ようこそ実力至上主義の実験場へ   作:ゼリアサイ8世

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ようこそ実力至上主義の実験場へ

 

 401号室から出てきた男ははっきり言って俺にとって想定外に他ならなかった。もちろん知らない生徒が出てくる可能性が高いわけなので想定などできるはずもないのだが俺は無意識に出てくる人物の条件を決めていた。いや、この場合は省いていたの方が正しいだろう。

 

 

 綾小路清隆、かつて俺の育ったホワイトルームの最高傑作と謳われた少年がそこにはいた。

 

 俺はあまりの想定外な事態にしばらく硬直してしまう。そんな俺を疑問に思ったのか化け物が俺に声をかけてきた。

 

「どうした?俺に虫か何かでもついてたりするか?」

 

 化け物はある程度自然にかつ少々ぎこちない様子で俺に声をかけてくる。俺がこの化け物に抱いていたイメージよりも遥かにフランクな感じなため少したじろいでしまう。しかしすぐに持ち直し、だんまりを決め込んで変に察されるのも嫌なので返答することにする。

 

「あぁいや今ちょうど色々買い物し終えて帰ってきたんだけど、ちょうど俺がドア開けたタイミングと同時にドアが開いたもんだからお前を見ちまったんだよ。せっかくのお隣さんなわけだし友達にでもなりたいなってな」

 

 嘘です。友達になんて全く持ってなりたくなりません。思わず嘘を言ってしまったがまぁ心配せずとも適当にそうかと流されるだろう。俺が思うよりもフランクな感じだったしな。この化け物。

 

「本当か!?」

 

 しかしそんな俺の予想とは異なり、化け物は俺の発言に喜んだ様子だった。まさかの友達になりたい発言にここまで喜ばれるとはな。もしかしてこいつ友達作りたいけど作れてないみたいな状況なのでは?

 ない、、、とは言い切れないが、まぁ流石にないだろうな。となるとこいつは単に友達は多ければ多いほど嬉しいといった感じなんだろうか?それならそれで結局友達として関わる時間は多くならないだろうし問題ないだろう。よかった。

 

「実は俺友達がまだできてなくて不安だったんだ!堀北のやつにも馬鹿にされるし。なぁ友達って何したらいいんだ!?」

 

 すごいなこいつ今言ってきた三つの文章全部に俺は色々言いたいぞ。

 まず一つ目にこいつ友達いないんかい!?いや、俺もまだ男友達はできたとは言い難いけど勘弁してくれよ本当に。こいつとは関わりたくないんだって!

 次に二つ目、堀北のやつってなんだよ。こいつ生徒会長のことをそんな風に呼ぶなんて。俺も橘先輩をこき使ってるあいつのことはそう呼びたいところではあるが一応生徒会長って心の中で呼んでるんだぞ。つーか、生徒会長は友達いないことを馬鹿にしてやるなよ、普通に。

 いや、そう考えると案外やつって呼ばれても仕方ないのか。つーか真面目そうな気してたけどもしかして生徒会長っていじめっ子気質だったりするのか?だとしたら橘先輩危ないぞ!あの人ほどいじめがいある人俺知らないし。まぁこの情報の処理については今は後回しだ。

 そして最後に三つ目、友達って何したらいいって、、、知るか!ふつうに一緒に遊んだりするだけだろうが!それに関わりたくねぇんだっての。

 とはいえこの化け物相手に本心を全部曝け出すのも怖い。というわけでここは当たり障りのない言葉を言うに留めておこう。

 

「友達とかのことに関しては本当だ。それとまぁ、、友達とは普通に遊べばいいんじゃないか?」

 

「その遊びが分からないから聞いてるんじゃないか!?」

 

「カラオケとかいくらでもあるだろうがよ!ゲームを買って、やるでもいいしさ!」

 

 そう言うと化け物は納得したような様子を見せる。こいつやっぱりなんか変だぞ。まるでまだ社会での生き方を知らない子供のようだ。もちろん俺含めこの学校に通う生徒は高校生で子供ではあるのだろうがこいつのとはわけが違う。こいつのはまるで初めて外に出たといった子供そのものだ。いや待て、案外そうだったりするのか?だとすると、、、

 

 そんなふうに考えていると化け物は再び声をかけてくる。

 

「そうだ!連絡先ってのを交換しないか!やり方は知らないんだが」

 

「別にいいけどマジかお前、色々と知らなすぎだろ」

 

「学習中なんだ、色々」

 

