風太郎は学生と家庭教師、そして身体を貸して仮面ライダーという3重の生活を送ることとなる…
※この小説は漫画・テレビアニメ「五等分の花嫁」と特撮番組「仮面ライダーギーツ」の読み切りのクロスオーバー小説となります。
「夢を見ていた。君と出会った高校2年の日…あの日の様な日の夢を…」
1人の青年が、新しい門出を歩もうとしていた。
高校生の時、あの日出会った運命の人と一緒に。
たくさんの人々の祝福に包まれる中、2人は永遠の愛を誓った。皆が口を揃えて言った。
「末長くお幸せに」
「この時をずっと待っていた…ごめんなさい。英寿」
「やっと呼び捨てにしてくれたな。姉さん。覚悟は出来てるよ」
1人の青年が死んだ。
あの日、誰もが幸せになれる世界を創る為に。
永遠の輪廻転生を終わらせて、人々の幸せを見守る存在となった。そして彼は、この世界を生きる人々にこう言った。
「幸せになれよ」
「焼肉定食 焼肉抜きで」
「あいよ」
とある高校にて焼肉定食の焼肉を抜いて、ご飯に味噌汁、お新香をもらう生徒がいた。
「何だあいつ」
「上杉くんまた1人?」
「ヤベェ」
(この学食での最安値はライス(200円)と思いがちだが実は違う。焼肉定食(400円)から焼肉皿(200円)を引くと、同じ値段で味噌汁とお新香が付くのだ!学食最高!水も飲み放題だしな!)
他の生徒の嘲笑を全く気にせずに学食の最安値を語りながらウォーターサーバーの水を飲む短髪に2本の癖毛の持ち主の彼の名は上杉風太郎。勉強が得意なごく普通の高校生だが、家が貧しく、学食は常に焼肉定食の焼肉抜きを頼んでいる。なので周囲からは変な目で見られているのだ。そしていつもの定位置に座ろうとトレイを置こうとしたら、同時にトレイが置かれた。その持ち主は赤髪に星のヘアピン、紺色のセーラー服を着た女子生徒だ。
(誰だ? うちの制服じゃない…ま、いっか)
他の女子生徒はブレザーなのだが、彼女はセーラー服。この学校の生徒ではないのは分かる。それはさておき、椅子に腰掛けようとする風太郎だが、
「あの!」
強気な声のする方を向くと、その女子生徒は風太郎を睨んでいた。
「私の方が先でした。隣の席が空いているので移って下さい」
しかし、毎日この席に座っている風太郎は定位置を譲るわけにはいかなかった。
「ここは毎日俺が座っている席だ。あんたが移れ」
「関係ありません!早い者勝ちです!」
女子生徒も風太郎に負けじと食い下がる。風太郎は面倒事を避けるべく定位置に無言で座ると、女子生徒は向かいの椅子に座った。
(俺の席…)
「おい見ろよ上杉が女子と飯食ってるぜ」
「うわぁ…」
(チッ…あいつら…!)
他の生徒達の冷やかしに若干頬を赤らめつつ女子生徒を見ると…
「…………!」
(顔赤…!無理してんじゃねーよ…)
顔を赤らめてとても恥ずかしそうに震えているではないか。しかし、そんな事よりも風太郎は女子生徒の昼食に目を疑う事となる。
(何…!? 250円のうどん、トッピングに150円の海老天2つに100円のイカ天にかしわ天にさつまいも天、デザートに180円のプリン…合計1030円!昼食に1000円以上とかセレブかよ…!)
昼食に1000円以上かけるとは何て贅沢な。自分は200円の焼肉定食焼肉抜きなのに。いやいや気にしてはいけない。とっとと食べようと考え風太郎はご飯を口に運びつつ単語帳に目を通していた。
「行儀が悪いですよ」
「テストの復習してるんだ。ほっといてくれ」
「食事中に勉強なんて、よほど追い込まれているんですね。何点だったんですか?」
「あっ!」
女子生徒はいたずらっ子の様な目をしながら風太郎のトレイに置いてある答案用紙を取り上げた。さてさてどんな点数なのか。この目で確かめてみようと答案用紙を拝見した。
「えー…上杉風太郎君。点数は…」
「やめろ!」
「ひゃ…100点!?」
「あーめっちゃ恥ずかしい!」
何と100点満点。風太郎はいかにもわざとらしいオーバーリアクションで恥ずかしがった。実は風太郎はテストで毎回100点を取る秀才。なお、このオーバーリアクションは持ちネタでもあるのだ。
「〜〜〜〜!」
いかにもわざとらしいオーバーリアクションを見た女子生徒は頬を膨らませた。
「わざと見せましたね!」
「何のことだか」
「うぅ…悔しいですが、勉強は得意ではないので羨ましいです…」
女子生徒は悔しさと羨ましさが混じった表情を浮かべながらも、手を叩いてある提案をする。
「そうです!せっかく相席になったんです!勉強教えてくださ…」
「ごちそうさま」
「えぇっ!? 食べるの早っ!」
風太郎はいつの間にか完食し、トレイを返しに行こうとしていた。まぁ、ご飯と味噌汁とお新香しか無いので早くて当然と言えば当然だが。そんな中女子生徒は風太郎を引き止める。
「あの!お昼ご飯それっぽっちでいいのですか?私の分少し分けましょうか?」
「気持ちだけで結構。むしろあんたが食い過ぎなんだよ。太るぞ」
「ッ! ふとっ…!」
言ってしまった。女子に言ってはいけない禁句を言ってしまった。人付き合いが少なく口が悪い為に思わず出てしまったデリカシーの無い一言が彼女を傷つけた。
「あなたみたいな無神経で失礼な人は初めてです!もう何もあげません!」
当然ながら彼女の怒りを買ってしまった。
(関わりすぎたかな…ま、いっか。どうせもう話すことのない相手だ。忘れるに限る)
