異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証- 作:とーふ@毎日なんか書いてる
「これで最後だ」
師匠との修行の日々で、不意に師匠が放った言葉に僕は疑問を返す。
「え?」
「聞こえなかったか? これで最後だと、そう言ったんだ」
「いや、最後と言われても、何のことか」
「ルーク。お前はもう十分証の力を使いこなしている。後は実戦を重ねていけば頂に届く事すら可能だろう。だから」
「まだ!! まだ、僕は、そんなに強くありません!!」
「……」
「まだ師匠に勝ててない! 僕はまだ!」
「ルーク」
「師匠……! 僕はまだ、弱いんです」
「甘えるな!!」
「っ!」
師匠の怒声に僕は体を震わせた。
恐怖ではない。
僕の心の奥にある託された願いが、立ち上がれと叫んでいる。
フィンさんが、キャロンさんが、カーネリアンさんが、リリィさんが。
叫んでいた。
「ルーク。お前が願ったのは、誰かに甘えて生きる事だったのか? 違うだろう?」
「……僕は」
「痛みを受け入れろとは言わない。忘れちまえ」
「っ!」
「お前の人生はまだまだ長く続く。聖人の証とは違い、勇者の証は、お前の命を使わない。願いを燃やすだけだ。呪いにはならない」
「僕は」
「だからな。お前が願った通り、多くの人を助けてやってくれ。アメリアが、リリィが、フィンが、カーネリアンが、キャロンが……そして、俺がそう願った通りに」
師匠は、僕の右手を掴むと引っ張り上げて、笑う。
ニヤリと人の悪そうな笑顔で、僕に最後の祈りを……伝える。
「ルーク。お前に出会えて良かった。お前が居なければ俺は世界を恨んで終わっていたかもしれない」
「……師匠」
「お前の勇気が、俺達を照らした。何も出来なかった俺たちに、未来へ続いていくアメリアの意思を守るという使命を与えてくれた」
師匠の掴んだ右手から熱が伝わる。
師匠の想いが……! 伝わる。
「だからな。俺たちの想い。この願いを未来まで届けてくれ。ルーク」
そして……師匠は言いたい事を言って、光になって消えてしまった。
最期の瞬間まで笑顔で。
似合わない……人を安心させる様な笑顔で。
僕は師匠が消えて、地面に崩れ落ちたまま地面を叩いた。
右手で強く殴りつける。
分かっていた。こんな終わりは。
考えていた。こんな終わりを。
ずっと、ずっとだ!
でも、それでも、僕には彼らを止める事が出来なかったのだ。
その強い願いを、ただ……受け入れて進む事しか出来ないのだ。
「……僕は、ルーク」
「勇者……ルーク」
「立ち上がれ、世界の為に」
「立ち上がれ、勇者!!」
軋む体を奮い立たせて、僕は立ち上がった。
苦しみが、胸を刺す痛みが、失ってきた多くの者が、僕を支えている。
立ち上がらなければいけない。
前を向かなければいけない。
だって、僕は……勇者だから!!
