異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第84話『お姉ちゃん。お姉ちゃんは生まれた瞬間から特別で。今この瞬間も特別な存在なんだよ? 勘違いしないでね?』

私は厨房で起こった事を、飛行機の中で食事を食べながらお姉ちゃんに訴えていた。

 

しかし、その言葉を聞いて、一番最初に反応したのはドーラさんであった。

 

「アッハッハ!! ウチの子供たちが悪い事をしたね。リリィ」

 

「い、いえ。悪い事では無いんですけど。お姉ちゃんが評価されないみたいで、腹が立ちました」

 

「ワハハ!! 素直なのは良い事だ。何も言わず腐ってるよりは、口にした方が良い事もあるからね」

 

「……なるほど」

 

「ただ、そうだね。一つだけ間違いを訂正をしておこうか。リリィ」

 

「間違い。ですか?」

 

「そう。間違いさ。確かにアタシらオークにとって、アメリアもお前さんも好みの姿はしていない。しかし、それでもアメリアは特別なのさ」

 

「……」

 

「昔、世界がまだ暗闇に包まれてた時代。アタシたちの先祖は、小さな灯りだけを手に持ってひっそりとその世界で生きていたのさ。オークという種族は決して弱く無いが、世界の覇者となれるほど強い訳じゃ無いからね」

 

ドーラさんはグラスに入ったお酒を見ながら語る。

 

遠い昔の話を。

 

「そんな世界で、堂々と世界の中心で生きていた種族が居た。それは魔法使いと呼ばれる種族だ。奴らは様々な知識と魔法という不思議な力を使って、まさに世界の覇者として生きていたのさ。しかし、だ。そんな魔法使いの事を、アタシらオークも、オーガも、獣人も、精霊たちも、誰も怖がっては居なかった。何故か分かるかい? リリィ」

 

「その魔法使いのお姫様がお姉ちゃんだったから、ですか?」

 

「そう。その通りさ。アメリアはどんな相手にも等しく、自分たちの持っている物を分け与えた。傷ついた体を癒し、食料を渡し、暗闇の中で生きる術を授けた。あの頃のオークにとって、アメリアはまさに神とでも言うような存在だったみたいだね。まぁあの時代の文書を読めば、これでもかってくらい美化されて書かれてるよ。絵なんかもいい例だね。地上に舞い降りた救いの女神なんて題名で、綺麗な顔をしたアメリアが描かれているよ。まぁ、今はこんな抜けた顔になっちまったが」

 

『えへへ。面目次第もありませんね』

 

「確かに神々しいお姉ちゃんも良いかもしれないですけど。私は可愛いお姉ちゃんも好きです」

 

『リリィ!?』

 

「そうだね。アタシも同意見だよ。リリィ。少しくらい抜けてる方がアメリアらしい」

 

『ドーラさん!?』

 

キョロキョロと私とドーラさんを交互に見るお姉ちゃんを見ながら私はクスリと笑った。

 

そして、お姉ちゃんにたった一つの真実を伝える。

 

「お姉ちゃん。お姉ちゃんは生まれた瞬間から特別で。今この瞬間も特別な存在なんだよ? 勘違いしないでね?」

 

『えぇ……』

 

「アッハッハ! リリィ。お前は本当に面白い子だね! 人間じゃ無かったら息子たちの嫁に欲しかったくらいさ!」

 

「いえ。私はお姉ちゃん一筋なので」

 

「アッハッハ!! 本当に面白い子だ。なら、明日の飛行は頑張りな。途中までは運んでやれるが、そこから先は切り離した別の小型飛行機で行くしかない。天空庭園まで行ければ、そこから先は風に乗れるだろうが、気合を入れないとどっかに飛ばされちまうよ?」

 

「はい! 頑張ります!」

 

「よし。良い返事だ! お前たち。明日は本番だ。気合を入れな! 喰うもん喰って、体力付けて! 空の果てだ! いいね!!?」

 

そんなドーラさんの言葉を合図として、私たちはご飯を再び食べるべくスプーンを手に取った。

 

そして、食べられない程の量を食べる事になり、満腹で動けなくなってしまうのであった。

 

 

 

翌日。

 

昼間は先日同様に、飛行機の整備を行って、夜いよいよ空に向かって飛び立つ事になった。

 

私たちはドーラさんの船で。

 

