第53話 おいでませ火山館
その後、遅れてやって来た老兵ジェーレンだが、セレン師匠とレナラ様のメイガスペアにボコられた。
血反吐を吐きながらの「何故です女王よッ」は、見ていて本当に不憫というか。かつて忠を誓った者を無慈悲に葬るその姿から、心の底からカーリア王家なんてどうでもいいんだと分からされた。
そんなレナラ様にセレン師匠という劇薬か加わり、どんな化学反応を起こすのか。“混ぜるな危険”に現実味が帯びていくのを全力で知らんぷりしながら、いよいよ火山館の探索へ乗り出す。
事前情報によると、此処にはライカードなるデミゴッドが生息しており、火山地帯であることから非常に暑い。
なので、酷暑対策としてラニ様が着ていた服に着替えたのだが、まあこれが見苦しいのなんの。
メリナたちから大不評を買っていた。
「本当にその格好で行くの?」
「だって暑いし」
「暑いのは分かるが、些か視界の暴力だぞ我が王よ」
「目を閉じてればいいじゃないですか」
ラニ様が着ていた雪魔女シリーズ。術者の体温を一定以下に下げる効果があり、火山地帯でも問題なく活動出来る。筋骨隆々のマッチョが可愛い系の服を着ている図を無視できれば。
千年の恋も醒めるであろう所業だが、鎧姿で探索するよりマシだ。汗すら蒸発する環境なのだから、少しでも気を抜いたら熱中症で死ぬだろう。
なので、見た目には目を瞑って下さい!
「それにしても、本当に暑いな此処は⋯⋯。ライカードの奴は何を考えてこんな場所を拠点にしたんだ?」
そう言うラニ様の拠点は雪山ですから、人のこと言えないですけどね。まあ寒さには強いから大丈夫だけど、俺は。
「おっと」
祝福の先にある洞窟を進むと、突如足元が崩落。
危なげなく地面に着地すると、二体のアイアンメイデンがお出迎えした。
「デカいなコイツら。特注品か?」
レアルカリア魔術学院で見かけたアイアンメイデンより二回りほど大きい。
両腕が振り子鎌なタイプと刺々しい車輪が付いたタイプのアイアンメイデンは、侵入者である俺たちの姿を認めると、振り子鎌を飛ばしたり、前面の扉を開けて卑猥な触手を伸ばしてくる。
すでに魔術学院で実物を見ていた俺は難なくステップで回避。振り子鎌に取り付けられていたチェーンを両断して両腕の武装を解除したら、同じくもう一体の車輪もぶっ壊し。
仕上げに破壊したチェーンでグルグル巻きにすることで、アイアンメイデンの代名詞ともいえる扉を封印した。
機械ながらすべての武器を取り上げられて混乱しているのか、あちこちを走り回っては壁に衝突するなどしてチェーンを破壊しようと試みているが、よほど頑丈な鎖なのだろう。まったくビクともしない。
「そこで一生転がり回ってな!」
俺の言葉を理解したのか分からない。分からないが、爆速で追い掛けてくるアイアンメイデンたちを振り切り、道中発見した祝福に触れて先に進むと、切り立った崖の上に躍り出た。
洞窟の中を進んでいるうちに火山地帯を脱していたようで、眼下には水没した廃墟。遠目には雄々しくそびえ立つ黄金樹が見える。
このまま黄金樹に向かうのもいいが、火山館へ赴く気満々で装備すら整えたのに、それをスルーするのはなんか釈然としない。
遅かれ早かれ火山館には行かないといけないから、やっぱり向かおうということで、深い谷底を進み、火山館へ足を伸ばすのだった。
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魔女服での暑さ対策は酷評に次ぐ酷評だったため、泣く泣く普段通りの鎧姿に戻った俺。まあ、サウナだと思って頑張ります。
火山館は険しい山の山頂付近にあるようで、しかも円を描くように大回りしないと辿り着けないというクソルート。これには登山愛好家も唾を吐くレベルだと思う。ていうか、買い出しとかどうしてんだろうな。