 そんな風に一体はこいつを見て俺は確信する。こいつ、まさか本当に脱走したのかと。確かに国が完全に外部からの情報や干渉を隔離した上で生活を保証するこの高校ならそれも可能なのかもしれない。そう結論を出しながら俺は今日もらったばかりの端末で連絡先を登録する。

 

「と、そういえば名前を聞いてなかったな。俺は綾小路清隆、趣味は無いけど割となんでも興味があるから是非色々誘ってもらいたい」

 

 こいつの自己紹介これじゃあクラスで浮いただろうなと思いつつも俺も応答する。

 

「次は俺だな。俺は松雄知樹、まぁ趣味はスマホをいじることで、綾小路のことも遊びで誘えたら誘うわ」

 

 〜できたらするという信用度0な発言だがこいつなら浮かれて信じるであろうことは今までの言動から予想がつくためこれで特に問題ないだろう。そう踏んでいたんだが何やら綾小路の様子が少々おかしいな。具体的には俺の名前を聞いたあたりからだ。

 

 ほぼ最初じゃねぇか!

 

 と思ってるうちに綾小路が話し出した。

 

「そうか、ところで松雄。お前父親や叔父はいるか?いるならどんな仕事をしている」

 

 こう言ってくる綾小路からはさっきまでとは比べ物にならない圧を感じる。はっきり言って昔を思い出してかなり怖い。素直に答えたほうが良さげだが万が一があっても怖い、俺は適当な嘘をつくことにした。

 

「父は当然だけどいるし、今も生きてる。仕事は大手お菓子メーカーの重役。叔父はいない」

 

 本当は叔父はいるがもしこいつと関わりがあるようなら面倒なので存在しないことにさせてもらおう。ごめんね叔父さん。一応言っておくと父親の仕事も嘘だ。本当は街の中小企業の一社長にすぎない。

 

「そうか。すまないな、少し圧が強すぎたかもしれない」

 

 少しのレベルではないと思うがこう考えている姿に嘘がなさそうなのはシンプルにこいつが人の様子というものをほとんど見た事がないからだろうな。俺は何の変化もなく対応しても違和感を抱かれるかもと思い、少し怯えた様子で返答する。

 

「い、、いや別にいいよ、うん。綾小路くんが気になることがあったようで良かったよ、うん」

 

 そう少し様子を変えて接するとようやくまずいと悟ったようで急いで話しかけてくる。

 

「すまない!やりすぎたみたいだ、許してくれよ冗談だから、、な?」

 

 謝ってくる綾小路は先程よりかは遥かにマシな様子になるものの俺からしたら恐ろしくて仕方ない存在なのは変わらない。しかもこいつは未だに俺への疑惑を無くしきれていないのが伝わってくる。これで不安を抱くなというのは無理な話だ。

 綾小路は疑惑を完全に無くすためか再び質問してくる。

 

「松雄、もしかして()()()って姓について何か知ってたりしないか?」

 

「綾小路ってお前以外にか?普通に初めて聞く苗字だぞ。珍しいし記憶違いもないだろう」

 

「そうか」

 

 俺は綾小路のそれを聞き自身が正解を選べたのだと思った。こいつには十中八九感情という感情はないだろう。そんなこいつ相手でも同じ施設で育ったかつ、人間の考え方については綾小路よりも多く知っている俺に対して思考を隠し通すことはできない。

 そしてそんな俺から言えばこいつはもうほぼほぼ俺のことを疑っていない。思うところはあってもそれを表に出すことはないレベルに収まっている。つまりこいつにとっての邪魔者扱いになることはないだろうということだ。

 

「そんじゃもう遅い時間だし、お前も元々予定あったんだろ?ここらで話は終わりだ」

 

「そうだな、わかった」

 

 俺が綾小路にそう提案したらすんなりと受け入れてもらえた。綾小路としてもこの空気感は望むものではなかったのか、あるいは急ぐべき予定があったのか。いずれにしろ俺もそろそろこいつとは離れたいし、普通に休みたいのでありがたかった。生鮮食品もあるしな。

 そして綾小路は俺に返答するとすぐにエレベータの方へと向かっていった。それを見て安心すると俺は先程鍵を開けた扉を開く。扉を開けて閉まらないようにしつつ地面においていた荷物を部屋の中に運ぶ。そして俺はすぐさまに買ったものを置いていく。食品類は冷蔵庫だったら、洗面用具は洗面台付近と言った感じにだ。そして俺はようやく一息つくことにする。

