日本国召喚〜Orbital War〜 作:ガバガバ宇宙開発センター
中央暦1643年7月17日
日本国 JAXA宇宙科学研究所 相模原キャンパス
惑星物質試料受入れ設備を備えた相模原キャンパスに、一台の仰々しいトラックが運び込まれた。トラックには気密されたコンテナが搭載され、警察官の護衛が配置されている。
トラックから巨大なケースが降ろされた。この中には宇宙往還機「らいちょう」が回収した例の人工衛星が収められている。
厳重な体制で受け入れ設備に搬入された物体は、無菌室の中で研究者たちによる見聞が開始された。
宇宙科学、物質関連の研究者から、ミリシアルから招いた魔導技術の専門家まで、幅広い分野の研究者がこの部屋に集まっていた。
「こちらです、どうぞ」
「おお、これが例の……」
日本出身の研究者たちが、その物体の巨大さに驚きの声を上げる。それもそのはず、持ち帰った物体は足を含めて全長6m、円柱の直径は最大2.1mにもなる。
これはらいちょうのカーゴに持って帰るのがやっとの大きさであり、帰還する際にもかなりの苦労があった。追跡センターの職員らは、いつカーゴ内の固定が崩れないか心配だったそうだ。
「これほどのものが宇宙に30基近くあるとは。古の魔法帝国というのは、相当な超文明だったのですね」
「この素材、見たことがないな……」
「というかそもそも、どうやって一万年も高度を保ってたんだ?」
研究者たちが口々に推測を語りつつ、外観の見聞は進む。今回は本格的な解体分析に際して、まずは完全な状態で研究者たちにお披露目という形であった。
おそらくだが、この状態で見れるのはこれが最後になるかもしれない。ミリシアルから派遣されたメテオス・ローグライダーは、日本人達から一歩引いたところでそれを見ていた。
「(間違いない……これは古の魔法帝国が有していたという"僕の星"だ)」
メテオスは魔法帝国が有していた僕の星の存在を知っていた。魔法帝国はこれを用いて地上を観測、時にはそこからコア魔法を打ち出して攻撃することもあったという。
そんな貴重な物体が、今目の前に展示物のように鎮座している。こんなものを宇宙から持ち帰った、それ自体が荒唐無稽で信じられないのだが、メテオスには魔帝対策省の人間として、この真偽を確かめる義務があった。
「少しよろしいか?」
「ああ、メテオスさん。貴方もどうぞ」
「うむ、すまないね」
メテオスは一歩前に出て、横倒しにされた僕の星を見聞する。ゴーグル越しにそれをくまなく観察し、時には手袋越しに触ってみてみる。
すると、この機体に膨大な魔力が宿っていることが確認できた。この機体は、まだ稼働しているのだ。
「(まさか伝説上の存在を、この目で間近で拝めるとはな……日本国、やはり侮れないというわけだ)」
「どうです?なにか、分かりましたか?」
「ああ、いや……もう少し時間をくれないか」
「ええ、どうぞ。これに関してはあなた方の方が専門ですからね」
お言葉に甘えて、メテオスはこの魔法帝国の遺産をじっくりと観察し、今のうちから記録できることは全て記録しておいた。
そしてここから、持ち帰ったサンプルの本格的な解体と解析が進む事になる。僕の星はバラバラに解体され、内部まで詳しく調べられることとなった。
中央暦1643年7月18日
アニュンリール皇国 皇都マギカレギア オラナタ城
空を貫かんばかりの高層建築物。決して表には出ない"裏の魔導都市"こと皇都マギカレギアの中心地。
そこには、サクラダファミリアを要塞のように仕立て上げた、荘厳な雰囲気を醸し出すオラナタ城が聳え立つ。
本来ならば中央にある皇帝の居城こそ、狭義でオラナタ城と呼ぶ。それ以外の敷地は、総称してアヴェストリアと呼ぶことがある。
さて、そんなオラナタ城の皇帝の間にはこの国を動かす業界部門の長達が集まっていた。玉座の対面には、魔帝復活支援省のヒスタスパ長官が立たせられ、その場の有翼人達から威圧されていた。
「ヒスタスパよ、報告は聞いているぞ」
軽やかな声色が、皇帝と崇め祀られる青年から漏れ出した。その声は耳から心の奥底へ届き、全身に痺れのような感覚をもたらす。
皇帝ザラストラ。青みがかかった煌めく短い髪に、アダマンで作られた美しい冠を頭に戴く。混血を極力避けた王家故の、純潔な魔力を誇るこの青年。彼こそがこの国の皇帝そのものだった。
「貴様は一ヶ月ほど前、魔法帝国の遺産の保護は抜かりないと言った」
「…………」
「それなのにこれはどういうことか。軌道上にある座標ビーコンが、あまつさえ東方の蛮族に盗まれるとはいったいどういう失態か。嘘も偽りなく正直に述べよ」
皇帝ザラストラは、座標ビーコンに関する報告をしてきたヒスタスパを公然の前で呼び出し、その詳細を聞き出そうとしていた。
