世界には賑やかな大晦日も多いが、一般的に日本の大晦日及び年越しは、家でのんびりとTVを見ながら…という形である事が多い。勿論大晦日でも休めない職種や業種というのはあるが、その場合でも、普段よりは時短で営業している…という事が少なくない。日本において十二月三十一日というのは、新年を迎えるに当たってゆっくりとしている…というのが、ポピュラーなスタイル。
されど今年の、紆余曲折の末に日本へ移ってから最初となる大晦日は、とにかく慌ただしい、激しいものであった。徹夜からの、世界の祭りにも匹敵する同人誌即売会での勝負の後、突然の二亜の反転と、そこからのDEMの強襲…そして、アルテミシアの存在に、ウェストコットの信じ難い行動に…
──だが、だとしても、時は進む。どれだけ激しい一日でも、空虚な一日でも、等しく二十四時間で翌日へと進む。それは大晦日だろうと、変わる事はなく……侑理は、新年を迎えていた。
「…ね、真那。取り敢えず一つ、言ってもいい?」
「ん、なんでいやがりますか?」
一月一日、元旦の未明。〈ラタトスク〉が有する地下施設、その内の一つへの入り口となっている雑居ビルの屋上に、侑理は真那と二人でいた。少し前から、侑理は静かに初日の出(と言っても、もう出てきてから暫く経つのだが)を眺めていて…何となく今かな、と思ったタイミングで侑理は言う。
「明けまして、おめでとう」
「…ふふ、今年も宜しくお願いしやがります」
一瞬目を丸くした真那は、すぐに頬を緩めて新年の挨拶を返してくれる。…これをいつ言うか、その瞬間を侑理は見計らっていた。別にいつ言ってもいい事ではあるが、折角だから良い感じのタイミングで言いたかったのだ。
「今年と言わず、うち的には末長く宜しくお願いしたいんだけどなー?」
「新しい年になっても、侑理は変わらねーですね…」
「だって別に、変えようと思わないからね。それとも真那は、変わってほしかった?」
「いんや、そのままで構わねーですよ。そういう侑理と、これまで付き合ってきた訳ですし」
「つ、付き合って…!?」
「ちげーますからね?そういう意味じゃねーですからね?」
侑理が新年を迎えても昨年…というか昨日までと変わらないように、真那の冷めた対応もこれまでと変わらない。だが、新年と言ったって、旧年と新年の間に時間的な隔絶がある訳ではないのだから、急に変わったりしないのも当然の事。重要なのは、新年だろうと何だろうと、変わる気があるかどうかであり…変わる気がないのだから、変わらないのは当たり前なのである。
「でも、ほんと…去年は凄まじく色々あったよね」
「ええ、ありましたし今後もあるでしょうね。…兄様の身が持つか、心配でいやがります……」
「うん、それも色んな意味で……」
「ほんと、色んな意味で……」
物理的な意味合いは勿論、そうでない意味でも士道は苦労と危険が多い。それを既に知っているからこそ、一抹の不安が拭えないというもの。…まあ、犯罪的な格好にされたり、公衆の面前で口説かれた挙句放置されたりと、侑理達もあまり他人事ではないのだが。
「それに…ねぇ真那。さっきの二亜さんの話、どう思った?」
「どうも何も、嘘だって言ってたじゃねーですか。…ただ、まぁ…なんというか……」
「何か、引っ掛かる感じ?」
「そうそう、それです。…もしや……」
ぴくり、と眉を動かした真那に首肯で返す。引っ掛かっているのは自分も同じであると侑理は示す。
そう。今でこそ屋上にいるのは侑理と真那の二人だけだが、暫く前までは士道及び精霊一同がいた。あれから何とか搬送と
その際、二亜からは前向きな言葉があった。漫画家仲間の高城とまた会ってみたいという思いや、〈