 

 俺の部屋は一年生全員同じなのだろうが八畳のワンルームで、中にはベットと小さめの机一つが置いてあった。まぁ多少不便に感じはするが大きな問題点は現状なさそうだ安堵する。

 その後俺は適当に学校からもらった端末、もといスマホを使って色々と暇つぶしをしていた。いわゆるSNSの類は自分が発信することはできないが受信して見る分には可能なようなので俺はYouTubeを漁りまくっていた。ちなみに学校指定のアプリなら学内の生徒限定にはなるがSNSの運用も可能らしい。俺は一切興味が湧かないので無縁なものだろう。

 

 そしてYouTube、晩飯、風呂、YouTubeの流れを終え、時刻が22時を回る。明日の学校のこともあるのであと一二時間かで寝なくてはなと考えていた時のことだった。俺のスマホに電話がかかってきた。今現在連絡先を交換しているのは森下と綾小路の二人、のみではなく実はクラスの男子と連絡先の交換だけはしていたのでそれなりに候補はいるのだが冷静に考えてあの二人以外とはまともに話してもいないので可能性は低いだろう。綾小路とちゃんと話したとは言い難いし、友達と言い切るにはまだまだ関わりが薄いが、あの世間知らずな感じならなんの考えもなく電話してくる可能性もあるだろう。友達は電話するものなんだろう?とか言いながらだ。

 無視してもいいが無理したら綾小路にしろ森下にしろ面倒なのは目に見えてるので俺は出ることにする。俺は携帯を常に持っているためこの出る判断から押すと言う動作を電話がかかってきて直ぐにしてしまった。ちなみにおそらく2秒もかかっていないだろう。なのでつい名前を見忘れて電話に出てしまったが声や話し方で話してる最中に相手はわかることだろうと思い、俺は特に焦ることもなかった。

 

「もしもし」

 

 俺は電話において決まりきった文言を言う。そして相手がそれにどのように反応してくるかと思っているとスマホから声が聞こえてくる。そこで俺は目を見開く。なぜならスマホから聞こえてくる声の主は俺の想定外であったからだ。

 

「ふふっ、随分と電話に出るのがお早いのですね。私との電話はそれほどに魅力的ですか?」

 

 この口調と声から分かる通り俺の電話の相手は坂柳だろう。しかしどうやって坂柳は俺の連絡を知ったんだ?一番可能性が高いのは森下から聞いただとは思うが坂柳ならクラスの男子を脅すといった手法もありあるだろう。そんな俺の考えを見透かしたのだろう、坂柳は話し始める。

 

「なぜ松雄君の連絡先を知っているのか疑問に感じましたか?隠すのもあれですのでお答えしておきますと、学校側に頼み込んで学校指定のアドレスを教えていただきました。あぁ、これは父とは関係なく誰でもできることなので悪しからず」

 

 坂柳の説明を受けてなるほどと思うと同時にやはり坂柳は危険な相手であると知覚する。

 

「そういうことか、教えてくれてありがとう。で、わざわざ俺に電話してきた理由は?」

 

「あら、理由がなくては松雄君に電話してはならないのですか?」

 

 俺はこの言い方にデジャヴを強く感じた。おそらく坂柳は意図的にバスでのセリフに被せてきたのだろう。俺はそれにバスと同じような返答をすることもできるが、あえて違う回答をした。

 

「そうだな、知らん人ならともかく坂柳にされる分には悪くない」

 

 そう俺が答えると電話越しに坂柳の笑い声が聞こえる。この笑いがどんな笑いなのかは想像つかないが好感触な気はしている。

 

「そうでしたか、ですが今回は訳あっての電話になりませんので残念です」

 

「だろうな。それならとっとと要件を言え」

 

「私としてはまだ少し話していても構わないのですが、、仕方ありませんね。では単刀直入に、、、松雄君が気づいたptに関することを教えていただけませんか?」

 

 ようやく聞き出した坂柳の要件は俺の想像通りであり、ptに関することだった。これに対して俺は素直に答えて構わないと考えてはいるが、その前に言うべきことがある。

 

「別に構わないが、坂柳から俺への情報共有もあるんだろうな」

 

「えぇ、そう考えてもらって構いませんよ」

 

 坂柳は何の躊躇いもなく俺の質問にそう答えた。事前にこの手の質問は予想していて答えも当然用意していたのだろうな。こいつなら突飛な質問にも即答しそうではあるが。

 