しかし、その後風太郎は失言を漏らした事を後悔し、彼女の事を忘れる事の出来ない相手である事を思い知る事となる。
「もしもし? 」
昼休み、風太郎はトイレの個室で電話をしていた。実は昼にある人物から電話をして欲しいとメールが来ていた。その相手は…
「お兄ちゃん!お父さんから聞いた!?」
突然電話越しに興奮気味で聞こえてきた。その声の持ち主は年下の女の子の声だ。
「ど、どうしたらいは?落ち着いて話してくれ」
「あ、ごめんね。うちの借金なくなるかもしれないよ」
「は?」
驚いた風太郎の鼓膜に響いた興奮気味の声の持ち主は風太郎の妹である上杉らいは。まだ小学6年生なのに上杉家の家事をこなすしっかり者の妹で、風太郎がとても可愛がっているのだ。実は風太郎の家は父子家庭で借金がある。貧しい故に古いアパートに住んでおり、らいはの近くの襖は破れて補修した跡がいくつもある。
「お父さんがいいバイト見つけたんだ。最近引っ越してきたお金持ちのお家なんだけど、娘さんの家庭教師を探してるんだって」
『はぁ…』
『アットホームで楽しい職場!相場の5倍のお給料が貰えるって!』
「……それ裏の仕事とかじゃないだろうな?」
明らかにブラック企業の典型的なキャッチフレーズにしか聞こえないが、追い討ちをかける様にらいはの口から衝撃的な言葉が発せられた。
『人の腎臓って片方無くなっても大丈夫らしいよ』
「俺にやれと!?」
「うそうそ。成績悪くて困ってるって言ってたよ。でもお兄ちゃんなら出来るって信じてる!」
小学6年生が言うとは思えないブラックな発言に戦慄する風太郎。嘘だと分かって安心したのも束の間、何故か引き受ける前提で話が進む。断る様に伝えようとするが…
「ちょっと待て!俺はやるなんて一言も…」
「これでお腹いっぱい食べられるようになるね!」
電話越しに笑顔で話すらいはの言葉に風太郎の腹の虫が鳴いた。愛する妹に言われたならやるしかない。
「それで、その娘ってどんな奴なんだ?」
「高校生だよ。お兄ちゃんの高校に転入するって。名前は…」
午後。風太郎のクラスに1人の転校生がやってきた。クラスの皆がどんな人なのかと期待を膨らませる中、その転入生とは…
「中野五月です。どうぞよろしくお願いします」
「……!」
(あの時の…!)
そう。知っているのだ。食堂で相席になったあの女子生徒だ。まさか自分のクラスに転入してくるとは。彼の中では昼食の時勉強を教えて欲しいと言われたが自分の失言のせいで彼女を怒らせてしまったのが記憶に新しい。
「おいおい女子だぜ」
「可愛い…」
「あの制服、黒薔薇女子じゃない!?」
「てことは超金持ちじゃん!」
周りのクラスメートが驚いたりどよめく中、風太郎はただ1人顔を下へ向けていた。
(転校生で金持ち…という事は俺はあいつの家庭教師をするのか!?)
「どーも…」
先程らいはが言っていた特徴と完全一致。間違いない。彼女が家庭教師の生徒だ。風太郎は何とか笑顔を作り、愛想良くしようと話しかけるが、当然ながら目が合った瞬間無視されてしまった。
(しまった…!)
帰り道、風太郎は食堂で出会った女子生徒がまさか自分が担当する生徒でしかもクラスメートになった事に危機感を抱いていた。しかも彼女は自業自得とは言え明らかに自分に嫌悪感を抱いている。
「ハァ…最悪だ…あの時あんな事を言わなければ…!」
風太郎はうっかり口から失言を滑らせた事を悔やんだ。
『今日のお前の運勢は大凶だな。上杉風太郎』
「!?」
突然、自分の耳に見知らぬ声が聞こえてきた。声色からすると、20代くらいの男性か。謎の声に驚く風太郎だがすぐに落ち着きを取り戻す。
「だ、誰だ…!? 何で俺の名前…!」
『俺か? 神様って言ったら、俺の言葉を信じるか?』
風太郎は何が何だか理解出来なかった。いきなり自分の運勢を大凶と決めつけた声の持ち主は神様だと名乗り出たのだから。
「神様? そんなバカな。仮に神様なら何で俺に話しかける?」
『お前の中にいるんだよ。憑依してるって言えば分かりやすいか?』
「はぁ!? 何で俺に!」
『さぁな。ま、これも何かの縁だ。仲良くやっていこうぜ』
(ついてねぇ………)
ついてない。まるでついてない。家庭教師のアルバイトの話があったと思ったらその生徒とは自分のせいとはいえ嫌悪感を持たれてしまい、更には神様と名乗る変な奴に取り憑かれるという言われた通り、今日の自分の運勢は大凶だ。
『お? 今ついてないって思ったろ?』
「人の心を読むな!」
「焼肉定食、焼肉抜きで」
翌日、あの神様と名乗る謎の声はしなかった。昼にいつもの様に焼肉定食 焼肉抜きを頼み、食堂を見回す。そう。五月を探しているのだ。
「いた!」
見つけた。とにかく良好な関係を築かなければならない。
(あいつに拒否されてしまったら家庭教師の話がなくなってしまう。それだけは避けなければ…)
ご機嫌を取る為に風太郎の脳内では偶然を装って相席になって、典型的な少女漫画の様なベタ中のベタな展開に持ち込んで機嫌を取る作戦だ。しかし、謝るという選択肢がない時点でそう上手く行くとは思えないが風太郎の中では完璧な作戦だった。早速相席しようとするが…
「お待たせしました」
「も〜遅いよ〜」
「友達と食べてる…!」
呆気なく風太郎の思惑は打ち砕かれてしまった。すると、五月と目があってしまい…
「すみません。席は埋まっていますよ」
昨日の仕返しと言わんばかりに愉悦感が混ざった五月のドヤ顔を風太郎は見せつけられるのであった。
(やられた…!)
