ブルーアーカイブ 双翼のレクイエム   作:環星党

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第2話 ティーパーティーのテラスにて

 話の発端は数週間前に遡る。私がトリニティ総合学園の生徒会、『ティーパーティー』に初めて招待された時のことだ。

 

「こんにちは、シャーレの先生。こうしてお会いするのははじめまして、ですね。ティーパーティーのホスト、桐藤(きりふじ)ナギサと申します。そしてこちらは同じくティーパーティーのメンバー、聖園ミカさんです」

 

 ナギサの冷静な自己紹介と共に、隣にいたピンク髪の生徒、ミカが笑顔で手を振る。だが、ここには私の視線を外さない者がもう1人いた。

 

「まあ、正確に言うとナギちゃんは代理なんだけどね。……私は聖園サナ、見ての通りミカのお姉ちゃんよ。ナギちゃんとは10年ほど付き合いのある幼馴染で、役職としては……『調停者(フィクサー)』、ってところかな?」

 

 ミカの姉だと名乗った彼女、サナは確かにミカと似ている、それどころか瓜二つとも言うべき顔をしていた。ただし瞳の色は深紅、薄紫のロングヘアもミカと異なりお団子の位置が左側で、ミカには無い1本のアホ毛が揺れている。また、銀河や星雲を思わせる立体的なヘイローの形もほぼ同じだが、サナのそれは紫と緑に彩られており、渦の回転もミカとは逆方向になっていた。

 サナに続けて、彼女の隣に立つ背の低い生徒が短く挨拶をする。

 

「粟国シエル、サナ様の秘書を務めています」

 

「改めまして、お初にお目にかかります。私たちがトリニティの生徒会、ティーパーティーです」

 

 何を言えば良いのか私にも分からないが、兎に角挨拶されたからには返さなければならない。それは昔から変わらない礼儀というもので、人間関係を円滑に進める上で必要不可欠だからだ。

 

“はじめまして、ティーパーティーの皆さん……”

 

 

 

***

 

 

 

「へぇー、これが噂の先生かー。あんまり私たちと変わらない感じなんだね? なるほどー、ふーん……うん、私は結構良いと思う! お姉ちゃん的にはどう?」

 

「詳しくは実際の働きぶりを見てからになるけど、ミカがそう言うのなら別に悪くはないんじゃないかな? ……まあ、わざわざこんな場所で品定めするのもどうかと思うけどね」

 

 私は何故かミカから好奇の視線を向けられている。話を振られたサナも妹を軽くたしなめつつ、私のいる方向に一瞬だけ視線を向けていた。やはりヘイローを持たない大人の人間は珍しいのだろうか? そんな姉妹に対し、ナギサは椅子に座ったまま注意を促した。

 

「……初対面でそういった話はあまり礼儀がなっていませんよ。愛が溢れるのは結構ですが、時と場所は選びましょうね」

 

「それはそうだけど……別にここまで堅苦しくなくても良いんじゃない?」

 

 どうやらサナはナギサの態度が堅苦しいことを気にし、もう少し気楽に話し合いたいと思っているようだ。その一方で、当の本人は少し不愉快そうな表情を浮かべながらも、返事を口に出すことなく黙っていた。サナの言葉にわざわざ反応するよりも、話を進めることを選んだのだろうか?

 

「まあとりあえず、これからよろしくってことで!」

 

“うん、こちらこそよろしくね”

 

「……トリニティの外の方がこのティーパーティーの場に招待されたのは、私がホストになってからは先生が初めてです。普段はトリニティの一般の生徒たちも簡単には招待されない席でして……」

 

「あー、何それナギちゃんちょっといやらしい! 恩着せがましい感じー!」

 

「もっと他の学園(とこ)と交流した方が良いって、お姉ちゃんも前に言ったハズなんだけどなぁ……」

 

「……失礼しました、先生。そういった意図は無かったのですが……それはさておき、ミカさんにサナさん?」

 

「あー……ごめん、大人しくしてるね。できるだけ」

 

「……わざわざ言われなくても分かってるわよ」

 

 落ち着き払った雰囲気の(サナ)と、活発な雰囲気の(ミカ)。一見真逆に思える2人だが、どうやら根幹部分は姉妹でかなり似ているらしい。理由こそ異なるようだが、どちらもナギサの出した話題を好ましく思っていないようだ。

 ただ、そこまで言われるということは、このトリニティ総合学園は外部との交流が多くないのだろうか? 私にはその辺りの事情があまり理解できないので、詳しく聞くのはやめておこう。

 

「……では、改めて。こうして先生を招待したのには、少々お願いしたいことがありまして」

 

“お願い、というのは……?”

 

「おおっ、ナギちゃんいきなりだね! もうちょっとこう、アイスブレイクとか―――」

 

「しーっ……今は黙ってるんじゃなかったの?」

 

「ごめんねお姉ちゃん……。でもティーパーティーって、基本的には社交界なんだし?」

 

「……そうですね。ミカさんの言う通り、少し話の内容を変えましょうか」

 

 そして私は、先程からずっと気になっていることを聞いてみることにした。

 

“あなたたちが、トリニティの生徒会長なんだよね?”

