プールの授業があってから数日後、突然の小テストが実施された。内容はかなりひどいものだ。何がひどいって、まともに義務教育受けてたら間違えないだろって問題しかないことね。まぁ一応最後の三問はそうじゃないんだけどさ、これもまたクソだよクソ。
一個は頑張って応用すればギリギリ解けるかも知れないけど残り二個はまぁ無理だね。お前は解けるだろ?それはそう。
まぁそんなこんなで小テストをやり、ついに五月に突入したってわけ。
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「ポイントは六万六千か。おおむね想像通りだな」
俺は朝起きてすぐに携帯を手に取る。それは俺が極度のスマホ依存症であることもあるが、それとは別にシンプルに振り込まれるポイントの四月との変異が気になったからだ。その結果、昨日寝る前に確認したポイントとの差額が六万六千であることを確認する。
元々四月に振り込まれていたのは十万であり、その半分も減っていないのにかなり減ったように思える。まぁ俺はあらゆる可能性を考慮しポイントの節約を心がけていたので、直ぐに問題になることはない。これからはこの変動した値を参考に少しぐらいは贅沢をしてもいい。
そんなことを考えながら朝の支度を終えた俺は寮のロビーへと向かう。面倒だが今日は話したい内容があるためにまだマシだ。普段は付き合いたくもないのに付き合わされてるからな。なんやかんやで楽しく感じてはいるけども。
「あら松雄君、普段より三分ほどお早い様ですが私にそんなに会いたかったのですか?」
「そうだな、つい先日神室の魅力に気づいたんで早く会いたかったんだ。なんでお前は邪魔だから置いてくな」
「いやあんた何言ってんの?」
坂柳の相変わらずの揶揄うような発言に思わず俺もふざけて返答するが、神室に冷静にツッコまれてしまう。
「まぁ、冗談はさておきだ。坂柳、こっちは六万六千だった。そっちは?」
「こちらは九万四千程ですね。松雄君がいてもこれほどの差ができますか」
坂柳は退屈そうにそう口にしていた。自身が楽しめそうな相手をBクラスに見出せそうもないからだろう。
「そりゃあ俺は何もしてないしな。でもこれだけで全部を判断するのは尚早ってものだぞ。神崎は微妙だが一之瀬あたりは頑張れば面白い相手になるだろうよ」
「一之瀬帆波さんですか。話に聞く限りではお人好しすぎる印象を受ける方ですね。それでは絡め手を使われたらひとたまりもないでしょうね」
坂柳は一之瀬を取るに足らなさそうな相手と評価しているようだ。俺もそれは同意見ではある。現状の一之瀬では最初の方のシンプルであろう特別試験なら勝てるだろう。だが恐らくは後半になるにつれて試験内容も複雑化するだろう。そうなった際、ルールを飲み込む能力はあるだろうが、そこから転じての予想外の一手を打つのには向いていない。
だがそこら辺はいずれ俺が解決してやろう。一之瀬帆波の覚醒を促す方法は容易に想像がつくからな。
坂柳はここで口角を上げて話しかけてくる。
「ところで、良かったのですか?一之瀬さんのことをわざわざ注目させるようなことを言ってしまって?ゲームの件がある以上、ここでそのようなことを言うのはうかつだったのでは?」
ここで坂柳の言う悪手とは俺が一之瀬のことを話題にしたことそのものに対してだ。俺がこの学校で最も天才であると考えている人物が誰なのか?それを当てられない可能性を少しでも上げることのみを考えるなら、確かにここで一之瀬を槍玉に上げるようにして話題に出すべきではなかっただろう。ここで名をあげた場合坂柳の注意は多かれ少なかれその人物にいくだろう。そこでブラフとして彫縁などの無能生徒の名をあげるなら意味もあろう。しかし、一之瀬の様な元より優秀であろうことを知っている人物の名をあげるのは、その人物が念入りに調べられても問題ないと言っているようなものだ。つまりは一之瀬が答えではないと教えたと、坂柳は考えたわけだ。
「お前を軽視するわけではないが、俺はそいつのことを相当信頼しているからな。能力面に関してだけは特に。それこそ問題は特にない」
「それを軽視というのだと教えてあげましょう。あまり私の才能を軽く見てはいけませんよ?」
坂柳は立ち止まり、杖の先をこちらに向けてくる。一瞬、倒れないかとも思ったが、どうやら歩こうとせず、立つことのみに専念すれば倒れ込むことはないようだ。
「お前の方こそ、俺の持ちかけたゲームを軽く見過ぎだ。フロムゲーより難易度の高いゲームにお前は挑んでると考えた方がいい」
まぁ、あれらは良作でも綾小路関連のゲームはクソゲーどころかゴミゲーだからな。ちなみにクソゲーとゴミゲーの違いは個人的に何やかんやで愛せるか愛せないかの違いだ。少なくとも俺はそう考えている。
俺と坂柳の視線がぶつかり合い、火花を散らすのを隣の神室が楽しそうに、しかしてやや不安気に見ているのが目に映った。神室はやっぱり俺と同じく苦労人なのだなと思った。
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坂柳、神室らと別れてBクラスに入る。そしてクラスの中が騒々しいことに気づく。想定よりやや落ち着いてはいるが、やはりこうはなるか。俺は自身の席につき、星之宮先生がやってくるのを待つ。途中、神崎や柴田らがポイントに関することで聞いてきたが、俺はそれを適当に流しておいた。
そして皆が待ち望んでいた星之宮先生がやってくる。先生はそれから多くのことを説明する。俺からすれば既に知っている、というよりは予想がついている内容だったので驚きも少なかった。強いて言うならテストで百点を取ったような気分にはなったが、あそこで過ごした俺にとってはそんなものはさして興奮するような物でもなかった。