計画が崩れた風太郎は諦めていつもの定位置に向かおうとすると…
「ちょっと君。行っちゃうの?」
五月の前に座っていたショートヘアに耳にピアスを開けて腰に黄色のカーディガンを巻いた女子に呼び止められた。
「え? まぁ…」
「席探してるんでしょ? 私達と食べない?」
「食えるか!」
席は埋まってるとついさっき五月にドヤ顔で言われていつもの定位置に戻ろうとしても彼女は風太郎に絡む。
「何で何で? 美少女達に囲まれてご飯食べたくないの?」
「………」
(相手にするな…無言を貫け…!)
「彼女いないのに?」
「う、うるさい!」
まるでからかうように自分に絡んでくる少女に苛立ちながらもさっさといつもの席に向かおうとする風太郎だが、彼女は先回りして立ち塞がった。しかもわざとなのか豊満な胸を見せながら。
「五月ちゃんが狙いなんでしょ? ん?」
「な、何言ってんだ…!狙ってる訳じゃ…」
「おお〜!その反応、本当に五月ちゃんなんだ!」
たじろぐ風太郎に女子は風太郎をからかうように嬉しそうな反応を見せた。
(人を見透かした様な事を…!)
何なんだこの人を見透かした様な眼をした奴はと苛立ちを抑える風太郎に彼女はリポーターの様に迫ってくる。
「ズバリ、決め手は何だったんですか? 真面目なとこ?好きそうだもんね〜あ、そうだ。私が読んできてあげるよ」
「待て」
女子が五月を呼ぼうとするが、風太郎が彼女の手首を掴んだ。
「…!」
「余計なお世話だ。自分の事は自分で解決する」
ここで彼女を通じて五月に自分の事が知られるのは分が悪い。真剣な風太郎の表情を見た彼女はニコリと笑うと…
「ガリ勉君のくせに男らしいこと言うじゃん!」
「いて!」
風太郎の腰を強めに叩いた。
「困ったらこの一花お姉さんに相談するんだぞ♪ 何か面白そうだし」
一花お姉さんと名乗る女子はそのまま五月が座っているテーブルへと戻っていった。風太郎も叩かれた腰をさすりながらいつもの席に座った。顔を俯かせ、どうするか悩む。
(さて、どうしたものか…五月…昨日の事を完全に根に持ってやがる…自業自得だが…)
「上杉さん」
(顔合わせは今日の放課後!時間がない!)
「上杉さーん」
「うーえすーぎさーん」
今気づいたが誰かが自分を呼んでいる。全く誰だ。こっちは真剣に考え事をしているというのに。少しイラッとしながらも顔を上げると…
「あっはは♪ やっとこっち見た♪」
目の前にボブカットにオレンジ色の髪色で悪目立ちしている緑のリボンを付けた女子が嬉しそうに頬杖をつきながら座っているではないか。
「うわわわわ!誰だお前!? いつの間に!?」
ほぼゼロ距離で見つめてたものだから風太郎は思わず驚くが、彼女の顔を見てハッとした。
(あの悪目立ちするリボン…! 五月の隣に座っていたアイツだ…!というか…)
「何で俺の名前知ってんだ?」
「ふっふっふ!よくぞ聞いてくれました!」
すると、女子は2枚の紙を取り出して風太郎に見せた。
「あなたが落としたのはこの100点のテストですか? それともこの0点のテストですか?」
(いつの間に…!何がしたいんだコイツ…)
その100点のテストは自分の物だ。実は風太郎が定位置に向かう時に落としていたのを目撃していたのだ。いきなりきこりの泉みたいな事をして何が目的かは分からないが、とりあえず付き合う事に。
「……右」
「あなたは正直者ですね!両方セットで差し上げます!」
「いらねぇよ!てか誰のだ!」
何故赤の他人の0点の答案を渡そうとするのか。そもそも誰のだ。名前の所を見ると、苗字は彼女の指で見えないが、ひらがなで「よつば」と書かれていた。
「私、四葉の物です!」
「何で自分の0点の答案を渡そうとするんだ!恥ずかしくないのか!?」
風太郎は理解出来なかった。コイツは何故自分の0点の答案を見せて恥ずかしがらないのか。そもそも何が目的なのかも全く分からなかった。
「上杉さんの第一印象は「根暗」「友達いなさそう」でしたが、新たに「天才」を加えておきますね」
四葉は風太郎が昼食を終わらせても、階段を歩いても、トイレに行っても、そして更衣室で着替えても付いてきた。更衣室の外でじーっと不服そうな表情で見ている。
「いつまで付いてくるんだ!? 」
「……まだお礼を言われてません」
「はぁ?」
「落とし物を拾ってもらったら「ありがとう」天才なのにそんな事も知らないんですか?」
付き纏われてうんざりしていた風太郎だが、突然四葉にある物を渡した。そう。あの0点の答案だ。
「たまたま拾った。これで貸し借り無しだ」
「………そっか!ありがとうございます!」
「お礼言っちゃったよ」
風太郎は確信した。コイツはバカだと。やたらといい笑顔でお礼を言ったコイツはバカだと。
帰り道…
「結局声はかけられなかった…しかし参ったな…」
あの後風太郎は五月に声をかけることが出来なかった。それに…
『そうだ…お前、中野五月と仲良いんだろ? 俺が謝っていたってあいつに伝えてくれないか?』
