日本国召喚〜Orbital War〜 作:ガバガバ宇宙開発センター
ところでKSP2は大丈夫なんですかね?
中央暦1643年8月5日
日本国首都東京 霞ヶ関 首相官邸
グラ・バルガス帝国との戦争が続き、未だ世界が荒れに荒れる頃。日本国の首都東京にて、回収した人工物に関する報告会が行われる事となった。
首相はグラ・バルカス帝国への対処に忙しいので、大臣クラスは文部科学大臣しかいないが、とりあえずそれでも第一次報告としてまとめる事となった。
「これより、新惑星サンプルリターンに関する第一次報告を始めます」
解析を担当したJAXAの研究員が、政府関係者にこの場を借りて解析結果を発表する。資料をめくり、プロジェクターの画面を切り替える。
「まず最初に、こちらのデータを参照ください。ミリシアルと協力して解析したところ、この機体の内部に稼働するエネルギー源があることが判明しました」
配られた資料には、回収した人工物の詳しい情報が載っていた。そのうち、稼働するエネルギー源は熱源として確認されている。
「ミリシアルによると、この人工物は古の魔法帝国が打ち上げた遺産ではないかと言われています。まだ用途は不明ながらも……我が国が転移する前、つまり一万年以上前から稼働し続けていたことになります」
ミリシアルが導き出したその推測に、官僚達は思わず息巻いた。人工衛星の寿命から見るに、そこまで長い年月の間で稼働していたのは驚くべきことだ。
「凄まじい年月だな……地球で言ったら原始時代から稼働し続けているようなもんか」
「よく故障しなかったな。というか、どうやって高度を保ってたんだ?」
そもそも機器が故障しなかったのもそうだが、高度が落ちなかったのも驚きだ。どのようにしてそれを達成していたのか。それはJAXAの研究員が解説してくれた。
「解析によると、人工物には強靭な紐が搭載されておりました。おそらくですが、テザー推進が使えたのではないでしょうか?」
「テザー推進?」
「詳しく言えば、電気力学的テザーに当たります。これは伝導性のテザーであり、電流と惑星磁場との相互作用で推力を得ます。テザーに直流の電流を流すと、磁場と反発する力が生まれ、宇宙船に推力を与えるのです」
「う、うむ……よくわからないが、この人工物はかなりエネルギーを節約して稼働していたのだな」
「そうなります」
政府関係者もいまいちよくわかっていないようだったが、とにかくこの機体がエネルギーを節約しながら稼働していたことは判明した。それだけでも第一次報告の価値がある。
「これ以上はまだまだ解析途中になりますが、現在打ち上げの準備が進められている第二次サンプルリターンが成功すれば、もっと多くのことがわかるかもしれません。幸いにも、人工物は残り34個もあるわけですし、どんどん回収していきたいです」
「そうだな。しかし、今日本はグラ・バルカスとの戦争中でもある。我々の戦場が宇宙にも広がっている以上……特に衛星網の保守は抜かりなくやっていただきたい。研究はそれからだ」
「分かっています、衛星網の再整備は大変でした。人工衛星の保守は抜かりなくやります。しかし我々も研究者ですので、こういったことにはワクワクするのですよ」
「気持ちはわかるよ。私も学者だった時はそうだった」
文部科学大臣と意外なところで意気投合し、会議室に苦笑いが漏れた。
中央暦1643年8月29日
アニュンリール皇国 赤道群島 宇宙基地
アニュンリール皇国が持つ広大な南方地域の一つに、赤道に程近く重力の影響が低い群島がある。
周りはほとんど海に囲まれており、国際航路が近くにあるわけでもない。人目につくことは全くと言っていいほどないだろう。
そんな群島に、アニュンリールの宇宙基地は建設されていた。島の中で一番平坦で、海岸に近いその位置に、その物体は聳え立っていた。
『カウントダウンを開始します。残り3600秒』
発射台の上に聳え立つ細長い物体は、日本人が見たら確実にロケットだと言うだろう。
リトス級魔導飛翔体。
これは魔法帝国の遺産を解析し、ようやく形になったロケット──魔法文明風に言うと"魔導飛翔体"──である。
放射状に伸びる四つのエンジンと、それを覆う円錐状の胴体を見るに、世界で初めて人工衛星の打ち上げに成功したソ連のR-7ロケットにも似ていた。
ロケットとしては初歩的なものに見えるが、アニュンリールにとっては偉大な一歩である。同国にとっては初めての宇宙開発なのだ。
「天候も良好。機体の状態も問題なし……行けそうだな」
「後は飛ばしてみなければわかりません。祈りましょう」
新たに併設された管制室にて、有翼人の管制局長は不安と期待を混じらせながら、ロケットの発射を待っていた。
管制室では他の要員も各々の確認作業や期待チェックを行なっており、特にトラブルもなく、準備は万端と言える。
「順調そうかね?」
「あ、ヒスタスパ長官」
その管制室に、一人の白髪の人物が入ってきた。魔帝復活支援省の長官、ヒスタスパだ。
「ああ、楽にしてくれ。打ち上げの様子を見たかっただけだ」
「後はもう点火するだけです。機体も積載物も異常は見当たりません。今のところは」
