朝、携帯のアラームによって俺は起こされる。アラームが鳴ってからすぐに起きたのか分からず俺は携帯でしっかりと時間を確認する。
その時間を見るに坂柳との約束の時間まではそれなりにあることが分かる。とはいえ坂柳相手に遅れることは死を意味するため油断するわけにはいかず俺はちゃんと目を覚ますこととした。
目を覚まして身支度なんかをある程度整えてから俺は朝飯を食う。俺の朝飯は昨日買っておいた菓子パンひとつだ。一応言っておくが俺は別に料理が出来ないわけではない。ただ朝やるのは面倒だからやらないだけだ。晩飯はやる。
ちなみに昼は学食にする予定だ。
そんな風に朝飯を終えた俺は待ち合わせの時間の20分ほど前に着くように出る時間を調整する。そしてしばらくの間スマホをいじってから部屋を出る。待ち合わせ場所はエレベーターを降りた一階のエントランスとなっている。俺は目立つからやめてくれと言ったが、結果はお察しの通りだ。
そんなわけで部屋を出た俺はすぐさまエレベーターに乗って一階へと向かう。一応綾小路に会うのではと少し警戒していたがそれは杞憂だったようで良かった。そんな風に一安心したのも束の間、俺以外にエレベーターに乗ってくる人がいなかったこともあって一階にはすぐに着いてしまう。
当然俺はエレベーターから降りる。そして坂柳はまだいないだろうとは考えているが、一応の確認として周囲を見渡す。
「うげっ」
そして俺は見つける。昨日俺に悪魔みたいなことを言ってきた悪魔を。
「うげっ、とは随分な言いようではありませんか松雄君」
「悲鳴じゃないだけマシに思えよ」
「それは言い過ぎですよ松雄君。私のような美少女を見てそのようなことを考える者などいるはずもありません」
「はいはい」
俺の漏れた声に反応した坂柳は杖を突きながらも近づいてくる。色々と不便なんだろうなと同情しながら俺は坂柳の隣にいる人物に目を向ける。その人物の特徴を挙げるならまさしくナイスバディな美女といった感じだろう。あんまり下卑た思考はしない俺でさえそういった考えが浮かぶほどに色々と発育がすごいといった感じだ。坂柳とは完全に逆だな。
そんな坂柳本人に言ったら確実に殺されることを考えながら俺がその人物のことを見ていると、目が合った。どうやら俺からの視線に彼女は気づいたようだ。そしてて少々不快そうに声をかけてくる。
「何?」
「いや、誰なんだろうなと」
かなり刺々しい口ぶりの質問をされるが、俺はそれに即答する。初対面に身体を見るような視線を向けてしまった以上その態度に文句はないが、悲しいものは悲しい物である。
そして俺の返答を受けて刺刺嬢は睨むように坂柳を見る。そしてそんな視線に気づいた坂柳は微笑む。そんな様子に言葉を失ったのか、ため息を吐いてから俺の方に改めて向き直し、そして話し始めた。
「悪かったわね。こいつが私のことを話してないとは思ってなくて。私は神室真澄。はい、これで良い?」
「あぁ、ありがとう。そっちは坂柳から聞いてるのかもしれないが俺は松雄知樹だ。よろしく」
「よろしく」
ふむ、どうやら神室は坂柳とは異なり、かなりの常識人なようだ。正直この学校に来てからの話しやすい女子ランキングで言えばぶっちぎりの一位なまである。尚橘先輩は除く。殿堂入りってやつだ。
ちなみに一之瀬は雰囲気的には話しやすくはあるのだが、話しかけにくさはあるので一位ではない。陽キャ達の中心人物に話しかけるなど、俺にはおいそれとは出来ないのだ。
「お前も他の人を連れてくるなら言っておけよ」
「お嫌でしたか?それでしたら申し訳ありません。松雄君に事前に言うとまた理由を聞かれると思いましたので省略させていただきました」
「お前な〜」
坂柳には色々言いたいこともあるが俺はここでグッと堪える。何故かと言えばこれ以上エントランスでの注目を集めたくないからだ。元々坂柳が杖を使って歩くことを考慮しての早めの時間での登校、それに加えてその集合予定の時間よりも早くに集まっていることから、普通の生徒達が少ない時間帯なのは間違いない。だがそれでも少なからず生徒たちはいる。そんな生徒たちの視線がさっきから俺達の方に集まっているのを俺は感じとっていた。まぁ無理もないだろう。だって入学して早々に異性同士で話し合い、早めに登校しようとしているのだ。誰だって前の学校からの付き合いで良い感じの仲的な想像をするだろう。そう考えると神室という三人目を連れてきたのは少しでもその手の誤解を産みづらくするためにも良かったのかもしれない。少なくとも男女交際の仲とは思われまい。こいつがそこまで考えた上での行動かは怪しいが。