(精霊は皆、元は人間…後天的に精霊になった琴里達は例外的な存在じゃなくて、むしろそれが普通の事…〈ラタトスク〉の実働部隊司令官な琴里だって驚いてたんだから、やっぱり冗談だとは思うけど……)
あまりに予想外…というより考えた事もなかった話を受けて、その場では全員ぽかんとしてしまった。信じる信じない以前に、何を言っているの…?という状態になった。しかしそれがもし本当の事ならば、これまでの認識がひっくり返るような話であり……されど全員が茫然とする中、更に二亜は言った。なんちゃって、と。つまり…今のは嘘、冗談だと。
二亜本人が嘘として撤回した事、内容もそう簡単には飲み込めないものであった事から、数拍の間を起きその場は「なーんだ…」という空気感になった。一命を取り留め、意識も回復したものの、瀕死の重体になったばかりの二亜を長時間外に連れ出すのは良くない…というか、二亜でなくても元旦且つビルの屋上という場所に長時間いたら身体が冷えてしまうという琴里の指摘で、その後すぐに解散となった。ただ、琴里は別に強制するつもりではなさそうだ、と感じた侑理はもうちょっと見ていたいと言って残留し、そこで真那も残ってくれた為、屋上は今の状況…二人だけの現状になったのである。
「…まぁでも、他でもない本人が冗談だって明かしたんだし、考えても仕方ないか。別に、内容自体は差し迫った何かがある訳でもないしさ」
「それもそうですね。或いは、一応本人に確認を取ってみやがりますか?」
「んー…引っ掛かる事は引っ掛かるし、それもいいかも。けどそれは、二亜さんがもう少し回復してから……」
急いで確かめる事でもないだろう。そう言い切ろうとしたところで、真那の携帯電話が鳴る。侑理が黙れば真那は電話を受け、二言三言返し…通話終了。
「…真那、もしかして今の、琴里から?」
「へぇ、察しがいいじゃねーですか。どうして分かったんで?」
「話してる最中に、真那の顔が引き締まったからね。それに、途中で『まだ一緒にいる』って答えたでしょ?って事は、うちと真那が屋上に来てる事を知っている…つまりはここに一緒にいた人達の中で、困惑や動揺なく瞬時に真那を真剣な表情にさせるような話を振る人が電話の相手かなー?って」
「あ、思った以上にちゃんとした推理をしてやがったんですね…けどその場合なら、兄様や令音さん辺りも選択肢に入るんじゃねーですか?」
「うん、後は折紙さんなんかもあり得るかな…と思ったけど、何かあった場合って、基本まずは琴里から連絡が来るでしょ?それに、士道にぃじゃない事は分かったからね」
「…と、いうと?」
「だって士道にぃからの連絡なら、真那もっと嬉しそうな顔するもん」
「なっ…そ、そんな事は……」
「ないって断言出来る?」
じぃっ、と侑理が見つめれば、真那はほんのり顔を赤くして目を逸らす。この反応と否定しきれず口籠る様子がまた可愛いのだが、今は追求しない事にする。何せ、琴里から連絡…それも真面目な内容だったというのだから、あまりのんびりしてもいられない。
「それで、何事?」
「何でも、二亜さんの病室にまた来やがってほしいんだとか。これは、ひょっとすると……」
「…ひょっとするかもね」
何ともタイムリーな連絡に、侑理は真那と頷き合う。そして、屋上から屋内に戻り、そのまま地下の施設内へ。屋上へ上がる前にいた場所にして、これからまた向かう先である二亜の病室前まで移動をした後、真那が扉をノックする。そうして中からの反応が来たところで、侑理達は部屋へと入る。
「えと、失礼します」
「おー、二人共いらっしゃーい」
