異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第108話『例え命を落とそうが、僕は勇者です』

白く輝く世界で、僕は酷く懐かしい人と再会していた。

 

『元気にしてたか? ルーク』

 

「……師匠」

 

『随分としけた顔してるじゃねぇか』

 

「そんな顔をしたくもなりますよ。師匠が消えてから何年経ったと思ってるんです」

 

『さてな。こっちの世界じゃあ時間感覚が無くてよ。よく分かんねぇな』

 

「酷い人だなぁ。師匠は」

 

久しぶりに師匠と笑い合っていた僕は、この世界に師匠以外の気配をいくつも感じる事に気づいた。

 

「ところで師匠。この場所はどういう場所なんですか?」

 

『俺もよく分からん』

 

「いや……よく分からんって」

 

随分と適当だなと思っていると、後ろから誰かが背中を叩いてきて、驚き飛び跳ねた。

 

「っ!」

 

『お。良い反応だな。悪くないぜ』

 

「あなたは……フィンさん!!」

 

『忘れられて無かったみたいだな』

 

「忘れるワケ、無いじゃないですか! あれからどれだけ!」

 

『お前は真面目だなぁ』

 

ワハハと笑うフィンさんは、あの時と何も変わらず明るく朗らかに僕の腕を叩く。

 

そんなフィンさんから僅かに距離を取りながら、僕はこの空間の事を何となく理解し始めていた。

 

師匠にフィンさん。

 

二人ともかつて聖人の証を持っていた人たちだ。

 

つまりは、そういう事なのだろう。

 

この場所は聖人の証を持っていた人が死後に来る空間なのでは無いだろうか。

 

「あー」

 

『どうした? ルーク』

 

「いえ。僕も死んでしまったんだなと思いまして」

 

『死んでしまったんだなって。随分と軽いな』

 

「それはそうですよ。僕も随分と長く生きましたからね。いつ死んでも良いっていう覚悟がありましたから」

 

『なるほどな』

 

師匠は静かに頷きながら、空間に手を翳すと、この世界とはやや色の違う白いテーブルと椅子を作り出した。

 

そして、僕に座る様に言うと、自身も椅子に座る。

 

『まぁ折角だ。お前の冒険を聞かせてくれよ。ルーク』

 

消えてしまった時の様な穏やかで、優しい笑顔を浮かべながら言う師匠の言葉に僕は小さく頷きながら椅子に座った。

 

しかし、その前に気になる事は確認しておく。

 

「そういえばカーネリアンさんやキャロンさんはどうしたんですか?」

 

『あいつ等なら今は新しい勇者の所に行ってるよ。託したんだろう? 証を』

 

「えぇ。まぁ……というかそんな事も分かるんですね」

 

『ここはそういう場所だからな。だからお前もここではのんびりやれ』

 

「……でも僕にそんな資格があるんでしょうか。結局僕は大した事、出来なくて……」

 

『十分だろ』

 

「え?」

 

『お前一人でどこまで背負うつもりだ』

 

「……僕は」

 

『お前はお前の役目を果たし、次代に繋いだ。それ以上に何を望むつもりだ。もしくは、トーマスの奴にも同じ事をやらせるつもりか?』

 

「そんな事は!」

 

『なら、それが全てって事だ。お前の行動は。そうだろう? それとも後悔してるのか?』

 

当たり前の様に言われた師匠の言葉に、僕はなるほどと頷きながら空を仰いだ。

 

 

 

巨大な魔物が街に迫っているという情報を聞いて、僕は勇者の証をトーマスに託して単独で向かった。

 

結果はまぁ、僕がここに居る時点でお察しだが、それでもただやられたワケじゃない。

 

殆ど相打ちの様な物だ。

 

巨大な魔物は完全にその動きを止めていたし、立ち上がる事も無かった。

 

もし万が一まだ生きているのだとしても、トーマス達が何とかするだろう。

 

それだけの事を教えて来たつもりだ。

 

次代の勇者として、出来る限りの事を授けて来た。

 

もう心配はいらないだろう。

 

『良い顔をする様になったじゃないか。えぇ?』

 

「それはもう。師匠たちの教えが良いですからね」

 

『確かにな?』

 

「嫌味で言ったんですよ。師匠」

 

思わずジト目になって師匠の言葉に反論してしまったが、師匠はゲラゲラと笑うばかりだ。

 

こんな人だったかな?