「それじゃあ早速答えるが、まず間違いなくこのptってのは来月も同じ額はもらえない。下手をすれば1ptももらえないなんてこともあり得るかもな」

 

「その根拠は?」

 

「今日ショッピングモールで色々見て回る中で無料の商品もそれなりにあることを見つけた。それらはもれなく質が悪く、一月に10万をちゃんともらえてるなら買わないようなものばかりだった。だが結果としてはそれなりの数がいた。これじゃダメか?」

 

「なるほど。松雄君からみてそれらの商品に手を出している生徒は一部の特殊な層のみではなく上学年なら普遍的に存在するものだったということですね」

 

「そう捉えてもらって構わない」

 

「それでは松雄君はどのようにしてptの増減が発生すると考えていますか?」

 

「クラス単位での実力評価だ」

 

 俺が新たに出された坂柳からの問いにそう答えると電話越しで坂柳の興味深そうな声が聞こえてくる。俺は次に根拠を聞かれるとことが想像に容易かったために間髪おかずにわけを答える。

 

「まず実力評価ってのに関してはそっちのクラスがどうかは知らないが星之宮先生が最初にこう言っていた。10万ptという額は()()()()()に対する学校側の評価だとな。この発言は裏を返せば今後の俺たちの評価次第でptの額が変わりうるってことになるだろ。じゃあ実力って何かとはなるが、俺は色々な能力の総合だと考えている。生徒会長が俺の身体能力や協調性について言及していた点がそれの根拠だ。あとは授業態度なんかもカメラの数からして反映されると踏んでる。まぁ色々言ったが他にも国の予算的な話も含めてptの増減は確実だろう」

 

 俺のここまでの結論を聞いて電話越しの坂柳は今までとは異なり何の反応も示さない。実は電話元から離れてるなんてことはないと思うが、少し気になりはする。しかしそれを指摘するのもなんだかといった気がしたので俺はそのまま続きを語り続ける。

 

「そしてここまでくれば新たな疑問が生まれる。それはその実力評価は個人単位なのか、クラス単位なのか、はたまた学年単位なのか?俺は先に言った通りクラス単位の可能性が高いと見ている。まず一つに理由については三年間に一度もクラス替えがないことが挙げられる。今時クラス替えがない学校なんて普通あるか?何らかの理由があると考えるのが普通だろう。その理由ってのは単純でクラス替えごとにクラスの評価を大きく変えざるおえなくなるからだ。まぁでもこれは本当に大きな意味なくクラス替えがない可能性もあるから根拠としては薄く感じてる。次に二つ、おそらく同学年内でのクラス争いがある」

 

 かなりの間俺は話しているもののまだ坂柳は反応を示さない。そろそろ不安になってきたので何かしらの反応が欲しいのだが。そんなことを思いながらも俺は説明を続けるのだった。

 

「これは二、三年生を見ていてA〜Dクラスの上から順に席数が多かったからだ。少なくとも俺たち一年生の代では全クラス四十人で統一だったはずだ。クラス分けなのだからそれが当然だし、二、三年生もそうであったと考えるべきだ。だが教室には四十人も席がないクラスが大量にあった。特に二年生の代は酷かったな。そしてこの数がA〜Dの順番でおかしいぐらいに綺麗に並んでいる。これから考えられるのはクラス替えはなくてもクラスの名前そのものは変わりうるということ。つまり優秀と判断されたクラスは上へと上がり、無能とされたクラスが下へと下がる。そして下のクラスは落ちて行く過程で退学者を出してしまう。まぁ初めから優秀と評価されている者たちがAから順にあてがわれていてクラスの名前は変わっていない可能性もあるがな。その場合は争いなんて起きてなくて、単純に無能な奴が多いクラスが退学者が多いっていう当たり前のことが起きているだけの可能性も出てくるが、俺は最初の方の考えを推してるね。今日一日だけだが俺の感じだ学校の理念に沿うのそっちだ。これが俺の概ねの結論だ」

 

 かなり長い間話してしまうことになったが、ようやく語り合えたことに俺は肩の荷が下りた感覚だ。本当にもう言うことないので俺は黙っていた。まさか本当に坂柳が聞いていなかったなんてことがあるのかと思い、俺は焦り始める。そして俺はもう終わりかと思い、通話をやめようかと耳元から端末を離そうとし始めたときだった。

 

「アハッ、フフフフフフフ、、、良い、良いです、分かりました、よく分かりましたよ、私は今嬉しくて仕方ありません!」

 

