日本国召喚〜Orbital War〜 作:ガバガバ宇宙開発センター
そういえばカイロスロケット二号機の話が持ち上がっているみたいですね。
今度こそは成功して欲しいです。
中央暦1643年10月6日
日本国 内之浦宇宙空間観測所
穏やかな海が、太陽の光を反射してきらめいている。
ここは鹿児島県、内之浦にあるJAXAの宇宙空間観測所。敷地内には固体燃料ロケット「イプシロン」の打ち上げ施設がある。
天気は晴天に近く、風も少ない。まさしく完璧なロケットの打ち上げ日和だった。
『10……9……8……7……』
「駆動用電池起動」
VABから運び込まれた新型の固体燃料ロケット「イプシロンヘヴィー」が、発射に括り付けられている。
機体は既に発射シークエンスに入り、今から飛び立とうとしていた。
H-3ロケットに比べて随分小型なその機体だが、これでも新惑星に対応するため、少し大きくなった方だ。固体燃料ロケットは燃料充填の手間が省け、機体の推力も高いためその分コンパクトな為である。
イプシロンヘヴィーは機体の全長を大型化し、固体燃料の量を増やしている。ブースターの設置も検討されたが、これはイプシロンの設計に反するとして却下された。
『6……5……4……』
「SMSJ、点火」
機体の固体燃料に火が入れられる。機体から白い煙が出てくる。
ここまで来てしまうと、固体燃料の火を消すことはできない。固体燃料ロケットは一度点火すると止められず、そのまま飛び続けるのが玉に瑕だ。
『3……2……1……ignition』
「一段点火、リフトオフ」
イプシロンが発射台から飛び立った。
H-3とはまた違う、噴火のような轟音と共にロケットは飛び立っていく。力強い固体燃料の轟が、辺り一帯の空気を揺らして衝撃波を形作る。
「再突入滑空弾を搭載したイプシロン・ヘヴィーロケットは、2019年10月6日午前10時55分、内之浦宇宙空間観測所より打ち上げられました」
そのうちに、機体は高度を上げていく。
晴天の空を貫き、雲の向こう側へと飛んでいく。ちょうど雲を抜けようとしたとき、ロケットの衝撃波が太陽光を反射し、綺麗な蜃気楼を生み出した。
同時刻
日本国 内之浦 とある展望台
イプシロン打ち上げの様子を見られる展望台に、グラ・バルカス帝国皇太子のグラ・カバルがいた。
彼は打ち上げのロケットロードを見て口をあんぐりと開けており、言葉に詰まっていた。そんな様子を見て、外交官の高田はすかさずカバルに説明を行う。
「いかがでしたか?あれが我が国が持つロケットと言われる技術です」
「…………」
「先ほど説明した通り、ロケットというのは化学燃料を使って遥か高空へ飛び立つための乗り物です。貴国で言う噴進弾を大型化したようなもので──」
「す、素晴らしい……!」
「え?」
高田がカバルに説明を続けようとしたその時、カバルは徐に何かを呟いた。そして感極まって興奮した様子で、高田に勢いよく詰め寄った。
「素晴らしい!なんてものを見せてくれたんだ!俺は、感動した!!」
「は、はぁ……?」
「ロケットとやらが天高く登っていくその力強さ、その軌跡、そして美しい光の芸術を見た!これこそが科学の真髄なのだと、私に教えてくれた!」
カバルは興奮冷めやまぬ様子で、高田の手を握ってぶんぶんと振り回した。急に人柄が変わったカバルに、高田は激しく困惑している。
そんな高田をよそに、カバルの興奮は止まらない。高田から離れると、近くの岩に足を乗せ、力強く叫ぶ。
「そうだ、これだ、我が国もこれをやるべきなのだ!」
「…………」
「我が国がやるべきなのは軍拡でも世界征服でもない!これだ!ロケットを作って飛ばすんだ!ああくそっ、今すぐ本国にこれを伝えたい!連絡手段がないのがもどかしい!!」
そう言って頭を掻きむしるカバルに、高田は若干引いていた。
感動した、興奮したというのは分かるが、いくらなんでも大袈裟じゃないかと、少しばかり思うところがある。
とはいえカバルは若く、意外にも科学分野に精通している。父親ほどではないが、それなりに学は積んでいるし科学好きであった。
それ故の興奮は、今年で三十路に当たるしがない大人の高田には理解できなかったのだろう。
「よし、なら今できる事をしよう!タカダ氏、ロケット関連の技術や蔵書を詳しく見せてくれないか!」
「えっ、それは……」
カバルから詰め寄られ、高田はどうするべきか悩む。
確かに、カバルに日本国の実力を教えるため、防衛省関連の軍事力は機密事項を含め色々教えてきたが、宇宙分野はどこまで教えていいのだろうか。
しばらく悩んだ末、高田は一般の人々が手に入れられる図鑑や科学読本程度なら与えてもいいんじゃないかと結論づけた。
「……一般に出回っているものであれば、いくつかご用意いたしましょう」
「ありがとう!!」
カバルは興奮した様子で、高田の手を握ってまたブンブンと振り回した。
中央暦1643年10月7日
チエイズ王国 グラ・バルカス帝国 第1先遣艦隊
