ブルーアーカイブ 双翼のレクイエム   作:環星党

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第3話 補習対象の生徒達

 聖園(みその)サナとのファーストコンタクトを終えた私は、過去にブラックマーケットの騒動で協力したベージュ髪の生徒、阿慈谷(あじたに)ヒフミと共に正義実現委員会の部室を訪れていた。

 

「えっと、失礼します……どなたかいらっしゃいますか?」

 

 ヒフミが声を掛けると、部屋の奥からピンク髪の小柄な生徒が無言で姿を見せる。

 

「あっ、こ、こんにちは。え、えっと……」

 

「……何?」

 

「あ、あう……そ、その……私、何かしてしまったんでしょうか……」

 

 ヒフミは小柄な生徒―――補習授業部の名簿によると、下江(しもえ)コハルという名前らしい―――を前におどおどした態度を見せる。私はヒフミの緊張をほぐすため、思っていたことを口に出すことにした。

 

“ただちょっと、人見知りなんだと思うよ”

 

「……だ、誰が人見知りよ!? た、ただ単純に知らない相手だったから、警戒してるだけなんだけど!?」

 

 多分、それを『人見知り』と呼ぶのではないだろうか? 私はそう思ったが、敢えて口には出さなかった。

 

「……そ、それで、正義実現委員会に何の用?」

 

「え、えっと……探してる方がいまして……」

 

「はぁ!? 正義実現委員会に人探しを依頼しようってこと!? 私たちのこと、ボランティア団体か何かだと勘違いしてるわけ? そんなに暇じゃないんだけど?」

 

「いえ、えっと、ここに閉じ込められてるって聞いて……」

 

「……はぁ?」

 

「ですから、えっと、その、良くないことをした方がここに……」

 

「え、それってもしかして……?」

 

 2人がそんな話を続けていると、

 

「こんにちは。もしかして、私のことをお探しでしたか?」

 

 優等生然とした雰囲気を漂わせる1人の生徒が、学校指定の()()()()()()姿()で廊下の向こうから現れた。これにはヒフミとコハルだけでなく、私も驚いて言葉を詰まらせてしまった。

 

「え、は、何で!? あんた、どうやって牢屋から出てきたの!? ちゃんとカギ閉めたのに!?」

 

「いえ、開いてましたよ? 私のことを話されているような声が聞こえたので、こちらに来てみました。何かご用でしたか?」

 

 スクール水着姿の生徒―――名簿曰く、浦和(うらわ)ハナコという名前らしい―――はそう言うと、私の方に目を向けた。

 

「あら、大人の方、ということは……先生、ですね。あらためまして、こんにちは。なるほど、もしかして補習授業部の?」

 

「ま、待って!! その格好で出歩かないでよ!? ちょっとぉ!!」

 

「……何か問題でもありましたか、下江さん?」

 

 いや、その格好が問題なのだが……

 

「あるに決まってるでしょ!? 何で学校の中を水着で徘徊するの!?」

 

「ですが、学校の敷地内であるプールでは、皆さん普通に水着になられますよね?ここもあくまで学校の敷地内で……あ、もしかして下江さんは、プールでは水着を着ないタイプですか?」

 

「え、は? それってどういう……」

 

「そうでしたか、下江さんは全裸で泳ぐのがお好きなんですね。流石は正義実現委員会、そういった分野まで網羅されているなんて」

 

「ばっ、バカじゃないの!? 着るに決まってるでしょ!? そ、そんなことするわけ……!」

 

「それにしても裸こそが正義、とは……かなり前衛的ですね。『たまには思い切って自分を曝け出した方が何倍も気持ちいい』とサナさんもおっしゃっていたので、試してみるのもまた一興……」

 

 どうやらコハルは卑猥な話題に対し、過剰なまでの拒絶反応を示す傾向にあるようだ。最も、私にはそれが本心からの嫌悪だとは思えなかった。むしろ、照れ隠しに近いというか……

 また、ハナコはサナの話題を口にしていたが、自分の言葉を全裸徘徊の口実にされてしまう彼女が不憫に思えてならない。恐らく彼女はそんな意味で口にした訳ではないだろうに。

 

「と、とにかく早く戻って、早く! もうすぐ先輩たちが来ちゃうから!」

 

「あら、でもこの方々は私に会いに―――」

 

「うるさいうるさい、この公共破廉恥罪!! 早く戻れ!!」

 

「すみません、どうやら色々と混乱している状況のようですので、また後ほどお会いしましょうね?」

 

 ハナコはコハルに連れられ、廊下の向こう側へと去っていった。コハルはすぐに戻ってきたが、これ以上ハナコと話すのは難しいだろう。

 

