霞「奴等のデカい顔も癪に障らないか?」   作:文才の無い本の虫

2 / 14
「提督が鎮守府に着任した。現時刻より、艦隊の指揮を開始する」
第一話「始動」


 

 

 

 

 

 

「かの呉鎮守府が汚職とは。世も末だねぇ・・・・・」

 

 

俺は自分で煎れたコーヒーを飲みながら窓の外――彼女が最後に駆けた海――を眺める。

 

何時もの様に笑わない今の自分は無気力と言って差し支えないだろうと自嘲する。

 

そうして外を眺めていると、廊下からカツカツと力強い規則立った足音が聞こえて来る。

 

部屋の扉が、やや乱暴に開かれた。

 

 

「おい、任一郎。東間提督からだ。丁度呉の事についての様だぞ?」

 

 

サイドテールに纏めた灰色の髪に、燃えるような意志の強さを宿した橙色の瞳。

 

扉を開いた張本人である少女、俺の初期艦で秘書艦の(カスミ)が手紙を突き付けてきた。

 

 

「矩郎さんから?」

 

 

俺はその手紙を受け取って丁寧に広げた。

 

 

『“任一郎君へ。勤勉な君の事だ、最近の呉鎮守府の事は聞いているだろう――――中略――――よって、大本営では中国四国地方に穴を空けるわけににはいかないという結論が出た。そこで、私の信頼している()()()()()君に呉鎮守府の提督になって欲しい。勿論、霞君は連れて行って構わないし、支援も約束しよう。無論、拒否してくれても構わない。私は君の意志を尊重しよう。返事を待っているよ。東間 矩郎”』

 

 

「ほう・・・・・どうするつもりだ?任一郎」

 

 

「うーん・・・・・今の(・・)俺にはちょっと荷が重いかもねぇ」

 

 

彼女を失った今の俺に、そんな大役が務まるか?

 

否。

 

無理だ。

 

俺は・・・・・。

 

 

「ふーん・・・・・任一郎。貴様、何時までそうやって引き摺って居るつもりだ?お前らしくも無い。彼奴(アイツ)が誰の為に命を張ったのかを忘れたのか?」

 

 

「・・・・・忘れる訳が無いだろ?」

 

 

今でも思い出す。

 

彼女が消えた(・・・)日の事を。

 

――・・・・・司令官は、泣き虫だね・・・・・・・・・・大丈夫・・・・・きっと、また・・・・・会える、から・・・・・・・・・・それまで、司令官を・・・・・・・・・・頼むよ・・・・・霞・・・・・・・・・・До ・・・・・свидания・・・・・

 

 

「ふむ・・・・・なら、癪に障らないか?」

 

 

霞は、俺の顔を覗き込み、煽るように言う。

 

 

「あの日の原因を作った奴等が、今も私達の上でデカい顔をしている・・・・・なあ、任一郎。もう一度言うぞ?

 

 

――奴等のデカい顔も癪に障らないか?」

 

 

彼女の怒りに燃えた視線が俺を貫く。

 

ああ、癪に障る。

 

癪に障らない訳が無い。

 

霞は、先程の手紙を指差して言った。

 

 

「今のまま、私と(・・)いつともしれぬ彼奴の帰りを待ちながらこの小さな鎮守府で朽ちて行くのも手だが・・・・・そこに、奴等をギャフンと言わせるチケットがあるぞ?」

 

 

と。

 

ああ、完敗だ。

 

不覚にも、火がついてしまった。

 

――司令官の何時でも笑って陽気な振りをする所は美点だ。嫌いじゃない。

 

俺は、笑う(・・)

 

 

「は、ハハハハハ!!確かに、何時までも引き摺っているのは(オレ)のキャラじゃない。それに・・・・・こんなんじゃВерныйに顔向け出来ない。出来る訳が無い」

 

 

俺は執務室の机から立ち上がり、海を――水平線を見た。

 

自然と、彼女と同じ言葉が出る。

 

 

「んじゃ、やりますか」

 

 

――さて、やりますか

 

 