軽く挨拶しながら入れば、早速軽い調子の声が…二亜の言葉が返ってくる。まだ本調子には程遠く、一人で出歩ける状態ではないらしい二亜なのだが…ぱっと見はもう元気そのもの。言動に関しては彼女自身のキャラもあるのだろうが、やはり
「いやぁ、にしてもさっきはほんとに助かったよ。えぇと、
「だからって、まだ安静にしてなきゃいけないのに飛び跳ねようとした時は驚いたぞ二亜…」
「あはは、それは申し訳ない。でもほんと快適だったし、二人は応急処置にも協力してくれたみたいだし、これまであたし
「えぇ、と……」
たった今二亜が言った通り、移動の際侑理と真那は
そんな二亜は、満足そうに侑理達の事を見やっている。そこに悪感情らしきものはなく…だからこそ侑理は、おずおずと問う。
「…その、二亜さん。うち達の事、気に食わない…って思ってたりしないんですか…?」
「え、なんで?」
「なんでって…うち等、前に結構二亜さんの事煽りましたし……」
「あー、そういう事。確かにあの時はイラッと来たけど…さっき言った通り、二人はあたしを助けてくれた訳だし、屋上でも世話になったからね。だから別に、今はもう気にしてないわよ?」
「そう、ですか…すみません、ありがとうございます」
あっけらかんという二亜に、侑理は少しだけ驚き…されど、何だか納得した。思えば二亜は、封印前から基本的に軽い調子の女性だった。その実人を信じたくても信じられないという内面を抱えていた訳だが…それはそれ、これはこれで、軽い調子なのは演技でも何でもない、二亜の素の性格だという事なのかもしれない。或いは、負い目を感じる必要はない、と侑理へ思わせる為に、今回ばかりは意図的に軽い調子を見せているのかもしれないが…何れにせよ、本人がこう言ってくれている以上、こちらも気にしないのが筋だろう。
「さてと。一つ確認だけど、妹ちゃんは二人の事も呼んだのね」
「えぇ。二人は精霊じゃないから皆より冷静に受け止められると思うし、有事の際には結構二人に動いてもらってるからね。今後の為に、情報共有はしておいた方が良いと思ったんだけど…駄目だったかしら?」
「うんにゃ。あたしとしては、そもそも皆分かってるつもりだったからね。そうじゃなかったっぽいから、さっきは誤魔化したけど」
「という事は、やっぱりただの冗談だった訳じゃねーんですね」
こくり、と真那の言葉に士道と琴里が頷く。さっきは誤魔化した…この発言で、侑理達の感じていた引っ掛かりが気のせいではなかった事がほぼ確定。そして、この場の全員から視線を受けた二亜もまた小さく頷き、喋り始めようとしたその時、不意に病室のドアノブがガチャリと鳴る。直後に扉が開かれ、一人の少女が姿を現す。
「折紙?…どうして、折紙が二亜の部屋に……って、もしかして折紙も二亜に呼ばれたのか?」
「呼ばれてはいない。でも、屋上での二亜の態度に不審な点があったから、本当の話を聞きたくて」
「えっ何その通じ合ってる感じ。二亜ちゃんドキドキなんですけど」
理由を述べる折紙に対し、二亜は芝居掛かった様子を見せる。されど一方の折紙は、完全に無言で無反応。ここは窓も扉も閉められた部屋内だというのに、木枯らしが拭いたかのような雰囲気となり…居た堪れなくなった侑理は、「そ、それにしても」と割って入る事にした。
「流石ですね、折紙さん。うちや真那はなーんか引っ掛かるなぁ…程度にしか思ってなかったのに、はっきり不審だと勘付いてたなんて」
「確かに。けどそうなると、他にも誰か…それこそ観察眼の鋭い七罪さん辺りは同じように疑念を抱いて訊きに来る可能性も否めねーですし、念の為鍵は掛けておいた方がいいんじゃねーでしょうか。琴里さん、二亜さん、呼ばれたのは私と侑理、それに兄様だけですか?」
