礼も兼ねているのだから、早速自分の買い物で始めてもいいのかと呟いていて…その後何か思い付いたのか、士道の手を取り歩き出す。既に一度繋いでいたとはいえ、異性である事をまるで意識していない様子の二亜は、軽快…というより力強い足取りで、士道をどこかへ連れていく。そうしてある建物の前まで着くと、足を止める。
「はい、ここだよー」
「ここ……って」
「うん、コスプレショップ」
『なんで!?』
意外過ぎる、そして訳が分からな過ぎる回答に、士道だけでなく聞いていた侑理や真那まで同時に同じ言葉を口にする。これまでのやり取りを思い出してみるが、やっぱり何故コスプレショップなのか全く以って分からない。
「…あ、もしやこれは、最初の服のやり取りと何かしらの関係が……」
「ほっほー!」
((なさそうだ……))
ひょっとして、と声を発した琴里だったが、中に入った二亜が奇妙な声(多分喜んでいる)を上げた事で、服は服でもコスプレなら…という事ではないだろうなと速攻で理解。しかし、ならば本当に何故なのか…その疑問が解けるより先に、更に二亜が士道へ言う。
「──はい!じゃあここで選択肢です!少年があたしに着せたいコスチュームはどれ!」
ぎょっとする士道へ、二亜が提示するのは選択肢。その二亜が手にしているのは、ナース服、メイド服、そして恐らくは何かのキャラの衣装であろう、やたらと煌びやかなコスチュームという、三着のコスプレ衣装。
因みに、幾ら
「な、なんで二亜さんからの選択肢…?しかもコスプレって……」
侑理もその場の士道も困惑するが、琴里は二亜に合わせるべきだという。二亜からも琴里からも急かされた士道は、勢い任せな調子で三着の内最初に提示されたものを、ナース服を指し示す。
「……士道にぃ、ナース服好きなんだ」
「兄様、迷う様子もなくナース服を……」
「ここでメイド服じゃなくてナース服な辺り、ガチっぽいわね……」
「ちょっと黙っててくれないかなぁ!?」
へー、そうだったんだ。…と呟いた侑理達へ、士道が叫ぶ。どうせ通信の事も分かっているだろう、という事で自粛しなかったのだろうが…側から見たらいきなり叫び出したも当然な士道の様子に、二亜はこれまた笑っていた。ついでに、士道はナース服を選んだにも関わらず、やたらと三番目の衣装(『ワルキューレ・ミスティ』のミッドナイトファイナルフォームというらしい)じゃなくてもいいのね?…と確認していた。それ着たいだけじゃん!…という突っ込み待ちのボケだったと本人は言っていたものの、本当に着たかった可能性もあるのではないだろうか。
「はぁ…この調子で、俺最後まで体力持つかな……」
「あぁ…分かります。あっちもこっちもふざけやがると、どっと疲れちまうんですよね……」
「あ、さっきうち等と一緒にナース服に反応していた癖にしれっと同感するんだ、真那……」
ナース服を持って、二亜は試着室へ。そして彼女が着替える中、侑理達は軽く言葉を交わし…暫くしたところで、再び二亜の声が聞こえてくた。
「──あ、少年少年。覗くなら今がベストタイミングかも。今鏡見て気付いたけど、穿きかけのストッキングやべえ、超エロい」
「いやホントに何言ってんの!?」
…一体どういう思考回路をしていたら、異性へ着替えをしながらこんな事を言えるのだろうか。
そして更に付け加えるなら、覗くどころか二亜は自ら着替えの途中(ストッキング穿きかけどころかトップスもまだオープン状態で下着丸見え)でカーテンを開き、あられもない姿を士道に晒していた。…もうこれは、ノリが良いとか、セクシャル方面に寛容だとか、そういうレベルではない。なんというか……本当に、エキセントリックが過ぎる。
*
「ふ……ふぉぉぉぉ!」
今のは、蒸気機関か何かが稼働している音ではない。蒸気機関車の物真似を誰かがやっているという事でもない。今のは二亜の声である。侑理達からすれば、もうそんなに驚く事でもないのだが。
「こ、これは……倉内先生の新作!?」
「あ、それか。今連載してるやつだよな。倉内先生好きなのか?」
「いやもう好きなんで言葉じゃ括れないよ!マジあたし、倉内先生の『
