今度は殺されることなく黄金騎士野郎をぶっ殺した。生前は喧嘩もしたことのない太っちょだったのに、巧みに刀を操り、敵の初動に合わせてローリングで回避するなど卓越した戦闘力を発揮した我がボディ。
覚えていなくても体に技が染み込んでいるレベルのそれで、やはり前世の記憶が甦るまでかなり濃い人生を歩んできたみたいだ。
しかし、奴は人間かどうかも怪しい。なにせ、倒したと思ったら塵となって消えたのだ。
幽霊にしては存在感がありすぎるし、もしかしたらそういう種族なのかもしれない。
「おっ、祝福発見」
道なりに進んでいくと崩れた教会を発見。中に入ると祝福があった。
手で触れると火の粉のような光の粒子を飛ばし、一段と輝きが増す。
「……どうすっかな」
祝福を越えた先。教会の隅で焚火をしている男が、さっきからこっちをジッと見つめている。
……なんでサンタクロースのような恰好をしているんだろうか。
(取り敢えず話しかけるか)
エネミーの可能性は低いだろうし、俺にはこの魔刀【夜の刃】があるから、何かあっても安心。
とりあえず日も暮れて来たから今日のところはここで一夜を明かすつもりだ。挨拶くらいしたほうが良いだろう。
「あー、すみません」
「……あんた、褪せ人か」
あ、アンタまで……!
もう汗人と呼ばれることを受け入れよう……。
「今日はここを寝床に考えているので、ご挨拶をしようと」
「律儀だなあんた……。どうやら俺を襲う気もないようだ」
俺は誰かれ構わず襲い掛かる蛮族ではない。
カーレと名乗った男は行商人らしく商品を見せてもらったのだが、残念ながら全部四次元ポーチにあるものだった。もし珍しいものを入荷したら教えてくれ。
断りを入れてその場を離れた俺は、焚き火を囲むように祝福の側に腰を下ろす。
(今後どうすっかなぁ……)
段々暮れていくそれを見上げながら思考を巡らせる。まともな人もいることは分かったが、死にゲーなのだから基本戦闘がメインだろう。
だけど、何を目的に行動すればいいのか分からない。
普通なら元の世界に戻るための手掛かりを探す旅に出るのだろうが、不思議と元の世界に帰りたいという想いはないし。
教会で倒れていたシスターはエルデの王がどうたらとメッセージを残していたし、ヴァレーは俺たち褪せ人は祝福の導きに従う生き物的なことを言っていたような気がするが。
(取りあえず、あの城に向かうか)
丘の上から見えた断崖絶壁の上に立つ孤城。城主と謁見してから今後のことを決めよう。
どこか心が暖かくなる祝福の光を眺めながら、そんなことを考えていると――。
「――っ! 誰だ……っ!」
草葉を踏み締める音が聞こえ、咄嗟に腰に差した刀の柄に手を掛ける。
「落ち着いて。敵じゃないわ」
涼やかな声とともに現れたのは、目を見張るほどの美女だった。
軽いウェーブが掛かった薄いピンク色の髪は肩の高さまであり、前髪は左右に別れていて可愛らしいおでこを見せている。
左目の周りに爪のような特徴的な入れ墨があり、片目を閉じている。もう片方の目は黄金色の瞳。スッと通った鼻梁。薄いピンク色の唇に小さな顎。
モデル並みの整った顔立ちをしたその女性は黒いローブに身を包んでいて、柄に手を当てたまま警戒する俺を前に、静かに腰を下ろした。
「初めまして、霧の彼方から来た褪せ人……」
「また汗人……」
こんな美女まで汗人言うんか……。そんなに汗臭いのか、俺は……。
失意のあまり構えを解いた俺に薄い微笑みを向ける女性。
「私はメリナ。貴方と取引がしたいの」
「取引……?」
宗教の勧誘だろうか、胡散臭さが一気に上がったな。こんな美女なのに残念だ。
夜、初対面の男に対して、いきなり取引を持ち掛けてくるのだ。きっと碌なものじゃない。
「見たところ、貴方はこの地にやって来たばかりで、指の巫女様の加護を受けていない」
「それ、さっきも言われたな。何なんだ、指の巫女って」
「褪せ人を助けて導く存在よ。二本指に仕えているの」
「二本指……」
また分からない単語が出て来た。というか汗人というのは俺個人を指す名前じゃないのか。
中世ヨーロッパも真っ青な退廃的な世界っぽいからな。風呂に入っていない人とか多そうだし、皆汗臭いのかも。
「私なら巫女様の代わりが務まる。ルーンを力に変えて貴方を助けることも。エルデンリングを求めるのなら、きっと役に立つはず」
「エルデンリング?」
はて、それも何処かで聞いたような……。
「……貴方はエルデンリングを求めてこの地に来たのよね?」
「いや、気づいたらこの世界に居たというか。今まで何をしていたのか記憶がないんだ。取り敢えずストームヴィル城に向かっているけど」
「……そうなの」
俺の言葉を聞いた女性――メリナさんは、涼しげな顔のまま黙り込む。
もしかしなくても旨味がないことに気付いたのだろう。意図せず取引を断れたぜ!