『? よく分かりませんが、ダメですよ。そういうのは五月本人に直接言わないと!』
あの後に四葉に五月に自分が謝っていたと伝えて欲しいと頼んだが、断られてしまった。このままでは家庭教師の仕事は無くなってしまう。何としてでも避けないと。
「どうすれば…ん?」
風太郎がコンビニの近くを通りかかると、肉まんを持った五月が2人の女子と談笑しているではないか。見つけた。しかし、1人ではない。五月が1人になるタイミングを見て接触しなければ。風太郎は近くにあった大仏の顔出しパネルに顔をはめて様子を見る事に。
(帰り道なら1人になると思ったが…)
今はここで五月が1人になるのを待つしかない。
「五月、食い過ぎじゃない?」
「そうですか? まだ2個目ですよ」
(2個でも十分食ってるだろ…)
五月達の会話を聞きつつ謝るタイミングを見計らうが、全然ない。五月は美味しそうに肉まんを頬張っている。すると、紫のカーディガンを着た女子が五月の背後に回り込み…
「この肉まんおばけ〜!」
「うわわわわ?! やめて下さい!」
お腹周りをプニプニと揉んだではないか。当然ながら五月は顔を赤らめて慌てるが、その女子は笑いながらなおも五月のお腹周りを揉む。
「男にモテねーぞー!」
「余計なお世話です!」
そんなやり取りを見つめていた風太郎だが、1人いない事に気がつく。どこへ行ったのかと思ったら…
「あ」
いた。目の前に。セミロングヘアーに眠たそうな眼をして青いカーディガンを来て首にヘッドホンをかけてストッキングを履いている。しかも自分をじーっと見つめているではないか。
(こいつ…食堂で…五月の隣に座っていたあいつだ…!)
食堂で彼女が五月の隣に座っていたのは覚えている。何故ここに? まさか尾行してるのがバレたのか?心の中で焦る風太郎。
「1人で楽しい?」
「……割と。こういうのが趣味なんだ」
「ふぅん。女子高生を眺める趣味…予備軍」
「違うそうじゃない」
咄嗟に誤魔化す風太郎だが、彼女はスマホを取り出してどこかに連絡しようする。間違いない。警察だ。ここで通報されて補導されたら家庭教師の話はおろか卒業が危うくなってしまう。
「通報するのやめて…あと友達の五月ちゃんにも言うなよ?」
「……わかった」
思いの外素直に頼みを聞いてくれた事に安心した。
「でも………あの子は友達じゃない」
(えぇ……)
友達ではない? どう言う事なのか? ますます分からない。風太郎は五月達3人から距離を取って後を付ける事に。
「仲はいい様に見えるんだけどなぁ…」
一体どういう関係なのかと考えながら歩いていたその時…
「おめでとうございます!厳正なる審査の結果、あなたは選ばれました!」
「!?」
突然、背後から女性の声が聞こえた。振り返ると、腰まで伸びる長い黒髪に白と黒のドレスとブーツを履いて女性が立っているではないか。手には小包位の大きさの黒と黄色にビックリマークが描かれた箱を持っている。
「誰…?」
「今日からあなたは仮面ライダーです!」
女性は半ば強引にその箱を風太郎に渡した。うちは通販で物を買う事なんてない。きっといたずらで渡したと考えた。それに何やら変な事を言っていた。怪しすぎる。
「あの、押し売りならおこと…あれ…?」
返品しようと謎の女性に話しかけようとしたが、その女性は消えていた。影も形もない。一瞬恐怖を覚えた風太郎はその箱を開けてみることに。
「何だこれ…」
中に入っていたのは、左右に中央に何かを入れるスロットと黒いスイッチが付いた物と、白に赤で狐の顔の様なマークが描かれたペットボトルのキャップ位の大きさの物体だった。すると…
「キャアアアアアァァァ!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「!?」
突然、背後から人の悲鳴が風太郎の鼓膜に鳴り響いた。一体何事かと振り返ると…
「ロエゼラビビテウ!」
「ツームビビアビ!」
風太郎が目の当たりにしたのは、白い骸骨の様な大きい頭に黒い身体に紋様をつけた怪物達が剣を持って意味不明な言葉を話しながら嬉々と通行人を次々に襲っている風景だった。呆然とする風太郎を前に怪物達は通行人を殴り飛ばしたり斬りつけたりとやりたい放題。しかも30体以上はいる。しかも…
「レレスダヅ!」
5体の怪物達が風太郎を見つけた。間違いない。自分を狙っている。
「ヤバい…!」
「ロエゼラビビテウ!」
風太郎はその場から逃げ出した。家庭教師どころじゃない。命が危ない。とにかく逃げるしかない。変な女の人から貰った物を持ちながらとにかく走る。怪物達も風太郎を追いかける。だが、日頃運動していないせいですぐに息が切れそうになる。風太郎は入り組んだ路地裏へと逃げ込む。間一髪、まいたようだ。息を切らし、壁にもたれかかった。
「ハァ…ハァ…何なんだよあの化け物は…!?」
『ジャマトだ』
「ジャマト…!?」
『奴らは人類の脅威となる存在だ。だから倒さなければならない。あのジャマトはポーンジャマトだな』
