異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第85話『違う。私たちに必要なのは、何でも分かる知識とか、誰にでも勝てる強さなんかじゃない。誰かと繋ぎ合う手だよ』

とんでもない突風と共に空へ浮き上がった飛行機は、そのまま大空へと一気に舞い上がって、遥か空の向こうへ飛び始めた。

 

しかし、その空の旅も順調とは行かず、私とお姉ちゃんは切り離された小さな飛行機で更なる先へ、二人だけで向かう事になったのである。

 

『ドーラさん!!』

 

『アタシらは大丈夫だ! 自分たちの心配だけしてな! アメ……ア! リ……! 必ず帰っ……』

 

ドーラさんの言葉は途中で途切れてしまい、私たちは目の前に迫った雷雲の中に突っ込んだ。

 

お姉ちゃんが上手く風の魔術を使いながら、飛行機を操作するけれど、激しい突風と雷雨は飛行機の外側を強く打ち付けて、今にもバラバラになってしまいそうである。

 

「お、お姉ちゃん!」

 

『ダイジョーブ! お姉ちゃんに任せてください!』

 

「でもっ、バラバラになっちゃうよ!」

 

『それは……祈りましょう。ドーラさん達の腕を信じましょう』

 

「……っ! なに!? 何か」

 

『どうしました? リリィ』

 

「光が見えた……気がする」

 

『分かりました。ではそちらへ向かいましょう!』

 

「え? でも、勘違いかもしれないし」

 

『大丈夫。その時は、その時考えましょう!』

 

「……うん!」

 

お姉ちゃんの頼もしい声に、私は大きく頷きながら、飛行機に掴まり、先ほど見えた光に向かって突き進んだ。

 

そして、飛行機は真っすぐに進み、やがて暴風の中から外へと出るのだった。

 

「……!」

 

『出ました! 何とかなりましたね! リリィ!』

 

「うん……綺麗」

 

雷雲を抜けて、穏やかな風の空の世界へ飛び出した飛行機は、緩やかに進んでゆく。

 

地平線すら微かにしか見えない上空では、四方全てが星々で煌めいていて、星の中に私たちも居る様だった。

 

そのまま飛行機は、ゆっくりと飛んで行き、空の果てに向かって進む。

 

「……あれは」

 

『天空庭園ですね。昔、遠い昔に人間が暗闇の世界か飛びだって、雲の上に住もうとして作った空飛ぶ園です』

 

「じゃあ今でも人が住んでるの?」

 

『いえ。住んでいませんよ。計画は失敗しましたから』

 

「そうなんだ」

 

『人はどこへ住処を移しても己の業から逃れる事は出来ませんからね。楽園を作っても、楽園の中で争うだけ。誰かを幸せにしようと願い、作られた物も、やがては争いの道具となる』

 

「……」

 

『でも』

 

「それでも、お姉ちゃんは世界を変えたいんでしょ?」

 

『リリィ』

 

私は天空庭園から目線を外し、後ろに居るお姉ちゃんを見た。

 

そして、笑う。

 

お姉ちゃんが願う未来は、こんな夢の果てじゃないでしょ? と。

 

「お姉ちゃん。人はね。変わるよ」

 

『……』

 

「確かに人は愚かかもしれない。争いを止められないかもしれない。他人を踏みつけて、自分の欲望だけを選ぶかもしれない。でも、それでも、それだけが全部じゃない。全ての人がそうじゃ無かったでしょ?」

 

『そう、ですね』

 

お姉ちゃんは目を閉じながら、呟く。

 

「だから、大丈夫。人は変わる。勿論すぐは無理かもしれない。どうやっても変われない人も居るかもしれない。でも、世界を変える事は出来る。私はそう信じてる」

 

『リリィ』

 

「お姉ちゃん。だからさ。見ててよ。空の上なんかじゃなくて。私の傍で。この世界で。色々な人たちが生きる世界で! 私たちを見て。きっと変えて見せるから」

 

お姉ちゃんは深く息を吐いて、空に向かって何か言葉を呟いた。

 

その言葉は大きな風となって、私たちの乗っている飛行機に届き、ガタガタと機体を揺らす。

 

私は飛ばされない様に、飛行機の機体にしがみ付きながら目を閉じた。

 

そして……。

 

「リリィ」

 

次に目を開いた時には、奇跡が起きていた。

 

ボロボロになった飛行機の中で、キラキラと輝く星々を背に置いて、眩しい月明りに照らされた人がそこにいたのだ。

 