「わかった、心配しないで。この世界のことは私が教える。だから貴方は導きに従い、そのままストームヴィル城に向かって」
まさかの取引続行ですか。本当にこの世界について教えてくれるのかも疑問だ。
「そりゃありがたいけど、一先ず取引とやらについて教えてくれ。そっちは何を要求するんだ?」
「私を黄金樹の麓まで連れて行ってほしいの」
「黄金樹?」
「遠目に見える、あの巨大な樹よ。母から授かった使命を確かめるため、私は麓に行かなければならない」
ふぅむ? 思っていたよりマシな理由が来たな。
取りあえず俺を騙してどうこうする、的な感じではなさそうだ。
どうせ運命的なアレで俺も黄金樹に行かなきゃいけないだろうし、この際だから引き受けるか。デメリットもないしな。
取引に応じる旨を伝えると、目尻を和らげるメリナ。ずっと硬い表情だったし、もしかしたら緊張していたのかも。
「それじゃあ、早速ルーンで強化してもらえるか? 結構な量が溜まっているんだ」
「ええ、もちろん。少しだけ触れるわね」
解析眼でポーチの中身を洗い出していた時に自分の体も解析してみたのだが、所有ルーンが一億もあることが分かったのだ。
恐らくルーンは経験値で、それを消費することでレベルアップを図るのだろう。こんだけあれば一気にレベルが上がるはず。
俺の手を取り目を閉じて俯いたメリナだが、やがて困惑顔に変わっていく。
手を取ったまま俺の顔を見上げるメリナは、困ったような表情で告げた。
「…………これ以上強化できないみたい」
「えっ?」
「すべての項目が極限に達しているだなんて……」
そう言うとメリナは熱い視線を向けてきた。心なしか顔が赤らみ目も潤んでいるように見える。
マジか。滅茶苦茶ステータス高いし、体には戦い方が染み込んでるし。なんなら持ち物もコレクター並みの品揃え。
ただ者ではないと感じていたが、まさかカンストしていたとは……。
ホント、どんな人生を歩んできたんだろうか。
「間違いない、今ハッキリと確信したわ。貴方はきっとエルデンリングを手に入れる。誰も成し得なかった奇跡をきっと……」
「だからエルデンリングって何?」
どこか熱にうかれたようにそう口にするメリナだが、その表情がハッとしたものに変わると今度は落ち込んでしまった。
「これ以上強化出来ないとなると、私の力は役に立たない。これでは取引にならないわ……」
せやな。それを売りにしていたんだから、レペルがカンストしてたら使えないわな。
「残されたもので貴方に渡せるものといったら、もうこの体くらいしか……」
「えッ?」
俺としては取引なんてしなくても求めに応じるつもりだったんだが、まさかの提案に思わず声が出てしまった。
そりゃ、体も心も健全な男子だからエロいことには興味津々だ。メリナほどの美人を抱かせてくれるのなら喜んで、所有しているアイテムをあげてもいい。
まさか、この流れはキタか? と布に隠れた目を爛々と輝かせながら尋ねた。
「い、いいのか? 取引とはいえ素性の知れない男に抱かれても」
「……良い訳ないじゃない。でも、他に渡せるものはないし、それに貴方なら……」
そう言って恥ずかしそうにこちらをチラ見するメリナ。
夜の帳が落ちカーレはすっかり寝入っている。大きな音を立てなきゃバレないだろう。
うぉおおおおお! や、やってやる! ヤってやるぜぇえええ……!