「えぇ、そうよ。私も呼ばれた側だけど、今上げた三人で間違いない──」
「ちょっと待った。君今なんて言った?」
確認を取りつつ真那が扉のサムターンへと手を掛ける中、二亜が不意に呼び止める。その視線は、いつの間にか鋭いものとなっており…何事かと、真那は手を離して振り返る。
「え?だから、念の為鍵を……」
「ノンノン!そこじゃない!一番最後!」
「…それに兄様だけですか?」
「兄様!」
一体何があったというのか、神に祈りを捧げる信仰者の様に両手を組み合わせ、恍惚とした表情を見せる二亜。…何か、スイッチが入ったらしい。
「すっげぇ!兄様!二次元でしか聞いた事のない夢呼称の一つ!リアルで初めて聞いた!ね、ねぇねぇ、もっぺん言ってみてもらえる?」
何ともまあ予想外の興奮を見せる二亜に、真那は渋面を浮かべて後退る。確かに普段の生活では聞かないような呼称だが…こんなストレートに言われたのは、間違いなく真那も初めてだろう。
「…うん?そういや二亜、これまでは聞いた事なかったのか?さっきもそうだし、コミコの時も二人は皆と一緒にいたんだが……」
「んー…もしかしたら、あの時は偶々呼ぶ機会がなかったんじゃないかな?途中でうち達は外に出てたし、そうでなくても士道にぃは二亜さんと話したり接客したりで真那と会話してる余裕が……」
「士道にぃ!それってつまり士道
「いや、俺に『なんだけど!?』って言われても……」
再び引き出される二亜の興奮。兄様でハイテンションになる二亜なのだから、侑理の呼び方もそうなる可能性は十分予見出来た筈だが…もう士道にぃという呼び方に慣れてしまっていた為、ついうっかり言ってしまった。…まあ尤も、二亜に変な反応をされない為だけに、違う呼び方をするのかと言われれば、答えは否なのだが。
「いやぁ、また一つ二人には感謝したい事が増えちゃったわ。……って、うん?兄様って事は…え、少年の妹なの?」
「そりゃそうだが…何か、変に思うところでもあったか?」
「いやごめん『兄様』って響きに感動し過ぎてその意味まで考えが至ってなかった」
そんな事が普通あるだろうか、と一気に変な感じになる雰囲気。しかし二亜は完全な真顔。冗談の気配皆無である。
「ん?でも待てよ。前に少年について調べた時、家族構成で妹として出てきたのは妹ちゃん一人だけだった筈。これは一体──あっ、もしかして妹萌えの少年が『兄様』って呼ばせてる系?喋り方が独特なのも、それ関係?」
「なんでそうなるんだよ!?」
「あれ、違った?やー、ごめんごめん。けどそうでもしないと『兄様』なんて萌え呼称しないと思って」
「えっ、なんか私馬鹿にされてやがります?」
「まさか。むしろ尊んでる。君はずっとそのままでいて」
滅茶苦茶な内容の発言とは裏腹に、二亜の表情は真剣そのもの。やはりというべきか、侑理の方を見てきた真那は「なんなんでいやがりますかね、この人は……」みたいな顔をしていた。そんな真那に侑理が「でも実際、真那は尊いしずっとそのままでいてほしいな。後、呼び方も喋り方も独特なのは事実だよね」…という視線を返すと、深い深い溜め息を吐いてそっぽを向いた。こういう照れ屋さんなところも、侑理は大好きなのだ。
「ちげーますからね?勝手にそういう事にしねーで下さいね?」
「以心伝心!」
「地の文を読んだだけなのを曲解するのも止めてくれねーですかねぇ」
「わっ、メタ発言!いいねぇ、あたしそういうのも好きよ」
「いや、貴女達は何のやり取りをしてるのよ……」
妙な方向に転がりつつあったやり取り(責任の一端は侑理にもあるが)へ、琴里が突っ込みを入れてくる。そしてその突っ込みにより会話が途切れたところで、士道がこほんと咳払い。
