ブルーアーカイブ 双翼のレクイエム   作:環星党

7 / 12
第6話 合宿の始まり

 合宿1日目。私はシエルと補習授業部の5人を連れて、エノク分校にある合宿所を訪れていた。

 

「ようやく着きましたね。ここが私たちの……」

 

「はい、合宿の場所です。ようやく着きましたね、ふぅ……」

 

「天体観測部の活動でもよく使うので、私にとっては見慣れた建物ですけどね……」

 

「冷たい床で裸になって寝ないといけないのかと思ってましたが、広いですし、きちんとしてますし、可愛いベッドもあって何よりです。これならみんなで寝られそうですね、裸で♡」

 

「さっきから何でちょいちょい『裸』を強調するの!? それにベッドの数もきちんとあるんだから、みんなで寝る必要無いでしょ!?」

 

「同じベッドで寝られないのは残念ですが、せっかくの合宿ですからね……」

 

「その、これから1週間寝食と勉強を共にするので、みなさん仲良く……って、あれ? アズサちゃんは?」

 

「あら? 先ほどまでは一緒にいたのですが……」

 

 他愛もない話をしていると、アズサが合宿所に戻ってきた。

 

「偵察完了だ」

 

「て、偵察……!?」

 

「トリニティの本校舎からはかなり離れてるし、流石に狙撃の危険は無さそう。外への入口が2つだけというところも気に入った」

 

「もし何かあれば片方の入口を塞いで、1階の体育館に集めてからまとめて吹き飛ばせば問題ありませんね」

 

「え、えっと……」

 

「それから、ここが兵舎……いや、居住区か。……綺麗だな」

 

「私たちが定期的に掃除してますからね……」

 

「あの、アズサちゃん、ステラちゃん……私たちはここへ戦いに来たのではなく、勉強をしに来たんですよ……?」

 

「うん、分かってる。1週間の集中訓練だろう? 外出禁止、自由時間は皆無、24時間一挙手一投足まで油断することは許されないハードなトレーニング……」

 

「過酷な訓練ですか、私も興味ありますね……!」

 

「そ、そこまででは無いと思いますが……」

 

「自由時間が無いと健全な教育に支障をきたす恐れがあるので、適正なスケジュール管理を行っています。ですが、油断することが許されないのは間違いありませんね」

 

 アズサとステラの少しズレた会話内容に、ヒフミとシエルからツッコミが入る。裏切り者が誰なのか分からない以上、油断できない状況なのは間違いないだろう。

 

「きちんと準備もしてきた。体操着や細かい着替え、衛生面の歯ブラシや歯磨き粉、石鹸、非常食、毛布、水筒……」

 

「流石はアズサ様、用意周到ですね」

 

「当然だ。徹底した準備こそ成功への糸口」

 

「うふふっ。みんなで一緒に食欲を満たし、睡眠欲を満たし、そしてみんなが欲する目標へと向かって脇目も振らず手を動かす……良いですね、合宿」

 

「そうですね……」

 

「……あ、でも任務は確実に遂行する。きちんと勉強をして、第二次学力試験はどうにか合格する。その目標のためにここに来たんだ。……迷惑は、かけたくない」

 

「アズサちゃん……」

 

「アズサ様……」

 

「大丈夫、万が一の敵襲に備えて対人地雷とクレイモアも用意してきた。あとは即席爆発装置(IED)の材料になりそうなもの一式と、対戦車地雷も多少―――」

 

「あ、アズサちゃん! ですからそういうのは……!」

 

「合宿所のあちこちにツボミ先輩が作った罠の数々も仕掛けてありますよ……」

 

「ステラちゃんも!」

 

「念の為、正義実現委員会や天体観測部の皆様にも警備をお願いしておきました」

 

「シエルさんまで……」

 

 アズサとステラの物騒な会話が再熱し出したため、ヒフミは止めに入ろうとするが、今度はシエルまで会話に加わってしまった。シエルは真面目なのか、それとも……?

 

***

 

「……というわけで、あらためて。ナギサ様から言われた通りです。第一次学力試験には残念ながら落ちてしまったので、このエノク分校で合宿をすることになりました。私たちは二次試験までの1週間、ここに滞在することになります。体育館やシャワー室なども充実しているので……」

 

「外にプールがあるので、ヒフミ先輩も一緒にどうですか?」

 

「あ、そうだったんですね。あと、ここはトリニティの本校舎からも頑張れば歩ける距離ですし、地下に食堂設備のようなものもありましたから、特にお腹を空かせる心配もなさそうです」

 

「先生もしばらくエノク分校に滞在する予定なので、もし何かあった時は気軽に相談してみてはいかがでしょうか?」

 

“うん、任せて”

 

「先生が不在の時は私が対応するので、もし何か用事があればこの粟国シエルにお任せ下さい」

 

“ありがとう、シエル”

 

 合宿の準備は整った。早速勉強開始……と言いたい所だが、私にはまだやることがある。

 

“早速だけど、隣の部屋でシエルと話がしたいんだ”

 

「成程、了解しました」

 

「同じ部屋で二人っきり……何する気よ先生!?」

 

***

 

「それで、話というのは……?」

 

“シエルが大丈夫なら、『百合園セイア』という生徒について調べてほしいんだ”

 

「実は私もサナ様の命令でセイア様の情報を集めているのですが、彼女がどの様な状態にあるのかは未だによく分かっていません。ですが、襲撃事件の噂についてはある程度裏が取れています」

 

 襲撃事件の噂についてはサナも口にしていたが、彼女もそのことが気になっているのだろうか? そんな私の疑問を知ってか知らずか、シエルは話を続けた。

 

「被害者は百合園セイア。サンクトゥス分派の首長で、当時ティーパーティーのホストを務めていました。

 

 セイア様はトリニティ自治区某所のセーフハウスで何者かから襲撃を受け、救護騎士団の蒼森(あおもり)ミネ団長が確認した際には死亡が確認されました。ですが、この襲撃事件には不審な点が幾つか存在します。

 

 1つ目は、襲撃犯がセイア様の居場所を知っていたこと。セーフハウスの位置やセイア様の行動パターンを把握している生徒はかなり限られているので、ティーパーティー上層部の関与が疑われます。

 

 2つ目は、セイア様のご遺体が突如姿を消したこと。現時点でセイア様の死亡を確かめたのはミネ様だけなので、本当に死亡したかどうかは未だ謎です。

 

 最後に、第一発見者であるミネ様が現在行方不明であること。ミネ様が襲撃犯という可能性も考えられますが、他の疑問点も踏まえた場合は別の結論が見えてきます。その結論とは―――」

 

 結論を言おうとしたシエルが、何かに気付いたような表情でコンセントに近付く。シエルはコンセントに刺さっていたものを引き抜くと、私にそれを見せた。

 

「―――どうやら私たちの会話が盗聴されていたようです」

 

“……えっ!?”

 

「これ以上話すのは危険です。続きはまた別の機会に」

 

 トリニティの裏切り者は、思ったよりも近くに潜んでいるのかもしれない。




Tips:
粟国(あぐら)シエル。聖園サナの秘書で、現在は補習授業部の教育係。
情報収集を得意としており、サナと一緒に先生をサポートする。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。