異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第55話『あの。火なら、私、付けられます』

ルカ少年と夜更けまで話をしていた私だったが、彼が帰ってからまた再び眠りにつき、翌日は朝早くから目を覚ましたのだった。

 

そして、部屋で朝食を食べながらどうしようかと考えていると、部屋の扉がノックされ、リアムさんが入ってくる。

 

「おはようございます」

 

「あぁ。おはよう。体調はどうだ?」

 

「はい。すっかり良くなりました」

 

「そうか。昨日は夜遅くまで話をしていたが、起きても大丈夫か?」

 

「っ!? 気づいていたんですか!?」

 

「当たり前だろう」

 

リアムさんはニコリともせずそう言い放ち、問題が無いのなら良いと部屋の中にある椅子に座った。

 

そして、そのままテーブルに朝食を置き、食べ始める。

 

「……リアムさん?」

 

「どうした」

 

「あ、いえ。ここで食べるんだなと思いまして」

 

「個別の方が良かったか」

 

「いえいえ! そういう訳じゃないんですが、何となくリアムさんは一人で食べる人なのかなと思ってたんです。外に居た時も、特に会話とか無かったですし」

 

「……そうだな。確かに」

 

リアムさんは朝食のパンを手に持ちながら、考える様に目を閉じた。

 

最近気づいたのだが、どうやらリアムさんは考えるときに目を閉じる癖があるらしい。

 

そして目を開くと、大抵どこか寂しそうな顔をしている事から、もしかしたら何かを思い出しているのかもしれないと私は考えていた。

 

だから、こういう時は静かに待つ。

 

「確かに、俺は飯を一人で食う方が好き……いや、今までずっとそうやってきたから、それが当たり前だと思っているのかもしれない。だが、今は少し違う」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。同じ飯を食べ、同じ景色を見て眠り、同じ空気の中で生きる。それが共に旅をするという事なのだと教わったからな。俺もそうありたいと思うんだ」

 

リアムさんは私を見ながら、そう言った。

 

いや、違う。

 

私じゃなない。

 

私の向こうに居る。私と同じ見た目をしたお姉ちゃんを見ているんだ。

 

「それは、お姉ちゃんから?」

 

「そうだ。アメリアからは多くの事を教わった」

 

「そうですか……なら、私もそうします!」

 

「良いのか?」

 

「はい! だって、私の旅はお姉ちゃんの足跡を辿る事ですから。何を見て、何を想って、何を考えて歩いて来たのか。それを知らなければお姉ちゃんの事を知る事は出来ません」

 

「そうか。分かった」

 

リアムさんはそう言うと、静かに目を閉じた。

 

考えているワケじゃない。

 

多分、噛み締めているんだ。

 

お姉ちゃんとの思い出を。

 

「なら、朝食の後、少しだけ付き合って貰えるか?」

 

そして、リアムさんは静かにそう言うと、窓の外へと目を向けるのだった。

 

 

 

朝食を食べ終わり、私はリアムさんに案内されるまま大通りから、裏通りへと入り、薄暗い道の奥へと案内された。

 

普通であれば入らなそうな暗がりに少しだけ怖い気持ちになるが、リアムさんは魔物にも一人で勝てる人だし、お姉ちゃんが一緒に旅をしていた人だ。

 

わざわざお姉ちゃんが亡くなったという話も、家まで伝えに来てくれた人だし、私に何かをしようという気も無いだろう。

 

という訳で、疑う気持ちもなく歩いていたのだが、少々風向きが変わってきた。

 

何故なら、薄暗い通りの分かれ道から、人相の悪い人たちがワラワラと現れたからだ。

 

しかもニヤニヤと笑っている。

 

どう見ても善人には見えなかった。

 

「……リアムさん」

 

「大丈夫だ」

 

リアムさんは何てこともない様に言うが、どう見ても大丈夫には見えない。

 

気を抜けば、一瞬で攫われて、どこかで売られてしまいそうな雰囲気である。

 

しかし、リアムさんが大丈夫だというのだから、一応信じてみようと、リアムさんの服を掴みながら、おっかなびっくり通りの奥まで進んでゆくのだった。

 

そして、薄暗い通りを抜けて、少し開けた場所へと出た。

 

「よぉ。随分と遅かったじゃねぇか。聖女様とアンタがこの町に来たって噂は、昨日には聞こえてきたってんのによぉ」

 

「昨日は、聖女様が旅の疲れで眠ってたからな」

 

「そうかい! だが、今日は元気そうだな。安心したぜ。聖女様が元気じゃねぇと、いつかの礼が出来ないからなァ!」

 

