異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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ルーク編
第101話『聖人リアム様……ですよね?』


初めてあの人たちを見たのは、人で溢れた市場だった。

 

多くの人が、仮初の希望を胸に抱いて、生きているそんな場所で、僕は一つの光を見た。

 

少女の様なあどけなさで笑うアメリア様と、そんなアメリア様を呆れた様な目で見ながらお説教をしていた英雄リアム様。

 

この世界を救う為に現れた聖人という立場でありながら、どこか気安さを感じる様なお二人の姿は、僕たちにとって酷く眩しい物だった。

 

僕をずっと守ってくれて、優しくしてくれたお父さんとお母さんが、行方不明になって帰って来ない世界で。

 

大切にしていた妹がある日、苦しそうに血を吐いて死んでしまう様な世界で。

 

いつも笑顔で頭を撫でてくれるオジサンがある日、魔物に喰われて消えてしまう様な世界で。

 

それでも笑顔で、世界を照らしながら生きているアメリア様達は、確かに僕たちの希望だった。

 

だから、きっとアメリア様達が世界の全てを救ってくれるのだと、僕は信じていた。

 

信じてしまった。

 

しかし、二度目にアメリア様を見た時、僕の心は酷く痛めつけられた。

 

 

 

そう。アメリア様がアメリア様ではない人に代わっていたのである。

 

よく似ている。

 

だが、よく似ているだけだ。

 

アメリア様ではない。

 

それは僕にとって大きな大きな恐怖だった。

 

 

 

だから僕は三度目にリアム様が僕たちの住む街に来た時、思い切って聞いてみる事にしたんだ。

 

「聖人リアム様……ですよね?」

 

「その呼び名は好きじゃねぇが。確かに俺はリアムだ。小僧」

 

「……アメリア様は、どうしたんですか!?」

 

僕が勇気を振り絞って聞いた質問に、リアム様は酷く面倒そうな顔をしてから、どこか遠い目で僕に答える。

 

「アメリアなら、途中で別れてな。今は流行病が広がってるっていう街に行ったよ。なんかアイツに用でもあったか?」

 

「……僕は、アメリア様なら、あの太陽みたいに明るかったアメリア様なら、全部大丈夫だと思ったんです」

 

「はぁ?」

 

「でも、アメリア様は帰ってこなかった。どうして、アメリア様は帰ってこなかったんですか!?」

 

「いや、だから……!」

 

「まーまーリアム様。この子は、ちょっと前に妹を病気で亡くしてましてね。両親も、ずっと昔に」

 

僕がリアム様に疑問を投げかけていると、リアム様が食事をしていた店のオジサンがリアム様に僕の事情を説明してくれる。

 

でも、今大事なのはそんな事じゃないのだ。

 

両親も、妹も、僕に幸せに生きてと言っていた。

 

だから、僕は幸せに生き無ければいけない。

 

でも、この世界でただ幸せになるのは難しいから、アメリア様の様な方が必要なのだ。

 

この世界には!

 

「……はぁ。小僧。アメリアでも死んだ奴を蘇らせる事は出来ない。それでも会いたいか?」

 

「会いたい。だって、世界にはアメリア様が必要だから」

 

「イマイチ要領の得ないガキだな」

 

「僕はただ、真実を知りたいんだ。アメリア様がどうして居なくなったのか。どうして帰ってこなかったのか」

 

「……お前」

 

先ほどまでやる気のない目で僕を見ていたリアム様の目が僕を鋭く射抜く。

 

そして、店の外へ来いと合図をすると立ち上がった。

 

「リアム様!?」

 

「気にするな。店主。何もしない。ただ話を聞くだけだ。こんな場所じゃあ、小僧も遠慮して何も言えんだろ」

 

「僕は大丈夫だから」

 

僕はオジサンに頭を下げると、リアム様と一緒に店の外へ出て、話の続きをする。

 

「小僧。お前、さっき奇妙な事を言っていたな。アメリアが帰って来なかった、と」

 

「うん」

 

「別にアメリアはこの街の出身じゃねぇ」

 

「うん。知ってる」

 

「なら、表現としては、何故この街に来なかったのか? になると思うんだが、その辺りは理解して話している様に見えるな……おい、ガキ。何を知ってる」

 

「何も知らない」

 

「何ィ?」

 

「ただ、一回目にアメリア様とリアム様が来た時と、二回目にアメリア様とリアム様が来た時で、アメリア様が違う人になってたんだ」

 