「え、えっと……この状況は一体……ハナコさんは、この後どうなるんですか?」

 

「そんなの当然死刑よ! エッチなのはダメ! 死罪!」

 

「そ、そんなはずはないと思いますよ……」

 

 気を取り直して、次のメンバーに会いにいくことにする。確か名前は白洲(しらす)アズサと刑部(おさかべ)ステラ……

 

「ただいま戻りました」

 

「イチカ、帰還っす! シスターフッドの刑部ステラをストーカー容疑で引っ張ってきたっす!」

 

「任務完了です! 現行犯で白洲アズサさんを確保しました!」

 

「はい……はいぃっ!?」

 

「あ、ハスミ先輩、イチカ先輩、それにマシロ」

 

「コハルさん、お疲れ様です。あれ……?」

 

「この人って確か……」「シャーレの先生?」

 

 シャーレ奪還作戦にも参加した正義実現委員会の副委員長、羽川(はねかわ)ハスミ。部員の仲正(なかまさ)イチカと静山(しずやま)マシロを引き連れ、部室に戻ってきたようだ。3人の近くではシスター服の生徒とガスマスクの生徒が、それぞれ1人ずつ拘束されている。外見的特徴から判断するにシスター服を着ている方がステラ、ガスマスクを着用している方がアズサだろう。

 

「……何度言ったら分かるんですか……だから私はやってませんって……」

 

 ステラは怯えた様子で3人の方に視線を向けながら、自らの無実を訴えようとしている。ティーパーティー行政官に対するストーカー容疑とのことだが……?

 その一方でイチカはアズサを問い詰め、彼女から更なる情報を聞き出そうとしていた。どうやらアズサは暴行容疑で逃亡中に教材用催涙弾1トンを爆破、3時間に及ぶ抵抗の末に確保された所だったようだ。

 

「……惜しかった。弾丸さえ足りていれば、もう少し道連れにできたのに」

 

「ふぅ、道連れは勘弁してほしいっす……」

 

「もういい、好きにして。ただ、拷問に耐える訓練は受けてるから、私の口を割るのはそう簡単じゃないよ」

 

「そうっすか、なら私も容赦しないっすよ」

 

 イチカがアズサから話を聞き出そうと頑張っている間、何があったのかハスミと話すことにした。こちらの事情は勿論だが、ステラやアズサが関与している事件についても知りたくなったのだ。

 

***

 

「……なるほど、お話は理解しました。先生が、補習授業部の担任の先生になられると」

 

 私がこちらの事情を一通り伝えると、ハスミはそう言った。『話は理解した』ということはつまり、協力するのは難しいということだろうか?

 

「……残念です。できればお手伝いをしたかったのですが」

 

 どんな事情があるのかは分からないが、やはり直接的な協力は難しいようだ。もしかすると、ティーパーティーで聞いた『エデン条約』が大きく関わっているのかもしれない。兎に角、まずは私の要求から伝えることにした。

 

“あの3人、連れて行ってもいいかな?”

 

「はぁ!? ダメに決まってるでしょ!? 絶対ダメ、凶悪犯なのよ!?」

 

「アズサやステラはともかく、ハナコを凶悪犯扱いするのはどうかと思うっす……」

 

 コハルの反応は予想通りだったが、イチカの言う通りハナコの罪状はそこまで重くない。公然わいせつ罪の刑罰は6か月以下の懲役、若しくは30万円以下の罰金*1なので、エッチなのはダメだとしても死刑にはならないのだ。

 そんなことを考えていると、ハスミはこう続けた。

 

「コハル、それにイチカ。先生はシャーレの方として、ティーパーティーの依頼を受けてこちらにいらっしゃったのです。規定上は何の問題もありません。補習授業部の顧問、担任の先生になられるのですから」

 

「え、えぇ……まあでも、ハスミ先輩がそう言うなら……」

 

 そして私は、正義実現委員会を訪れた本来の目的を4人に告げた。

 

“実は、コハルも連れて行くことになってるんだ”

 

「……えっ、私!?」

 

「あっ、ツルギ先輩から伝言預かってるっす。『成績が上がるまでの間、二度と正義実現委員会に戻って来るなぁ!』らしいっすよ」

 

「……嘘だよね!?」

*1
日本の法律の場合。キヴォトスで公然わいせつ罪の刑罰がどの程度なのかは不明である。




Tips:
正義実現委員会、略して正実。
トリニティ総合学園の治安維持を担う組織で、基本的にはティーパーティーの指揮下にある。
委員長の剣先(けんざき)ツルギはキヴォトス最強格の戦闘能力を有し、その実力と攻撃性の高さから『戦略兵器』に例えられることも。
また、正実とは別に非公認の治安維持組織『トリニティ自警団』も存在する。
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