「……お姉ちゃん」

 

「私は我儘です。終わりを望んでいたハズなのに。リリィの手を借りて、こんな風に戻ってきてしまった」

 

「良いんだよ。それで。それで良いんだ! お姉ちゃん。誰だって一人で生きていくのは怖いよ。空の果てだって、そうだ。怖いに決まってる。だから、だからさ。私はお姉ちゃんと一緒に行きたいんだ。私はどうしようもなく怖がりだから。一人で進むなんて出来ない。どうすれば良いかも分からない。けれど、それで良いんだよ。私たちはそれで良いんだ」

 

「……リリィ」

 

「何も見えない道に必要なのは何? 何でも倒せる武器? 違う。私たちに必要なのは、何でも分かる知識とか、誰にでも勝てる強さなんかじゃない。誰かと繋ぎ合う手だよ。こうして、怖がりのお姉ちゃんを包む込める、私の手なんだ。人は誰かと生きていく生物なんだから」

 

「あぁ、そうですね。本当に……そうですね」

 

お姉ちゃんは静かに涙を流しながら、ボロボロの飛行機を動かして、旋回し、来た道を戻ってゆく。

 

しかし、やはりボロボロになり過ぎたのか。失速し、天空庭園に落ちてしまった。

 

「困りましたね。どうしましょうか」

 

「大丈夫だよ」

 

「リリィ?」

 

「大丈夫。さっきも言ったでしょ? 私たちは誰かと手を繋ぎ合って生きていく生物なんだ。だから……」

 

「おぉーい!! 大丈夫かー!!?」

 

「……! マルコさん。それに、カー君」

 

天空庭園の下に見える紅い飛行機に向かって、私はお姉ちゃんと手を繋ぎながら飛び降りた。

 

「うぉっ!? 飛んだ!!? おい! カーネリアン! 機体を寄せろ!!」

 

「待って待って! 今やってる! 姉ちゃん! リリィ! 飛ぶの早い!!」

 

私はお姉ちゃんに笑いかけて、今しがた聞こえてきた風の精霊に力を求めた。

 

私とお姉ちゃんを空に!!

 

「これは……リリィ」

 

「大丈夫。お姉ちゃん。私を信じて。一緒に。力を使って」

 

「……分かりました」

 

空を飛びながら両手を繋いで魔力を互いに循環させる。

 

そして、そのまま風に乗ってマルコさんの飛行機に向かうのだった。

 

「お、おぉ……すげぇ」

 

「大丈夫か? 姉ちゃん。リリィ」

 

「えぇ。大丈夫ですよ。カー君」

 

「うん。大丈夫」

 

「そっか」

 

安心する様に笑うカーネリアン君とマルコさんに笑いながら、私たちは飛行機の両翼にそれぞれ座り、風の精霊に力を借りて飛行機を安定させるのだった。

 

それからマルコさんの操縦技術で地上へとゆっくり向かってゆき、私は空の世界に別れを告げた。

 

もう少し、お姉ちゃんを借りてゆくと、心で言葉を残して。

 

 

 

地上に帰ってきた私たちに待っていたのはドーラさんの熱い抱擁であり、リアムさん達やボスさん達の様な作戦に協力してくれた人たちの笑顔だった。

 

お姉ちゃんが体を取り戻して帰ってきたと信じて喜んでくれている人もいっぱい居る。

 

これで良かったのか、答えは見えないけれど、未来はいつでも見えない暗闇の向こうにあるのだ。

 

今はただ、手に繋いだお姉ちゃんの体温を信じて進んでゆこう。

 

それだけで大丈夫だ。

 

「いよっしゃー! じゃあ宴会をやるぞー!!」

 

「いえーい!!」

 

「あ。でもボス。これからどうするんですか? レースの前に機体をボロボロにしちまって」

 

「明日から直せば良いだろうが! 男ならグダグダ言うな!」

 

「あいてっ!」

 

「いや、でもよ? ママ。ウチもどうする? 当分飛べないぜ?」

 

「そこを何とかするのが、腕の見せ所だろうが。やる前に泣き言言うんじゃないよ」

 

「これだもんなぁ」

 

宴会で騒いでいる中、私の我儘で被害を受けてしまった人たちに、何とかお詫びできないかと私は声を掛け、彼らの飛行機が直るまで修理を手伝う事にした。

 

リアムさん達も頷いてくれ、私たちはもう少しだけ、この場所で過ごす事になったのである。

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