ジャーニーが珍しく勘違いをするお話です。
『──というわけでお願いしていいか?兄さん』
「おう、まあ自信はないけど任せとけ!」
『ありがとう!詳しいことは後で連絡するよ!じゃ』
電話が切れる。電話の相手はトレーナーの弟である。久しぶりに連絡が来たかと思えば、なんと結婚することになったと報告をした。流石だなあとトレーナーが感心していたら、なんと彼に「結婚式の事前準備を手伝ってほしい」と頼んできた。
「さて……引き受けたはいいものの……」
(どうしたらいいものか。俺は結婚もしてないし彼女もできたことがないからな……とりあえず『ゼク◯ィ』みたいな結婚雑誌を参考にしてみよう。近くの本屋から買ってくるか)
──
海外遠征支援委員会の教室にて。この部屋の主であるドリームジャーニーは、ソファに腰掛けながら本を詠んでいる。
「やあ、ジャーニー。ここにお邪魔しててもいいかい?」
トレーナーが入ってくる。左手には大手結婚雑誌が握られている。
「ええ、問題ありませ……んよ」
ジャーニーはそれを一瞥して、一瞬反応が遅くなる。
「じゃあ、失礼して」
ジャーニーが座っているソファの反対側に腰を下ろすトレーナー。ジャーニーが凝視していることには気づいていない。
「……おめでとうございます」
ギリギリトレーナーに聞こえるくらいの声量で、1ミリも本心ではない言葉を告げる。
「え?ああ、ありがとう」
(あれ?ジャーニーに弟が結婚するなんていつ言ったっけ?まあ彼女なら把握してるか)
トレーナーはクソボケであった。
「……」
「……」
しばらく無言の状況が続く。
「ちなみに、トレーナーさんは、(お相手さんと)いつ挙式するのですか?」
「え?ああ……まだ未定かな(弟から連絡はきてないし)」
「そうでしたか、もしよければいつもお世話になっていますので、出席してもいいでしょうか?」
「ええ?うーん(弟の挙式にジャーニーが?……まあ「そういうの」が気になる年頃なのかしれないし)いいよ」
「ありがとうございます」
「……」
「……」
また会話は途切れる。
しかし、その静寂の中で、トレーナーのスマホが振動音を発する。
『兄さん、結婚式の予定だけど、来月の5日で良い?』
「来月の5日!?」
その日はジャーニーの重要なレースがある。
「……もしかして結婚式の日程が決まったのですか?」
「あ、ああ」
『さすがに無理だよ!!別の日程にできない?』
焦るようにフリック入力をして反論する。
『え?流石に厳しいかも』
ここでトレーナーは重大な選択を迫られる。
ジャーニーのレースをとるか、弟の結婚式をとるか
「大丈夫ですか?」
「え?ああ……」
「……私のことは大丈夫ですから、行ってあげてください」
ジャーニーは少し悲しげな表情をしている。
「いや……でも」
「愛しているのでしょう?ならば【彼女さん】の所に行くべきですよ」
「ん?」
トレーナーは目を丸くする。
「改めて言わせてもらいますね……結婚おめでとうございます、トレーナーさん」
対象的にジャーニーはしみじみとした口調で喋る。
「??」
「貴方と旅を共にできたこと、光栄に思っています……ありがとうございました」
トレーナーと目を合わせないように、俯く。
「ちょっとまって」
「?」
「俺は別に結婚しないよ?」
「はは、冗談がお上手ですね」
「いや、結婚するのは弟の方だから」
「……すいません、状況が飲み込めないのですが……?」
ここで、何かがおかしいことに気づいたのか、ジャーニーは首をかしげる。
「えっと、俺の弟が結婚するらしくて、俺はその手伝いをさせられることになって」
「なるほど……ではなぜその雑誌を?」
「あ、えっと……恥ずかしい話だけど、彼女とかいたことがなくて……結婚とかに詳しくないから何をしたらいいのかとりあえず雑誌で調べるってことにしてただけで……」
「なるほど……どうやら私が勝手に勘違いをしていただけですね」
ジャーニーは人差し指でメガネの位置を整える。
「……」
「さて先程、聞き捨てならない言葉がありましたね」
「?」
「【彼女がいたことがない】という言葉です。女性関係について経験が無いのは確かにしょうがないことではあります。特に試験のためにすべてをなげうつトレーナー志望の方などにはよくあることです。……しかし、その経験があるとないとでは天地の差が生まれてしまいます」
「そ、そうなのか……」
担当にここまでいわれるのかと、少し落胆するトレーナー。
「落ち込まなくても大丈夫ですよ。ここに最高の教材がありますから」
ジャーニーはニコッと、乾いた笑みを浮かべる。
「え?」
トレーナーは周りを見回す。それらしいものはない。ただ眼の前に、ジャーニーがいるくらいだ。
「さて、こんな思わせぶりなことをするトレーナーさんには【教育】をしないとですね」
「え?」
フフフ、と不敵な笑みを浮かべるジャーニーの姿を見て、トレーナーは覚悟のような何かを決めた。
──後日譚──
「姉上……?」
「誰もいないのか……」
海外遠征対策委員会の教室に入ってくるオルフェーヴル。
「ん?これは?」
寝転がろうとしたソファの上に雑誌が置いてあるのを見つける。
「……け、け結婚!?……姉上が……?」
その後、大変なことになったのは言うまでもない。