異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第34話『はい。これは私がきっと、夢に見ていた景色なんです』

それは恐らく初めての衝撃だった。

 

私とレーニちゃん。そして多くのオークさん達を乗せた飛行機は全てをなぎ倒す様な突風を受けながら奇妙な浮遊感と共に空中へと飛び上がり、そのまま進み始めたのだ。

 

「おぉー!!」

 

「やりましたねボス!! 成功ですよ!!」

 

「と、ととと当然だろうが」

 

「……凄い」

 

「アメリア?」

 

「レーニちゃん。今、私たちはとても凄い経験をしているんですよ」

 

「そうなの?」

 

「はい。これは私がきっと、夢に見ていた景色なんです」

 

飛行機の外側にある外壁がガタガタと揺れながら、外れそうになっていたり。

 

飛行が安定せず、左右に大きく揺れているが、この大きな飛行機は確かに空を飛んでいる。

 

彼らの意思が、夢が、渇望が、こんなにも遠く離れた場所で繋がっている事に、涙が溢れそうだった。

 

確かに彼らが言った様に、夢は誰かがそれを見続ける限り終わらないのだろう。

 

「ボス!! 駄目だ! 左に流されてる!!」

 

「なら左側のエンジンを回せ!! 安定させろ!!」

 

「うぐ、ぐぐぐ。駄目だ! 言う事をきかねぇ!」

 

私は椅子から立ち上がり、すぐ近くにあった小さな丸い窓から外を見る。

 

外にはこの飛行機と同じ様に、いくつものカラフルな飛行機が飛んでおり、全てを破壊する様な風に耐えていた。

 

しかし、いくつかの機体は既に限界を超えて地面に不時着しているようだった。

 

「ボスさん」

 

「む!? なんですか!? アメリア嬢」

 

「ボス! 駄目だ! 機体がバラバラになっちまう!!」

 

「持たせろ!! もうそろそろ安定域に入るはずだ! おっと。申し訳ない。何でしたか? アメリア嬢」

 

「あ、いえ。このレース? でしたか。このレースはどういったものなのかなと疑問に思いまして」

 

「あぁ。マルコ共は説明していなかったんですね。何。そう難しい話ではないですよ。年に一度。この草原では大いなる風が吹き荒れる日が来る。その日に、俺たち飛行機乗りが同時に飛んで、最後まで飛び続けていた奴の勝ちというレースです」

 

「なるほど」

 

「まぁ、このレースが始まってから優勝は常に……」

 

「ボス! 豚の奴が!」

 

「何ィ!? もう来やがったか!?」

 

ボスさんがそう言った瞬間に正面のガラスに高速で動く紅い物体……いや、私達が乗っている物よりも小型の飛行機が見えた。

 

「あの豚野郎! 挑発のつもりか!?」

 

「ボス! 豚から通信です! 『地面を機体の残骸で汚す前に、奪ったお嬢さんを返しな。ソイツは兄貴の客人だ』だそうです!!」

 

「あの豚野郎!! 舐めやがって!! こっちの力を見せつけてやれェ!! 上昇準備ィ!!」

 

「えぇ!? この状況で飛ぶんですか!?」

 

「当たり前だ!! 中途半端に地面近くを飛んでるから逆に風の影響が強いんだよ! いっそ暴風の範囲外に出ちまえば、その影響は少ねぇ! そら、早く行け!」

 

「りょ、了解です!」

 

先ほどよりもガタガタと激しく揺れる飛行機にレーニちゃんは私に強く抱き着いてきた。

 

私はそんなレーニちゃんを抱きしめながら、視線を飛行機のあらゆる場所に向けてゆく。

 

「あれ?」

 

「どうしました!? アメリア嬢!!」

 

「少しだけ、失礼します!」

 

私はレーニちゃんを抱きしめたままボスさんの足の上にお邪魔して、ボスさんが握っている操縦桿を握り締めた。

 

そして、操縦桿を通して、飛行機の中に走る魔力を確認し、魔力が通らず塞がっている場所を見つけ出す。

 

「ボスさん! 左の翼に魔力の通っていない場所があります」

 

「何ィ!?」

 

「あぁ、それでさっきからずっと左側が安定しないのかぁ」

 

「言ってる場合か!! どうする! どうする!! このままじゃ上昇出来ずに落ちるぞ!!」

 

「レーニちゃん! 協力してください」

 

「うん」

 

「ボスさん。少しだけ、飛行機の中を失礼しますね」

 

私は風の精霊に力を借りて、新しく魔力が通る回路を作り出し、左右のバランスをレーニちゃんと協力して合わせてゆく。

 

とは言っても、細かい操作はボスさん達にお願いして、私たちは出力だけに意識を向けている形だ。

 

「これで……」

 

「アメリア」

 

「うん。レーニちゃん。息を合わせて下さい。せーの」

 

「「どん」」

 

「うぉっ!!?」

 

一気に両側の翼から風を吹き出して、この飛行機に向かって吹き荒れている風を突き抜けて飛んで行く。

 