そして俺は坂柳に「とっとと行くぞ」と言い坂柳の手を掴み、強引に連れ出す。もちろん足に気を遣いながらだ。坂柳は少し不満そうな顔をしていたが、知るか。こっちはもっと色々させられれてるんだから我慢しろ、の精神で俺は行動をやめなかった。そしてだいぶ人がいなくなったところで俺は掴んでいた坂柳の手を離す。
「女性にこのような乱暴な手を使うなんて如何なものでしょう?」
「お前の常套手段に比べればかなりマシな方だろ」
「勘違いなさっておられるようですが私のは単なる善良な取引にすぎませんよ?」
「俺の知る善良な取引ってのは双方が得するためにするもんだ。だからしなかった場合は場が白紙になるだけだ。お前のは下手すると真っ黒に塗りつぶされかねない」
坂柳は相変わらず色々言ってくるが俺はそれを否定する。この流れが坂柳との会話だと多い気がするのだが何故なのだろうか?
そんなことを考えていると神室が俺に口を開いてきた。
「あんた、すごいんだね。坂柳と言い合えるなんて」
神室はおそらく坂柳に色々されて今の坂柳の付き人的な役割をさせられているのだろう。それは俺が坂柳の手を離してから嫌そうにしながらも坂柳の近くにいること。尚且つその佇まいがまるで人を守るそれなのだから間違いないだろう。たった一日で忠誠はなくとも、これほど従順な駒を作るなんて普通のやり方では不可能だ。そう考えるとやはりこいつは善良な取引などしていないのだろう。
それはともかく、自分が色々言いくるめられたりしている坂柳に対してこうまで強気に反論している俺が、神室にとっては少々異質に写ったのだろう。
「別に単純な考え方の相違だからな。どちらが正しいかを決める場でないから俺はここまで強気でいられる」
「どういう意味?」
「この場において俺の考えが正しい正しくないは坂柳との対話において大きな意味を持たない。だから適当ぶっこいてても許される。まぁつまり坂柳との本気でのディベートではないし、これは単なるじゃれ合いの類だって話だ。本気でディベートをするなら俺の負けは確実だ」
「よくわかったような、わかんないような」
「要は坂柳と俺は本気で言い争っていない、そう理解しておけ」
「あぁ、そう言うこと。うん、分かった」
そんな風に神室が納得したところで、一人除け者にされていた坂柳も口を開き始めた。
「どうやら松雄君と真澄さんも仲良くなれたようで幸いです。ところで松雄君、あなたは先ほど私に黒く塗りつぶされかねないと言いましたね」
「言ったな」
「それを確実に回避できる方法があると言えばどうしますか?」
坂柳は俺に対して思いもよらぬ話を持ってきた。この場合で言う回避の方法とは坂柳が俺を敵と認識しなくなるということだろう。しかしそれは妙だとも感じる。なぜならこいつは昨日、俺と本気での勝負がしたいと言ってきていたほどだ。わざわざ敵でなくなるようにする提案なんてするとは思えないし、思ってもみなかった。
「それは、俺をBクラスのスパイにでもしたいって話か?」
「ふふっ、相変わらず思考がお早いようで。しかしながらそうではありません」
「じゃあ何か他に方法でもあるのか?」
「松雄君を敵でなくさせる唯一の方法は松雄君を味方にするということです」
「だからその方法がスパイじゃないのか」
味方にする、ねぇ。てっきり言葉遊びで『お前を殺す』つまりは『退学させる』をしてしまえばもう敵でも何でもない、とかいう答えかとも思ったが違うようだ。
「違います。そして松雄君を排除する方向性でもありません」
坂柳は俺の考えていることが分かっているかの様にそう口にする。俺はそんな坂柳を見て、改めて天才なんだなと認識すると同時に続きの言葉を待つ。
「もっと本格的に仲間になってもらいたいのですよ、松雄君には。結論を言いますと私たちのクラス、