皇太子拘束という事件に伴い、グラ・バルカス帝国海軍は歴史上最大規模の艦隊を派遣することが決定された。日本国を攻撃し、皇太子を拉致した罪を問わせるのである。
透き通るような青い空と、穏やかな海。
空に海鳥がみゃあみゃあと鳴きながら飛んで、海には大型の哺乳類が泳いでいる。
その波間に揺れる近代軍港に、軍艦がたくさん停泊していた。
そのうち、最も大きな軍艦が威風堂々どっしりと構えていた。天へと伸びる城のような構造物が、その船を魅力的に写している。
グラ・バルカス帝国海軍の大戦艦"バルサー"は、第1先遣艦隊の旗艦としてこのチエイズ王国で補給を受けていた。配下に空母、駆逐艦、巡洋艦を引き連れ、その総数は200隻以上にも登る。
この後、艦隊は会場で第2先遣艦隊と合流する予定で、その場合の総数は440隻になる。まさに威風堂々、大艦隊だった。
「司令、間も無く補給作業が終わります」
旗艦"バルサー"の艦橋、司令部となっているその部分で、参謀がそう報告した。先遣艦隊司令官のミレケネスは、海を眺めながらそれに頷くと、参謀に向き直った。
「了解したわ。補給が終わり次第、すぐに出港するわ。準備して」
「了解しました」
ミレケネスは簡潔な指示を出し、出港の準備を整えさせる。帝国国内の母港から、一ヶ月くらいかかってここまでやって来た。長い航海のため、乗員も疲れているだろうがこれは致し方ない。
ちなみに、ミレケネスという女性軍人は元は監査軍の出身だ。現在では連合艦隊という形で吸収されているが、彼女は女だてらに帝国の三大大将に数えられる歴戦の軍人である。
グラ・バルカス帝国では、植民地が広がるにつれて統治にかかる人員が不足していたので、女性も水兵になれるよう早い段階から制度を整えていたのだった。
「ふぅ……」
そんなふうに過去を振り返りつつ、ミレケネスは海を眺めていた。
港にはこれでもかというくらいの船、船、船。どれもこれも帝国海軍が誇る鋼鉄の軍艦である。
圧倒的だった。戦艦バルサーを含む戦艦戦隊も布陣しており、その背後の桟橋には空母も控える。港の中でも警戒は怠らない。対空能力に特化した巡洋艦がそれを囲い、そのさらに外側を駆逐艦が固めていた。
自分がこれほどまでの大艦隊を指揮できる事を、ミレケネスは誇りに思っていた。そして艦隊は補給完了を待っていた。
自分たちの様子が遥か彼方の宇宙空間から監視されているとも知らず、堂々と。
同時刻
惑星軌道上 高度300km
星が影に沈む。
眼下に広がる星の大陸は、夜の間は影に閉ざされほとんど何も見えなくなる。
ただ一つ、人の営みを除いて。
第三文明圏では、インフラ開発が進んで夜でも電気が灯るようになった。そのおかげで人々の住む地域が、光となって宇宙空間からも見えるのである。
その中で、日本国は第三文明圏の中でも最も煌やかに輝いていた。日本列島全体が光に覆われるかのように、都市の灯りが見える。その発展の著しさがよく分かった。
『こちらサテライトコントロール。イプシロンカーゴは"らいちょう3号"と合流を完了。現在隊列は高度180マイルを秒速12kmにて飛行中』
そんな惑星の軌道上を、「らいちょう3号」とロケットのカーゴが進んでいた。通信にスタンバイピーが入り、一旦間を置いたのち、返信が入る。
『了解コントロール。これより機体の管制を"航空宇宙自衛隊"が受け取る。スタンバイ』
横須賀にある作戦センターから返信が届いた。今回の作戦を管轄する航空宇宙自衛隊からの要請を受け、JAXAの管制室は、機体の操縦を自衛隊側に移譲する。
『……移譲完了。グットラック』
『了解。全機、攻撃準備。"らいちょう"はハッチ開け』
権限を受け取った航空宇宙自衛隊は、即座に行動を開始した。
らいちょうのハッチが開く。中から仰々しい見た目のレールとデカプラーと共に、ミサイルが姿を現した。
いや、ただのミサイルではない。本体には小型のカナードが取り付けられ、胴体はリフティングボディとなっており、大気圏を高高度から滑空することが可能だった。
高高度再突入滑空弾"HAREV"。
それがこの兵器の名前だ。これは航空宇宙自衛隊が、軌道上からの打撃力投射のために開発した新兵器である。
既にフェアリングが分離された状態で待機していた機体の方にも、同じような装置が取り付けられている。これらは全てミサイルキャリアとして機能していた。
6発ずつ、回転弾倉のような装置に括り付けられたそれは、軌道上から射出されるのを今か今かと待っていた。
『スタンバイアタック……ナウ、アタック!』
弾頭が射出された。
破裂するような衝撃と共に、弾頭が機体から勢いよく離れる。またもう一発、もう一発と、全ての滑空弾が宇宙空間に放り出された。
射出された滑空弾は、機体内部のリアクションホイールを回転させ、くるりと反対方向に向き直った。その状態でメインスラスターを噴かし、降下体制に入る。
減速が終わった滑空弾は、元の体制に戻ると、一斉に大気圏へと突入していった。その姿は、まるで流れ星のようだった。
スタンバイピーとは、よく宇宙船同士の交信の時に入る「ピー」という音のことです。