異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第2話『いってきます!』

世界は穏やかなまま時が過ぎ、リリィが十二歳、そして私が十四歳という事になった。

 

近くの村では魔物が増える様になったという噂話を聞く様になったが、リリィの『聖なる刻印』に変化はない。

 

リリィにも何ら変化はなく、私たちは変わらぬ日々を過ごしていた。

 

しかし、変化は間違いなくすぐそこに迫っているのだった。

 

 

 

ある日の事だ。

 

いつもの様に家で食事の準備をしていた私は、激しい揺れに驚きリリィを連れてお婆ちゃんの所へと向かった。

 

家の外には秘密の結界があり、普通の人は入る事も近寄る事も出来ない。

 

だから、この家は安全なハズなのだけれど……。

 

「一つ聞きたい事があるんだがな」

 

開かれた扉から不意に入ってきた男の人に私は目を見開き、リリィが誰よりも早く警戒する様に握っていた箒を男の人に向けた。

 

しかし、相手は腰に剣を持っているし、箒では逆に危険かもしれない。

 

そう考えて私はリリィの前に出て、話し合おうと男の人に言おうとした。

 

「ふむ。探す手間が省けたな」

 

「え? きゃっ!?」

 

男の人に話しかけようとした私は右手を掴まれ、そのまま捻り上げられる様に持ち上げられてしまう。

 

「ちょっと、お姉ちゃんに何するのよ!!」

 

「リリィ! 駄目です! 箒を下ろしてください。私は大丈夫ですから」

 

「む? あぁ、すまんな。証を確認したかっただけだ」

 

「ぁぅ」

 

「お姉ちゃん!!」

 

男の人は私を床に落とすと、右手の手袋を取って、その証を私たちに見せつけた。

 

そう。リリィに刻まれているものと同じ『聖なる刻印』を。

 

「俺はこういう者だ。お前にはこれから魔王の封印に付いて来て貰う」

 

「……っ、分かりました」

 

「ふむ。物分かりが良いな。よし。ではすぐに支度しろ。俺は外で待っている」

 

男の人はそれだけ言うと、さっさと家の外に出ていき、残された私は不安そうに揺れるお婆ちゃんと、リリィの瞳に貫かれる事になった。

 

「お姉ちゃん。危険だよ。あんな人と一緒に旅に出るなんて」

 

「でも、使命ですから」

 

「それなら! 私だって!」

 

「リリィ」

 

「っ!」

 

「前にも言ったでしょう? その証は家族以外に見せてはいけないと」

 

「でもっ! でも!! お姉ちゃんが出て行くなんて、私、ヤダ!!」

 

「大丈夫。危険な事なんて何もありませんよ。あの方だって、闇の力が世界を襲うかもしれないという事に焦り、少々乱暴な手段を取っただけかもしれません。それに、リリィはまだ十二歳でしょう? その様な年齢で外に出るのは危険過ぎます」

 

「……」

 

「そんなに不安そうな顔をしないでください。知ってますか? リリィ。シャーラペトラ様の時代より数百年。幾度となく聖人が闇の力を封じる為に集まり、旅に出ましたが今まで一人だって犠牲になった人は居ないんですよ」

 

「分かってるけど! でも、怖いの。お姉ちゃんが遠くに行っちゃうのが」

 

「リリィ」

 

「分かってる。私だって、分かってるもん。お姉ちゃんはもう十四歳だし。結婚してもおかしくない年齢だって、分かってるもん。でも、でもでもでも! やっぱりヤなの! 私だけのお姉ちゃんが良いの!!」

 

「私はリリィだけのお姉ちゃんですよ?」

 

「口では何とだって言えるもん! 世界にはさ! きっととんでもなく悪い奴がいっぱい居るんだよ!? お姉ちゃんがそういう奴に騙されちゃうかもしれないじゃない!」

 

「それは、多分無いと思うのですが」

 

「分からないじゃない!!」

 

「うーん。それでは、どうすれば納得して貰えますか?」

 

「結婚しよう! お姉ちゃん!」

 

「ではお婆ちゃん。私、行ってきますね」

 

「お姉ぇちゃぁーん!! 無視しないでよぉー!」

 

「リリィ。これは毎日言っている事になりますが、私とリリィは姉妹なので、結婚する事は出来ないんですよ? 偉い方が定めたルールがありますから」

 

「知らない大人が勝手に決めたルールでしょ! 私には関係ないモン! 大事なのは私と、お姉ちゃんの気持ちでしょ!?」

 

「それはそうですね」

 

「でしょ!?」

 

「はい。なので、私は妹のリリィと結婚する事は出来ません。では、旅に行ってきますね」

 

「まってぇー! まってよぉ。お姉ちゃぁーん!!」

 

