僕の心のヤバイやつ 鞍馬祢音と山田杏奈の邂逅 作:北村 貴之
「ふ〜ん。そんな同級生がいるのか」
場所は、都内の喫茶店。
桜井景和は、中学生でモデルの少女の山田杏奈の1日限定のボディガードを請け負い、山田の帰り道に同行していた。
喉が渇いていないかと景和が尋ねたところ、山田がちょうど何かを飲みたい上に心を落ち着かせたいと言ってきたため、帰り道にあった喫茶店に立ち寄ることとなった。
景和が飲んでいたのはオレンジジュース。
山田はアイスティーを飲んでいた。
山田が中学校でのことを景和に話していたようで、景和はそれを聞いていた。
就活中の大学生とスタイル抜群の女子中学生となるとどこか少しアンバランスにも思えるが、気にはならないだろう。
「そうそう、とにかく不思議な子でね…」
「面白い奴がいて幸せだね、君」
景和は笑いながらそう言った。
山田の目の前の景和だが、彼女の中では、優しいイケメンという認識となっていた。
先程黒いヒーローになり助けてくれた。
一見怪しそうに見える姿だったが、いざ助けてくれると格好良く見えてしまう。
黒い鎧のヒーローと高身長の優男のギャップ差に、山田は少しときめいているようだった。
「杏奈ちゃんはさ…。その市川って子が好きなのか?」
「えっ?」
景和にそんな質問を投げかけられ、目を丸くして固まる山田。
「あ、その…、ええと…。あ、あいつは別に付き合っているわけでは…」
人差し指をツンツンさせながら、しどろもどろになる山田。
「あー…、そう…」
「でも、あいつも良いところは多くて…。その…、好きは好きなんだけど…」
「へぇ」
「な、何よ?」
景和がニヤニヤと笑っているのを見て、少しムッとした表情になる山田。
「いや?別に?」
「もう!何なのよ!?」
そんなやり取りをしていると…。
がちゃん、と、店の入口の扉が開き、客が入ってきたようだ。
そして、その客は真っ直ぐに、景和山田の方に向かって歩いてきた。
景和がその客を見ると驚いた顔を浮かべた。
どうやら知り合いのようだ。
「あっ!?」
「えっ!?」
景和と山田が同時に驚きの声をあげる。
山田もその人物は知っていたようだ。
そして、市川の姿を見るや否や、山田が反応する。
その人物は、ふんわりとしたセミロングの茶髪をした美少女だった。
衣服はふんわりとした白のブラウスに、桃色のフレアスカートという出で立ちだった。
「…ね、祢音ちゃん、なんでここに…?」
景和が言う「祢音」という名前。
彼女の名前は鞍馬祢音。
鞍馬財閥の令嬢にして、動画配信者の少女だ。
「いや、たまたま通りがかったら景和が見えたから…」
景和と祢音の会話に山田が入る。
「え?知り合いなの?」
「ああ…。そうだけど」
景和は少し慌て気味に言う。
「そ、そうなんですね。あ、どうも祢音ちゃん。毎日祢音TV見てます…」
そして、祢音はチラリと山田の方を見る。
「あ、まさかと思うけど私推し?」
「え、ええ…」
軽くやりとりをする2人。
それを見て少し驚いた目をして彼女たちを見ている景和。
そんな彼らのもとへ、店員が注文を取りにやって来た。
「ご注文は何に致しますか?」
「…アイスティーをお願いします」
祢音はとりあえず、山田と同じ飲み物を頼んだ。
店員が去っていく。
山田の隣に祢音が座った。
山田の顔が一瞬にして真っ赤になった。
汗も流れている。
推しである祢音が間近にいるので、それによる緊張からなのだろうか。
「どしたの?目が忙しく動いてるけど」
固まって目が目まぐるしく動いている山田を見て、祢音が声をかけた。
「あ、いや、あの…」
山田はぎこちなく答えた。
祢音は、正面にいる景和の方を見て何か言いたげな素振りをする。
「ど、どしたの、祢音ちゃん?」
「…別に?どうもしてないよ?」
「そうか…」
何かを期待した景和だったが、呆気ない返しに少しがっかりしたようだ。
すると、そこへアイスティーを店員が持ってきた。
冷たいアイスティーが注がれたグラスを置く。
祢音はストローの袋を指で開けてそこからストローを取り出し、グラスの氷をつつきながら、口を開いた。
「山田さん、だっけ?」
