日本国召喚〜Orbital War〜 作:ガバガバ宇宙開発センター
この世界ではだいち3号が活躍していると思います。
中央暦1643年9月6日
日本国 首都東京 東京医療センター
ゆっくりと、意識が戻っていく。
思い出すのは、地下トンネルでの出来事。グラ・バルカス帝国第一皇太子のグラ・カバルは、必死になって敵から逃げていた。
そのうち、トンネルを抜ける。視界が晴れ、光が見える。そのうちに彼らは出口を出れた。
「殿下、こちらです!」
案内役の陸軍士官が、先導してカバルを導く。だがその時、彼らの頭上に一匹の竜が現れた。
「で、殿下!お逃げください!私が注意を引き付けます!!」
「ま、待てっ、やめろっ!!」
先導役の士官が拳銃を抜き発砲しようとしたが、それより前に、竜は火炎弾を吐いた。
迫り来る火の玉を見て、カバルの視界はスローモーションのようにハッキリとしていた。先導役の時間を助けようと、手を伸ばした瞬間、地面に火炎弾が着弾した。
迫り来る火の粉が、カバルの視界を覆った。覚えているのはそこまでだった。
「俺は、爆発に巻き込まれたのか……」
次に目を覚ました東京の病院内にて、カバルは包帯を巻いた頭を抱えつつ、そう言った。
今でも思い出せば脂汗がひどく、身体中に鳥肌が立って来る。自分が生と死の狭間にいた事を、改めて思い知った。
そんな様子を見て、日本国外務省の高田外交官はカバルの容態に配慮しながら当時の状況を語った。
「あの時、貴方はそれはもう酷いやけど姿でした。しかし幸いにも医師達の懸命な治療により、今は命に別状はありません。ご安心ください」
「そうか……俺はどうなる?」
「日本政府……並びに世界連合としては、貴方に世界のことを学んでいただきたいのです。不幸にも始まってしまった戦争を止めるべく、貴方のご助力を願いたい」
カバルは彼の言っていることが理解できなかった。まるで帝国に勝つ気でいるかのような発言だ。いや、むしろ逆なのか。
確かに世界連合は、前線基地のバルクルスを落としたのだろう。私が捉えられているという事は、そういうことだ。
しかし、そんな前線の押し合い下げ合いなど、戦争では当たり前のように発生する。たった一つの基地を落としたくらいで、この国は帝国に勝てると思っているのだろうか。
彼らとて馬鹿ではない。帝国との国力、技術力の差は理解しているはずだ。ならば今回の場合は違うだろうと、カバルは都合のいいように考えた。
「ふんっ、滑稽な。要は恩を売って少しでも講和を有利にしようという魂胆か」
「……まあ、そうなりますね。確かにグラ・バルカス帝国は強大で、強く、周辺国にとっては脅威そのものでしょう」
高田はカバル考えを一部肯定しつつも、言葉を続けた。
「しかし、貴方にも敵のことを知ってもらいたいものです。すでにここは日本国内……窓の外をご覧ください、あの摩天楼が見えますか?」
そう言って高田は、今までカーテンで隠していた部屋の窓を部下に開放させた。明るい日差しが舞い込み、少し視界がぼやけるが、そのうち天を指すような摩天楼が目に映った。
「あれは……」
「帝国の国力が高いのは承知しております。しかし、上には上がいるものですよ」
高田はカバルから見てもハッキリわかるように、不敵に笑って見せた。カバルは彼の思考回路がますます理解できなかった。
中央暦1643年9月16日午後
日本国 東京 首相官邸
第二次バルクルス基地攻撃から一ヶ月ほどが経ったこの日。
午後になって、首相官邸にまた閣僚達が集められていた。今回は防衛省絡みの案件で、幹部が勢揃いしている。
呼び出された閣僚達は、内心またかと思っていた。このところ、こうして各方面から呼び出されては会議ということが続いている。体力のある閣僚でも少し疲れ気味だった。
「──以上のことから、グラ・バルカス帝国軍が日本に侵攻してくる可能性は非常に高いです」
航空自衛隊の幹部である三津木がキッパリとそう言うのを聞き、閣僚達は息を呑んだ。それもそのはず、彼らが想像している最悪の事態がすでに進行しているかるだ。
会議室のディスプレイには、情報収集衛星が捉えたグラ・バルカス帝国勢力圏下の各軍港の様子が映し出されている。
それは数日前に撮影された写真と比較されている。数日前の写真には、たくさんのグラ・バルカス帝国の艦艇が港にひしめき合い、何かの準備をしているように見えた。
に対し、現在の写真の方は港がすっからかんになっている。これは、港にいるほぼ全ての艦艇が出港している事を表していた。
「向かう先は、確実に東です。彼の国が言っていた脅しを、ついに実行に移したと考えるべきでしょう」
その分析に、閣僚達は血の気が引く。衛星の分析が正しければ、敵艦艇は補助艦艇含め1000隻を超える大艦隊だ。圧倒的な技術格差があるとはいえ、防げると思える数字ではない。
会議室に沈黙が流れる。誰もがこの国の行末を不安視して黙り込む中、武田首相がゆっくりと口を開いた。
「……単刀直入に聞く。防げるのか?」
「このような有事のために我々は存在していると言っても過言ではありません。護り通します」
「意気込みを聞いているんじゃない、現実問題だ」