 

もっと落ち着いた人だった様な気がするんだけど。

 

『まぁ、とにかくだ。長い間お疲れさん』

 

「ありがとう、ございます」

 

師匠から渡されたカップを手に取って、その中に入っていた飲み物を一口飲む。

 

甘い、おそらくは何かの果汁ジュースだろうか。

 

『それで? お前はこれからどうするんだ。ルーク』

 

「決まってるじゃないですか」

 

『ん?』

 

「例え命を落とそうが、僕は勇者です。その名を捨てても変わらない。アメリア様がオリヴィアに、そしてオリヴィアがイザベラやシンシアに繋いだ願いを守り続ける。ただそれだけです」

 

『真面目だねぇ』

 

僕の言葉にフィンさんがからかう様な言葉を向けるが、その目に込められた意思は強く、光り輝くものだ。

 

そしてそれは師匠も変わらない。

 

ならば僕だって何も変わらないのだ。

 

そう。あの輝きを守る為に、勇者としてあり続けると決めた僕だから。

 

「それで? ここでは何が出来るんですか?」

 

『向こうの世界にある物なら何でも作れるぞー。飲み物とかもな』

 

「あー。それで。さっきの奴はその関係ですか」

 

『そういうこった』

 

『あぁ、それとな。条件さえ揃えばこの世界から向こうの世界に干渉する事も出来るんだぜ?』

 

「ほぅ!」

 

僕は師匠の言葉に続いて発せられたフィンさんの言葉に興味を示す。

 

外の世界に干渉出来るという事は、万が一トーマスが危険な目に遭っても助けられるという事では無いだろうか。

 

シンシアの危機に、手を差し伸べる事が出来るという事では無いだろうか。

 

それはとても素晴らしい事だ。

 

しかし……。

 

『喜んでいる所悪いがな。そうそう話は簡単じゃねぇ』

 

「と言いますと?」

 

『道は繋がっている。が、向こうからこちらに干渉してこない限り、こっちから大きく動く事は出来ないって事だ』

 

「なるほど。それが条件ですか」

 

『そういう訳だ』

 

僕は飲み物を飲んで自分を落ち着かせながら、小さく息を吐いた。

 

向こう側からの干渉が無ければ、こちらも向かう事は出来ない……。

 

いや、待てよ?

 

「師匠。先ほど大きく干渉する為には、と言いましたが、小さく干渉する事は出来るんですか?」

 

『あぁ。まぁ、本当にささやかだがな』

 

「ささやかというのはどの程度でしょうか」

 

『あー。まぁ、そうだなぁ。夢で語り掛けるとか、そのくらいじゃないか?』

 

「なるほど。では早速お願いしたいです!」

 

『あん?』

 

僕は訝し気な顔をしている師匠を説得して、ソフィアの夢に向かった。

 

 

 

「ソフィア。ソフィア」

 

『……? だれ』

 

「僕だ。ルークだ」

 

『ルーク!!?』

 

夢の中で語り掛けたソフィアは僕の名前を聞いて飛び起きた。

 

夢の中でだけど。

 

そして、マジマジと僕の顔を見た後で、涙をボロボロと流しながら抱き着いてくる。

 

『バカ! バカバカバカ!! ルークのバカ!』

 

「いや、その……」

 

『どうして一人で決めちゃうのよ! どうして危険な場所に行っちゃうのよ!』

 

「それは、ほら……僕は勇者だから」

 

『バカ!!』

 

言い訳の様な言葉を掛けようとしたのだけれど、ソフィアはこちらの言葉を聞いてくれる事はなく、泣きながら僕を叩いてた。

 

それだけ悲しませてしまったという事だから、ちゃんと謝って後日にまた話をしても良いのだけれど。

 

ソフィアにどれだけの時間が残されているか分からない以上、あまりのんびりもしていられないのだ。

 

「ソフィア。謝罪も、感謝も後でたっぷりと言うから、まずは僕の話を聞いて欲しい」

 

『……なに?』

 

「まず僕は死んでしまったワケだけど、それでもまだ、こうしてソフィアのいる世界とは繋がっているんだ」

 

ソフィアは僕の話を聞きながら流れる涙を拭って、真剣な眼差しで僕を見た。

 

「だから、道を作って欲しい」

 

『……道?』

 

「そう。道だ。師匠は召喚の魔法って言ってた」

 

『魔法なんて、私使えないよ』

 

「うん。だから魔術を作って欲しい。僕らに繋がる召喚の魔術を……!」

 

『それがあればまたルークに会えるの?』

 

「うん。でも、きっとソフィアだけで完成させるのは難しいから……魔術の情報を後世に『やる!!』っ!」

 

ソフィアは僕の声に被せる様に叫んだ。

 

そして、興奮しながら両手を強く握りしめる。

 

『ルーク。私、必ずその魔術を完成させる。だから、だからまた!』

 

「……ありがとう。ソフィア」

 

『また、また会えるよね。ルーク』

 

「あぁ。きっとまた」

 

そして、僕はソフィアに最後の言葉を残し、完全にソフィアとの繋がりは絶たれるのだった。

 

しかし、希望は繋がった。

 

僕たちが向こうの世界で活動する為の土台が。

 

その魔術の完成がいつになるのか、それは分からないけれど……それでも。

 

僕は手を握りしめて頷く。

 

 

 

それから十年後、僕はソフィアによって召喚され、激しく殴られる事になった。

 

しかし、これで希望は繋がった。

 

この世界を守る為の希望が……

 

「バカ!! バカ!! ルークのバカ!!」

 

そして、どこまでも蒼い空を見上げながら僕はソフィアの想いを受け止めるのだった。

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