坂柳がそう言うと近くの神室が目を見開き、坂柳の方を向く。俺もその提案には少しばかり驚かされていた。クラスが変わる。俺はそれを学年でのクラス争いの結果として変わることはあり得ると考えていた。それは二、三年生に共通してA〜Dの並びで奇妙な程に退学しているであろう生徒の数が増えていっていたからだ。つまりは優秀なクラスの称号として名が変化していくのだと。
だが、今坂柳の言ったことはそういったことではないだろう。他クラスからの引き抜き、つまりはスカウトという意味での発言だったはずだ。そしてそんなことが可能と俺は考えていなかった。故に俺もまた神室同様、目を見開いていた。
しかし改めて考えてみるとそれもおかしな話ではないのではと考えつく。何故なら星之宮先生はこの学校において基本的にptで買えないものは存在しないと言っていた。これは権利なども売っていると解釈できると俺はその説明を聞いた時から考えていたわけだが、その考えを当てはめれば坂柳の言っていることにも納得がいく。
基本的にクラス替えがないこの学校においての例外的なクラス替え、いやクラス移動と言うべきだろうそれを行う権利。坂柳はそれを使わないかと俺に言っているのだ。
そこまで考えが行き着いたところで俺は坂柳に改めて話しかける。
「それで?その権利はいくらだ?」
「2000万ptです」
「高いな」
「そうですね」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいって!」
神室はあまりに話がスムーズに進むことを変に感じたのか、俺たちの会話に割り込んでくる。そして会話止めたところで神室は坂柳の方を向いて口にする。
「坂柳、こいつをAクラスにってマジで言ってんの!?」
「あらっ、松雄君ではご不満ですか?残念でしたね松雄君」
「まったくだ神室。俺は悲しい」
「いや不満って、、言えば不満なのかもしれないけど、そうじゃなくて!」
ふざける俺たちに対して必死に自身の考えを伝えてこようとする神室。これは中々に見ていて面白い。
「真澄さんのおっしゃられていることは分かります。そもそも2000万ptなんて用意できるのか?そしてそれを松雄君にで良いのか?そういったことでしょう?」
「そうそう」
「そうだそうだ!言ってやれ神室!」
「あんたのノリは何なの?」
神室は呆れたように俺を見てくる。これまでの話の感じから分かったが神室は苦労人のようだ。まぁ俺も一つの要因なんだけど。
しかし坂柳が上げた神室の抱いているであろう疑問の中に『そもそもクラス移動って何?』がなかったが、神室は事前にその情報は知っていたのだろうか?となるとその情報はどこから得たのだろうか?脅した上級生か、はたまた先生か?どちらにしろその話を聞き出した場には神室もいたということだろうな。後でその辺も聞いておこう。
「まぁ冗談はさておき、お前自身が今言った疑問点は俺も普通に気になるんだが、答えてくれないか?」
「別に深い訳はありませんよ。有能な人材のスカウトと考えていただければ」
「あっそう、悪いが断る」
「なぜでしょうか?」
坂柳は心底面白いものを見る目で俺を見てくる。坂柳にとってはここで俺が何と答えるかよりも、その理由とかを聞くことの方が楽しみだったのだろう。
「鏡を見て言え。俺を試すような本気じゃない姿勢のやつの提案なんて簡単に受けるかよ。そんな奴の話なんてそれこそ本気じゃないのは目に見えてる」
「仮に本気だとしても?」
「その仮定は無意味でありえないが、今後お前が面倒ごとを言ってこないためにこの際はっきり言ってやる。例えそれが100%の真実だとしても俺がお前のクラスに行くことはない」
その俺の返答を聞いた坂柳は「そうですか」とだけ言うとそれ以上は深追いしてこなかった。元々本気ではないのだろうがもう少し食ってかかられると思っていたので拍子抜けな感じがした。まぁありがたいことではあるけど。
「もう聞かないの?」
神室が坂柳に対してそう問う。ここまで話を聞いてしまった以上はその行く末がどんな形であれ理由を知りたくなるのは当然であろう。故に既に話に興味はなかろう坂柳を煽てるようにして、自身の気になることを問うように誘導している。
「えぇ、結果は見えましたし、理由に関してはいくらか心当たりが。それを当てるのもまた楽しそうですので」