師匠が消えてからまた多くの時間が流れ、僕は彼らの事を胸に刻みながら世界を旅していた。
勇者として有名になった頃に再開したオリヴィアは、もうすっかり一人前の聖女になっており、僕も負けてられないと自分を叩きなおす日々だ。
そんな過ぎ去っていく毎日の中で、僕は偶然懐かしい名前を耳にした。
「ソフィア!」
そう。それは、遠い昔。失われてしまった小さな命と同じ名前だ。
それは、苦しみ、嘆き、痛みの中で、それでも強くあろうと戦っていた子の名前だ。
「なんでしょうか? 騒がしいですね」
「ちょっと行ってみようか」
僕はオリヴィアと共に逸る足を何とか落ち着かせながら、その村に立ち寄った。
そして、そこで衝撃的な物を見る。
妹とは似ても似つかないが、美しい少女が魔物に痛めつけられながら、立ち向かっていたのだ。
守る為……という訳ではないと思う。
何故なら、少女は村の外に一人で立っていたから。
村の人たちは少女に罵声を浴びせ、村の中へは入れない様にしていたから。
「……これは、って! ルークさん!?」
僕は驚くオリヴィアの声を置き去りにして、走り出した。
そして、今まさにボロボロの少女に振り下ろされそうな魔物の腕を剣で受け止める。
勇者の証を輝かせながら。
「……っ!! ……? あれ?」
「大丈夫かい? 君」
「……あ、あなたは」
「僕はルーク。勇者ルークだ」
それから僕は魔物を倒し、少女をオリヴィアに癒して貰ってから、少女も連れて旅を続けた。
特に向かう場所は無いが、世界中に困っている人たちは居る。
ならば、僕たちがやるべき事は沢山あるだろう。
「ね、ね。ルーク。どうかな。ソフィア、凄い?」
「あぁ。凄いよソフィア。こんなに綺麗な魔術を使えるなんて、驚きだ」
「えへへ。そうかな」
「素晴らしいですね。ソフィアさん」
「ふ、ふふ。まぁね! ソフィアは天才魔術師だから」
「「おー」」
三人で歩む旅は楽しく、いつまでも続けたい程だ。
しかし、世界の平和は長く続かず、魔王なる存在が現れたという事で、僕たちは人類を守る為に現地へと向かった。
「おう! お前らが、噂の勇者パーティーって奴か?」
「君は?」
「俺はレオン。ここいらじゃあ不死身の騎士レオンって呼ばれてる最強の男さ」
「フン! 何よ! ルークの方が絶対に強いんだから!」
「なんだー? このお嬢ちゃんは」
「誰がお嬢ちゃんよ! 私は! 世界最高の魔術師! ソフィア!」
「はぁん? それで? 勇者ルーク。俺を仲間に入れてくれないか?」
「無視すんな!!」
途中出会ったレオンはソフィアに足を蹴られながらも、笑顔で僕に手を差し伸べていて……その頼もしさにフィンさんやリアムさんを思い出して、僕はその手を取る。
「良いけど。僕らはこれから魔王を倒しに行くんだよ? 君にその覚悟があるのかな」
「当然だろ。俺はあの魔王って奴に借りがあるんだよ!」
「分かった。なら一緒に戦おう!!」
そして、レオンも仲間になり、僕らは魔王の影響で凶悪になった魔物を倒しながら魔王の元へ向かった。
「フハハハハハ!! 遂にここまで来たか!! 勇敢なる人間たちよ!!」
強大な魔王の力は、魔王が占拠した城に近づくだけでも感じられる物であり、魔王を正面に見据えた時のプレッシャーは並では無かった。
しかし、敵がどれだけ凶悪であろうと!
強大であろうと負けるわけにはいかないのだ!!
「僕は勇者!! 多くの願いを背負い、今ここに立っている!!」
「ほぅ」
「だから、僕は逃げない!! 例えお前がどれだけの絶望を秘めていようと!! 僕は……! 決して諦めない!!」
「良いだろう!!」
魔王の言葉に、僕たちはそれぞれ武器を構えながら呼吸を整える。
僕は魔王の動きを見極めながら、その時を待ったのだが、意外にも分かりやすい程の始まりの合図を魔王が放った。
「フハハハハハ!! 我は魔王!! お前たち人類を支配する者だッ!!」
「っ!!」
「さぁ、かかってこい!! 人間ども!! 我を倒し! 世界を救って見せろ!!」
「行こう!! 僕らの力を見せるんだ!!」
そして、僕たちは魔王とぶつかり、彼を倒した。
勇者として、彼らの意思を継ぐ者として。
世界を平和にする為に。
でも、あれから多くの時間が流れて……思うのだ。
僕のしてきた事は本当に正しい事だったのかって。
だって、世界が平和になる為にどれだけの命が犠牲になった。
これからどれだけの命が犠牲になってゆく?
終わりはいつ来るんだ?
僕がそれを終わらせる事が出来るのか。
それが分からない。
僕がしてきた事は本当に正しかったのか。
それが分からない。
暗闇の中で、僕は未だ迷い悩み続けていた。
この世界の光がどこにあるのか分からず、僕は暗闇の中でただ、手を伸ばし続けるのだった。
そして、さ迷い続ける僕の前に一筋の光が差した。
『ルーク』
それは酷く聞こえ覚えのある声で……。
僕はその声に向かって真っすぐに進んでゆくのだった。