「ポーン? チェスのポーンか?」
またあの声だ。自分に憑依している神様と名乗ってる変な奴だ。しかし、何故あの化け物の事を知っているのか気になる。倒すって言われてもどうやって倒すんだと言いたいが。
「倒す? どうやって…ん!?」
風太郎は路地裏から覗き混んでジャマト達がいないか確認すると…
「ジャ〜…!」
「何なのよコイツら…!」
「あぁ…」
「だ、大丈夫です…!私がついていますから…!」
何と五月と2人の女子達がポーンジャマト達に出くわしているではないか。しかも槍や剣を手にジリジリと五月達に近づいている。
「五月! このままじゃ…!……もしかして…これらと何か関係あるんじゃ…!」
『風太郎。それを使えば奴等を倒せるって言ったら、俺の言葉を信じるか?』
謎の声は風太郎に問いかけた。最初に初めて声を聞いて、神様と言われた時は胡散臭くて信じられなかった。でも、今の状況で信じないと言っても何も解決はしないだろう。だったら…答えは1つだ。
「あぁ…信じてやるよ…どうするんだ?」
信じる。この状況を打破して五月達を助ける為に。
『お前の身体、少し借りるぞ』
「借りるって…」
『デザイアドライバーを体に当てて、IDコアを真ん中のソケットに入れろ』
「デザイアドライバー…これか!」
風太郎は言われるままに箱からデザイアドライバーとIDコアを取り出し、デザイアドライバーを体に当てた。
「うおっ!」
【DESIRE DRIVER】
「すげぇ…で、これをここに…」
すると、勢いよくベルトの帯が出現し、風太郎の腰に装着され、無機質なシステムボイスが流れた。そして、IDコアを中央のソケットに装填。
【ENTRY】
IDコアを装填したその時、風太郎の身体を青いエネルギーが走った。開いた瞳は青く染まり、風太郎は笑みを浮かべた。
「風太郎。ここからは俺に任せろ」
『ん…? えぇ!? 入れ変わってる!? ていうか、あんた名前は…』
「そういえばまだ言ってなかったな。俺は浮世英寿。よろしくな」
いや、風太郎ではない。今まで風太郎に憑依して話しかけていた彼…浮世英寿が、身体の主導権を持ち、逆に風太郎が英寿に話す様になっていた。すると、どういう訳か地面の隅に風太郎が貰った箱とは色がピンク色かつハテナが描かれた箱がある。英寿がその箱を開けると、リボルバー拳銃を正面から見た様な大きいバックルの様な物が入っていた。
「お、マグナムバックル。幸先がいいな」
笑みを浮かべた英寿は手に入れたマグナムバックルを慣れた手つきでデザイアドライバーにセットした。久しぶりにひと暴れしてやろう。
【SET】
空中に文字が投影され、英寿は右手で大きく円を描いて手で狐のサインを作る。顔の前まで持ってきた後に前に突き出し、フィンガースナップを鳴らし、あの言葉を言う。
「変身!」
そしてマグナムバックルのアプルーバルリボルバーを回転させ、アタックトリガーを押した。マグナムバックルから放たれた6発の弾丸は戻ってきて投影された文字を撃ち抜き、粉々になるが、そのまま白い装甲が形成された。
【MAGNUM】
同時に英寿の身体が艶消しの黒いボディに変わり、頭部に狐を模した白いマスクが装着。背後に生成されたアームが装甲を引き寄せ、ボディに装着された。白い狐のマスクに白に差し色の朱色の装甲。腕に装着されたアーマーガン、狐の尻尾を模したマフラー。右手には拡張武装のマグナムシューター40X。朱色の複眼を光らせ風太郎の身体を借りた英寿は、風太郎以外その変身を見届けられる事なく仮面ライダーギーツ マグナムフォームに変身した。
【READY FIGHT】
『変わった…!』
風太郎は当然驚きを隠せなかった。英寿の言葉の通りこれならジャマトを倒せるだろう。そして風太郎は、ここから仮面ライダーの戦いがどんな物かを見る事となる。
「この! 近づくな!」
「二乃…!」
「2人には指一本触れさせません……!」
三玖と五月、そして二乃はポーンジャマト達に取り囲まれ、壁に追い詰められていた。三玖は恐怖で足が竦んで動けず、二乃は涙目になりながら落ちていた石やノート等をひたすら投げつけるが、効果はない。五月も身構えているが、手も足も震えている。そして、逃げ場を失った3人に一斉にポーンジャマト達が槍と剣を持って迫る。
「ピアーブ!」
ポーンジャマト達が一斉に槍を五月達に振り下ろし、五月達は死を覚悟して目を閉じた。その時…
「ジャァァ!」
突然、3体のポーンジャマトの頭部に銃弾が命中し、撃たれたポーズジャマトはそのまま倒れた。
「ッ!」
「チャテウチャ!?」
ポーンジャマト達が振り返ると、そこにはマグナムシューター40Xを構えたギーツが立っていた。ポーンジャマト達も二乃達も突然現れた謎の戦士達に驚いている。
「あれは…!」
「誰…?」
「狐…ですか?」
「女の子相手に多勢で囲むなんて、おいたが過ぎるぜ? きついお仕置きが必要だな」