「あー、二亜。俺達に関する話はちょっと長くなるから、後で説明するよ。…けど、真那は正真正銘、俺の妹だ。俺は、そう思ってる」
「兄様……」
「…そっか。でも、こんな可愛い妹が三人もいるなんて、少年も中々やるねぇ。妹モノの主人公張れるんじゃない?」
「それに俺はどう返せばいいんだよ…。…あー、後…その認識はまるっきりの間違いって訳じゃないけど、ちょっと語弊があるというか……」
「……?どういう事?」
「あ、うちは士道にぃって呼びたくて呼んでるだけです。真那のお兄様ですし、それ抜きにも士道にぃは士道にぃって感じですし」
言い辛そうに、ちらりと視線を向けてくる士道。それを受けて、侑理は士道の代わりに言う。確かに士道にぃからは言い辛いよね、と思って明かし…それを聞いた二亜は、目が点になっていた。え、マジで?冗談じゃなくて、マジでそうなの?という顔をしていた。
「おおぅ…まさかの少年が呼ばせてるんじゃなくて、少年が勝手に呼ばれてる系だったとは…流石のあたしも、それは見抜けなかったぜ……」
「いや、それは違いますよ?ね、士道にぃ」
「へ?どゆ事?」
「あ、あー……うん、まぁ…一応、俺は侑理の公式お兄ちゃんって事になってるというか……」
「ちょっとー?一応じゃなくて、正式に公式お兄ちゃんでしょー?それとも士道にぃ、あの夜の事は嘘だったの?」
「あの夜!?何それ詳しく!超詳しく!」
「変なとこに食い付くなよ!?てか、侑理も誤解を招くような言い方しないでくれないかなぁ!?」
予想通り目の色を変えて追求しようとする二亜の言葉に、士道は頭を抱える。勿論今のは、冗談半分の発言。だが、文字通り冗談半分…つまり、半分は本気の言葉であった。士道が侑理を蔑ろにしている訳ではない事は分かっている。それでも、あの時の事を「一応」と言われてしまうのは、嫌だったのだ。
「…ごめんね?士道にぃ」
「……いや、俺こそごめん。…嘘じゃ、ないからな」
声で何か察したのか、それとも表情に出ていたのか、実際のところは分からない。それでも、そんな侑理の思いは伝わっていたのか、一拍の間を経て士道は侑理を見つめてきた。嘘じゃないと、言ってくれた。
それだけで、侑理には十分だった。何せ…士道の事は、その言葉は、信じられるから。
「終わった?いい加減終わったのよね?」
「っとと、琴里もごめん」
半眼でこちらを見ていた琴里に、両手を合わせて謝罪を返す。忘れていた訳ではないが、ここに集まったのは真面目な話をする為。それなのにちょっと脱線し過ぎたよね、と侑理は反省し佇まいを正す事にした。
「待たせちゃって悪いね。まあ、想定してないギャラリーも増えちゃったけど、元人間の自覚があるオリリンに妹ちゃん二号と三号なら問題ないか」
「ちょっ、ちょっ」
「さ、三号……?」
今度こそ本題に…と思いきや、今度は真那がストップを掛ける。理由は……言うまでもない。
「待って下さい。なんですかその妹ちゃん二号っていうのは」
「え?だってほら、妹ちゃんはもういるし」
「それはそうでいやがりますけど、琴里さんは義妹で私は実妹。どっいかというと二号は琴里さんです!」
「だ、誰が二号さんよ!」
「あのー……うちも三号扱いはちょっと…」
むしろ二号は琴里の方、という真那の返しに、今度は琴里が異を唱える。二号さん、とは言っていないのだが…どうやら真那も琴里も、呼び方云々より順番を気にしている様子。
「だってほら、髪の結び方一つ見ても、私は一つ結びですし、琴里さんは二つ結びですし。戦い方も技の私、力の琴里さんって感じですし」
