異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第35話『風が、呼んでいるんです』

マルコさんのお陰で無事地上へ降りる事が出来た私達だったが、最初に待っていたのはボスさん達の謝罪だった。

 

しかし、私達も空の旅は楽しかったし、全然気にしていない。むしろありがとうと言うと、感激して号泣してしまった。

 

そして年に一度のレースが終わったという事で、遠くから大勢のオークさん達が集まって食事の準備をしてゆく。

 

私達も是非にと誘われて、何とか合流出来たリアムさん達と食事の席につくのだった。

 

「アメリア。レーニ。アンタ達。本当に大丈夫? 怪我してない?」

 

「はい! 元気です」

 

「大丈夫」

 

「ハァー。なら良かったわ。リアムと喧嘩してる間に気が付いたら何か始まってるし、アンタ達はオークに攫われて遥か空の向こうに行ったって聞くし。ホント、お腹痛くなっちゃった」

 

「ごめんなさい。キャロンさん」

 

「ごめん」

 

「いいよ。いいよ。それよりも。空の旅は楽しかった?」

 

「はい!」

 

「そっか。なら良かったよ」

 

安心したように笑うキャロンさんと、その背中の向こうでこちらの様子を伺っていたリアムさんとフィンさんとカー君に私は笑う。

 

そして、アッと思いついた事をみんなに言ってみる事にした。

 

「そうだ! 今度は皆さんも一緒に行きましょうよ! 来年またやるらしいですよ」

 

しかし。

 

「俺はごめんだ」

 

「あー。俺もパスかな。アメリアちゃん」

 

「私も無理」

 

「えぇー。そんなぁ。カー君は? カー君はどうですか!?」

 

「お、俺は、別に姉ちゃんが一緒に乗るなら、乗るけど。危ないし」

 

「本当ですか!? 約束ですよ。カー君!」

 

「おいおい。やめとけって。見てただろ? 空からあのデカい塊が地面に落ちて、ぐしゃぐしゃだったんだぞ? 本当は怖いんだろ?」

 

「こ、怖くねぇよ!?」

 

「無理すんな」

 

「無理なんかしてねぇ!!」

 

カー君が顔を真っ赤にしながら反論していると、お酒を持ちながらマルコさんとオーヴィルさん、ウィルバーさんがやってきて、カー君の背中を軽く叩く。

 

「小僧。勇気ってのは強がる事じゃねぇぞ」

 

「っ! どういう、事だよ」

 

「空を飛ぶってのは誰だって怖いって事さ。だが、俺達はその怖さから目を逸らしてねぇ。だから今も飛んでる」

 

マルコさんの言葉にカー君は首を傾げながら、どういう意味かと問う。

 

そんなカー君にオーヴィルさんがニヤリと笑いながら答えるのだった。

 

「つまりな。俺達は、ヤバい落ち方をしたら命もヤバいって事はよく分かってるって事さ。だからこそ失速した時はこうする。風に流されたらこうする。空中分解しそうな時はこうやって脱出する。みたいに何が起きても対処できる様に考えてるんだよ。だからこそ今でも空の向こうを目指す事が出来るんだ」

 

「なぁ。聞いても良いか? オーヴィルさんとやら」

 

「なんだ? リアムとやら」

 

「何でアンタらはそうまでして空を飛ぶ。魔族として魔物とは違うという所を見せたいのは分かるけどな。それならこの料理だけでも十分だろう。こんなのはオークであるアンタらにしか作れん」

 

リアムさんは心底不思議そうな顔をしながら片手にお酒、そして片手に凄く美味しい料理を掲げた。

 

それを見て、ウィルバーさんはガハハと笑いながら、マルコさんの背を叩く。

 

そして背を叩かれたマルコさんは笑いながらリアムさんに言葉を返すのだった。

 

「まぁ、俺達がバカだからだろうな」

 

「バカだから?」

 

「そうだ。俺達はかつてこの地に降り立った空に挑む勇者たちを見た。話した。その夢に触れた。そして焼かれちまったのさ。こんがりな。もう俺達の目にはあの空の向こうしか映ってねぇ。いつかあの空の向こう。草原を抜けて、竜の巣だって飛び越えて、空のずっと向こう……どこまでも広がる無限の彼方へ、ってな」

 

私はマルコさんの話を聞きながら、彼らと共にあった風の精霊と心の中で話をする。

 

そして、彼らの願いを一つ聞く事にした。

 

「マルコさん。今から一つ。空へ飛んでみませんか?」

 

「……は? おいおい。お嬢ちゃん。何を言って」

 

「風が、呼んでいるんです」

 

木製の椅子から立ち上がり、みんなが騒いでいる中心から外れた場所へと歩き始めた。

 

そして今回のレースで唯一無事だったマルコさんの飛行機を風の精霊に連れてきてもらう。

 