ギーツはマグナムシューター40Xで更に3体銃撃してポーンジャマト達を倒す。仲間がやられた事に怒ったのか二乃達を殺そうとしたポーンジャマト達は一斉に斬りかかってくるが、ギーツは臆する事無く、慣れた様に攻撃を交わしながら銃撃で撃ち抜き、壁を蹴ってから更に飛び上がってポーンジャマトを仕留める。まるでパルクールを思わせる華麗な動きでポーンジャマト達を次々と撃破していく。
【BULLET CHARGE】
マグナムシューター40Xのバレットチャージャーを引き、人差し指でクルクルと回転させて広範囲に銃撃。そのままその場にいたポーンジャマト達を全て倒してしまった。
『すげぇ…!』
風太郎も二乃達もギーツの鮮やかな戦いに目を奪われ、周辺のポーンジャマト達は全滅。しかし、20体以上のポーンジャマト達がギーツを取り囲む。しかし、そんな事でギーツは怯みはしない。幾多の戦いを勝ち抜いてきたあの決め台詞を放つ。
「さぁ、ここからがハイライトだ」
ポーンジャマト達は洒落臭いと言わんばかりに槍を振り翳して突っ込んできた。ギーツも走り出し、ポーンジャマト達の槍を足で蹴り上げ、回し蹴りを叩き込む。後ろから不意打ちを仕掛けようとしても予想通りと言わんばかりに交わして同士討ちにさせたり。歩道橋から銃撃を受けても止まる事無く颯爽と駆け抜ける。そこからマグナムシューター40Xの銃身を半回転させた。
【RIFLE】
ライフルモードなったマグナムシューター40Xで下から狙撃撃ち出されたエネルギー弾はポーンジャマトの頭部を貫通して見事ヘッドショット。
「ゼラポスキョ!」
焦るポーンジャマト達は逃げ出そうとするがギーツはそれを許しはしない。4体共一瞬と言える速さで仕留めてしまった。だが、まだポーンジャマト達が5体いる。ギーツはマグナムシューター40Xを鉄柵の上部にかけると、今度はアーマードガンで銃撃しつつ格闘戦で圧倒し始めた。4体がギーツの正面から離れ、1体がいきなり正面から槍を持って斬りかかってきた。
「デオズカカ!」
「おっと」
するとギーツはポーンジャマトから槍を奪い取り、そのままかけてあったマグナムシューター40Xのトリガーを槍の切先で押した。
「ジャァァァ!」
逆にカウンターを仕掛けられたポーンジャマトは頭を撃ち抜かれて倒れ、残るは6体となっていた。
「さぁ、盛大に打ち上げだ」
【HANDGAN】
マグナムシューター40Xをハンドガンモードに戻し、マグナムバックルのアプルーバルリボルバーを回転させてアタックトリガーを押した。
「ハァァァァ…!」
ギーツがマグナムシューター40Xを構え、エネルギーが蓄積されていく。何が起こるのか予想がついたポーンジャマト達は一斉に逃げ出すが、もう手遅れだった。
「ハッ!」
【MAGNUM STRIKE】
マグナムシューター40Xから放たれた弾丸が6発に分裂して逃げるポーンジャマト達に命中。
「「「ジャァァァァァ!」」」
銃弾を受けたポーンジャマト達はそのまま断末魔と共に爆発四散したのだった。
【MISSON CLEAR】
『ミッション…クリア…? あいつらを全部倒したのか?』
ポーンジャマト達を全て倒しただけなのにミッションクリアのアナウンスが流れた。ギーツは何か腑に落ちない様子だ。
「あぁ。だが妙だな。あいつらを倒しただけで終わりとは思えない。ま、あの子達が無事で良かった」
何かが気になるギーツは助かって抱き合う二乃達を見て、安心した様子でその場を後にした。
「怖かった…..!怖かった…!」
「生きてる…!」
「2人とも無事で良かったです…!助けてくれてありが…あれ?」
五月がギーツにお礼を言おうとしたが、既に姿はどこにもいなかった。今度会った時は絶対にお礼を言わなければと決意をした五月。すると、スマホに着信が入る。相手は一花だ。
「あ、もしもし? 一花ですか?」
『五月ちゃん!大丈夫!? 二乃と三玖も怪物が現れた場所にいるってさっきニュースで見たんだけど大丈夫!?』
『五月!二乃と三玖も無事だよね!?』
かなり焦った様子で一花が話してきた。そして四葉も。実は一花は四葉と共にいた時に偶然ネットのニュースでジャマトが出現した事を知り、その付近に二乃達がいた事を思い出して電話をしてきたのだ。焦る2人に五月は口を開いた。
「もう大丈夫です。親切な狐さんが助けてくれたので」
その後、英寿は風太郎に身体の主導権を返して自分の来歴を語った。自分がこの世界の人間では無く輪廻転生を繰り返す存在だった事。ジャマトと戦い、理想の世界を叶えられるデスゲーム、デザイアグランプリに参加して母を探す為に理想の世界を叶えていた事。そのデザイアグランプリは未来人によって作られたリアリティショーであった事。ジャマトは進化と学習を繰り返す存在であり全ての元凶・スエルによって自分の母が世界を作り変える創世の女神にされ、人々の幸福と不幸を弄ばれて多くの人達が犠牲になった事。そして、誰もが幸せになれる世界を創造する為に仲間達と共に戦い、自分は人々の幸せを見守る本当の神様になった事。
