異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証- 作:とーふ@毎日なんか書いてる
魔物が多く溢れるこの世界において、魔物は、地上に空に山に川に。あらゆる場所に存在している。
しかし、全ての魔物が肉食という訳ではなく、草食の魔物も存在しているし。
何なら何を食べているのか分からない魔物も存在する。
そんな中、力なき人が捕りやすく、調理も簡単なのが魚である。
何せ巨大な肉食の魔物とは違い、彼らは川に生息する大人しい魔物であるし、捕る事もそれほど難しくないからだ。
後は肉食の魔物にさえ気を付ければ誰でも手に入る。とても良い食材なのだが……。
「チッ。おい。まだか」
ここまで魚釣りが向いていない人も居たのだなと、私は驚きを感じていた。
川へ向けた釣り竿から降りている糸の先はリアムさんのイライラに合わせてゆらゆらと揺れている。
確か……糸を揺らす事で魚が釣れやすくなるという効果があるとお婆ちゃんが言っていたし。良い効果なのかもしれない。
まぁ、既にリアムさんは限界が近いみたいだけれど。
「リアムさん。落ち着いてください。これは狩りとは違います。緩やかに空気の流れを感じて、心を落ち着けて」
「イライライライラ」
「……駄目そうですね」
「アハハ。リアムってばアホっぽーい。んぃー」
「お前はこんな時まで酒を飲んでいるのか。キャロン」
「良いじゃん。釣りってのはのんびりやるもんだよ」
「チッ。お前の様な怠け者にはちょうど良いみたいだな」
文句を言いつつも、一応釣り竿は持ち続けているリアムさんに少しだけ笑いながら、私は釣り竿を上に上げて針に引っ掛かった魚を手に取って、ご飯の為の処理をする。
「お、お前。もう釣ったのか……?」
「はい。まぁ、私は慣れてますから」
「俺がアメリア以下……? アメリアより狩りで劣っている?」
「いや、どんな事も必要なのは経験と知識ですよ。リアムさん」
そう言いながら私は再び針に餌を付け、川に投げるのだった。
そして、次に釣り上げたのは、やはり経験者であるカー君であった。
「うっ、おっ! 来た! 来たぜ! 大物!!」
「おー。パチパチパチ。凄いですね。カー君。とても大きいですよ」
「へっへーん。これくらい当然だよ。あれれー? おかしいなー。さっきから、いつも偉そうにしてるオジサン達の釣り竿が動いてないぞー?」
「「っ、このクソガキ」」
「ワハハ。言われてやんの」
「お前だってまるで釣れてないだろうが!! 偉そうにするな! キャロン!!」
「ぷっ、ふふふ、キャハハハハハ」
キャロンさんは横向きに寝ころんだ姿勢のまま器用に釣り竿を川から上げて、そこに掛かった魚をリアムさんに見せつけた。
「なっ」
「え? 何かさっき言ってなかった? アタシの気のせいかなー。んー? リアムくーん。アタシに、なんだって?」
「やかましい!!! 黙っていろ!!」
リアムさんはケラケラと笑うキャロンさんに怒りながら強く、強く釣り竿を握りしめた。
そのせいか餌は先ほどから川の水面近くで暴れている。
私はそれを見ながら釣り竿を川から上げ、魚を外し、処理してから川にまた餌のついた針を投げる。
「お前はさっきから何で、そんなポンポン、ポンポン釣れるんだ!!」
「釣りは経験と知識ですよ。リアムさん」
「知ってるわ! 同じ事を何度も言うな!! クソがっ!」
「おいおい。アメリアに当たるなんて大人げないんじゃないの? リアムクぅン」
「ウザったい言い方で話しかけやがって、見てろ。俺がお前たち全員を丸のみ出来るくらいデカい魚を釣ってやるからな!」
「へーへー。頑張ってくだせぇ。あ。アタリ来たね。ういー。二匹目ぇ~。余裕すぎー。え? こんなので苦労してる人、いるぅー? いねぇよなぁー!」