その、僕が見た真実を語った瞬間にリアム様の目が大きく開かれた。

 

驚愕という言葉がよく似合うその表情は、優しかったオジサンが魔物に喰われたと知った時のオバサンの顔によく似ていた。

 

「……そうか」

 

小さく頷きながら近くの箱に座るリアム様を見て、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

リアム様は酷く落ち込んだ様子で、頭を抱えながら深いため息を吐く。

 

「それで。お前は真実を知って、どうする?」

 

「分からない」

 

「分からないだぁ?」

 

手で額を押さえたままリアム様は僅かに顔を上げて、僕を鋭い目で睨みつけた。

 

視線だけで命を奪えるのなら、僕はもうこの世界に居ないだろう。

 

「人の秘密を暴こうってんだ。お前の理由を話せ。出来ないというのであれば、お前をここで……殺す」

 

「っ!」

 

「アメリアの秘密は安くねぇぞ。この世界で、アイツの願いを……「幸せに、ならなきゃいけないんだ!」……はぁ?」

 

どこか呆れた様な声を出しながら体を起こすリアム様を見て、僕は再度勇気を出して口にする。

 

僕の夢を。

 

僕の願いを。

 

この世界に向ける祈りを。

 

「お父さんもお母さんも、ソフィアも、僕のを残して死んだ」

 

「……らしいな」

 

「最期に、みんな僕に言ったんだ。幸せになってって」

 

「あぁ」

 

「でも、この世界には危険な魔物がいっぱいいて、安全な場所なんてどこにも無くて、みんな怖いなって思いながら生きてる」

 

「だろうな」

 

「だから、アメリア様が必要なんだ。この世界には……! 僕たちが安心して生きていく為に、世界を照らしてくれる人が……!」

 

必死に訴えた。

 

ずっと抱えていた僕の想いを。

 

しかし、返ってきたのは深い深いため息だった。

 

そして、目線と同じ様に鋭い言葉だ。

 

「甘えんな」

 

「……」

 

「お前が幸せになる。世界が平和になる。安心して眠れる場所が出来る。おぉ、おぉ。良い夢だな。だがな! お前がそれを望んでるのなら、お前がやれ!!」

 

「っ! ぼく、が」

 

「アメリアはな。俺たちのそんな身勝手な願いを背負って、空の向こう側に行っちまったんだ!!」

 

その言葉は。

 

リアム様の叫んだ言葉は、僕の胸を真っすぐに貫いて、撃ち抜いて、砕いた。

 

ワケも分からず涙が溢れる。

 

「俺は、アメリアの想いを継ぐ」

 

「アメリア様の、想いを……継ぐ?」

 

「そうだ。確かにアイツの光は世界中を照らすだろうが、今すぐ全員が安心して眠れる様になるワケじゃない」

 

「だから、世界を、人を護る為に……戦う」

 

リアム様の言葉を僕は、無意識の内に繋げて、右手を握りしめていた。

 

強く、強く……!

 

昨日までの甘えていた自分を、現実を見ていなかった自分を握りつぶす様に。

 

「小僧。お前はどうする」

 

「僕は……」

 

「付いてくればお前は後悔するだろう。平和な街に居れば良かったと。あのまま甘え続ける生活が良かったと、だが、それでも「行く!!!」っ」

 

僕はリアム様を見上げながら叫んでいた。

 

深い悲しみの中にいて、それでも戦うのだと叫んでいるリアム様に、僕は、アメリア様と同じ光を見た。

 

だから!!

 

「僕も行く。ただ待っているだけじゃ、これから生まれてくるアメリア様と同じ様な方を失ってしまうから」

 

「……お前」

 

「あのアメリア様によく似た人も、アメリア様の意思を継いでいる人なんでしょう?」

 

「あぁ」

 

「なら、僕も同じだ。同じ夢を持っているのなら、戦わなきゃいけない。戦う事が、出来るんだから」

 

「そうか」

 

リアム様は先ほどまでの険しい顔から一変して、穏やかな優しい顔になると、僕の頭に手を乗せて笑う。

 

「小僧。名前はなんて言うんだ」

 

「僕は、ルーク。ただのルークだ」

 

そして、僕の旅が始まる。

 

アメリア様と、アメリア様の意思を継ぐ人を護る為に生まれた……僕の旅が。

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