日本国召喚〜Orbital War〜 作:ガバガバ宇宙開発センター
まだまだ更新していきたと思います。応援よろしくお願いします。
中央暦1643年10月8日
チエイズ王国 野戦指揮所
鬱蒼と生い茂る湿った森の中。
空からも見えないような森の中に、簡素なテントだけを張った野戦指揮所があった。日本国の
秋になるのにこの森にはジメジメとした空気が漂っている。地図を囲んでいる将兵たちは汗をかいており、彼らの体力を奪っていた。
「我々は南と西、そして海から包囲されています」
陸軍の士官がそう言った。野戦指揮所のテーブルには、島全体を写した正確な地図が置かれている。
その地図に、無線から報告が来る敵の上陸部隊の位置を書き込んでいくと、自然と包囲網が出来上がっていた。
「南側の森には敵歩兵が多数、西側の街道には敵大型戦車と装甲車が進出、そして海には敵艦隊です……」
「我々に残された勢力圏はここからここまで。つまり、この海軍基地が最後の砦です」
陸軍の士官は、島の北側に設けられたこの海軍基地を指差してそう言った。あまりに悪い状況に、この場にいる将兵たちは天を仰いだ。
その中で海軍のミレケネス大将は、もはや形式だけと化している階級を超え、側の師団長に意見を仰いだ。
「……一応聞くわ。陸軍としては、この状況でどこまで抵抗できるかしら?」
「無理ですね。敵の装備と練度が想定外に強力です。この調子だと三日どころか一日すら持たないでしょう」
若い師団長はそう言った。今ここにいる師団長は、臨時で警備師団を任せれた若手の士官だった。元の師団長は誘導弾の爆撃で死亡しているらしい。
彼の忌憚ない意見を聞き、ミレケネスは同意するしかなかった。海軍としても提供できる戦力はないし、抵抗も望めない。
「海軍としても同意見よ。抵抗は期待できない。元より船は全滅してるから希望も何もないし……」
「ここもただの補給基地でしたので、武器の類も最低限ですからなぁ……」
ミレケネスの意見には、デルンジャが賛同した。彼の言う通り、チエイズ王国に駐屯していたグラ・バルカスの陸海軍は、戦闘を想定していなかったと言っても過言ではない。
元よりここに居るのは、反乱防止目的の警備師団と、補給しかできない海軍基地だけ。日本国が上陸戦を仕掛けてくるなど、全く想像していなかった。
いや、例え戦闘を想定していても結果は変わらなかったかも知れない。制海権は日本国にあり、制空権も奪われ敵の攻撃機が飛び回っている。
こんな包囲下では、精鋭の師団でもあっという間に敵に引き潰されるだろう。何より、この数日間補給も何もないのが辛かった。
「……降伏か、玉砕か。我々に残されているのはそれしかありません」
「こ、降伏など!奴らに捕まったら我々はどうなるか分かりませんよ!」
「そもそも日本国は寛大な処置をしてくれるのか?」
「しかし、降伏をしなければ多数の将兵が犬死にします……」
将兵たちの中でも、降伏か徹底抗戦かは意見が分かれた。
帝国が今までやってきた侵略行為を考えれば、捕虜としての待遇は最悪になるかも知れない。日本国が素性のわからない国である以上、その危機感はさらに強かった。
しかし、降伏しなければここにいる1万人ほどの将兵たちが玉砕してしまう。彼らを巻き込んでしまうのは憚られた。
「(皆、私の実力不足に巻き込んですまない……)」
ミレケネスは首からぶら下げていた手榴弾を手にし、心の中で懺悔した。
今この場にいる将兵たちは、そんなことはないと言ってくれるだろうが、指揮官として巻き込んだ責任は負わなければならない。
「師団長!」
と、そんなことを言い合っている最中だった。通信機を聞いていた兵士が、いきなり立ち上がって師団長を呼んだ。
「どうした?」
「それが……敵が交渉を求めているそうです」
「何ぃ?」
通信兵の言葉を聞き、この場にいる将兵たちは激しく困惑した。こんな包囲下で交渉とは、降伏勧告以外に何かあるのかと、首を傾げざる得ない。
数十分後
チエイズ王国 王立街道
数十分後、両者の会談が成立することになった。街道上にてお互いを待ち合わせ、日本国側の指揮官が歩み寄り、敬礼をした。
「はじめまして。日本国海上自衛隊、第4護衛隊群の坂野海将補です」