今回のロケット打ち上げを支援する魔帝復活支援省は、7月に日本国によって僕の星を回収されてしまったのを皮切りに、かねてより進めていた宇宙開発を促進させた。
元々魔帝復活の支援のため、僕の星を保護する一環として進められていたアニュンリールの宇宙開発であるが、今日初めてそれが本格活動を開始する。
すでにアニュンリール国内では宇宙開発事業部を魔帝復活支援省に組み込む動きがあり、軍などもこれに協力している。何せ今回ロケットに積んでいるのは、人工衛星ではなく兵器だからだ。
「奴はどうだ?」
「観測所からの情報では、日本国の宇宙機はすでに軌道上に展開。現在、僕の星33号機との接近軌道に移行しているとのことです」
「上手くぶつけられそうか?」
「問題ありません。こちらも軌道上にさえ展開できれば、あとは微調節するだけです。すぐにでも破壊できます」
そうして時間が過ぎていき、リトス級はいよいよ打ち上げ体制に入った。カウントダウンが手で数えられるくらいまで縮まった時、後戻りはできない。
『カウント、残り1分』
カウントダウンが進み、発射台から火花と水が噴射される。打ち上げの衝撃に備えこの設備も、魔法帝国のやり方を参考にしたものだ。本質もわかっている、ただやり方を真似るだけのミリシアルとは違う。
『5……4……3……2……1……メインエンジン点火!』
火花が燃焼に変わる。
エンジンから燃えた燃料が噴射され、その反作用で機体がふわりと浮く。
『離昇!』
リトス級は発射台から少しずつ離れ、そのまま上昇していく。機体はぐんぐん加速していき、ついには雲の向こうを突き抜け、遥か彼方の空へと飛び立って消えた。
同日午後
日本国 筑波宇宙センター 管制室
日本国の第二次サンプルリターンは、この時すでに始まっていた。
種子島より打ち上げられた大型宇宙往還機"らいちょう二号"が、すでに軌道上に展開。上空の僕の星に接近しようとしていた。
前回のミッションが7月だったことを考えると、かなりハイペースと言える。JAXAも予算が増額され、ロケットの打ち上げ頻度が高くなっているのだった。
「目標軌道変わらず。これよりランデブーに入ります」
「よし。あとは前回やった通りだ」
らいちょう二号を見守る管制室では、緩やかな緊張感が流れていた。
惑星の衛星軌道を表したディスプレイに、らいちょうと目標の僕の星が映し出されている。軌道円は重なっており、らいちょう二号は少しつづそれに接近していた。
「なに、それは本当か?」
『…………』
「ああ、ああ、わかった」
「どうした?」
管制室が、いよいよ目標との接近に集中していたその時。幹部の一人が電話で誰かとやりとりをしているのを見て、責任者が問いかける。
「沖縄宇宙通信所より連絡です。南方諸島より不審な物体が軌道上に出現。らいちょうと相対する軌道で向かってきているようです」
「なにっ」
突然の報告に局長は驚く。
前回の飛行では、そのような物体は観測されなかったはずだ。らいちょう二号のことを心配しつつも、報告を詳しく聞き出す。
「それはデブリか?」
「いえ。前回の飛行では見当たらなかった物体です。ただのデブリだと見るには挙動が……」
「挙動?」
「物体は自分で軌道を変え、らいちょうの方へ向かっているのです」
ますます不審な物体だった。宇宙空間で物体が自ら軌道を変えると言うのは、人工衛星でなければ考えられない。明らからいちょう二号に反応してのものだ、怪しすぎる。
「局長、物体はらいちょう二号と正面から相対する軌道です。ミッションを中止しますか?」
「……いや、デブリの大きさから見るに問題はないんじゃないか」
「そうですかね」
「宇宙は広いし相対速度も速い。そう簡単には当たったりしないさ。一応、らいちょうを回避させておこう」
局長はひとまず心配はないとして、そのままミッションを続行させた。一応の策としてらいちょうへ回避行動を支持しようとしたその時、部下から悲鳴のような報告が入る。
「局長!不明な物体が加速しています!このままではらいちょうが!」
「なにっ」
局長がらいちょうから目を離したその一瞬の間に、事態は急変した。
物体は秒速2000km以上の速度にまで急加速。らいちょうへ接近したのち、1000m手前で爆裂した。すると物体の内部から、鉄球のようなものが撒き散らされ、速度はそのまま、雨霰のようにらいちょうへと降り注いだ。
鉄球の散布界の只中に、らいちょうは飲み込まれてしまう。機首の真正面かららいちょうは高速のデブリを受け止める形となり、らいちょうを破壊した。
らいちょうの機首は粉々に打ち砕かれ、大型の主翼も根本から粉砕された。そして燃料タンクも撃ち抜かれ、その穴という穴から燃料が漏れ出す。
機体はその衝撃で激しく回転する。宇宙空間でのデブリ衝突ほど、恐ろしい事態はない。こうなれば、機体は制御を失ってしまう。姿勢を戻す方法は地上側にはなかった。
そのうちに、機体は遠心力でバラバラに砕け散っていく。送られてきた信号も途絶し、らいちょう二号は宇宙機として完全に破壊されてしまった。
次回も早めに投稿いたします