「イライライライラ」
「あぁ、リアムさん。落ち着いて」
「うるさい!! 黙っていろ!!」
リアムさんは大分追い詰められていたが、どうやらフィンさんは何かコツを掴んだようである。
私たちの動きを観察していたのか、分かったと呟いた。
「ふ、ふふ。俺は理解したぜ。アメリアちゃん。釣りの極意が」
「おぉー」
フィンさんは笑みを浮かべながらそれっぽい感じで川に餌の付いた針を投げた。
その後、釣り竿を非常にそれっぽい感じで構える。
「……っ!! 見えた!!」
そして、釣り竿が動いた感触に勢いよく上にあげて……川に落ちていたと思われるゴミを吊り上げるのだった。
「きゃははははは!! 見えた。だってさ!!」
「ぷくふふふ。フィンも大した事ねーなー! 俺が教えてやろうか? 俺は釣りの天才だからな!」
「あぁ、フィンさん」
「良いんだ。気にしないでくれ。アメリアちゃん。失敗は誰にでもある。そうだろう?」
「えぇ。えぇ! その通りです!」
「……見えた! はえー」
「ギャハハハハ。キャロン姉ちゃん最高ー!」
「っ」
「もう二人とも! あんまりフィンさんを虐めちゃ駄目ですよ!」
「はぁーい」
「分かってるよ。姉ちゃん」
フィンさんは二人の言葉に怒りを示す事はなく、黙ってまた餌を針に付けて川に投げ込んだ。
しかし、その落ち着いた仕草からは信じられない程に目は鋭くなっており、ブツブツと何か呟いている様に燃える。
こ、怖い。
「わ、私が教えましょうか? フィンさん」
「いや。良い」
「リアムさんは」
「お前はお前の仕事をしろ。アメリア」
「は、はひ」
私は二人に断られ、しょうがないと釣り竿を上にあげ、魚を釣り上げた。
そしてそのまま魚を処理し、再び餌を針に付け、投げようとして……凄く、凄く鋭い視線を感じた。
そう。フィンさんとリアムさんからの視線だ。
まるで私を貫く様に鋭い視線を向けている。
「えと」
「どうした。釣りをするんだろう。気にせずやると良い」
「そうそう。俺たちには気にしないでさ。アメリアちゃんの思う様にやってくれ」
「は、はひ」
私はびくびくと怯えながら、餌の付いた針を川に投げた。
そして、それと同時にフィンさんとリアムさんを投げているのが見え、どうにか二人が先に釣れる様にと祈る。
しかし、現実は残酷であった。
私は緩やかに釣り竿を上げて、魚を……手元に寄せようとしたのだけれど、両側から強い視線を感じて動きを止めてしまう。
当然視線の主はリアムさんとフィンさんだ。
もはや睨みつける様な勢いで私を見ていた。
「どうした? 釣れているぞ。アメリア」
「そうそう。ちゃんと処理しないと」
「そ、そうですね」
私は気にしない様にと自分に言い聞かせて、再び餌を付けた針を川に向けようとして……動きを止めた。
「アメリア」
「ひゃい!」
「提案なんだが。場所を変わらないか?」
「おい! 汚いぞ! リアム!!」
「フン。なんとでも言え。で? どうなんだ。アメリア」
「それは、当然。大丈夫ですよ?」
「まぁ、当然だな」
リアムさんは私の居た場所に座り、私が投げていた辺りに向かって投げる。
私はリアムさんの座っていた場所に座り、悔しそうにしているフィンさんや、どこか満足気なリアムさんを横目に見ながら、釣りを続けるのだった。
あ、当たった。
しかし、バレない様に。コッソリと……。
「おい」
「ひぃ」
「釣れたのか」
「えと、その……いや」
「釣れてるな。釣れている」
私はジッと見つめてくるリアムさんが恐ろしく、もうそれ以上ここに居る事は出来なかった。
急いで魚を釣り上げると、そのまま処理して、先ほど釣った魚も含めて持ちながらたき火へと向かう。
恐怖だ。
今、どうしようもない恐怖を全身に感じながら私は走る。
安全な場所を目指して。