異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証- 作:とーふ@毎日なんか書いてる
私たちが大きな影に囲まれ、その影との戦いが始まってから数刻。
圧倒的な強さのリアムさんとフィンさん、そしてそんな二人を援護するキャロンさんとカーネリアン君によって、戦いは圧倒的にこちらが有利な状態で進んでいたが、状況は何も好転していなかった。
何故なら、影はリアムさんやフィンさんに切られても、キャロンさんに燃やされても、カーネリアン君やエルフさんの風に散らされても、当たり前の様に復元してしまうからだ。
敵を攻撃して、一時的にとはその体を崩す事で攻撃をさせない事は出来るが、それだけだ。
こちらは時間と共に消耗してゆくし、逃げようとすれば、影は崩れている状態からでも、のしかかって道を塞ぎながら攻撃しようとしてくる。
私という足手まといが居る以上、どうやってもここを切り抜けるのは難しい。
「まったく。面倒な事を仕掛けてくるね。流石は陰魔。ジメジメとした面倒な手だ」
「文句言ってないでお前も働け! エルフ!」
「働いているじゃ無いか。適度に影を散らしているだろう?」
「もっと広範囲に霧を吹き飛ばしたりは出来ないの?」
「それをしても構わないが、私以外は全員吹き飛ぶ事になるぞ」
「それは却下だな」
「だろう? だからこうして地道に散らしているのだ」
「なら、大樹を生やして、そこに隠れれば良いです!」
「その後どうやって逃げるんだ。チビッ子!」
「千年くらいしたら影もきっと消えるです」
「千年経ったら影の前に俺たちの方が終わってるよ。ドライアードちゃん」
「……」
私はまだ余裕はありつつも、既に追い詰められ始めている状況に目を細めた。
私が居なければ、皆さんはすぐに脱出する事が出来る。
「おい。リリィ!」
「っ! はい。なんでしょうか。リアムさん」
「今、ろくでもない事を考えているんじゃないだろうな?」
地面から空中へ飛び、正面の影を幾度も切り裂いてボロボロにしたリアムさんが、私の傍に居りながら私を睨みつけて言い放った。
そして、背後からは同じ様に影を通り抜けながら剣で両断していたフィンさんが私の背中を叩きながら、笑う。
「まだ君が自分を捨てるほどの危機じゃない。諦めるには早すぎるよ。リリィちゃん」
「そうだぜ! リリィ! 俺たちは全然まだまだ余裕なんだからさ!」
「一人で何とかしようとしないで。アタシたちにも頼ってよ」
「……みなさん」
私はキュッと胸が締め付けられる様な感覚を覚えながら自分の頬を両手で強く叩いた。
そして痛みで滲んだ涙を振り払って、影を見据える。
私が囮になる方法じゃ無くて、影を倒す方法を考えるんだ。
私はお姉ちゃんじゃない。何でもかんでも出来るほど優秀じゃない。
でも! でも!! 今、この場所にはお姉ちゃんと一緒に旅をした、強い人たちが居るんだ。
「負けるもんか」
どんなに強い敵だって。
そんな敵に負けてしまいそうな自分の弱い心にだって。
私は負けない。
そうだ。私はまだやれる事を全部やっていない。
諦めるのは早すぎるのだ。
「良い目になったな。リリィ」
「リアムさん……」
「何か試したい事があるなら言え。協力する」
「なら……今、一つ思いついた事があります」
「ほう言ってみろ」
「説得は、出来ないでしょうか? 攻撃は効かないけれど、こちらに対する攻撃手段も殆どない。こんな状態では向こうだっていつまで魔力が持つか分かりません。であるならば交渉は出来ると思うのです」
「っ! 俺は、構わん!! やってみろ!!」
「そうね! アタシも賛成! 燃えろ!」
リアムさんとキャロンさんは復活した影を攻撃しながら頷いてくれ、フィンさんとカーネリアン君も頷いてくれる。
私は皆さんの声を聞きながら目を閉じて、自分の中に居るお姉ちゃんに語り掛けた。
(お姉ちゃん。お姉ちゃん。聞こえる?)