「日本国陸上自衛隊、第5旅団の山下陸将です。どうぞよろしく」
日本国の指揮官が低い腰で敬礼して来る。ミレケネスたちはその礼儀正しい態度に驚きつつも、礼儀としてこちも敬礼を行った。
「グラ・バルカス帝国海軍、ミレケネス大将だ。よろしく」
「主席参謀のデルンジャです」
「私は駐屯警備師団の師団長代理です」
自己紹介を交わすが、ミレケネスたちの警戒感は薄れていない。彼らが急に交渉を求めて来るとは、一体何を目的にしているのやら、探る必要があった。
「ミレケネス!無事であったか!」
「っ!?」
だがその緊張感は、皇太子カバルのおちゃらけた声で完全に崩れてしまった。慌ててミレケネスたちが声の方向を見る。
「か、カバル殿下!?」
「なぜここにいらっしゃるのですか!?」
「いやぁ、日本国の方々に連れてこられてな。お前たちとの仲介を頼まれて、頼られているんだ。はははっ!」
ミレケネスたちが心配するのを見て、カバルは何かを思い出して「ああそうか」と言った。
「心配するな、もちろん怪我の方は大丈夫だぞ。ほら、医者のおかげでこの通り!」
「…………」
そう言って適当な踊りを踊って見せて、身体が丈夫であることを示すが、ミレケネスたちはただただカバルの存在に対して唖然としていた。
「暑いですし、避暑地で話しましょうか」
「え、ええ……」
そう言って日本国の指揮官たちは、部下に日傘を持って来させた。いや呑気な、ここでバカンスでもするつもりだったのだろうか。ミレケネスたちは心の中で突っ込んだ。
その後、避暑地として森の中を選んだ両者は、日傘で陰を作りながら交渉に望む。
「……つまり、我々に本国との交渉を頼まれてほしいと?」
「はい。願わくばそのまま戦争の停戦に臨みたいと思います」
坂野と名乗った指揮官がそう言った。ミレケネスはやはりか、と言った面持ちで話を聞いている。
日本国の狙いは停戦だと、だいたい察していたのだ。まさか仲介役に皇太子まで持って来るとは思わなかったが。
「フンッ、難しいな。私としては将兵たちのこともあるから降伏は承諾したいが、本国は今回の件で相当怒っている。私の一存や仲介でも止まらないと思うがな」
「それに、間も無くこの島にも我が海軍の本隊が来るでしょう。指揮官であるカイザル閣下は、この作戦を止めるつもりはありませんし、説得は望めないですね」
ミレケネスに続いて、デルンジャもそう言ってグラ・バルカス帝国側の事情を伝えた。彼女らの言う通り、帝国はこの件でかなり怒りを持っている。そう簡単に止まるものではないだろう。
しかしそう言われても、日本国の坂野と山下は特に動揺することなく表情を崩さない。
「本隊の存在は知っております。なので、こちらですでに手を打ってあります。必ず交渉の糸口を見つけて見せますので、ご協力頂けますか?」
坂野はそう言ってミレケネスたちに交渉を求める。その自信満々の言葉の裏に何があるのか、ミレケネスたちは彼らの手札がわからず、警戒心を緩めない。
そんな帝国側に、山下と名乗った上陸部隊の指揮官はこう言った。
「ところで、暑いですね」
「ん?あ、ああ……」
「そちらのドリンクは好きに飲んで構いませんよ。熱中症になられてはこちらも困りますし」
と、山下がそう言うのでミレケネスはテーブルの上のドリンクを見た。
確かに両者には新鮮なサイダーがカップに注がれていた。ミレケネスはそれに毒があるのかと警戒していたが、しばらく話してみて、ここで毒を盛る必要はないかと思いはじめていた。
何より暑いので水が飲みたいと思ってしまう。
「では、我々の交渉がより良き方向に向かいますように」
「乾杯」
「か、乾杯……」
まるでワインでも飲むように、坂野と山下はサイダーで乾杯を勧めてきた。仕方ないのでミレケネス達もカップのサイダーを飲んでみる。
飲み込んだ瞬間、汗で滲んだ体に染みるように水が行き渡っていった。しかも少し甘く、炭酸が入っている。喉にシュワシュワとと流れていく。
「美味いな……」
「ええ、暑い体によく沁みます」
帝国側が日本のサイダーを受け入れてくれたことを、坂野と山下はニコニコしながら見守っていた。そうしてカップのサイダーは空っぽになった。