「じゃああんたは、母さんを探す為にデザイアグランプリってのに参加して、母さんを世界を作り変える創世の女神に変えたスエルって奴を倒す為にわざと殺されて神様になったって事か?」
『あぁ。幸せの裁量が無い世界を創造する為に俺は神様になった。二度とスエルの様な奴に人々の幸福と不幸を弄ばせない為に』
「スケールがデカいな…」
風太郎は最初のうちは話のスケールが大きくて話が信じられなかったが英寿の話は説得力が会った。聞いている内に段々と英寿の経験と戦いの話は風太郎を心を締め付けていった。
「英寿はどうして俺に憑依している?」
『分からない。だが、誰かが俺を呼んだ気がしたんだ』
「誰か?」
『誰かの強い願いが俺が持っている創世の力と共鳴したのかもしれないな」
英寿は創世の神が誰かの願いと共鳴した時に英寿は自分がこの世界に呼ばれたと考えている。
『風太郎。戦いは終わりじゃ無い。この世界でもデザグラが開催されている可能性は高い。未来からまた刺客が送り込まれて大勢の人達が巻き込まれるのは考えられる。』
「じゃあどうすればいいんだ? あいつらと戦う時にまた身体を貸せばいいのか?」
『デザグラに関しては俺に任せろ。お前が参加している様に見せる。お前は自分のやるべき事に集中してくれ。神様の我儘になってしまうが、よろしく頼む』
(俺も神様になったとはいえ、デザグラとは切っても切れない関係になってるな…風太郎…巻き込んでしまってすまない…今の俺は相当力が抜けている…創世の力が使えない今はお前の身体を借りて戦うしか無い…)
英寿は自分が憑依している風太郎やこの世界の人達を巻き込んでしまう事に危機を抱いていた。一度世界を救ったのはいいが、また別の世界でデザグラが開かれて多くの人々の幸福と不幸が未来人達によって弄ばれてしまう。もう二度と、誰も犠牲にはさせない。誰も不幸にはさせない。この世界がまた未来人達の玩具にされるなら、絶対に奴らを倒す。今の自分は創世の力は使えない。別の世界にきた反動なのかは分からない。デザイアドライバーを通して風太郎の身体を借りて戦う事になる。それにまだ気になることがある。
『風太郎。デザイアカードは渡されたか?』
「あの、自分の理想の世界や願いを書くカードの事か? 渡されなかったが…」
『渡されなかった? 妙だな…』
そもそもデザイアカードが渡されていない事も気になる。本来ならナビゲーターにドライバーとIDコアと共に渡される筈だが、それが渡されない。明らかにおかしい。
(それにあの時ジャマーエリアも展開していない。ジャマトも少なかった…)
戦っている時に気づいたが本来ならミッションで展開されるジャマーエリアも無かった。現れたジャマトもポーンジャマトのみ。まるで、試されているかの様な感じだった。
(いずれにせよ、今までのデザグラとは違うのは分かっている。デザイア宮殿にも転送はされていない。何処かにゲームマスターがいるはずだ。探し出して接触すれば何かが分かる…)
(まぁ、英寿が言うんだ。俺は家庭教師と学業に専念すれば良い。そういや、英寿の戦い方、カッコよかったな)
『お?今俺の戦い方がカッコいいと思ったろ?』
「だから人の心を読むなよ!」
「もう夕方だ…」
風太郎は歩き続けて気がつけばもう夕方だ。
「住所だとこの辺だよな…えっと…」
住所を照らし合わせて辿り着いた場所は、目の前には立派な30階建ての高級マンションが立っているではないか。ここだ。
(ここかよ…!マジもんの金持ちじゃねーか…!)
高層マンションの高さに圧倒される風太郎だが、落ち着きを取り戻して入ろうとしたその時…
「ッ!?」
いきなり何かを蹴る音が聞こえた。正面を見ると…
「何君。ストーカー? 用があるならアタシ達が聞くけど?」
二乃が車両進入禁止の看板を足蹴にしながら腕を組んで立っていた。すぐそばに三玖もいる。
「お前まさか…」
「五月には言ってない」
五月には言ってないとは言っているが、二乃には言ったというだろう。ダメだ。相手にしてはいけない。用があるのは五月だ。
「お前達じゃ話にならん。どいてくれ」
「しつこい。君、モテないっしょ? 早く帰れよ」
二乃は先ほどジャマトなら襲われていた時の涙目の表情はどこへ行ったのやら、風太郎を侮蔑と偏見の籠った目で横から睨みつけた。
「初対面の奴にモテるモテないの有無を言われる筋合いはない。それに俺はここに用事にあってきたんだ」
「本当に?」
用があるのは本当だ。少なくともストーカーではない。すると、三玖が口を開いた。
「…焼肉定食 焼肉抜き。ダイエット中?」
(き、聞かれてた! まずい!)
分が悪いと判断した風太郎は一目散にエントランスへと走り出した。
「あ! 逃げた!」
(くそ…!こんなはずじゃ…!)
エレベーターに乗り込む住人の中に五月がいた。ここが声をかける最後のラストチャンスだ。ここで謝罪出来なければ家庭教師の話は白紙だ。
(頼む!間に合ってくれ!)