「何か、質問がある子はいるかな?」
「はい、先生」
ここで手を挙げたのは一之瀬だ。やはりこのクラスの中心となるなら一之瀬であるのだと再認識させられる。
「Dクラスのクラスポイントだけ妙に低いですけど、何かあったんでしょうか?もしかしてクラスポイントが大幅に減るような行動があったりするのでしょうか?」
ほう、思ったよりも悪くない着眼点だ。Sシステムに関する情報が正式に開示されるのと同時に現時点での各クラスのクラスポイントも発表された。AとBは知っての通り、Cは490でDは0であった。ひよりがいてCが490なのは気にはなるが、それはまぁ今はいいだろう。問題はDクラスだ。先生はA〜Dで優秀な生徒順に振り分けたと言っており、確かにクラスポイントだけを見ればその順番通りであり、言っていることは正しいということになるだろう。つまりはDクラスの生徒達は最底辺であると。だがだとしても0ポイントはありえない。おそらくは何らかのペナルティでも食らったのでは?そう一之瀬は考えたのだろう。
まぁ綾小路から聞いた話から察するにおそらくこれは、、、
「ううん、それが無いの。今のDクラスがそうなったのは遅刻やおしゃべりが多すぎたからってだけ。一ヶ月で1000ポイントを無くしたのはあのクラスが初めてなのよ!」
やけに意気揚々とそう口にする星之宮先生。まるで積年の恨みを晴らす人間の様である。少し面白いかもな。
一之瀬の質問を皮切りに少しづつBクラスの生徒達は先生にSシステムに関することを聞いていた。流石は二番目に優秀なクラス、きっかけさえあれば十分に輝きうることが知れた。
ちなみに彫縁のみ全く関係ないことを聞いてチョークを投げつけられてた。先生の暴力行為もカメラには当然映っているだろうが、大丈夫なのだろうか?そんなことを考えているうちに質疑応答は終わった。
ちなみに中間テストだか何だかをして、退学者が出るかもしれないらしいがこのクラスなら大丈夫だろうと思い、俺はそれを話半分に聞いていた。しかしこれは、、、上手くいけば荒稼ぎできるかもしれんな。
俺は人間のするであろう行動を読み、ある計画を立てていた。
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その日の放課後、端末のメッセージアプリに一つ何かが送られてくる。俺はそれを読み、指定された場所へ向かう。その場所とは図書室だ。
俺は図書室に着き、棚の上の方にある本を取ろうとしている目的の人物を見かける。俺はそいつに近づいて声をかける。
「取ってやるから、あんまり無理すんな。、、、ほれっ」
俺は背伸びしてまで無理に取ろうとしていることを注意しつつ、その人物が取ろうとしていた本を実際に取って渡す。その人物は本を受け取ると、軽く礼をしてから口を開く。
「ありがとうございます、松雄くん。本当はまだ読み終わっていない本の続きをとも考えたのですが、何せ今日が最後ですから。松雄くんに読んでもらいたい本を紹介できるのも」
少し恥ずかしげに、しかしそれ以上に悲しげにそう口にするのは椎名ひよりという名の生徒だ。以前興味本位で図書室に足を運んだ際にも本を取ってあげたことで知り合った。俺は小説にしろ漫画にしろ多くの人間の考え方をしれるがために割と読むし、好きな方だ。だが俺がスマホ依存症なこともあり、普段は電子版ばかりを読んでいる。だから椎名に最初紙の本の魅力プレゼンをされたときはその熱量には困ったものだ。なんでも本好きな生徒が中学校ではいなかったのだとか。そのせいで妙に俺との関係が近くなるのが速かった。まぁ椎名は俺の中で面白い側の生徒なので問題はないが。
して、俺は椎名のその悲しげな言葉に答える。
「そうだな。クラス争いがある以上、あんまり関わりすぎるのは良くない。俺もそのつもりでここに来たし」
椎名の送ってきたメッセージは『図書室にいます』だけだったが、それだけで俺は意図を察していた。それと同時におそらくはCクラスのリーダーが椎名でないことも。もし椎名がリーダーの座に立つ、あるいはリーダーが存在しないなら椎名はこんな行動をしないだろう。そしてこれがCクラスのリーダーの意思なら、俺はそれに準じよう。まだそのリーダーが面白いか面白くないかの判断すらつかないのだから。
「はい。あの、、、座りましょうか」
そう言うと椎名は図書室の中央にある大きめなテーブル、その付近の椅子に腰を下ろす。俺はその横の椅子だ。距離が近く感じるが、本を同時に見たりするのだ。対面でとははいくまい。
それからは椎名の説明が始まる。俺はそれを聞き、それらの本を借りることを約束。およそ二十分近くそれが続いただろうか。
「その、、、今まで本当にありがとうございました。私、読者友達なんて本当にいなくて、、」
「俺の方こそ感謝してるさ。本を読むことだけじゃなく、椎名と話すことが何よりも俺を豊かな存在に変えてくれていたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
椎名との別れ、それが差し迫っていることを理解する。惜しい、その感情を俺は綾小路とは違い持っている。だがそれは、ここで椎名との関係をやめない理由にはならなかった。
椎名と二人で席を立とうとしたときだった。ずっと背後に感じていた気配が声を掛けてきたのは。
「よぉ、お前が椎名の情人か?パッとしねぇな」
俺の肩に片手をかけ、男はそう宣う。俺はそいつに訝るような視線を送りながら問う。
「誰だお前?」
「龍園翔、Cクラスの王だ」
その名乗りを聞き、俺は興奮を抑えるのに必死だった。めっちゃ面白そうこいつ。