カー君はマルコさんの飛行機に乗り、リアムさんとフィンさんは以前お姉ちゃんが乗ったというボスさんの飛行機に乗る。

 

最悪どれかが落ちても、残った飛行機にお姉ちゃんと私が飛び移って、空の果てにある世界を目指すという作戦だ。

 

上手くいくかは分からない。

 

けれど、やれることはやったのだから、後は上手くいくと祈る。

 

それだけだ。

 

しかし、怖いものは怖い。

 

私はドーラさんの飛行機の上にある小さな飛行機に乗ると、体を震えさせた。

 

『リリィ。怖いですか?』

 

「……うん。正直に言うと、怖い」

 

小さく狭い飛行機の中で、私の震える体を後ろから抱きしめてお姉ちゃんが囁く。

 

そんなお姉ちゃんの声に応えながら、私もお姉ちゃんの手を握って素直に不安を吐き出すのだった。

 

『大丈夫。ドーラさんの船が落ちても、いざとなったら私が風の魔術で……』

 

「違う! 違うの」

 

『……っ、リリィ』

 

「空に飛ぶ事も、落ちる事も、何も、何も怖くない。私が怖いのは、お姉ちゃんがこのまま消えちゃうんじゃないかって事なの」

 

『……』

 

「お姉ちゃんは今ここに居るけれど、魔力が無いと触れないし。話をしてても、次の瞬間には消えちゃうかもしれない! ……このまま空の果てに行ったら、そこでお別れになるかもしれない。それが私は、怖い」

 

『リリィ』

 

お姉ちゃんは私の体を強く、ギュっと抱きしめると、ゆっくりと私を安心させる様に語り始めた。

 

『リリィ。リリィは昔の事、どれくらい覚えてますか?』

 

「全部覚えてるよ」

 

『ふふ。リリィは凄いですね。ではリリィが夜が怖くて眠れなかった日の事を覚えてますか?』

 

「そんなの、いっぱいあって、どれか分からないよ」

 

『そう言えば、そうでしたね。でもあの夜は、そんないっぱいあった日の中でも特別な日でしたよ。そう。空いっぱいに星が煌めいていて、手を伸ばせば届きそうな夜、多くの星が流れては消えていったあの夜。リリィは覚えていますか?』

 

私はお姉ちゃんの言葉にすぐ思い出していた。

 

忘れるはずがない。

 

だって、お姉ちゃんだけじゃなくて、私にとってもあの日は特別な夜だったから。

 

「星の誓い」

 

『やっぱり覚えていてくれたんですね。リリィ』

 

「忘れた日なんて無いよ」

 

『では、リリィ。もう一度。私は星に誓いましょう』

 

頭の中で、昔のお姉ちゃんが優しく私の手を取りながら話す言葉と、今ここに居るお姉ちゃんが語る言葉が重なる。

 

『『これから先。リリィには沢山の怖い事と、いっぱいの困った事がやってくるかもしれません。その時、もしかしたら私は傍に居ないかもしれません』』

 

『え……やだ、お姉ちゃん、どこにも行かないで』

 

『大丈夫。私はまだここに居ますよ』

 

『うん』

 

『『でも、もし私が居なくても、大丈夫。何も心配はいりません。何故なら、お姉ちゃんはいつ、どんな時でもリリィを見守っているからです』』

 

『でも、でも、どこかに行っちゃうかも、なんでしょ?』

 

『それでも、それでもですよ。リリィ』

 

『『空を見上げてください。あの星々はみんな私がリリィの怖い気持ちを無くす為に、空に描いた希望なんです』』

 

『希望』

 

『そう。希望です。とびっきりの幸せが、リリィにやってきますように。リリィの夢が叶います様に。という私の願いです』

 

『『だから、怖い時は空を見上げてください。私はそこに居ます。涙が零れそうな夜は星に願ってください。私はリリィが泣き止むまで、そこにいつまでも居ますよ』』

 

あぁ……。

 

私は空を見上げながら、一筋の涙を流した。

 

もう私の中に恐怖は無い。

 

例え、この後にどんな未来が待っていたとしても。

 

お姉ちゃんと誓った夜の事を思い出したから。

 

そうだ。

 

どんな未来が待っていたとしても、私とお姉ちゃんは永遠だ。

 

『さぁー!! 野郎ども! 準備は良いか!? 出発準備! 旅立ちの風が来るよっ!! 気合を入れなァ!』

 

そうだ。始まる。

 

今、世界が。

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