現在二人がいるのは、駅から近い場所にあるホビーショップの一階。フロアの大半を占める書店の中で、ハイテンション極まりない様子で、二亜は士道に語る。その場にいない侑理にも、好きの感情がはっきりと伝わってくる。
しかも、二亜が興奮していたのはその作品だけではなく、あちらこちらで目を輝かせ、最終的には本を高く積み上げた状態でそれを持ってレジへと向かっていた。
「なんというか、子供みてーなはしゃぎっぷりでいやがりますね」
「分かる。けど、好きって思いを恥ずかしがらずに表現出来る姿はちょっと素敵だとも思うな。…ところで琴里、こういう状態は良いの?今のところ、二亜さんはお出掛けを満喫してはいても、士道にぃとのデートを楽しんでる…って感じではないと思うけど」
「そこはまあ、ベストではないにしても悪くない…ってところかしらね。確かに侑理の言う通りではあるけど、自分の好きなものに付き合ってくれる、一緒に回ってくれる…っていうのは、やっぱり嬉しいものでしょ?」
確かにそれもそうだ、と侑理は納得する。侑理ももし誰かに真那の良さを語れたら、その話をしっかり聞いてもらえたら、きっと嬉しくなる。間違いなくその人に好感を持つ。
現に、二亜がご機嫌である事は間違いない。更にレジへ向かう道中、士道は駆け寄り本を半分持つという、さりげない優しさアピールにも成功している。恐らく士道の事だから、狙ってのものではなく素の行為なのだろうが…女の子は、こういう何気ない行動にきゅんとしちゃったりする事もあるのだ。
「さ、じゃあ上行こ、上」
支払いを済ませ、スーツケースへ本を仕舞った二亜は、士道と共に店舗の二階へ。そこも書店となっていたが、その規模は更に大きく、ここでも二亜はきゃっきゃとはしゃぐ。
「……?……あ…こ、この本は……!」
暫し歩き回ったところでぴたりと足を止め、ある本をじっと見つめる二亜。今度はなんだろうと思っていると、司令室のメンバーの中でも琴里の次に若い椎崎が声を上げる。そして、わたわたとした反応を見せる中…見えてきたのは、美少年二人が何やら艶かしい姿で絡み合う、ちょっと直視するのは恥ずかしいような文庫の表紙。
「……こ、ここは士道に任せましょ」
『そ、そう(だ・でいやがります)ね……』
端末越しに映像を見ているだけなのに、思わず横を向いてしまう侑理。そういう趣味、ジャンルの存在を否定するつもりはない。そんなつもりは微塵もないが…ちょっとまだ自分には早いかな、と直視を避ける侑理だった。
そして、また士道がからかわれつつやり取りをする事数十秒。言われたい放題な士道は溜め息を漏らし…でも、と続ける。
「二亜って守備範囲が広いというか、色んなジャンルの本読むんだな。さっきも、少女漫画からハードボイルドっぽいのまで買ってたし」
「んー、結構雑食だから、このジャンルだから読まない、っていうのは基本的にないよー。どっちかっていうと、作者が情熱を持って書いてるのか分かるものが好きかなー」
「情熱……か」
例えばこれ、と棚から一冊手に取り二亜は熱弁を振るう。NTRという、ちょっと不穏なワードが語りの中に混ざっていたが…同時に、二亜はその本が好きなのだとよく分かる口ぶりでもあった。
「やっぱり、自分も創作をする側だからこそ、その作品に込められた思いが気になる…って事でいやがりますかね」
「いや、逆なんじゃない?さっき漫画家を目指した切っ掛け…って話もしてたし、好きが高じて読む側から書く側になったんだと思うわ」
逆だろうと返す琴里に、(当然見えてないだろうが)侑理は頷く。それこそ先程二亜自身触れていたが、彼女はプロ…それもかなり有名な漫画家なのである。しかもDEMから逃れてからまだ一ヶ月弱だというのに、もう活動再開しているというのだ。二亜が書いていた作品が休載となってから今に至るまでが数年…つまり最低でも数年間はDEMに囚われていたというのに、自由を取り戻してから一ヶ月足らずで漫画家家業を再開するなど、『好き』でなければあり得ないというもの。
「…分かる、かな」
「分かる…ってのは、情熱の話で?」
