日本国召喚〜Orbital War〜   作:ガバガバ宇宙開発センター

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少し間は空きましたが、また更新します。


Launch12〜魔法帝国の遺産〜

中央暦1644年2月10日

日本国 首都東京 霞ヶ関

 

 霞ヶ関にある首相官邸。今日はJAXAの職員や研究員達が、僕の星に関する解析結果を伝えに来ていた。

 閣僚達が集まり、機械工学研究員の井出 博士が第二次報告を取りまとめる。

 

「これより、新惑星サンプルリターンに関する第二次報告を開始します」

 

 モニターが点灯し、JAXAや主要大学のロゴと共に資料が表示される。普段は疲れ気味の閣僚達もかなり真剣な表情でモニターに注目しており、結果の重大性を物語っていた。

 

「前回に引き続き、ミリシアルと協力しながらの調査が進められておりましたが、今回の検証で新たな事実が判明しました。こちらをご覧ください」

 

 井出 博士が指に嵌めた切り替えボタンを操作すると、次のページが映る。資料には僕の星の内部から取り出した幾つものサンプルが、拡大表示されて映し出されていた。

 

「こちらは衛星内部にあった機器です。解析してみたところ、この装置は集積回路だったようです。そしてこの機器は、機体上部のアンテナに回路が繋がっていました」

 

 井出 博士がモニターに指を差し、一つずつ解説していく。モニターがさらに切り替えられ、見つかった透明な水晶を解析したデータが映し出された。

 

「そしてこちらが、ミリシアルとの協力で解析したデータログです。この数字は、過去数百年間に渡るこの星の観測座標を表していました」

 

 魔法由来の幾何学文字を、地球基準のアラビア数字に翻訳したデータが、膨大な量のデータを表す。これを分析したデータには、この星のリアルタイムな位置が常に記録されていた。

 

「元々衛星には様々な観測機器が搭載されていましたが、そこで得られたデータは、全てこのアンテナから発信され続けていたようです」

「……つまり、この衛星は何者かに座標を発信し続けるビーコンだったというわけかね?」

「はい。現在判明している情報から予想すれば、そのような使い方が正しいことになります」

 

 井出 博士は簡潔に、解析した見解をそう伝えた。しかし、閣僚たちの中にはこれでもピンと来ていない反応が多く、ある疑問を持った。

 

「一体、誰がこの電波を受信しているというのだ……?」

 

 井出 博士はそれについて、派遣された別の技術者からの見解を述べた。

 

「それに関して、ミリシアルの技術者からかなり興味深い話を聞きました。古の魔法帝国、という国に関しては、みなさんご存知ですよね?」

「ああ。今から一万年以上前に存在していたという、この世界の超古代文明か」

「核兵器まで配備していたと伝えられるな」

「はい。高い技術力を持っていたとされる魔法帝国ですが、この世界から転移し脱出した後、一万年経ってから戻ってくるという言い伝えがあります。その際、彼らはどうやって星の位置を把握すると思いますか?」

 

 井出にそう問われて、閣僚たちはしばらく考えたのち、ハッと気づいた。

 

「まさか……」

「そのまさかです。この衛星、すなわち座標ビーコンを頼りに魔法帝国は戻ってくるのです。そのため彼の国の復活に重要になるかもしれない……ミリシアルの技術者はそう分析していました」

 

 井出の出した結論を聞き、閣僚たちは驚嘆し声が出なかった。もしこれが本当なら、日本はとんでもないジョーカーを拾って来たのかもしれない。

 

「もしそうだとしたら、これはこの世界の安全保障に関わる大問題だぞ……」

「とんでもないものを回収してしまったな」

「……なるほど、回収ミッションに妨害があったのも頷ける。確かにこれを回収されてしまっては、魔法帝国は復活すらままならない」

 

 武田首相が何とか引き出したその言葉に、防衛大臣が反応した。

 

「総理、逆に考えるのです。もしこの衛星ビーコンをさらに多く回収できれば、魔法帝国は思った位置に復活できずに消滅するのでは?」

「ああ、確かにそうかもな。もしそれが成功するならば、魔法帝国とやらと戦争をするよりもはるかに犠牲が少ないかもしれん」

 

 防衛大臣の見解を受け、武田首相は合点がいったのか目を見開いた。その言葉を受け、JAXAの職員も反応する。

 

「どのくらい回収すればそれが達成できるのかはわかりませんが、もし全て回収しろと仰るのであれば、JAXAとしては全力で挑むつもりです」

 

 JAXAの職員に続き、航空宇宙自衛隊の三津木 幕僚長も総理に懇願を行う。

 