 ようやく声を聞かせてくれた坂柳の発言はあまりに怖く、正直今座ってる新品のベッドの上にちびってしまいそうだ。絶対にしないが。

 それはそれとしてブラックオーラ発動状態の坂柳よりも今の気狂い坂柳のほうが怖いのだが本当にどうにかして欲しい、切実に。

 

「いえ、失礼致しました。少々はしたなかったですね」

 

 一通り笑ったり、自己確認したら、突然の宣言をして落ち着いたのか坂柳は俺に謝罪を入れてくる。正直まだ少し、いやかなり怖かったが我慢して応じる。

 

「別に構わないぞ。それで坂柳の方は?」

 

 ここで俺が問いてるのは坂柳から見てのptシステムに関する見解を教えろという意味だ。約束したこともあるし、あの天才坂柳ならこれで十分に気づいて答えてくれるだろう。

 

「私の方も松雄君とそんなに変わりありませんよ。ですが一つ付け足すなら実力評価は松雄君の考えている以上に複雑だということです」

 

 どうやら坂柳は俺のたどり着けてないところまで辿り着いているようだ。

 

「松雄君の言っていた総合力についてですがそれらを測る特別試験なるものがあるのですよ」

 

「特別試験?」

 

 総合力を測る試験というのは正直想像しづらく俺の頭の中では中々ビジョンを描けずにいた。もともと自分なりの想像をすることが苦手というのもあるのだろう。これはあの施設で育った弊害と言えるだろうな。

 俺は答えを得るために坂柳の続きを待つ。

 

「はい、特別試験です。例えば無人島でのサバイバルだったり、テストでの学力勝負があるそうですよ」

 

 坂柳がここで例を言ってくれたおかげで俺の中で特別試験のイメージが出来上がる。なるほど学力勝負はともかく無人島サバイバルは確かに総合力での戦いと言えるだろう。俺はこの学校のことを坂柳の特別試験に関することを聞いたことで好きになる。面白そうだ、と。

 

「なるほどな。教えてくれてありがとう。それで、、、お前誰からそれ聞いたんだよ」

 

「お口を堅く閉ざされていた方々にちょっとしたことを教えてあげて、緩んだ口から得ただけですよ」

 

「つまり、脅しかよ。バレたら洒落に並んだろ」

 

「ふふっ、私がそんな半端な考えを持たれるようにさせると思いますか?」

 

「だろうな」

 

 半ば呆れ気味にそう俺は口にする。坂柳ならもし脅しのことを先生に報告した場合脅しの材料を被害者にとっての最悪な形で使うなんてことは平気でするし、手際も悪くないんだろう。

 

「しかしよくこの一日でそこまでいけたもんだ」

 

「そう言わなくても大丈夫ですよ。松雄君と私の見解はほとんど相違なかったですし」

 

「そこじゃねぇよ。わかってんだろ?」

 

 俺が言っているのはよく一日で脅しの情報なんて手に入れられたなと言う意味だ。まぁ見解云々に関してもこいつの方が先に行っていると言う事実は間違いないのだから賞賛に値すると思うが。

 

「冗談ですよ。まぁ確かにそういった材料を見つけるのには苦労しました。ですが一つ言うなら何かを作る材料が足りないならその()()()()()()()()()()()いいのですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐ろしい女だ」

 

「よく言われます」

 

 話がひと段落したところで俺は坂柳との通話をやめようと話し始める。

 

「それで、もう話はないか?ないならとっとと寝たい」

 

「そうですか。残念ではありますがこちらから電話した身、引き留めはしません。ですが最後に一つだけよろしいでしょうか?」

 

「別にいいが、手短にな」

 

「えぇ、分かっております」

 

 そう言うと坂柳は一度間を置いてから再び話し始める。これが正真正銘今日の坂柳が俺と話したい最後のことだろう。

 

 

 

「明日から私と一緒に登校してもらえませんか?」

 

「は!?」

 

「ですから、私と一緒に登校してくださいと申しています」

 

「いや聞き返したわけじゃなくてだな!」

 

 こいつは何を考えてるんだ?クラス間の争いがあるということに気づいているなら私生活であまり深く関わるべきではないことは分かりきってるはず。しかもこんな入学早々の早い段階で男女二人で登校なんてすれば色々怪しく見えるだろうことは分かりきってるはずだ。

 