通りを抜けた先にあった明るい広場の奥で、積み上げられた箱の上に座った男の人は、笑いながら箱の上から地面に飛び降りた。

 

そして、その行動に合わせて、私たちの後ろや、他の小さな通りからも多くの人がゆっくりとした足取りで出てくる。

 

しかもただ出てくるだけじゃなくて、金網を持っていたり、台の様な物を持っていたり……大きな刃物を持っている人も居た。

 

どう考えてもヤバイ。

 

「リ、リリ、リアムさん。この状況マズいのでは?」

 

「大丈夫だ」

 

リアムさんは何でもない事の様に大丈夫だと繰り返すが、事態はどんどん進んでゆく。

 

奥に立っていた男の人の合図で、台の上に金網が置かれ、どこからか持ってきた大きな肉に刃物を……って。ん?

 

なんだ? 何か様子がおかしいな。

 

「さぁー。聖女様に聖人サマよ。座りな。特等席だ」

 

「あぁ。分かった。お前も座れ」

 

「は、はい」

 

言われるまま、椅子に座り、目の前で起こっていく事をジッと見る。

 

多分。

 

多分だが……、今からお祭りが始まろうとしている?

 

「兄貴ィ! ミスった! 火がねぇ!」

 

「何ィ!? 用意しとけって言っただろうが! ったく。誰かー火の魔術が使える奴は居ねぇのか!?」

 

「そんな奴が居たら、貧民街になんて居ませんよ!」

 

「そりゃそうか! ガハハ! っとー。すまねぇな。ちとミスったみたいだ。少しばかし待ってくれるか?」

 

「それは構わないが」

 

「あの!」

 

私はリアムさんと男の人の会話に割り込みながら、大きく右手を挙げた。

 

その行動で注目が集まり、胸の奥がドクンと大きく跳ねたが、唾を飲み込んで勇気を振り絞る。

 

「あの。火なら、私、付けられます」

 

「本当か?」

 

「は、はい。あっ! 正確には私じゃ無くて、レッドリザードくんが付けられるのですが」

 

「レッドリザードくん?」

 

「はい。出て来て。レッドリザードくん」

 

私は服のボタンを一つ外し、内側からレッドリザードくんを一匹優しく掴んで外へと出した。

 

まだ朝だからか眠そうにしているが、欠伸と一緒に火を出している所を見ると、多分話は聞いていたんだと思う。

 

「レッドリザードくん。お願いできる?」

 

「きゅ」

 

「ありがとう。あの! そちらにあるお肉の良い所を少しいただけますか?」

 

「お、おぅ。おい! 聖女様用の奴を出しな!」

 

「はい!」

 

それからすぐに大きなお肉を皿の上に乗せて持ってきてくれたので、私はお礼を言いながらレッドリザードくんにそのお肉をあげるのだった。

 

ついでにまだ服の中で眠っていた他の子たちも起こして、みんなで分ける様に言いながら、肉の上に下ろす。

 

「ふふ。美味しいですか?」

 

「きゅ!」

 

「きゅっきゅっ」

 

本当に美味しいのだろう。嬉しそうにレッドリザードくんたちは踊っていた。

 

「では、みんな。お願いできますか?」

 

「きゅ!」

 

そして、私は十分に満足したであろうレッドリザードくんにお願いして、それぞれの台の上で火を出して貰った。

 

「おぉ……すげぇ」

 

「聖女様ってのは不思議な力を使うんだな」

 

「いえ。私の力ではありませんよ。これはレッドリザードくんの力です」

 

「それでもさ。俺たちはこんな奴らが居るなんて、知らなかったからな」

 

「では、これからレッドリザードくんを見つけたら、美味しい食べ物をあげてみて下さい。きっと力を貸してくれますよ」

 

「そうか。あー。また聖女様に助けられちまったな! 今回は礼をしたかったのに!」

 

「……?」

 

私はどういう事だろうかと首を傾げると、リアムさんが理由を説明してくれた。

 

「これから寒い季節になるからな。貧民街じゃあその寒さで人が死ぬ。しかし、レッドリザードが居れば、その寒さをどうにか出来るかもしれない。そういう事さ。前に『お前が』癒した連中も、これでまた長生き出来るさ」

 

「……なるほど」

 

私は、かつてお姉ちゃんが救った人たちを、私もまた救う事が出来たのだと、少しだけ嬉しくなった。

 

お姉ちゃんが居る場所はずっとずっと遠い場所にあるけれど、その先へ一歩だけ近づけた。

 

そんな気がしたのだ。

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