途中に紅い飛行機の横をすり抜けて、飛行機は更に上空へと舞い上がった。

 

そして暴風域を抜けた事で飛行機はようやくの安定を見せた。

 

「ボス! ボス!! 安定しましたよ!」

 

「ほら! な? だから言ったろ!? 上空なら大丈夫なんだよ!」

 

「すげぇ。アメリアちゃん。いや! アメリア様!!」

 

「それとレーニちゃんだったか!? 二人は俺たちの女神だ!!」

 

「ばんざーい! ばんざーい!」

 

大喜びしているみんなに胴上げされ、私もレーニちゃんも笑いながら、この状況を楽しんでいた。

 

しかし、そんな空気を壊す様に、通信機からノイズ混じりの声が飛行機の中に響く。

 

『……カ! マンマ……団!! 聞こえてるか!?』

 

「なんだ?」

 

「ドーラの船からです!!」

 

「何ィ!? あのババァ何のつもりだ! 通信を聞こえる様にしろ!」

 

「はい!!」

 

ボスさんの指示に従って、オークさんが通信機のメモリを弄っていると、不意にノイズが消え、大きな声が飛行機の中に響き渡った。

 

『バカ共! 早く下に下がんな!!』

 

「あぁ!? 何のつもりだ! ドーラ!」

 

『右側の窓から外を見てみなァ!!』

 

「窓の外だとォ!?」

 

私も、ボスさんと一緒に小さな丸い窓から外を見ると、そこには大きな大きな雲の塊が存在していた。

 

「こ、これは……! マズい、すぐに下降準備ィ! 急げ!!」

 

「え? ボス。これはいったい」

 

「良いか? あれは『竜の巣だァ!!』人の台詞に被せるな! ババア! いや、今は構っている暇はない! 早くしろ!! 『四十秒で準備しな!』だから俺の言葉に被せるな! だー! もう今はこんな会話してる場合じゃない! あれは暴風の塊だ! アレに巻き込まれたら空中でバラバラにされるぞ!!」

 

「あ、だめ!」

 

「え?」

 

誰が呟いた言葉だっただろうか。

 

その小さな声が最後の言葉となり、飛行機は一気に安定を失った。

 

そしてガタガタと大きな音を立てながら地面に向かって落ちてゆく。

 

私は何とかその落下速度を落とそうと、飛行機の床に触れながら風の魔術で支えようとするが、吹き荒れる風のせいでそれも弾かれてしまう。

 

「っ!?」

 

「アメリア嬢!!」

 

それから、すぐに暴風域へ再び突入した飛行機は一瞬の内に外側が破壊され、外壁がはがされてゆく。

 

そして、遂に天井が風の中に消え、私とレーニちゃんは吹き荒れる風に自分たちの体を飛行機の中に残す事が出来ず、空に舞い上がった。

 

「レーニちゃん!」

 

「っ! アメ、リア!」

 

「大丈夫。手を繋いで」

 

二人で大空へ体を投げ出されながらも両手を握り合い、落ちながら風の魔術で何とか落ちる速度を緩くする。

 

しかし、魔力も無限じゃない。

 

このまま落ち続けて、地面まで魔力が持つかは怪しかった。

 

「おい。お嬢ちゃんたち! こっちだ!」

 

「っ! ま、マルコさん」

 

「乗れ!」

 

だが、そんな空中を泳いでいた私たちを紅い飛行機に乗ったマルコさんが助けてくれ、私たちは何とか無事、再び飛行機に乗る事が出来たのである。

 

「ったく。あのバカ共。他所から来た人間まで巻き込みやがって。大丈夫か?」

 

「はい。少し怖かったですが、楽しかったです」

 

「そうかい。珍しい人間もいるもんだ」

 

「はい!」

 

私は紅い飛行機に乗りながら、空に向こうに視線を向け、他の飛行機がどうなったのかを見る。

 

どうやらボスさん達の飛行機は地面に落ちてしまったようだが、地面で元気よく動いている所が見えるから、きっと無事なんだろう。

 

しかし、それにしても。

 

「……どうしてマルコさん達は、こんな危険を冒してまで空を飛ぶんでしょうか?」

 

「どうして。か」

 

マルコさんは遠い空の向こうを見つめながら呟いて、息をフッと吐いてから笑う。

 

「それは俺たちはオークだからだ」

 

「オークだから?」

 

「そうだ。俺たちはもう地を這う事しか出来ない豚じゃねぇ。誇り高きオークだ。遠い空の向こうにあるっていう天国を目指した男たちと同じ様に、空の向こうに希望を見出した魔族だ。ドラゴンすらも行けない様な空の果てに、俺たちはいつか辿り着く」

 

「空の、果て。天国……」

 

「そうだ。だから俺たちは飛ぶ。ただの豚では無い事の証明の為に。そして先に逝っちまった友に会う為にな」

 

「……マルコさん」

 

「飛ばねぇオークは、ただのポークだ」

 

マルコさんは遠い空を見ながら、どこか寂しそうな顔で呟いていた。

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