「お前本当に!、、いやもうこの際冗談なんだろうからそこを怒るのはやめとく。とりあえず理由だけ言え、理由」

 

「あらっ、理由がなくては松雄君と登校してはいけないのですか?」

 

「もういいってその流れ」

 

 流石に三回目ともなると少々飽きてくる。それに割とガチで深刻な問題なため冗談言ってんじゃねぇと思っているのもあって少し苛立って俺はそう口にする。

 

「そうですか。それは残念です。ですが理由は単純ですよ。端的に言って私はあなたに興味があるのですよ、松雄君」

 

 坂柳は普通恥ずかしがるであろう台詞を一切淀むことなく口にする。

 

「お前が?俺に?それこそまた冗談だろ。俺は確かにこの学校で頭のいい部類だろうがな、それでもなお俺以上のやつが何人もいるのがこの学校だと思うぞ」

 

「そうご謙遜にならずとも、松雄君は学年二位の頭脳をお持ちですよ」

 

 どうやら坂柳から見て俺への評価は高いようでそれは簡単には落ちなさそうだ。そして坂柳に無能演技をしたところで今後その評価が覆ることもないだろう。思った以上に面倒なやつに実力がバレたかと思い後悔する俺。このままではクラス間の争いのたびに直接対決とか言いかねない。

 俺は坂柳にそれをさせないためにちょっとした油を坂柳という邪悪な火に注ぐことにした。

 

「へ〜、坂柳は俺のことをそこまで評価してくれていたのか?」

 

「えぇ、この学校でできた一人目の私の友達ですから」

 

「だからって学年二位は言いすぎだろ。俺の頭脳は()()()()()()()()なんかじゃないって」

 

「なんですって?」

 

 俺の発言を受けて坂柳はしばし硬直する。その口ぶりからして怒っている様子だ。坂柳は間違いを訂正するなら今の内と言わんばかりにその発言以降何も言わずにいる。俺はここであえてとぼけたままでいることにする。

 

「いったい何を、、、いえ、まさかそんな、」

 

 電話越しに坂柳の声が途切れ途切れに聞こえてくる。俺の言ったことを最初はまともに受け入れずにいたようだが、俺の態度を見て考えを巡らせてくれたようだ。そしてようやく答えが出たのかこちらに話しかけてくる。

 

「松雄君、あなたは先ほど学年二位の頭脳を私と同レベルとおっしゃいましたね」

 

「あぁ」

 

「それは私の頭脳が学年二位という意味で相違ありませんか?一位は私で二位はそれの一つしたでほとんど同レベルという意味合いではなく」

 

「あぁ」

 

「あぁ」としか返事をしない俺に坂柳が不満を感じているのを感じながら俺は端末から聞こえてくる声を待ち続ける。坂柳は「となるとやはり、」とか言っている。続きがそろそろ来そうだ。

 

「松雄君は私より天才と言える人物に出会っていると?」

 

 さすがと言うべきか、坂柳は俺の言わんとしていることを理解しているようだ。まぁ疑ってはいなかったので驚きはしないが。

 

「天才、とは少し違うかもしれないが俺から言わせれば間違いなくお前より強いやつさ。俺も坂柳もあれの前じゃ全く通用しないとは言わないが、いざ勝つとなると相当厳しいだろう」

 

「残念ですがそれはあり得ません。私以上の天才などいるはずもありません」

 

「そう思えているうちはそうだろうな」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「俺の言う一位は表に出てくる可能性は今日話してみた限りでは薄そうだった。だからお前が自分から探さなきゃそいつに気付ける可能性はほぼ、、いや完全に0だな。あいつがそんなヘボを起こすとは思えない」

 

 ここで一応言っておくが俺の言う一位の存在は綾小路清隆のことだ。俺はあいつがどれほどの怪物なのかをホワイトルームで知っている。そして俺が坂柳に言っている綾小路への評価は一切嘘のないものだ。つまり俺は綾小路には誰も勝てるわけないと考えているわけだな、当然俺含めて。

 

「ふふっ、ふふふっ、」

 

 そんな風に色々と考えている坂柳は突如として笑いだした。まるで何かを思いついたと言った感じだが面倒な予感がしてたまらない。

 

「なるほど、つまりこれはゲームですね?」

 

「は?」

 

「私が松雄君の言う一位を見つけられるかどうかというゲーム、違いますか?」

 

 いや全然違うし、本当に面倒な話になってるんだが。

 とりあえず否定しなくてはと思い、話し出す俺を遮るように坂柳はまた喋り始める。

 