「は、はい」
山田が返事をする。
「配信毎日見てくれてるんだってね。ありがとう」
祢音からそんな言葉をかけられ、内心で嬉しそうにする山田。
「まさかこんな所でファンに会えるなんてなぁ」
祢音も嬉しげな目をしていた。
そんな彼女たちを優しげに見守る景和。
「んっ?何か顔についてる?」
そんな景和に対し、意味深に見つめる祢音。
「な、ないけど…」
景和はしどろもどろになるが…。
「あ、あの…」
山田が口を開いた。
景和と祢音が山田を見る。
「景和さんと祢音ちゃんって…。どういうご関係なんですか…?」
それを聞いた2人は思わず互いの顔を見た。
そして、ある出来事が脳裏に浮かぶ。
それは、仮面ライダーギーツこと、浮世英寿にかけられた、ある一言だった。
「なんだ、彼氏いたのか…。格好つけて損した」
にやけてそう言う英寿に、景和と祢音は思わず、
「彼氏じゃないっ!」
「彼女じゃないっ!」
と息ぴったりに否定したのだった。
出会って間もないのに、付き合ってすらいないので、そんな言葉が出てしまうのは当然だった。
「…」
「…!?」
2人は顔を見合わせる。
どうやら同じことを思い出していたようだ。
英寿にいじられた日の事を…。
「…ええとね。こんなんだけども私たち『そういう』仲じゃないんだ」
祢音はとりあえず、交際していないことを山田に伝えた。
しかし、何を思ったのか景和が…。
「そ、そうなんだ。俺まだ童貞で、祢音ちゃんに捧げれてすらないし…」
「はぁっ!?ちょ、ちょっと!!」
いきなりとんでも無いことを言いだした景和に驚く祢音。
顔が真っ赤になっている。
そんな2人を見て…。
「…え?そうなの…?」
唖然とする山田。
いきなりの爆弾発言を受けて取り乱すように景和にワーワーと顔を赤くして騒ぐ祢音と、それをなだめる景和の様子を見つめる山田。
目を丸くしながらその光景を見ていた。
2人の反応を見て、仲が良いのではないだろうか…?と疑問に思っていた。
そしてそれからおよそ数分後…。
山田は無事、自宅に帰ってくることができた。
景和と祢音も一緒だ。
「き、今日はありがとうございます」
山田は2人にお礼を言い、頭を下げた。
「また何かあれば連絡してくれ」
景和はそう言い、ウインクした。
山田はそれを見て、少し頬を赤くした。
「あの、景和さん…」
「ん?」
「その、祢音ちゃんって…。本当に彼女とかじゃないんですよね…?」
「あ、ああ…。違うけど…」
山田と景和のやりとりを聞き、またしても頬を赤くする祢音。
目を見開いて2人を交互に見つめる。
「そ、それじゃまた」
景和はそう言うと、祢音を連れて山田邸を後にしたのだった。
そして、去りゆく2人の背中を見つめながら…。
(もしかして…。そういう関係だったりして…?)
と心の中で思ったのだった。
そして…。
山田杏奈を無事に家に送り届け、互いの家に帰る景和と祢音。
途中までは一緒のため、2人で歩いていた。
「はぁ…。今日は大変だったな」
面接のこと、山田杏奈のこと、そして突如現れた祢音のこと。
様々なことがあったために疲れた様子を見せていた。
「まっ、今日は早く帰って休んだ方がいいかもね」
祢音が優しげな声をかける。
先程のような様子はまったくといっていいほど感じられない。
「…ねぇ景和?」
「ん?」
「…あのさ」
もじもじしなら口をもごもごとさせる祢音。
「どうした?何か用かな…?」
首を傾げる景和。
そんな彼に、祢音は顔を近づけて耳元で囁いた。
「何かあれば連絡して、って言ったよね…?その…『そういう事』だったら私いつでもいいからね」
祢音のひそひそ声に思わず身震いし、そして顔を真っ赤にする景和。
「あ、あの発言は杏奈ちゃんに向けて言った言葉なんだが…」
慌てて否定する。
「杏奈ちゃんは何か私たちのこと気にしてた様子だったけど?」
ニヤニヤしながら祢音が問いかける。
「悪い、また今度返す!」
そして逃げるように走り去っていく景和。
そんな彼を、少し寂しそうな目で見送る祢音だった。
(…もう)
と心の中で呟く。
そして、彼女は自宅に向かって歩き出したのだった…。