霞は、そんな俺を見て微笑った。

 

 

「ふんっ・・・・・ちょっとはマシな顔になったじゃないか、任一郎」

 

 

俺は執務室の棚から便箋を取り出し、筆を取った。

 

さて、矩郎さんになんと返事を書いたものか。

 

 

「あー・・・・・霞」

 

 

「なんだ?」

 

 

「文章考えるの手伝ってくんない?」

 

 

「・・・・・はぁ。膝を貸せ。さっさと終わらせるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「提督ぅ!!お手紙ですよ!!」

 

 

「ありがとう、瑞鳳。ふむ、柿崎君からだろうか?」

 

 

執務室の扉を開けてやって来た瑞鳳から手紙を受け取る。

 

手紙に目を通すと、懐かしい筆跡と()が考えたと思えない流暢な文章が綴られていた。

 

 

「おや」

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

瑞鳳が私の顔を覗き込んできた。

 

私は可愛らしい彼女の頭を髪を崩さない程度に撫でて言う。

 

 

「私が思ったよりも返事が早くてね。呉の件、受けてくれるそうだ」

 

 

「えっ?!もしかして任一郎君からですか?!」

 

 

「ああ。どうやら霞君が喝を入れてくれたようだ」

 

 

「じゃあ、遂に任一郎君が復帰するんですね?お祝いに卵焼き、焼いちゃおっと!!」

 

 

「ふふふ・・・・・きっと任一郎君も喜ぶだろう」

 

 

私の瑞鳳の卵焼きは絶品だからね。

 

 

「あ、勿論提督の分も作りますよ!!たーっぷり気持ちを込めて作りますねっ!!」

 

 

「・・・・・今日も瑞鳳(私の嫁艦)が可愛い」

 

 

「もうっ何言ってるんですかっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

矩郎さん――東間提督から正式に呉鎮守府の引き継ぎ書類を受領し、着任の当日が来た。

 

 

――――――――――――(シザイツミコミカンリョウ)!!】

 

 

―――(オモイ)!!】

 

 

「さてと・・・・・荷物はコレぐらいかな」

 

 

俺は妖精さん達が資材が入ったコンテナを運んでいるのを横目に、コンテナに()()()()()()()と整備用の工具を入れて蓋を閉める。

 

そのコンテナを、港に留めた(大発動艇)の上に積み重ねる。

 

妖精さんではないが、重い。

 

妖精さんにも手伝ってもらって燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト等の資材や使う機会がなかったから余らせていた高速修理材や高速建造材に開発資材も全部積んだので多分数十(トン)はあるんじゃ無いだろうか。

 

まあ・・・・・コレ、霞に引っ張って貰うんだけども。

 

そして俺は(大発動艇)の上に積み重ねたコンテナの上に座った。

 

 

「任一郎、準備は良いな?」

 

 

「勿論。安全運航で頼むよ」

 

 

「ふんっ。誰にものを言っている?」

 

 

うーん?

 

 

「おニューの艤装にはしゃいで60ノットで駆け回って顔から海面に突っ込んだスミちゃん」

 

 

「いつの話をしているっ?!」

 

 

彼女は顔を赤くして声を荒らげる。

 

暫くして落ち着いたのか、霞は牽引用のロープを自身の艤装に繋ぎ、海上に立って言った。

 

 

「・・・・・こほん。さて、抜錨だ。最速で行くぞ!!」

 

 

瞬間、彼女が海を蹴って進み始める。

 

Верныйの為にも、行ける所まで行こうじゃないか。

 

 

「霞」

 

 

「なんだ?」

 

 

「これからもよろしくね、相棒(・・)

 

 

「何を言っている。お前は私の提督で、私はお前の船だ。だから、失望させてくれるなよ?」

 

 

「ハハハ!!勿論!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









主宮 任一郎
元技術者の現海軍少将。初期艦(初期建造艦)は霞。


駆逐艦「霞」
任一郎の初期艦で現秘書艦。ツンデレ(超重要)。


妖精さん
モチモチした不思議生物。いっぱいいる。





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。