「そして私がその方を見つける、つまり勝った場合私と本気で勝負していただけないでしょうか?」

 

 坂柳は俺にそんな提案をしてくる。つまり、勝負に勝ったなら今度こそ単純な真剣勝負をしましょう的なことだ。勝負の景品が勝負かよと俺は思うが坂柳というバーサーカーならそれもありなのだろうな。

 そして何より驚くべきことは俺がクラス争いなどには本気で望む気がないと見抜いていることだ。俺の言動の僅かな違和感などを見つけてそう思考したのだろう。まぁ正確に言えばそれは少し違うのだが否定するのも面倒だな。なので坂柳にそう思われていること自体は別に構わない。

 問題は坂柳のこの提案を受け入れるか否かだ。俺としては正直メリットがないので現状では受け入れる意味はないと言える。それに綾小路が実力を隠すという考えも本当にそうかは分かりきっていないわけだし。万が一一瞬でバレたとかなったら恥ずかしすぎる。だがここはあえて、

 

「別に構わないが、俺からも条件や報酬に関することを付け足したい」

 

「構いませんよ。特に報酬については元より松雄君が話を受けるメリットとして望みのものをと考えいましたから。それで、どんな報酬をお望みなのでしょうか?」

 

「望みのものを言う前に条件に関することだ。まず大っぴらにそいつを探るような真似はやめること。そしてその過程で俺の名前を出すことは許さない。あとできればだがAクラス全体に対してもできる限り俺に関することは言わないこと」

 

「なるほど、その程度でよければ受け入れましょう。ですが口約束でよろしいのですか?」

 

「その点は今この電話で約束している時点でどうしようもないだろ。別に明日正式に学校立ち会いの元でやるとかも出来なくはないだろうが、そんな面倒なこと俺はしない。坂柳はそんなつまらないことはしない人間だ」

 

「なるほど、それで報酬については?」

 

「報酬はいらない。だがその代わりに坂柳の報酬を減らさせてくれ」

 

「と、言いますと?」

 

「俺が本気で戦うチケットを一枚渡すという形にしたい。ちなみに2枚集めて初めて一回使用可能だ」

 

「そういうことですか。えぇ分かりました。今回はそれで構いませんよ。しかし少々欲が足りませんね。ですから勝手ながら報酬を付け足させていただきます。松雄君が勝った場合は私が松雄君の実力をバラすような真似は今後一切しないと約束しましょう。これで構いませんか?」

 

「あぁ、断る理由が見当たらないからな」

 

 思った以上に話がいい方向に進んでいるので少し上機嫌になっている俺だが、それを表に出さずに俺はそう口にした。だがこうして勝ち負けの報酬が明確に決まったとなると重要なのは勝利条件、はたまた敗北条件の決定だろう。

 

「そして肝心の勝利条件ですが、私が松雄君の言う一学年一位の頭脳を見つけれれば勝利。逆に見つけれない、間違った人を指名するなどがあれば松雄君の勝利としましょう。ですがこのままでは見つけれない、という部分が不鮮明になるため期限を設けましょうか。いつまでにしましょうか?松雄君」

 

「夏休みが終わるまで、それで良い」

 

「想像よりも長いですね。まぁこちらとしてもそれを断る理由が見当たらないので構いません。では期限は夏休みが終わるまでとさせていただきます。この夏休みは当然この一年生の時期の一学期の夏休みということです」

 

 こうして坂柳は俺とのその約束を結んだ後、さらに精密に情報を整理する。色々細かいことを決めた後、坂柳は最初の話戻してきた。

 

「さて、勝負に関することはこれでおしまいですね。ところで松雄君、お忘れではありませんよね?」

 

「ん?終わりか?」

 

 坂柳が話を戻そうとするが俺はあえてとぼける。もちろん坂柳が何について話したいのかは分かっている。ではなぜ答えないのかと言われればその話に関することを答えるのは嫌だからだ。

 

「違います。一緒に登校することですよ」

 

「はぁ〜、さっきも言ったがい「嫌と言われますと今後はBクラスの方で想い人を待ってるなどと言って待つかもしれませんよ。あるいは寮の前で「はい、行きましょう、一緒に」

 

「ありがとうございます」

 

 さっきまでとは比べ物にならない速度で坂柳と一緒に登校する件は片付いた。いや俺がしたら片付いたとは言い難いのだが、話が終わったと言うことで片付いたという表現は間違っていないだろう。