「航空宇宙自衛隊からしましても、さらなるサンプル回収をお願いしたいです。魔法帝国の軍事力は、我が国にとっても脅威になります。この脅威をあらかじめ除去できるのなら、もちろん助力いたします」

 

 現在日本の宇宙を司っている二機関からの承諾を受け、武田総理も頷く。そして座る姿勢を正すと、改めて宣言した。

 

「……分かった。私としても魔法帝国は厄介な存在だと思っていた。その魔法帝国の復活を妨害できるのなら、さらなるサンプル回収を進めて欲しい」

「分かりました。全力で回収いたします」

「航空宇宙自衛隊は、引き続き衛星網の防衛を続けてくれ。今のところ、防衛衛星の普及が君たちの急務だ」

「了解です。全力で取り組みます」

 

 武田首相からの指示を受け、JAXAと航空宇宙自衛隊の職員らは早速仕事に取り掛かるべく、各所への連絡を急いだ。

 

「……時にはこちらから、衛星を攻撃する必要もあるかもしれんかもな」

 

 武田首相は誰にも聞こえないような小さい声でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央暦1644年2月11日

神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

 

 神聖ミリシアル帝国の帝都ルーンポリス。

 表の世界では世界一を誇る、煌めく摩天楼と趣のある歴史的な建物が広がる都市。街の人々は最近戦争が停戦した事で活気が戻ってきており、元の日常に戻りつつあった。

 そんなルーンポリスの中枢に、政府機関が多数集中するアルビオン城と呼ばれる古城があった。

 そんなアルビオン城の執務室にて、ミリシアル魔帝省の研究主任メテオスは、日本から帰国し、僕の星の解析結果を皇帝ミリシアル8世に報告していた。

 

「──以上が、僕の星を解析した結果となります」

 

 提出した資料と共に、ミリシアル8世に忌憚なく報告を行ったメテオスは、一礼して報告を終えた。

 その資料を何度も読み返しながら、ミリシアル8世は「ふむ……」と頷きながら、眉をそっと顰め、言葉を発した。

 

「……なるほど。つまり魔法帝国は、今この瞬間も虎視眈々と復活の機会を狙っているわけか」

「はい。ここ最近、魔法帝国関連の遺産が急速に姿を現しています。エモールの予言もありますし、やはり復活は間違いないのかと」

 

 メテオスの言う通り、最近世界各地で魔法帝国の遺産が次々と姿を現し、暴れ回っている。

 トーパ王国での魔王ノスグーラに始まり、エスペラント王国での工作、そして量産型ノスグーラの出現など。ここまで連続して現れているのが、偶然とは言い難い。

 

「だとしたら、なおさら我々は脅威に備えなければならない。ちょうどグラ・バルカスと休戦を取り付け、講和が進んでいる手前、平和な今のうちがチャンスだな」

「はい。彼の国と講和できたのは幸運でした。悔しいですが、今回の僕の星の件も含め、日本国には感謝しなければ」

 

 ミリシアル8世は日本国の名を聞き、最近何度も名前を聞くなと思いつつ、メテオスに言葉を返す。

 

「日本国か……エモールからは彼の国は魔法帝国対策に重要な役割を果たすという。関係はしっかりと築かなければなるまい」

「そうですね。我々魔帝省も、今後は日本国との連携を重視し対策を進めてまいります」

「頼んだぞ」

 

 そう言ってメテオスは報告を終え、一礼をする。そして後ろへ向き直り、皇帝の執務室から立ち去ろうとしたが、そこであることを思い出した。

 

「あ……ところで陛下、そろそろ例のロケットの打ち上げ時刻です。ラジオを付けますか?」

「ああ、あれか。そう言えばそんな時刻だったな」

 

 ミリシアル8世は、今日報告されたロケットの打ち上げ時刻を思い出し、傍の振り子時計に目をやった。

 メテオスが言うのは、最近軍や研究機関などが、日本に倣って熱心に開発を進めていると言うロケットの事だ。しかしここのところ、失敗続きだと聞いている。

 

「仕事中に爆音が入ると困る。ラジオはつけなくていい、結果は後で聞こう」

「分かりました。しかし、ロケット開発陣は相当苦戦しているようですね……」

「そのようだな。技術屋もいい加減、日本やグラ・バルカスに協力を仰いだらどうなんだ……」

 

 そう言って皇帝ミリシアル8世は、明日から立ち上がって窓の外を眺めた。

 別にここからロケットは見えないだろうが、場合によっては技術者共に自ら喝を入れるか、それとも予算を減らしてしまおうかと、少しばかり顎髭を弄りながら考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