「人をパワー馬鹿みたいに言わないでくれる!?」
「えっ、じゃあ三号のうちは技と力を併せ持つ事に…?」
「いーや、それは三番目であっても三号ではないかなー」
「おーい、全員そろそろ戻ってこーい……」
先程の琴里の様に、今度は士道が呆れた様子で声を上げる。…それにしても、やはり琴里は妹絡みになるとヒートアップし易いというか、普段の冷静さがどこかに吹っ飛ぶ傾向がある気がする。後、さっきからトンチキなやり取りが何度も交わされているにも関わらず、終始無言で無表情な折紙は、ある意味で凄い。
「皆、一回落ち着こうな?──二亜、今の呼び方じゃ納得はしてもらえないだろうし、別の渾名を考えてくれないか?」
「んー、じゃあマナティで」
「なんか水棲生物っぽい気がしやがるんですが……」
「うちはマナティ、可愛いと思うなー。ねー、マナティ」
即興で考えた割には響きも良いし愛称みたいで可愛らしい。そう思って呼んでみた侑理だが、真那は反応してくれなかった。…侑理には、ちゃんと「真那」と呼んでほしいのかもしれない。きっとそうだろう。
ともかく若干の不満を零しながらも、真那は再考を求める事はしなかった。妹ちゃん二号よりはマシ、と妥協したのであろう。そして今度こそ、脱線の要因となった大方の問題は片付き……
「……ねぇ少年。うちの渾名は?…って視線を感じるんだけど、これは……」
「うん、まぁ…この際考えてやってくれると助かる……」
どうやら、侑理の呼び方も考えてくれるようだった。親切な二亜に感謝である。
「そうねぇ。侑理、ユーリ……ユーカリちゃん、は本名が『ゆかり』って人みたいになるし……あ、フルネームは何だっけ?」
「えと、侑理・フォグウィステリアです」
「ほうほう、それならウィスティ……いや、ユーフォちゃんでどう?」
「え、なんかこう吹部が主題の作品に出てきそうなんですけど……でも、別の存在を連想するって意味で真那と一緒な感じあるし……うん、ユーフォちゃんでお願いします!」
「よしきた!漫画家本条蒼二先生考案の渾名、少年達も使っていいからね?」
ぺこんと侑理が頭を下げれば、二亜はサムズアップで返してくる。ユーフォちゃんは可愛らしさもあるし、没になったがウィスティというのも愛称感があって良かった。やはり流石は創作の道でプロを担っている二亜である。
とまあ、漸くこれで状況は落ち着いた。エレン達との戦闘が終わり、何とか二亜が一命を取り留めてからも、何だかんだ寝ていなかった…疲労困憊状態なのに起き続けていた事で、皆多かれ少なかれ変なテンションになっていたのがここまで話が変な方向に飛びまくった原因なのであろう。…多分。
「いやぁ、やっぱり会話っていいもんだね。職業柄、締切が近くなると作業場に缶詰め…って事も少なくないし、ほんと……余計な事を考えずに誰かと交流するのって、素敵だと思うわ」
「二亜……ああ、そうだな」
「でしょ?って訳で、ほんと皆ありがと。全員疲れてるだろうし、一番状態が悪いあたしが言う事じゃないけど、ちゃんと休んでね?」
勿論、と侑理達は二亜の言葉に頷く。こうして真面目さのないやり取りが出来るのも、命があってこそ。その上で、歩み寄る事が出来たからこそ。それを二亜の晴れやかな表情から感じながら、侑理は真那や士道達と共に病室を出て……
『……って、いやいやいやいや…』
まだ本題何も話してないじゃん、と侑理や真那、士道は勿論、同じくうっかり出ていこうとした琴里や、それを見送ろうとしていた二亜すら自分で自分に突っ込むのだった。…唯一乗っからずに部屋に留まっていた、そして当然のように突っ込みには参加していなかった折紙は……本当に、色んな意味で凄い。