三津木は少し黙り込み、しばらく沈黙したのち、再び口を開いて現実問題を伝える。
「陸海空、全ての戦力を集結させなければ防げないでしょう。各方面の部隊から、民間重工業企業、それこそ宇宙まで、全ての戦力を動員させて対処する必要があります」
実際問題として、自衛隊はパーパルディア戦役以降、かなりの増強が行われている。
しかし計画が遂行してから二年ほどしか経っていないので、まだまだ足りない部分が多い。自衛隊にとっては総力戦になるだろう。
「それでいい。私からJTFの設置を許可する。防衛大臣、対処に当たってくれ」
「了解しました。必ずや護り通します」
「頼んだぞ」
総理が防衛大臣に信頼の念を送ると、彼はすぐさま対処に移った。後ろに控えていた部下と自衛官に指示を下し、JTFの設置を急がせた。
と、会議が終了の雰囲気を醸し出していた時、三津木がそれを呼び止めた。
「あー、それからJAXAの職員の方、よろしいですか?」
「な、なんですか……?」
突然航空自衛隊の三津木から名指しされたため、JAXAの職員は困惑した。それをよそに、三津木は要件を話す。
「実はこの有事に際し、今後のロケット打ち上げ予定を防衛省優先に切り替えていただきたいのですが……可能ですか?」
「え、ええ……」
JAXAの職員はあからさまに嫌な顔をしていたが、三津木は両手を合わせて懇願した。
同日夜
日本国 JAXA 種子島宇宙センター
日本の南方、種子島にある宇宙センターにて。殺風景な白い廊下に、青い休憩用のベンチと赤い自販機があった。
残業中の技術者達が休憩時間に入り、自販機から飲み物を買う。お互いに飲み物を飲み交わしながら、ベンチに座ったりして雑談を繰り広げていた。
「はぁ……このところ残業続きでキツイな」
「ああ。その分手当は弾んでるみたいだけど、正直休みたいよ」
「でも、噂じゃ防衛省がもっと早く作れって催促してるらしいぞ」
雑談の内容はだんだんと仕事の愚痴になっていった。彼らはこのところ残業続きであり、身に堪えている。
「あ、防衛省絡みで思い出した。噂じゃ、グラ・バルカス帝国が日本に侵攻してくるかもってよ」
「ああ。相手の皇太子を捕虜にしちゃったらしいな。それで帝国はお怒りだと」
「もしかしたら、ここもヤバいんじゃないか?」
「いや、必ず自衛隊がなんとかしてくれるさ」
ちょうどその話題で、グラ・バルカス帝国の話題が出てくる。技術者達は、自分たちとは違う外交と軍事の世界で行われている情勢にも敏感だった。
最近ではJAXAも防衛省の事業に参加し、本格的な宇宙作戦に協力している。その流れを受け、技術者達も自衛隊の活動に注目していた。
そんな雑談が行われている宇宙センターの廊下を、一人の技術者が歩いていた。彼は再突入物体の技術を担当する技術者だった。
彼は上司に呼び出され、執務室に向かった。呼び出された彼は、上司から要件を伝えられる。
「再突入滑空弾の実戦投入ですか!?」
技術者は激しく困惑した。上司から伝えられたのは、現在JAXAが防衛省と研究を進めているある兵器に関する催促だった。
「ああ。まだ試作の段階だが、形にはなっているだろう?防衛省はそれでいいから実戦投入して欲しいと言っている」
「いやいや、そんな無茶な。再突入実験だって終わったばかりですよ?まだデータも精査できてないのに……」
「それだけ状況は、切羽詰まってるってことだよ」
「それは……分かりますが……」
技術者は唸りながらも、催促された理由を聞かされ合点が行く。
廊下でも聞いたが、グラ・バルカス帝国の皇太子を捕虜にしたことに対して帝国が怒りを露わにし、脅しを仕掛けているという。
どうやら有事は近いらしい。
「情報収集衛星によると、敵が到達するまで一ヶ月もない。そんなのあっという間さ」
「そこで、再突入滑空弾を投入しろと?」
「そういうことだ。まあここまで催促するということは、既存の対艦ミサイルだけでは対処しきれないのかもしれん」
技術者は眉を曇らせた。
この状況下で頑張ると言うのは、つまり過労死するまで働けと言う事である。もちろんこのご時世、なんらかの手当は出るだろうが、それでも気が進むわけではない。
それに、今回の兵器に関しても複雑な心境を抱えていた。兵器には小惑星探査機「はやぶさ」などに使われた、大気圏再突入の技術が使われている。それをそのままミサイルにしているようなものだ。
必要とはいえ自分たちの技術が兵器に転用され、実際の戦場で人を殺す。本来は民間の技術者だった彼が靄を抱くのは無理はない。
「頼む、これも国防のためだ。なんとか人員を増やして実用化まで持っていってくれないか?」
「……わかりました。なんとかこちらで形を整えて見せます」
「頼んだ」
そう言って技術者は、上司に会釈をして後ろを向いた。そして部屋を後に、ドアに手をかける。
部屋を出る前に、技術者は執務室に飾られている「らいちょう」の模型に視線を移した。
それは青いラインが特徴的な、「らいちょう二号機」の模型だ。今はもう残骸になって燃え尽きた機体だった。
技術者は模型から目を逸らし、すぐに執務室を後にした。