どこまでいってもゲーム感覚のこのお嬢様に俺、ついでに神室も辟易しながら通学路を進むのであった。
「ところで松雄君、ずっと端末を握りしめていますが何か気になることでも?」
「え?あぁ、実は俺極度のスマホ依存症でな。常に握ってないと体がソワソワするんだ。事前に覚悟を決めれば二日も耐えられる」
「えぇ〜」
今度は俺が呆れられていた。解せぬ。
ーーーーーーー
坂柳達とはクラスの位置関係上Bクラスのドアの手前で別れることになる。別れる最後に「明日も同じ時間で」とか言ってきた銀色の悪魔に適当に了承しといた。どうせ断れないのは分かりきっているからだ。
割と真面目に今後あいつとの関わり方を考えねばな、そんな風に耽りながらBクラスのドアを開く。
昨日と同じくドアが開くと同時にこちらに視線がガッと向く。既に特定のグループ内で仲が深まりつつあるのか、幾人かは会話に夢中であり、俺のような陰キャのことは見もしなかった。いや、こちらを向いた人達も相手が俺だと分かるとすぐに元の位置に顔を戻して会話を始めた。悲しきかな。
いつまでもそんな風に嘆くほど子供でもないので俺は自分の席に向かう。そして席に着くと同時に前から声がかかる。
確か俺の前の席って、、、
「どうした?しょぼくれた顔して僕様こと[[rb:彫縁 > ほりぶち]][[rb:円 > まる]]の後ろに似つかわしくないんだぞ!このこの!」
とりあえず昨日心に決めたこいつへの殺す決意を新たにした。
ーーーーーー
その後一週間近くが経過した。その間には相変わらずの坂柳による神室含めての三人での登校。堀縁への殺意。それ以外のBクラス男子達との交流などがある。思いの外クラスは馴染め、特に神崎とは仲を深められたと言えよう。お互い自己主張が激しいタイプでなかったのが幸いしたって感じだ。
話は戻って、この一週間近くで何があったかを今一度。えっと、綾小路からの鬼のような数のライン。堀北(兄)からまた生徒会に誘われたこと。橘先輩と俺による先輩後輩の仲睦まじい会話の数々。図書室で本を取ろうとしていたとある女子との邂逅などもあるか。
ちなみに綾小路との話では友達を作る方法を懲りずに何度も聞いてくるので、試しに普段どんなことをしているのか聞いてみたら、やれ『真の平等』だとか『この世で一番強い力』だとか友達を作る気があるとは到底思えないゴミみたいな話題を振ってきたのでキレといた。
こう振り返ってみるとかなり濃い一週間だったな。そういえばこの濃い一週間で森下とは会わなかったが動きの読めなさに定評がある森下らしいと言えば、らしいと言えるだろう。
さて、それはともかく俺が今何をしているのかだ。結論から言えば服を脱いでいる。これだけの説明だと単なる変態だが、当然だが訳はある。俺はあるものを履くとそのまま部屋を出る。
今の俺の格好はパンツ一丁といった感じだ。まぁ本当にそのまま字面通りには受け取ってくれるな。訳を説明するとこれはプールの授業だ。
そしてパンツ一丁は水着のことだ。
そして俺含め男子全員が着替え終わって更衣室から出てくる。まだ女子は一人も更衣室から出てきていなかった。まぁ男子より女子の方が色々と着替えるものが多いし、性格の傾向的にもそうなって然るべきなので特に言うことはない。
余談だがBクラスの女子は一人としてプールの授業を欠席することもなければ見学をすることもなかった。これはBクラスの女子が真面目な正確なのもあるが、それ以上にBクラスの男子の中にあからさまに下卑た考えを持った人間がいないと察せているからだろう。この一週間でそれを感じるくらいにはこのクラスの雰囲気は良い。
そしてその原因は言わずもがなで、たった今出てきた少女が原因であろう。結局原因を言ってるではないかって?うるさい。
普段卑猥なことを言うことも、考えることもほとんどないBクラスの男子全員が息を呑むのを感じる。
その少女の計算され尽くしたかのような肉体はどこまでも視線を惹きつけ、更には太陽のような美顔は笑顔が映え、そして今現在実際に笑顔でこちらに向かってきている。どこまでも男性を誘惑するようなその少女の名は一之瀬帆波だ。
「おぉー!おっきいプールだね!これなら学年レクとかでも使えるかも!」