「うん。情熱がなくても、物語を描く事は出来る…むしろ、情熱が余計なものにもなり得るのが創作だとは思うけど、それでもやっぱり創作する事、創作し続ける事の原動力は、情熱…好きって気持ちだと思うから。好きだからこそ、大変でも頑張れる。描きたいものがあるから、表現したいものがあるから、自分の心の中だけじゃなくて誰かに伝わる形にしたいから、書き続けられる。そうして作り上げられたものは、必ずしも人気になる訳じゃなくて、多くの創作物、多くの創作者は、日の目を浴びる事なく埋もれていくだけなのかもしれないけど……だとしても確かに、情熱が、好きが、時には執念にすらなるような思いが込められた作品には、意味が、価値があるって……うちは思う」
「侑理…。…その内容には、私も同感でいやがりますが……それ、何か言わされてねーですか…?」
「……ナンノコトカナー」
何やら物凄く疑いを向けられた気がするが、侑理は二亜の言っている事がよく分かった。ただ、今行っているのはデート。二亜もその事を思い出したらしく、舌を出して士道に謝ると本日二度目の会計を済ませる。そして、今度は少年にとっても楽しいところへ、と言って再び士道を連れていく。
特別サブカル好きという訳でもない(筈)の士道でも楽しめる場所とはどこだろう。そう思う中、二亜が士道を連れて入ったのはパソコンショップ。しかしパソコンやその周辺機器には目もくれず、二亜はどんどん奥に進んでいく。そうしてあるコーナーのところで立ち止まり…振り向く。
「さ、好きなものを選び給え少年。今日は特別に、あたしが一番奢ってあげよう」
「こ、これって」
「うん。エロゲ」
「俺まだ高二なんだけど!?」
先の美少年達以上に危ない格好をした美少女が描かれた、非常に如何わしい感じのパッケージ。それを示された士道は悲鳴の様な突っ込みを入れる。その拒否を内包した突っ込みを受けて、二亜もまた驚愕で返す。しかし本当にブレない。徹頭徹尾「そういうキャラ」からブレない二亜である。
「……あのさ、真那。うち、ずーっと思ってるんだけど…二亜さんって、『そういう事』に対する抵抗感が薄い…ってより、そもそも禁忌な感じに思ってなかったりするんじゃないかな…」
「それは…どうなんでしょうね。そうかもしれねーですけど、まだ兄様の事を異性として強く意識してないからこそ言えてるだけって可能性も……」
「えっ、じゃあ真那も恋愛対象として見てない相手とか、そもそも誰もいない時とかは、抵抗感なく言ったりするの?って事は、うちの前ではまず言わないのって……!」
「自分に都合の良い形で曲解しねーでくれねーですかねぇ!?」
「五月蝿いわよー、二人共。…ただまあ、十香や四糸乃は最初『キス』がなんなのか知らなかったみたいだし、精霊については見た目相応の知識や感性がある前提で考えない方がいいと思うわ」
「そっか、感性の違い…って可能性もあるか……」
プロとして働いている以上、ある程度『普通』と言える知識はあるのだろうが、精霊に人間の感性を当て嵌めるのは確かに勘違いの元かもしれない。というかそもそも同じ人間でも、時代や住む場所が違えば感性は変わってくるものなのだから、そもそもナンセンスだったとも言えるだろう。
実際、士道の脇腹を肘で小突きつつ、相変わらずの調子で性欲について様々な方向からからかう二亜ではあったが、一頻りからかった後は、どうも自分は話を脱線させてしまうのだ、とあまり悪びれてはいないものの士道へ対して謝っていた。自分が少し…の範疇かは怪しいが…変わっている事については自覚があるようだった。自覚がある上で思いきり振り回している辺りは、むしろタチが悪いような気もするが。
「……で、少年的にはどの系統が好みなのよ。泣きゲー?中二ゲー?それとも陵辱ゲー?」
「いや、だから……」
「──ちょっと待った士道。選択肢よ」
あくまで士道の好みを聞き出すまでは引き下がらないぞ、とばかりの二亜に士道が困窮する中、発生する選択肢。ここで!?と士道は突っ込むが、どうやらAIは空気を読んでくれない様子。そして提示された選択肢は端末の端っこにも表示され、一体どういう内容なのかと侑理は目をやるのだった。
①義妹ゲー
②実妹ゲー
③自称妹ゲー
『いや選択肢が恣意的過ぎない!?』