 そして俺は理解する。坂柳は人を脅す手法を好むと。そして自身をその材料にしがちなのだと。恐らく先輩に対してもこのような手法を取ったのだろう。

 

 その後は細かい時間や場所の取り決めをした後、少し雑談したがった坂柳の話を聞き、ようやく電話が終わる。時刻はすでに23時近いところまで来ており、かなりの間電話をしていたのが分かる。

 

「一時間近く電話したのなんて初めてだな」

 

 俺は所謂陰キャに該当するため長時間の電話など基本しないのだ。実際の陽キャがしているのかなんて正直知らないわけだが。下手したら一時間は長時間じゃねぇとか言いかねないからな奴らは。

 とまぁそんな感じでようやく俺の高度育成高等学校の1日目は終わりを告げた。

 

 

 ーーーーー

 

 

 俺は頭の中で今日1日のことを思い返していた。

 

 デスゲーム云々を危惧しての早期登校。

 

 そのために乗ったバスで出会った坂柳と森下。

 

 高度育成高等学校の街や学校内の異常な数の監視カメラ。

 

 体育館で入学式の準備をしていた生徒会。そしてそこで久しぶりに再開した橘に初め会う生徒会長堀北。

 

 俺のクラスであるBクラス、その中心となるであろう一之瀬。

 

 普及される学生証。

 

 俺の前の席で盛大に滑った彫縁。

 

 俺の計算通りの自己紹介。

 

 あざとい星之宮。

 一瞬殺気を感じたが気のせいとする。

 

 森下とのショッピング、あるいは学校についての考察。

 

 隣室の怪物もといホワイトルームの最高傑作(笑)もとい綾小路清隆。

 

 普及された端末での極楽時間。

 

 坂柳との勝負や諸々の約束。

 

 

 今日一日で俺は中々に濃い体験をしたものだ。これだけでこの学校に来てよかったと俺は思っていた。そしてこれから先のことが楽しみで仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、楽しみだ。楽しみで仕方がない。

 

 これから先多くの生徒がぶつかり合うだろう。そしてその過程で退学者が出て、多くの絶望と希望が見られる。理念はどうあれ奇しくもホワイトルームに似た環境に戻ってこれたのだ。

 そんな環境で俺がしたいのはどれだけ自分が他者に影響を及ばせ、そしてそれがどんな結果を引き起こすのか、それが知りたい。

 

 

 

 

 俺が何もしなければどうなるのか?俺が行動したらどうなるのか?俺に惚れてるメスはどう行動するのか?俺を嫌いなオスはどう行動するのか?

 

 恐怖は?慈愛は?愉悦は?虚無は?人に何を及ぼす?

 

 楽しみだ。楽しみで仕方がない。

 

 

 ここは俺の最高の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 




長すぎた。すみません。でも綾小路との最初の喋りだけ切り取っても1話にしては短いやり取りになるし、坂柳との会話も途中で区切るのも変だから仕方なかったんだ。はい。


とっととここら辺の話終わらせて特別試験に行きたいのにまだ中間テストや2巻らへんの内容もあって面倒です。まぁ須藤の所はBクラスってのもあって関わるの少なめですむとは思っているのですが。



ここでちょっとした裏話なのですが主人公は綾小路のことが嫌いとまではいきませんが苦手です。最高傑作(笑)とか言っていたのは苦手だからではなく、一応主人公なりの理由がありますが、表現がキツめなのは苦手としているからです。
それと綾小路側は主人公のことを一切覚えていません。綾小路と主人公は同期生かつ、主人公は綾小路のことを見ているのに何故記憶力がいい綾小路が主人公のことを覚えていないのか?これにも理由がありますので後々。一応言っておくとそんな大層なものではないです。

最後に基本的に全能力綾小路の方が主人公よりも上です。学力然り、身体能力然り、IQ的な面然りです。でも人を操ったり、人の心情を理解したりといった人に関わることだったら主人公に大幅な分があります。
大幅と表現している通り、この面に関しては綾小路では手も足も出ません。作中で2年近く経過した原作でも人のことを理解しきってるとは言い難いですしね。一応言っておくと龍園や坂柳とかよりもこの能力に関しては上です。他は割と他クラスのリーダーに劣っている部分も多いです。

つまり主人公が勝つにはこの人間に関する力を利用していく必要があるわけです。力をどのように活かしていくかを期待して続きも読んでくれると嬉しいです。ではまた。
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