そんな彼女の発言はどこまでも他者のことを考えてのものであり、下卑た思考を僅かにでもしていた男子達の表情が曇る。俺はそれを横目に見ながら適当なことを考えながら、一人で黙々と思考の海に耽る。
すると一人のイケメン君が近づいて来る。
「松雄、お前は一之瀬に興味はないのか?」
俺にわざわざ話しかけてくるこの物好きの名は神崎隆二。先程にも言ったが俺がBクラスで一番仲のいい友人である。
「俺は別に。自分に釣り合わない女の子を見てたって興味は湧かないな。この女子はイケる!って思った子にしか恋しないことにしてる」
「お前な。それもし今後付き合う子ができても絶対言うなよ。嫌われるぞ」
「それぐらい分かってるっての。つか、お前の方こそ一之瀬に興味無いのかよ?正直絵になると思うぜ」
そう、Bクラスの女子最強を一之瀬とするなら男子の方の最強は間違いなく神崎だろう。もし仮に一之瀬と誰かが付き合うなら本人達はともかく、周りは神崎やDクラスの平田、あるいはAクラスの里中ぐらいしか認めないだろう。一応化け物(綾小路)も顔だけで言えば悪くないが、いかんせん目立たなすぎる。メッセージを通してあいつが今無能寄りな生徒を演じているのだろうということは察している。それ故に周りは認めないだろう。
「そんな理由で相手は決めんさ。それに一之瀬と俺がそういった関係で上手くいくとは思えん」
「そうかね?」
「そうだ」
まぁその神崎の意見には俺も同意だ。馬の骨が合わないとは言わないがあの二人が恋仲として上手くいくか問われれば俺の答えはNOだ。人間観察が趣味の俺が言うんだ間違いない。
「おーい!そろそろ並べ!」
野太い声で誰かがそう言う。声の聞こえてきた方角を見てみると声の主が今回のプールの授業を担当する先生であることが分かる。
俺と神崎はそれを見ると先生の指示に従おうと、動き始めた。
ーーーーーー
男女別の出席番号順で並べられ名簿確認を取られた後、先生の説明が始まる。どうやら泳げない人と泳げる人で別れてもらうようだ。泳げない人たちは先生がある程度教え、泳げる人たちは勝手に泳げるだけ泳げって感じらしい。
さて、ここで気になる発言があった。それは、
「今はどれだけ苦手でも構わんが、克服はさせる。泳げるようになっておけば必ず後で役に立つ。必ず、な」
必ず。別におかしな話ではない。だが妙に強調されていたことが気になる。という生徒が沢山いて欲しかったのだがそうはいかないようだ。一之瀬も神崎もおそらく気づいていない。俺の前のなんちゃって天才、堀縁も当然のように気づいてないだろう。
かくいう俺はといえばあたりはつけている。坂柳が上級生を脅して得た情報、特別試験についてで無人島サバイバルについては触れられていたからだ。坂柳が言うには一年生は例年一回はそれをやるらしい。となればこの『必ず』の意味にも納得がいくものだ。
このクラスが勝てるかどうかなんてのは正直どうでも良いが、つまらないのだけは困る。もしそうなった場合はこの仲良しこよしで終わりかねないクラスから無理矢理にでも退学者を出して緊張感を煽るでもしようか。あんまり俺自身で手を加えるのは是としないがそうならざるを得なくなればそうするしかない。
とりあえず坂柳のいるAクラスに勝つことは不可能であろう。Cクラスは一人だけ図書室で会った雌がいて、少なくとも先生達が共通でしているであろうあの発言に対して、違和感を覚えていると思われる生徒なのは分かる。Dクラスは綾小路が動けばそれこそAクラスすら食ってかかるだろうが、それはないだろう。ともすれば現状ではAとCにはBクラス以上に知恵の回る者が最低一人はいるということになる。
まぁそうだな、うん、よし、決めた。
次の特別試験、機会があればだがBクラスの誰でも良い、退学者を出すとしよう。それと同時に手駒を一つ作ろう。
実験に助手は付き物だよな。
ちなみにその後先生が一番記録の良かった奴にptをあげるとかで柴田と一之瀬が優勝していた。
俺は本気を出すのはまだ早いと後方で僅かにカッコつけていた。
細かい日程の前後とかは気にしないでください。神室と坂柳の関係やプールイベントはこのタイミングじゃねぇだろとか言わないでください。