あまりの威圧感と、震えるような皇帝の声色に、ヒスタスパは脂汗が止まらない。しかし皇帝の前で嘘偽りを言うわけにもいかず、そのままのことを報告する。
「は、ははっ……去る二日前、稼働し始めた赤道群島の軌道監視施設より、魔法帝国の僕の星が一つ減っていることを確認いたしました」
「……それで?」
「はっ……原因を調査したところ、東方の日本国という国がこのビーコンを回収していた事が判明し、現在調査を」
「たわけがっ」
ヒスタスパの身体が固まった。
いや、皇帝によって固められたと言っても過言ではない。皇帝が発した怒りを滲ませたその言葉により、ヒスタスパの身体が硬直したのだ。
「事の顛末は報告書に書いてあるではないか。私は、報告書に書いていない事実があるのではないかと疑っている。つまり、隠蔽したい失態があるのではないかと」
「っ…………!」
「め、滅相もございません……私は嘘偽りなく、全て述べる次第であります」
「では聞こう。私は日本国が一ヶ月ほど前にブシュパカ・ラタンを訪問した際、私は日本国に関して警戒を緩めるなと言った。その成果は現れたのか?」
「そ、それは……」
皇帝の声色がさらに鋭くなる。
ヒスタスパはガタガタと唇を振るわせながら硬直し、それ以上の言葉が出なかった。
皇帝は、失態を犯した者には厳しい処罰を下す。一族がそういう決まりで国を経営してきたからだ。
特に魔法帝国に関する事業で失態を犯したのなら、処刑なども考えられてしまう。良くて左遷か、もしくは路頭に迷うなど……
「……ふん、まあよい。今回の件に関しては、これ以上貴様を追及するつもりはない」
「はっ……え、はぁ……?」
しかし、皇帝ザラストラは処罰を言い渡さなかった。厳しい処罰が下されると思っていたヒスタスパは、その以外な展開に口をパックリと開けたまま、気の抜けた声を出した。
「間抜けな声を出すな。まあ、私もここにいる者達とこの件に関して話し合ってな。よもやよもや、東方の蛮族がそのような宇宙開発技術を持ち合わせているなど想像できなかった。皆見解は同じだった。私も含めて、な」
「それは……」
「その上で、貴様らが回収される可能性を察知していなかったのは……ある意味致し方ないと言える。さらに言えば、例の軌道監視施設がもっと早く稼働していれば防げた事態だったが……これも無理もない。よって、今回はこれ以上の責任追求はしない」
言ってることがしばらく信じられず、肩の荷が降りなかった。そのため皇帝の間に沈黙が流れる。
それが少し面白かったのか、ザラストラは不敵に笑った。そして宝玉の杖を付いて立ち上がると、改めて官僚達に発言する。
「さて、これを機に日本国に対する認識を改めなければならん。日本国は我が国を凌駕する宇宙開発技術を持ち合わせていると、これで証明された」
「…………」
「そこでだ。僕の星は現在、軌道上に34基あるという事になる。ではこれ以上回収されないようにするにはどうするべきか?忌憚なく述べよ」
その言葉を受け、官僚達はしばらく考え込む。だがほとんどの者達が専門外か、もしくはその手段を持ち合わせていないかで、案は出てこなかった。
そこで硬直から回復したヒスタスパが、自分の失態の尻拭いをするべく、あらかじめ考えていた策を打ち出そうと、口を開いた。
「陛下。軍が開発している例の"魔導飛翔体"という装置を使えば、止める方法があるやもしれません」
「ほう……それは興味がある。詳しく聞かせろ」
ザラストラが興味を示したのを機に、ヒスタスパは軍の高官と目を合わせた。軍の高官もそれに気づき、ヒスタスパの傍らに資料を持って来る。
ヒスタスパはそれを受け取ると、ザラストラへ向かって一歩前に出て跪き、それを手渡した。
「実は我々は、前々より軍と協力し、このような兵器を開発しておりました」
「ふむ……"魔導飛翔弾"とな?」
「はい。簡単に言えば、宇宙空間に打ち出す散弾です。元々は地上攻撃用の弾頭でしたが、これを鉄球や針に変え、これを軌道上にばら撒くのです」
ヒスタスパの簡単かつ簡潔な説明により、ザラストラはその兵器の使用意図を読み取る。なるほど、と不的に笑って感心した。
「ほう……つまりこれを日本の宇宙機に命中させ、破壊するというのか」
「はい」
「僕の星に命中する可能性はないのか?」
「あるにはあります。しかし、宇宙空間は広く高速ですれ違うため、制御された物体は当たる可能性は低いでしょう」
「ふっ、なるほど……」
まるで空想小説の話だな、と。ザラストラはこの計画を見てそう思った。しかしそれがザラストラの興味を誘う。
宇宙空間のことはよくわからないが、これで破壊できるというのなら可能なのだろう。僕の星の回収が止められるというのなら、どのみち使うがあるまい。
「分かった、この計画を承認する。次また日本国が宇宙機を打ち上げたのなら、これを実戦投入して破壊してみせろ。いいな?」
「ははっ……」
次回もお楽しみに!