「お嬢ちゃん……? っ! 俺達の機体が!」

 

「マルコ……行った方が良い。スマンな。リアムとやら。少しだけお嬢さんを借りるぞ」

 

「あぁ」

 

風が、昼間はあれだけ吹き荒れていた風が静かに私の髪を揺らして、空へ来て欲しいと訴えていた。

 

聞こえてくるのは、かつて私が話した人たちだ。

 

『アメリア』

 

「さぁ、マルコさん。行きましょう。空の果てへ」

 

私は宵闇の中にあっても、紅く輝くマルコさん達の飛行機の前で両手を広げて笑った。

 

 

 

マルコさんと私を乗せた飛行機は、マルコさんが触るよりも前に動き始めた。

 

「っ!? 何が、起きてる」

 

「彼らが呼んでいます」

 

「彼ら……?」

 

そして、いつか乗ったあの時と同じ様に、飛行機は滑り出す様な静けさで空へと飛び出した。

 

振動も恐怖も感じない。

 

ただ、未知なる世界へと飛び込む興奮だけが私の中にあった。

 

私は、マルコさんの後頭部を見ながら大人しく座っていたのだが、風の精霊に呼ばれて座席から飛び出した。

 

「お嬢ちゃん!? 何をやって!」

 

「ラー。ララー。ラー。ララ。ラララ」

 

静かに飛んでいる飛行機の上で、私は草原の民がよく歌っていた歌を奏でながら、空の果てを目指した勇者たちを心に描く。

 

そして右の翼に座ると、そのまま風の精霊と共に飛行機を操って、空の向こうへと船を漕ぎ出した。

 

「草原の向こうには、どこまでも広がる山々があり」

 

「山々に住まうドラゴンたちから溢れた魔力が渦となり、大きな雲を作っている竜の巣を抜けて」

 

「その向こう。無限に広がる彼方」

 

両手で空を触りながら、荒れ狂う風も気にせず、飛行機を飛ばす。どこまでも、どこまでも広がる空の向こうへ。

 

「っ!? なんだ、アレは!? 城? 空に浮かぶ、城だと!?」

 

雷の消えない竜の巣の向こうに見える天空庭園を超えて、飛行機はどこまでも飛んでいった。

 

草原を出て、どれだけ飛んだだろうか。

 

飛行機はもはや地上も見えない様な上空へと辿り着いた。

 

そこは、雲がどこまでも続く白と青に支配された世界だった。

 

『随分と、久しいな。ここへはもっと後に来ると思っていたぞ。オークの友よ』

 

「アンタは!? オーヴィル!!」

 

『まったくだ。こんなに早く来てしまったのでは我らの立つ瀬が無いではないか』

 

「ウィルバー!」

 

マルコさんと私が乗っている飛行機と同じ様な形の茶色い飛行機に乗った二人は、笑いながらマルコさんに語り掛ける。

 

そして、私が座っている翼の近くにも、酷く懐かしい人が姿を現した。

 

『アメリア姫様』

 

「……お久しぶりです。マルコさん」

 

「マルコだと!?」

 

まだ殆ど完成していない飛行機に乗って現れたその人は、あの時と何も変わらない自信に満ちた笑顔を浮かべながら頭を下げる。

 

そして驚愕するオークのマルコさんをそのままに、人間のマルコさんは空を指差しながら微笑んだ。

 

『姫様。美しいでしょう? ここが姫様にご案内したかった場所でございます。争いのない。ただ、皆が同じ光を受けて、同じ未来を見て、同じ希望を持って生きていける場所』

 

「そうですね。とても、美しいです」

 

私は心からの安堵を感じながら、立ち上がろうとした。

 

しかし、不意に腕を引っ張られる感触があって、私はそちらに視線を向ける。

 

そこには必死な顔をして、私の手を握っているオークのマルコさんが居た。

 

「……」

 

「お嬢ちゃん。いやっ、アメリア! まだ、俺達がここに辿り着くのは早すぎる。そうだろう?」

 

『なるほど。どうやら姫様はまだ地上でやり残した事があるようだ。では、全てが終わった後に、またお迎えに行きましょう』

 

「マルコさん!」

 

『我が名を受け継いだオークの勇者よ。姫様を無事、地上まで送り届けてくれ』

 

「あぁ……!」

 

「また、また! お会いしましょう! マルコさん!」

 

『えぇ。必ず!』

 

飛行機はガクンと衝撃を受けて雲の下へと落ち始めた。

 

そして、そのまま私はマルコさんに引っ張られて操縦席で小さく丸くなる。

 

「っ!? 動く!」

 

「マルコさん」

 

「あぁ。今から地上へ帰るぞ」

 

「はい」

 

私は胸の奥で広がる力に、これが風の精霊との最上位契約かと頷きながら、遠くなっていく雲の世界と近づいてくる地上を見て、静かに目を閉じた。

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