「ち、ちなみに……お代わりとかは……?」
「おい」
「二杯目は水でお願いします。サイダーを飲みたければ、分かっていますね?」
山下はそう言った。
代わりに普通の水らしきものが差し出されるが、ミレケネスたちは先ほどのサイダーが飲みたかった。
そして日本側の交渉席には、護衛の兵士がサイダーの段ボール箱を守っていた。それを目にし、ミレケネスは唇を噛み締めながら日本側のやり口を恨んだ。
「わ、分かった……交渉に臨もう」
「将兵たちにも飲ませてやりたいですからな……」
ミレケネスは悔しかったが、日本国に舌を掴まれたような気分だった。やり口として外道ではないかと恨むくらいには。
そして再び新鮮なサイダーが差し出され、交渉は進んでいく。
中央暦1643年10月9日
チエイズ王国沖合 連合艦隊本隊
翌日、チエイズ王国の沖合にて両者の艦隊の会合が実現した。
日本国海上自衛隊の護衛艦「かが」と、連合艦隊旗艦の「グレード・アトラスター」が、チエイズ王国のビーチが見える海岸に錨を下ろし、接舷を開始した。
幸いにもスマートな戦艦と、まっすぐな甲板を持った多機能護衛艦であるため、接舷は容易であった。そして内火艇が要人の受け渡しを開始する。
皇太子カバルが先頭にたち、「グレード・アトラスター」に備え付けられたタラップに足を踏む。そのまま階段を上がると、水兵たちが整列していた。
「皇太子殿下に敬礼!!」
艦長ラクスタルの号令一下、整列した水兵たちが敬礼をカバルに投げかける。整列した兵士たちが敬礼するその様は、なんとも圧巻だった。
「殿下……よくぞ無事に戻られました……」
「に、日本国に乱暴などはされておりませんか!?」
「ハハハッ、心配するな。日本国は手厚くもてなしてくれたぞ」
艦隊の士官たちが心配する中、カバルはそう言って将兵たちを安心させた。
見てわかる通り、彼の傷はほとんど問題ないレベルにまで回復しており、見るからに元気そうであった。
「はじめまして、日本国海上自衛隊の坂野海将補です。以後お見知り置きを」
「日本国外務省、外交官の高田と申します」
「連合艦隊司令長官のカイザル大将だ。皇太子殿下とミレケネス達を無事に送っていただき、感謝する」
坂野司令とカイザル司令がお互いに敬礼を交わし、自己紹介をする。
その後将官たちはグレード・アトラスターの艦内へと招かれ、今後の戦争について話し合いを交わした。
「見ろよ、空母だぜ」
「日本もこんな船を持ってたんだな」
「うちのより甲板が広くて使いやすそうだ……」
「なぁ、あの艦首の溝、海軍が研究してるって言うカタパルトじゃないか?」
交渉の間、グレード・アトラスターの水兵達は護衛艦「かが」の艦影を見て、各々の感想を言い合っていた。
「千月艦長!戦艦ですよ戦艦!まさか生で見られるとは思いませんでしたよ!!」
「立派だなぁ……いやはや、こんなのと本格的な戦いにならなさそうでよかったよ」
「やはり戦艦……!日本に戦艦を復活させて……!」
海上自衛隊の護衛艦でも、各々の自衛官が「グレード・アトラスター」を見て感想を言い合っていた。その中でひっそりと熱意を燃やす老人がいたが、自衛官達の声に紛れていた。
その後、停戦の交渉はひとまずまとめることに成功した。どういうわけか、本国とも交渉の窓口を繋げられそうなので、今後は戦争自体も終結するかもしれない。
夜になり、停戦交渉をしていた将官や外交官たちが甲板上に出て空を見ていた。満点の星空が、彼らを迎えてくれた。
「お、みなさん見てください。流れ星ですよ」
「げっ……」
空に一筋の光が見えたのを見て、外交官の高田はそう言った。そしたらミレケネスたちは、あからさまに嫌な顔をした。
「どうしたお前ら?」
「いや、その……」
「ちょっとトラウマが蘇って……その、あれは大丈夫なやつなの?」
ミレケネスは不安になって坂野に聞く。坂野は笑顔で答えてくれた。
「ああ、ご安心ください。あれはデブリを燃やして捨てているだけなので」
「?」
一部の将兵たちが疑問と不安を抱く中、必要なくなった滑空弾が次々と大気圏に焼却処分され、美しい天体ショーを彩った。
今回の話で中央暦1643年は終了です。
次回からは1644年の出来事になります。