「そ、それじゃあお願いしようかな」
「え、ええ。じゃあ、取引成立、ね」
何処からともなく冷気が足元を漂う。
顔を赤く染めたメリナと、同じくらい顔が熱くなっている俺は自然と距離を詰めると、どちらからともなく唇を重ね合わせるのだった。
1
足元を漂う冷気が火照った体をなぞる。
メリナの体には巨大な指で握り締められたような奇怪な火傷跡があったり。汗くさいから『汗人』と言われているかと思えば、目が色褪せているから『褪せ』人呼びされていることが発覚してクソ恥ずい思いをしたり。
緊張のあまり勃起不全に陥ることこそなかったものの、処女の手練手管で即轟沈する羽目となった波乱に満ちた初体験だった。
あ、ちなみに自分の名前は雷斗っす。前世の両親から『雷のように遠くまで轟くほど大きな人になれ』、という願いから付けられた名前で結構気に入っている。
結構際どかったがカーレにバレることなく事を終え、布団代わりにした毛皮のコートの上で寄り添うように身を寄せながら、熱い吐息を吐くメリナ。
うっとりとした顔で胸板に頬を摺り寄せながら、小さく呟いた。
「……素敵だったわ」
メリナのメリナも素敵だったぜ、なんて言えるわけがなく。無難に「俺も最高の夜を過ごせたよ」と告げておく。
事実、前世含めて女性経験が皆無の俺にとって、メリナとの情事は夢のひと時だった。
ピロートークもそこそこに脱いだ衣服を着直す。軽装のメリナと違って俺は鎧のため着脱に少し手間が掛かるが、メリナも手伝ってくれたからあっという間に済んだ。
目隠しの布を巻いて腰に愛刀を差せば、出立の準備が整う。
「また、私を抱きたくなったら喚んで」
「えっ、一回だけじゃ……?」
「あら、誰も一度だけだなんて言ってないわ。私は、貴方の巫女だもの」
そう言い、薄く微笑むメリナ。これからムラムラした時はメリナさんがお世話をしてくれるってことですか!? そんなことまでしてくれるなんて、指巫女最高じゃん……!
他の褪せ人たちもこの恩恵を授かっているのなら、命を賭けてエルデンリングを求めるのも理解できる。
「これを渡しておく。生命力や魔力を回復させる秘薬よ。この先の旅できっと役に立つはず」
そう言い渡してきたのは、二つの小瓶。お洒落な装飾が施されたフラスコチックの瓶には、それぞれ赤と青の液体が入っている。
その瓶には見覚えがあった。ポーチを開けて一番最初に目に入ったものだからな。
「それなら俺も持ってるぞ。ほれ」
ポーチから取り出した小瓶と見比べると、やはり同じものであると分かる。違う点は液体の量か。
メリナの小瓶は全体の五分の一くらいだが、俺が所持していた瓶は満タン状態。
生命力と魔力を回復するということは、これが回復薬なのかな。必須アイテムだろうから、紐でベルトに括っておかないと。
ていうか、これは飲むタイプ? それともかけるタイプ?
「……貴方が持ち合わせていないものは何なのかしら?」
それは俺も分からん。案外なかったりしてな。
「でも、流石の貴方もこれは持っていないよね。これは、トレントという駿馬の霊を呼び寄せる指笛よ」
「ブルルッ」
次にメリナが取り出したのは指輪のような形をした金色の指笛だった。アクセサリーの類いも百種類以上あるけど、流石にオーダーメイド品はないだろう。多分。
メリナが指笛を取り出すと、何処からともなく一頭の馬が姿を見せる。頭に角が生えてるんですが……。
「……珍しいわね、トレントが勝手に出てくるなんて。それほど貴方のことが気に入っているのね」
馬?は人懐こい性格のようで、こちらに近付いてくるとあたまを擦り付けてきた。機嫌良さげに尻尾を振っている。
前世ではトレ〇ン学園でトレーナーをしていたから馬は結構好きな方だ。ちなみに俺の肩書きはトレーナー兼提督兼カル〇アのマスターである。
「用があったら祝福で私を呼んで。いつでも貴方を見ているわ」
「……消えた?」
体を粒子化させるような感じで搔き消えたメリナだが、よく視ると完全に消えてはいない。なんというか、半透明の状態でその場に佇んでいる。
そういえばトレントが現れた時や、あの黄金騎士を倒した時も粒子化していた。トレントは霊馬って言ってたけど、まさか幽霊……?
「――流石にそれはないか。透けてないし、触れることも出来たんだし」
それに、もしそうなんだとしたら、俺って幽霊とセックスしたことになるじゃん。初体験は幽霊です、ってか? HAHAHA――!
「随分と盛んだったな」
不意に声を掛けられ、思わずビクッとする。
カーレ、ではない。今もすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てているし……。
ていうか、なんか寒くないか?
「月に導かれて来てみれば、まさかこのような場面に出くわすとは」
足元に漂う冷気の出所に視線を向け――。
「少し話さないか、性欲旺盛の褪せ人よ」
俺は、その夜――。
青い月の魔女と出逢った――。
エルデンリングはどこまで知っている?
-
ストーリー考察含めて大体熟知している
-
本編クリア済だが難しくてよく分からん
-
本編未プレイだが、考察動画で大体履修済み
-
大雑把な概要だけ知ってる
-
タイトルは聞いたことがある