「気を付けて行ってくるんだよ。約束を忘れずにね」

 

「はい」

 

「あぁ、後、心に刺さった相手が居たら離すんじゃないよ。帰ってくるときは良い知らせを待ってるからね」

 

「お婆ちゃん!! なんて事を言うの!!」

 

「では、行ってきますね」

 

私はこんな事もあろうかと前々から用意しておいた荷物を手に取って、家の外に向かって歩く。

 

リリィは泣いているけれど、お婆ちゃんが魔法で捕まえてくれていた。

 

ありがたい。

 

この旅にリリィを連れて行くわけにはいかないのだ。

 

「リリィ。帰ってくる時は、一人では無いかもしれませんが、楽しみに待っていてください」

 

「お姉ちゃん!!? 私、許さないからね!! 絶対反対だから!! 反対の反対だからー!!」

 

騒いでいるリリィの言葉を打ち消すように扉を閉めて、外で待っていた男の人に向かって歩く。

 

「お待たせしました」

 

「あぁ。大分待ったな」

 

「そ、そうですか」

 

「お前は、魔王を封印する旅の重要性という物が分かっているのか? そもそもだな」

 

「……」

 

何やら長い話が始まりそうだなと感じていた私は男の人から目を逸らすように周囲を見た。

 

そして、完全に破壊された秘密の結界を見て目を細める。

 

「聖なる刻印が現れた時点で」

 

「あの。一つ確認してもよろしいでしょうか?」

 

「……なんだ」

 

「この破壊された地面は」

 

「さて、そろそろ行くとしようか。ウダウダと話をしていてもしょうがないからな!」

 

私の言葉を遮るようにして、無理矢理話を中断した男の人は、サクサクと先に向かって歩いていく。

 

それを見て、私は大きく息を吐きながら地面に手を当てた。

 

なぎ倒されている木はどうする事も出来ないが、結界を作り直す事は出来る。

 

とりあえずは結界を直してから向かうとしよう。

 

「……すまんな」

 

「えと?」

 

「この結界だ! 壊してしまってすまないと言っている!」

 

「あ。これは丁寧にありがとうございます」

 

「いい。気にするな」

 

何となくだけれど、そこまで悪い人では無いのかもしれない。

 

私はそう考え、結界を作り直してから立ち上がり、男の人に向き直った。

 

「あの! お名前。聞いても良いですか?」

 

「あ?」

 

「貴方のお名前です。これから一緒に旅をするんでしょう? なら、名前が聞きたいです。私はアメリア。貴方のお名前は?」

 

「……リアムだ」

 

「リアム様ですね。これから」

 

「リアムだ。様はいらない。別に貴族様って訳じゃないからな。だからお前の事もアメリアって呼ばせて貰う」

 

「はい。分かりました! よろしくお願いしますね! リアムさん!」

 

私はやっぱり話せば分かるじゃないかと嬉しくなり、笑いながらリアムさんの手をとり、握手をした。

 

リアムさんは私の握手を嫌がる事なく受けてくれ、やっぱり悪い人ではないのだなと納得する。

 

「では、行きましょうか。リアムさん」

 

「あぁ」

 

ぶっきらぼうに、でも私の事を気にしながら返事をするリアムさんに私は笑顔を向けながら一歩目を踏み出した。

 

これから、長い旅が始まる。

 

そんな予感がしているのだった。

 

しかし、そんな予感を壊すように結界の内側から飛び出してきたリリィに私は捕まってしまう。

 

「お姉ちゃん!!! やっぱり離れるなんてヤダ!!」

 

「……リリィ」

 

私はどうするべきかと考え、すぐ近くに咲いていた花を手に取った。

 

そして風の魔術を使い、二つの花を繋げる。

 

「はい。リリィ」

 

「これは?」

 

「これは、想いを伝える事の出来る魔術が掛けられてます。ですので、いつでもどこに居ても気持ちを伝えられます」

 

「……」

 

「私、ずっとこれを付けておきますので、これでリリィも心配ないでしょう?」

 

「……でも」

 

「大丈夫。怖くないですから。だから、待っててください」

 

「……お姉ちゃん」

 

「世界を救って、帰ってきます! だから、お願いします」

 

「……分かった。私、待ってるから」

 

「はい。ありがとうございます」

 

私はリリィにお礼を言って、髪に白い花を挿した。

 

そしてリリィも、ピンク色の花を挿す。

 

それだけで私たちは手を繋いでいる時の様に、想いを通わせる事が出来るのだった。

 

それにリリィは少しだけ安心したような顔をして、頷いてくれる。

 

私はそんなリリィに微笑んで、大きく手を振りながら言葉を向けるのだった。

 

 

 

「いってきます!」

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