『えぇ。聞こえますよ。そしてリリィの提案も聞こえていました。私もお話をする事で何か解決出来るのではないかと考えていました』
(なら! お姉ちゃん。協力して。私もあの人たちと話がしたいの)
『分かりました。では、光の魔力に意識を合わせてください』
(うん)
私は両手を握り、膝をついて祈る。
争いを止める為に。
「聞こえていますか?」
私の声は霧を通り、どこまでも響く。
「『聞こえていますか?』」
そして、私の声とお姉ちゃんの声が重なって、この周辺に広く響いていった。
しかし叫ぶような声では無い。
ただ心にそっと触れる様な柔らかい声だ。
「攻撃が……止まった?」
「このまま逃げるか?」
「いや、待て。リリィが説得出来るのなら、その方が良い」
「そうね」
リアムさん達の声を聞きながら、私はこの霧の向こうに居る人に向かって話しかけた。
語り掛ける。
争いではなく、話し合いがしたいのだと。
「『陰魔さん。私の話を聞いてください』」
ふと、霧の向こうから何か気配がした。
その何かは、姿を見せる様な事はしなかったが、攻撃する様な事も無いらしい。
私の言葉をただ聞いている様だった。
「私は、アメリアお姉ちゃんの妹、リリィです。今、皆さんに語り掛けているのは、お姉ちゃんの力を借りて行っています」
「……っ! では、お前の中には姫様が居るというのか」
「はい」
「そうか」
霧の向こう側で、陰魔さんと思われる気配が笑ったのを感じた。
これは、もしかしたら交渉が上手く……。
「ならば、お前の体を使えば、姫様を復活させる事も出来るという事だな!?」
「リリィ!!」
霧の中から陰魔さんが黒い何かを放って、それが私に向かって真っすぐに飛んできていた。
が、それをリアムさんが剣で弾く。
そしてエルフさんが霧の向こうに居る陰魔さんへ向かって眩しい閃光の様な何かを放った。
「一線を越えたな!? 陰魔!!」
「エルフ……! 貴様、人間の味方をするのか!?」
「当然だろう? 人間が居なければ長大な時間を退屈で塗りつぶさなければいけない。人間を見捨てる理由はない」
「そんな物! 別の物で満たせば良いだろう!! 人間なんて!」
「フン。人間を餌にしている陰魔の言葉とは思えないな。人間が居なければ滅びるのはお前たちだろう?」
「そ、それは……か、数を制限すれば良い。姫様に従う物以外は全て排除して、その中で管理していけば」
「身勝手な理想だな。それを姫様が望むと思うのか?」
「くっ」
「姫様が、人間に囚われた時、本当に脱出する事が出来なかったと思うのか!? 真実! どうやっても無理だったと本気で思っているのか!? 姫様が何を考えていたか、分かるだろう!? お前たちだって。直接語り合わずとも、森の奥で穏やかに暮らしていたあの方が! 何を想い、どうして人間の中にその身を置いたのか!! 分かっているからこそ、お前たちも人間に近づいて、恋愛感情から、彼らを知ろうとしたんじゃないのか!?」
「う、うるさい! うるさい!! 知った様な事を言うな! 私は、私たちは、ただ森で過ごすあの時間が好きだったんだ。闇の中で、姫様が我らに与えてくれた夢が全てだったんだ! それだけで良かったんだ!! 変化なんて、人間なんて私たちは求めていない!! 姫様を捨ててまで、得られる物など、何もない!!」
「陰魔!! 雷よ! 奴を……! なに!?」
「もう良い! 姫様がまだ存在すると分かれば、私たちがやる事はただ一つだけだ。お前たちを倒し、姫様を取り戻す! それだけだ!!」
陰魔さんは、エルフさんの、そして私たちの言葉を拒絶すると後ろに居た影も周囲を覆っていた霧も全て集め、一つの大きな影にする。
そして天を貫く様な巨大な影が、私たちの前に立ちふさがるのだった。