 

「……はい、仰る通り、私たちがトリニティ総合学園の生徒会長()()です。『生徒会長たち』という言葉は耳慣れないかも―――」

 

「まあ、私は『元』が付くんだけどね。……話を戻すけど、トリニティの生徒会長は『パテル』『フィリウス』『サンクトゥス』の三大派閥から1人ずつ選ばれて、それぞれの代表が順番にホストを担当するのよ」

 

「トリニティ総合学園の設立よりも昔、この地域には複数の学園が存在していました」

 

「かなりの数があったから、考え方の違いとか資源の取り合いとかで争いが多かったの。その頃はゲヘナ学園の侵略も今より盛んだったから、余計に混乱していたのかもしれないわ」

 

「各学園の代表は紛争解決のため、特に力を持っていた3つの学園を筆頭にティーパーティーを開きました。この3学園は、今でも三大派閥としてトリニティ総合学園の中枢を担っています」

 

「で、各学園の統合が決まって、今のトリニティが出来たってコト。まあ、中には反対する学園(とこ)も―――」

 

「ああもう勝手に進めないでください!」

 

「「ナギちゃん……?」」「ナギサ様……?」

 

 サナとシエルが勝手に説明を進めてしまったせいか、ナギサはかなり腹を立てているようだ。

 

「今、私が説明をするつもりだったんですよ!? それなのにさっきからずっと! 先に先にと説明を……! どうしても黙れないのでしたら、その小さな口に―――」

 

 

 

「―――ロールケーキをぶち込みますよっ!?」

 

 

 

 ナギサが大きな声でそう叫んだ後、しばらく沈黙が続いた。

 

「……あら、私ったら、何という言葉遣いを……。失礼しました、先生。ミカさんにサナさんも」

 

「いやー、怖い怖い……」

 

「なかなか本題に入りませんね……」

 

 

 

***

 

 

 

「そろそろ本題に入りましょうか。私たちが先生にお願いしたいのは、簡単なことです」

 

「簡単だけど、重要なことだよ」

 

「はい、そうですね。 ―――補習授業部の顧問になっていただけませんか?」

 

 補習授業部とは一体何なのだろうか? 話の内容を詳しく知りたいので、一通り聞いてみることにした。

 

「落第するかもしれない生徒たちを助けてほしいの。形式上は部活動の顧問だけど、立ち位置としては担任教師の方が近いかも?」

 

「トリニティ総合学園は昔からキヴォトスにおいて『文武両道』を掲げる、歴史と伝統が息づく学園です。それなのにあろうことか、成績の振るわない方がなんと5名もいらっしゃいまして……」

 

「私たちとしてはちょっと困ったタイミングで、っていうか……。『エデン条約』の件で今はバタバタしててね」

 

「セイアちゃん……本来のホストの子が入院中なコトもあって、あの子たちの件を解決するにも人手や時間が不足してるのよね……」

 

「その時にちょうど見つけたの! 新聞に載ってたシャーレの活躍っぷりを!」

 

「で、あなたに顧問を依頼したってわけ」

 

 そう言われて見せられた新聞には、アビドス高等学校で起きた一連の騒動について書かれていた。流石に銀行強盗の件は記載されていなかったものの、その場にいなかった第三者としてはかなり詳しい情報が読み取れる。

 

「とにかく! 今はちょっと忙しいこともあって、ぜひ先生にこの子たちを引き受けてほしいの!」

 

「もう少々説明しますと、この補習授業部は常設されているものではなく、特殊な事態に応じて創設し、救済が必要な生徒たちを加入させるものです。少々特殊な形ではありますが、急ぎということもありシャーレの超法規的な権限をお借りしつつ……といった形で、すね」

 

「要するに、成績の振るわない子たちを助けてあげてほしいってコトよ」

 

「いかがでしょう、先生? 助けが必要な生徒たちに、手を差し伸べていただけませんか?」

 

 そう言われれば勿論、私の選択肢は1つしかない。

 

“私にできることであれば、喜んで!”

 

「やった! ありがとー先生!」

 

「ふふっ、きっと断らないでしょうとは思っていましたが……ありがとうございます。では、こちらを」

 

 ナギサから渡されたのは、補習授業部に所属する生徒の名簿だった。その名簿の中に見覚えのある名前と顔を見つけたが、そのことについて言及するのはやめておいた方が良いだろう。

 

「詳しい内容についてはまた追ってご連絡いたします。他に気になる点はございませんか?」

 

 先程の話にも気になるワードが幾つかあったので、今のうちに聞いておいた方が良いだろう。

 

“エデン条約……って何? それに、もう1人の生徒会長のことも……”

 

「話せばそこそこ長くなると思うから、その話はまた後日ってコトで」

 

「それに、補習授業部の件とはそれほど関係のないことですから……。では準備が整い次第、先生にはトリニティ総合学園に派遣という形で来ていただくことにできればと。先生のご協力に感謝します。これで一安心です」

 

「じゃっ、またね先生。また会えるのかどうか分からないけどっ」

 

「そうですね。特に今は忙しい時期ですし、ティーパーティーの生徒会長がこうしてまたすぐに集まれるとも限りませんから」

 

「ふふっ、やっぱり忙しいんだ? ま、でも先生のおかげでナギちゃんの顔も見られたことだし、良かった良かった」

 

「はい。私もですよ、ミカさん」

 

「ふふっ☆」

 

「では、これからよろしくお願いいたしますね、先生。私もティーパーティーのホストとして、先生をエスコートいたしますので」

 

「まあ、私たちが何もしないのもちょっと嫌だから、シエルを教育係として補習授業部に派遣するつもりよ」

 

「もし何か困ったことがあれば、どんなことでもお任せ下さい。可能な限りサポートさせて頂きます」

 

 シエルは私の方を力強く見つめ、小柄な身体に対しやや不釣り合いな胸を張っていた。成程、これはかなり頼りになりそうだ。

 

“ありがとう、シエル。これからよろしくね”

 

 そう言って私はテラスからゆっくりと立ち去った。さて、まずは補習授業部の名簿にあった、見たことのある名前と顔の生徒に会いに行くことにしよう。




Tips:
ティーパーティー。トリニティ総合学園の生徒会。
『パテル』『フィリウス』『サンクトゥス』の三大派閥から構成されており、聖園サナは『調停者(フィクサー)』としてパテル分派に所属している。
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