異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証- 作:とーふ@毎日なんか書いてる
夢の中でお姉ちゃんによく似た人と、ジーナという名の女の子を見始めてから夢の中の日数で数日経った。
いや、数年だろうか。
その辺りはよく分からない。
ただ、お姉ちゃんによく似た人と、ジーナという子の時間だけ異様に遅く、見た目が殆ど変わらないから時間間隔が分かりにくいのだ。
ただ、周りの人を見る限りでは、大分時間が過ぎている事だけはよく分かる。
『また戦争ですか』
『はい。アメリア様。人間同士で資源の奪い合いをしている様です』
『どうにか出来ませんかね。食料ならばこの森に沢山ありますし。分け合う事が出来れば彼らも争わずに済むのでは?』
『それは……そうかもしれませんが、元人間として意見をさせていただいてもよろしいでしょうか』
『はい。なんでしょうか』
『人間はアメリア様が考えている以上に愚かです。アメリア様から食料を与えられれば、その食料を使い、新たな争いを始めるでしょう』
『……そんな』
『彼らは皆、それしか手段を持ちません。最悪は、この森へ争いを仕掛けに来るでしょう』
お姉ちゃんによく似た人は、ウトウトと眠そうにしているジーナちゃんを抱きしめて、真剣な表情で唇を噛みしめていた。
それだけ世界の争いは酷くなっているという事なのだろうなと私は他人事の様に思う。
しかし、そんな私の遠い感情をより近くに持ってくる様な事件が起こった。
外の世界から戦争が仕掛けられたのである。
お姉ちゃんによく似た人は必死に戦っていたが、結局多くの仲間を失い、捕まってしまった。
指導者の様な立場であった人を失った彼らは散り散りになり、人間の中に紛れて暮らす人、残されたジーナという子と一緒に森の奥へ向かう人と別れた。
そして、それからいくつか争いが起きて、結局森の奥へ向かった子たちはジーナという子を残して皆、命を落としてしまうのだった。
悲劇だ。
そんな一言で片づけて良い話では無いのだろうけれど、一人、また一人と失われていく命に、何も出来ず、嘆くばかりであったジーナちゃんに私は自分を重ねていた。
お姉ちゃんを失い、必死に世界へ抗うジーナちゃんと、お姉ちゃんを失って、生きる意味を探して世界を旅する私が。
同じだ。
同じなのだ。
状況も境遇も違うけれど、同じ物がある。
それはお姉ちゃんと静かな時間を過ごすのが好きだったという事であり、それを失ってしまい、荒れ狂う感情をどうにも処理できず行動するしかないという状態がだ。
『ママ。お姉ちゃんは?』
『駄目だね。聖剣とやらに封じ込められてどうにも救えないよ』
『そっか。もうどうしようもないんだ』
しかし、それでも私の方が救われているというのは確かだ。
だって、空の果てに行けばお姉ちゃんは帰ってくる。
ジーナちゃんはもう駄目なのだ。
聖剣と共にお姉さんは封じられてしまい。あれをどうにか出来ないと、お姉さんは決して救えない。
しかし、聖剣は人間の町の中心部にある。
どうにも出来ないのだ。
同情したくなる気持ちはある。
しかし、下ばかり見て、自分を慰めていても仕方ないのだ。
私だって、一歩間違えばお姉ちゃんを永遠に失う。
それはジーナちゃんと同じなのだから。
だから私は、もしかしたら自分が辿るかもしれない未来を見るために、ジーナちゃんの姿を最後まで見た。
魔法使いの最後の生き残りとして、多くの神獣と共に人間と戦い、最後には火を生み出す兵器によって炎の中に消えてしまった少女を。
ジーナちゃんが消えて、真っ暗になった世界で私は一人暗闇の中に浮かんでいた。
周囲には何も見えない。
だというのに、私はいつまでも夢から覚めず、ただ漂う事しか出来ないのだ。
いつこの夢は終わるのだろうか。
「……どうして私は」
『聞こえるか。リリィよ』
「っ!? 誰!?」
『我は、魔王。お前の姉。アメリアとかつて共にあった者だ』
「お姉ちゃんと!?」
『今までお前が見ていた物は我の記憶だ。アメリアと繋がっていた我の意識が、アメリアを通じてお主に流れてしまったらしい。嫌な物を見せたな』
「……なら、やっぱりあれはお姉ちゃんなの?」
『そうだ。お前の姉。アメリアがかつて魔法使いの姫と呼ばれていた頃の記憶だ』
「そう、なんだ」
魔王さんの言葉を聞いて、私は酷く悲しい気持ちになった。
だって、魔王さんの言っている事が本当なら、お姉ちゃんの本当の妹は私じゃ無いからだ。
私は……。
『一つ。勘違いをしている様だから、言っておこうか』
「勘違い?」
『アメリアにとって、お主は間違いなく大切な妹であった。リリィ。お前は決してジーナの代わりでは無い』
「っ」
『久しぶりに再会した時にな。アメリアはお主の話をしつこいくらいにしていたぞ。大切な妹なのだと言っていた。お主はどうなのだ? リリィ。お主にとってアメリアはどんな姉であった』
私は、魔王さんの言葉に胸の奥で気持ちが溢れるのを感じた。
抑えられない。
「大切だよ。大切な、世界で一番大好きなお姉ちゃんだったよ!!」
『ならばそれが全ての真実だ。それ以外には存在しない。リリィにとってアメリアは何よりも大切な姉であり、アメリアにとってお主は生きる希望であった』
「……希望」
『お主も見たであろう? アメリアは全てを失ったのだ。かつて共にあった大切な物を全て。だからアメリアは、一人世界の片隅でその命を捨てるつもりであった。しかし、そこで出会ったのが……』
魔王さんの言葉と共に一つの映像が映し出される。
それは光の無い目でさ迷うお姉ちゃんの前で泣く、小さな赤子。
そして、その赤子は血に濡れたお姉ちゃんの指を握り、笑った。
『あぁ……あぁ……私にも、まだ、こんなにも』
お姉ちゃんの声が聞こえる。
私が生まれた時からずっと、ずっと聞き続けていた大好きなお姉ちゃんの声が。
『なぁ、リリィ。一つ頼まれごとをしても良いか?』
「……なんでしょうか。魔王さん」
『空の果てに居るあ奴に出会ったら、我が怒っていたと伝えてくれ。「幸せになる前に命を捨てるとは何事か」と言っていたと』
「分かりました。確かに」
『あぁ。では頼む。すまんな。我はまた眠りにつく。長い眠りにな』
「そうなんですね……分かりました」
魔王さんはもうお姉ちゃんと直接話が出来る状態では無いのだろうという事は、魔王さんの言葉から何となく察することが出来た。
しかし、だからと言って私に魔王さんを救う事など出来ない。
私は何でも出来るお姉ちゃんでは無いのだ。
出来る事は頼まれた伝言を確かにお姉ちゃんへ伝える事くらいだ。
「魔王さん」
『どうした? リリィ』
「私、確かにお姉ちゃんへ魔王さんの言葉を伝えますよ」
『そうか。ありがたい』
「それで! それで! お姉ちゃんを空の果てから連れ戻して来たら、必ず魔王さんも助けに来ますから!」
『……リリィ』
「だから、待っててください。私は、必ず……!」
『あぁ、ゆるりと待っていよう。お主らの輝きを、闇の底から眺めていようじゃないか』
私の体は闇の中でふわりと浮き上がり、上の方へと動き始めた。
上だと思っている方が本当に上なのかは分からないが、多分上だ。
そして、私は視界が光に塗りつぶされていく中、最後まで魔王さんに声をかけ続けるのだった。