しかし、後一歩の所でエレベーターのドアは閉まってしまい、30階へ上がって行った…
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」
仕方がないので階段を駆け上がる。息を切らし、とにかく登る。登る。登る。30階を目指して登る。
(ついてねぇ…!とことんついてねぇ!赤の他人の顔色を窺って居心地が悪くなったり…!神様と名乗る変な奴に憑依されてジャマトとかいう訳のわからん化け物と戦う羽目になったり…!学校帰りにこんな所で汗だくになって走ったり…! )
とにかく風太郎は階段を駆け上がる。力の限り駆け上がる。そして今日会った一花達が脳裏をよぎる。
(人を見透かした様な眼のアイツに絡まれたり…!悪目立ちするリボンを付けたしつこい単純バカのアイツに付き纏われたり…!何を考えているのか理解不能のアイツに警戒されて通報されかけたり…!そして正義ズラしたアイツに言われる筋合いのない因縁をつけられるなんて…!)
「待て!」
(俺の運勢…!)
(本当に大凶だ…!)
つくづく自分の運勢が大凶である事を身をもって知った。そして最上階。見つけた。汗だくになりながらも風太郎は近くにいた五月を見つけた。
「またあなたですか? 私に何かご用ですか?」
「…き、昨日は……その…」
「え?なんて? というか何故あなたがここに?」
なかなか言い出せない。息を切らして声が枯れているのも原因だが言い出せない。
「昨日は…わ…悪…」
「待て待て!」
「何が言いたいんですかあなたは!今日は家庭教師の先生が来てくださるんです。言いたい事があるならハッキリ言って下さい!」
「それ俺!」
風太郎は言った。だが、五月は聞き取れ無かった。
「…はい?」
「家庭教師、俺!」
「ガーン!」と擬音が聞こえる程のショックな表情を五月は浮かべた。よほど風太郎に嫌悪感を抱いていたのだろうか。
「だ、断固拒否します!」
「俺だって嫌だよ!ていうか俺の方が嫌だね!でも、ここで諦める訳にはいかないを昨日の事は全面的に俺が悪かった!すまない!」
風太郎は五月に謝罪の言葉を出すと同時に突然壁に手を付き…いわゆる壁ドンしながらこう言った。
「今日から俺が、お前のパートナーだ!」
大抵の女性はこのシチュエーションにキュンとするだろう。だが五月は違った。この世の終わりとも言える絶望に満ちた表情で膝から崩れ落ちた。
「そんな…!無理…!こんな人が…私達の家庭教師だなんて…!」
「!?」
「私達…?」
ちょっと待て。どういう事だ?生徒は五月の他にいたのか?と思考する風太郎。その時、エレベーターが到着。中から談笑しながら降りて来たのは…
「でね!その狐の戦士が超カッコ良かったの!」
何と一花、二乃、三玖、そして四葉ではないか。振り返ると、4人も疑問か驚きの表情を浮かべていた。
(コイツらは……!?)
「あれ?ガリ勉君!五月ちゃんと何してるの?」
人を見透かした様に自分に絡んできた一花。別にただ話していただけだ。
「コイツよ!コイツがそのストーカーよ!」
さっき自分をストーカー呼ばわりして因縁を付けてきた二乃。ストーカーではない。
「ええっ? 上杉さんストーカーだったんですか!?」
悪目立ちするリボンをつけて自分に付き纏ってきた単純バカである四葉。だからストーカーでは無い。
「二乃、早とちりしすぎ」
何を考えてるか分からない表情で自分を通報しようとした三玖。絶対言っただろ。
「何で……コイツらがここに……!?」
驚愕する風太郎に五月は呆れたかの様にため息を吐く。
「何でって…ここに住んでいるからに決まってるじゃないですか」
よく見ると、玄関のドアの表札には「NAKANO」と金色の文字で彫られている。
「へ、へぇ…同級生5人でシェアハウスか…仲が良いんだな…」
この時、急激な負荷をかけられた風太郎の脳は限界を超えた速度で高速回転させて一つの答えを導き出した。夢だ。これは夢に違いない。だが、現実がそれを悉く打ち砕いた。
「違います。私達…」
「五つ子の姉妹です」
「上杉君にドライバーとIDコアは渡してくれたかい?」
とある病院の一室で、白衣にネクタイを締めた男性が誰かにスマホで話している。恐らく風太郎にデザイアドライバーとIDコアを渡した女性だろうか。
「そうか。では僕も、そろそろ動くとするよ」
男性は通話を終えてスマホをしまうとデスクの引き出しを開けてある物を取り出した。
「さぁ、始めるとしよう。理想の世界を賭けた仮面ライダー達の神話を」
男性が手にしたのは、デザイアドライバーとはまた違う細い液晶が付き、片側に赤い短い帯とレイズバックルを装填するであろうスロットが装備された黒と銀色のドライバーだった。
家庭教師の生徒は五つ子の姉妹? 夢だ。夢であると言い聞かせる。とんでもない悪夢だと思いたい。ところがどっこい。現実だ。これは現実だ。
『へぇ〜。五つ子かぁ。これから楽しくなりそうだな。風太郎』
からかい気味に言う英寿の声に風太郎はどう反応していいのか分からない表情を浮かべるしかなかった。こうして、学生と五つ子の姉妹の家庭教師、そして神である浮世英寿に憑依されて仮面ライダーギーツになった上杉風太郎の二足の草鞋…いや、三足の草鞋を履く生活が幕を開けたのだった。
いかがだったでしょうか?五等分の花嫁と仮面ライダーギーツのクロスオーバーは無かったので書いてみたんですが、思いのほか長くなってしまいました。最初に言った通りですが、読み切りなので続きません。話の展開が思いつかなかったり、執筆する時間が取れないのでこれからの物語は皆様のご想像にお任せします。
今回はここまでです。感想お待ちしています。