補習授業部の結成から数週間が経ったある日のこと。
私はサナに呼び出され、ティーパーティーのテラスを再び訪れていた。補習授業部の5人が受けた第一次特別学力試験、その結果を報告するためである。
サナは私に気付くや否や、手に持っていたティーカップを机に置いてこう言った。
「調子はどう、先生? ……まあ、もうシエルから話は聞いてるんだけど」
“残念だけど、上手くいかなかったよ”
「合格*1したのはヒフミちゃん*2とステラちゃん*3の2人。アズサちゃん*4とコハルちゃん*5は不合格だったけど、点数自体は順調に上がってるみたい」
紅茶の注がれたティーカップを目の前で揺り動かす彼女の話を聞いていると、話題に出ていない生徒が1人いることに気付く。
“あれ、ハナコは?”
「ハナコちゃんは……1問以外全問不正解*6で不合格だったんでしょ? でもあの子のコトだから、絶対わざとやってる気がするのよね」
“……えっ?”
「ハナコちゃん、こうなる前はとっても賢かったのよ。1年の頃から既に3学年全部の筆記試験で満点合格、頭脳戦や駆け引きにも優れた期待の新鋭、私たちも必死になってあの子のスカウトに向かったわね♪ まあ、結局断られちゃったんだけど……」
確かにハナコは優等生然とした雰囲気を漂わせていたが、まさか本当に優等生だったとは。アズサやコハルに勉強を教えていることから、その頭脳は今でも失われていないのだろう。サナは紅茶を飲みながら話を続ける。
「でも2年に入ってから急に成績が落ち込んできて、今では補習授業部の仲間入り。その理由が知りたくなって、1問だけとんでもなく難しい問題を仕込んでおいたのよ。それこそトリニティでは私とハナコしか解けないレベルのね。こう見えて私も賢いのよ、イナゴ共と違って」
“イナゴ……?”
「先生はトリニティと聞いて、お淑やかな『名門校のお嬢様』を想像するでしょ? でも、本当に典型そのままな人間なんていないのよ。仮にそれが真っ当なお嬢様だったとしてもね」
“別に、そこまで言うことはないんじゃないかな……”
「いないわ。断言できる。もしいたとすれば、それは―――単なる演技に過ぎないわ。そういう
今なおティーパーティーの『
ハナコの成績不振の裏に何があるのか、それはまだ分からない。ただ、それでも彼女に何か困ったことがあるのなら、じっくり話し合ってみるのが先生の義務ではないだろうか。
私が改めて決意を固めようとしたその時、一瞬だけ眉を顰めながら紅茶を飲み終えたサナはこう言い放った。
「―――酷い話だと思わない? 三次試験までに全員が合格できなかったら、5人まとめて退学しろだなんて。ナギちゃんの考えも分かるような気がするけど、流石にやり過ぎよね……」
“……どういうこと!?”
「ナギちゃんが言うには、5人の中に『トリニティの裏切り者』がいるみたいなのよ」
“裏切り者?”
「その説明をする前に、まずは『エデン条約』の話をするわね」
エデン条約。私がサナと初めて出会ったその日、ミカが口にしていた言葉である。それが一体どのようなもので、『トリニティの裏切り者』とどう関係して来るのだろうか?
「エデン条約というのはトリニティとゲヘナ、2つの学園の間に結ばれる不可侵条約のコトよ。このトリニティ総合学園はお隣のゲヘナ学園と昔から仲が悪くて、何かあればすぐトリカスだの角付きだの言い合ってしょっちゅう銃撃戦になるのよ。ただ、どうしてそうなったのかは未だに諸説あるみたい」
“だから、その争いを防ぐためにエデン条約を結ぶんだね”
「大雑把に言えばそんなところかな。正確に言うなら、トリニティとゲヘナの上層部が選出したメンバーで構成された
“成程……”
「そしてエデン条約の締結を阻止しようと目論む『裏切り者』が、このトリニティ総合学園の何処かにいるみたいなのよね。これは飽くまで噂の段階でしかないんだけど、セイアちゃん……本来のホストだった『
“襲撃……!? それに意識不明って……”
「当事者のセイアちゃんが行方不明だから、噂の真偽は確認できてないんだけどね。 ……まあ、そのことでナギちゃんが疑心暗鬼になってるのは理解できるとしても、5人の中に裏切り者がいなかったらどう責任を取るつもりなの? それに、もし裏切り者がいたとしても、巻き添えを喰らった他の子たちは―――」
「お姉ちゃーん! もうすぐ時間だよー!」
テラスの真下から声が聞こえたので覗いてみると、ミカが手を振りながらこちらを見上げていた。
「もうこんな時間!? ごめんね先生、今からミカとお出かけの約束があるの。だから要点だけ伝えるわ。
―――補習授業部に裏切り者がいるかどうか、それを調査してほしいのよ」
エデン条約の締結阻止を目論んでいるという『トリニティの裏切り者』、そんな人物が本当に補習授業部に存在するのかを確かめてほしい。
やはり補習授業部の成績向上というのは飽くまでも表向きの理由で、本命の依頼はこちらなのだろう。生徒を疑いたくはないが、私の答えは決まっていた。
“だからこそ、5人の潔白を証明してみせるよ”
「それならナギちゃんにも私の方から話を通しておくわ。もし何か困ったことがあれば、お姉ちゃんに任せなさい! ……じゃあ、私は先に帰るわね。さよなら、また会う時を楽しみにね♪」
“さよなら、サナ。また今度ね”
そう言ってサナはテラスを飛び越え、ミカを連れて何処かに去っていった。『裏切り者』の件も気になるが、百合園セイアについて調べておいても良いかもしれない。
さて、明日からは補習授業部の合宿だ。一体どんな内容になるのだろうか?
Tips:
前首長である聖園サナは彼女の双子の姉で、フィリウス分派の桐藤ナギサとは幼馴染。
政治がそこまで得意ではないため、分派の政務は主に『