神聖ミリシアル帝国領 南方ナギア諸島 空軍ロケット設計局発射台

 

 ミリシアルの植民地にある、南方の小さな島にて。

 比較的赤道に近く、土地もあまり余っていたこの島に、ミリシアル空軍のロケット発射台があった。そこに今日は、ミリシアル初のロケット「ミスリル級魔導飛翔体」が載せられていた。

 巨大なVABから直接搬入される形で、発射台でその時を待つこのロケットは、同空軍の設計局が開発したものだ。技術者達が、安全圏から発射のカウントダウンを見守る。

 

『発射10秒前……9……8……7……6……』

 

 ミスリル級の発射台に、ウォーターカーテンが展開される。大規模な水魔法で生成された大規模な水が、エンジンの火花に覆い被さりノズルに飛沫が掛かる。

 

『5……4……3……2……1……噴進エンジン点火!!』

 

 カウントダウンがゼロになり、ついにエンジンが点火された。排煙設備から噴射炎が迸り、ミスリル級ロケットが立ちあがろうとする。

 

『固定解除!打ち上がります!』

 

 ミスリル級ロケットの固定が解除され、打ち上げられた。エンジンの轟音と共に、機体が登っていく。技術者達はその様子を固唾を飲んで見守っている。

 

「よし、打ち上がったぞ……」

「頼む、爆発しないでくれ……!」

 

 ミスリル級ロケットは発射台から離れ、そのまま高度を上げ、空へ登ろうとした。ここまでは順調だった。

 

「っ、エンジンにトラブル発生!異常燃焼です!」

「なっ、あぁっ!」

 

 しかし、発射から20秒でトラブルが発生した。機体のエンジンが異常燃焼してしまい、そこでエンジンが止まった。少し高度が下がったのち、大爆発を起こした。

 

「爆発したぞ!!」

「緊急事態発生!緊急事態発生!」

 

 機体の燃料だった魔素が、燃えながら発射台に次々と降り注いでいく。それらは敷地の草木を燃やしていき、大規模な火事が発生した。消防隊が必死で消火作業を行い、なんとか延焼は防いで大事には至らなかった。

 そして技術者達は、この失敗を分析するべくその日のうちに会議とデブリーフィングを行った。会議室には大勢の技術者達が集まっていたが、誰も彼も表情は優れなかった。

 

「やはり原因はエンジンだった。エンジン内の第二燃焼室からの魔素が、メインの燃焼室の魔素と絡まって異常燃焼を起こしていた」

「またか。前も同じ失敗で発射台ぶっ壊してなかったか?」

「やはり、このエンジンの設計は本当に曲者ですな……」

 

 彼らが設計に苦労しているのは、ミリシアルのロケットに用いられる「魔光燃焼ガス噴進エンジン」の設計についてである。

 実は何度設計し直しても、このエンジンの回路が複雑に絡まり、異常燃焼を起こして爆発したりしていた。設計者達も原因はわかっているのだが解決策が見つからない。

 原因は日本国の資料にあった。このエンジンは、日本の書店で入手したLE-7の情報をもとに開発されている。魔法帝国のロケット関連の遺産は、ミリシアル帝国国内には存在しなかったため、やむ得ず日本の知見から開発するしかなかったのだ。

 

「ダメだ、燃焼サイクルが複雑すぎる!何度設計し直しても回路が絡まる!」

「日本国はなぜこれを成功させているんだ?」

 

 しかし、選んだエンジンが彼らと相性が悪かった。LE-7シリーズは、日本のH-3ロケットの二段目に用いられるエンジンであり、これは推進剤の一部をプレバーナーであらかじめ燃焼させ、その燃焼ガスでターボポンプを駆動させる複雑な構造だ。

 つまりミリシアルは、いきなり二段燃焼サイクルエンジンに挑戦したのである。コンピュータによる設計や燃焼制御が無ければ成り立たないようなエンジンを、彼らは人力でやろうとしていた。

 

「やっぱり、遺産も無しに一から作るのはウチじゃ無理なのか……」

「日本国の知見をもらってもできないなんて……」

「諦めるな!これは我が国の底力が試されているんだぞ!必ず独力で成功させるのだ!」

 

 ミリシアルはロケットのみならず、科学技術に関してほとんど知見がない国だ。

 技術者達が魔法帝国の遺産に頼りきりな現状は理解していたが、長年の癖やノウハウ不足は抜けきれない。致し方ないと言える。

 彼らは不運としか言いようがなかったが、それでも全力を尽くすしかなかった。

 




今回のお話に際して設定資料を更新しました。
次回もお楽しみに!
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