火山岩の一種と思わしき自然が作り上げた岩の道を進むこと三時間。
道中、原住民と思わしきバーバリアンたちと何処かの勢力の兵士たちが争っていたり、アイアンメイデンが無双していたがすべてスルー。
簡素なハシゴを登って吊り橋なども渡り、山頂に辿り着くと隕石で出来た闘牛のような何かが居たが、これもスルー。
そうして、罪人のように逆さで吊るされた巨人たちが晒し者となっていた山道を進んだ先に、来訪者を歓迎するかのように門が開かれた巨大な館へ辿り着いた。
館の中は、なんていうか、メッチャ紅い。
光源である燭台が軒並み赤いからか灯す色も朱い。いや何でや。
壁には高そうな絵画が飾られているんだが、全部紅く見えるし。
此処まで紅いとなると火山館じゃなくて紅○館じゃん。
「お久しぶりです、褪せ人様」
明け放たれた扉を潜り、奥へ進む。
ロビーには何時ぞやリエーニエで見掛けた超猫背の天然少女、ラーヤちゃんが立っていた。
そういえばラーヤちゃんから招待状を貰ってましたね。今の今まですっかり忘れてたわ⋯⋯。
相変わらず背骨が曲ってそうな姿勢のラーヤちゃんは、俺の手を取ると嬉しそうに顔を綻ばせる。
「私の手でお招きすることが叶わず、残念でしたが……火山館で再びお会いできたこと、喜ばしく思います。どうかタニス様の元、英雄たる道をお進みください」
タニス様とな? 知らない名前が出てきたぜ。
曖昧に頷いた俺はさらに奥の部屋へと通された。
ここは、リビングかな。大きな丸テーブルには空の食器が置かれており、その奥には轟々と燃える暖炉。二階へ続く階段もある。
アンティークな調度品一つとっても気品を感じられ、まさに貴族の館ってイメージだ。
「褪せ人よ、火山館にようこそ。私はタニス、この館の主人だ。ラーヤから話は聞いているよ、見どころのある人物であるとな」
暖炉の脇にある小さなスペースに、その女性はいた。
オフホワイトのワンピースを着た、椅子に腰掛けたその人は、仮面と王冠のような帽子を被っている。
まるで舞踏会に出席するような姿だ。服は控えめだけど、その仮面とか思いっきりマスカレードっぽい。
その隣には重厚な甲冑に身を包んだ騎士。無骨な大剣を床に突き立て、来訪者である俺に鋭い視線を向けている。
「貴公、褪せ人よ、疑問に思ったことはないか? 押し付けられた祝福の導き、指どもの傲慢な世迷言に。そして疑問に思うなら、我が火山館の一員となり共に戦う気はないか? 黄金樹に弓引くのだ」
なんか壮大なことを言ってるのは分かるけど、えっと、どういうことだってばよ?
「⋯⋯黄金樹に弓引く、つまりは二本指への反逆ということだ。指たちの言いなりになるのが我慢ならないようだな」
おっふ。ミニラニ様のASMR助かる。
しかし、そうか。火山館は反二本指勢力ということか。
うーん、別に何処かの勢力に与してるわけじゃないし、円卓に座す二本指も偉そうなこと言ってるけど、別にアレの言いなりになっているつもりもない。
だから、別に火山館の一員になっても問題ないけど、どうするか。
「褪せ人様⋯⋯」
扉の影から顔を出すラーヤちゃんが目に入る。
褪せ人様も仲間になってくれるよね? そんな内なる言葉が聞こえてきそうな様相でジッとこちらを見つめてくるラーヤちゃん。
その時、ふとした考えが脳裏を過る。
(別に火山館に所属しても何も変わらないのでは?)
火山館に所属したからといって円卓の出入りが禁止になるわけではないし。
寧ろ、この誘いを断ることでタニスさんとラーヤちゃんのフラグが折れるデメリットの方が大きい。
その考えに思い至った時、自然と俺の首が縦に振られていた。
「そうか。よい返事に感謝しよう。では、貴公はこれより火山館の一員だ。廊下の奥に客室がある。どうか寛いでくれ」
パァっと顔を輝かせたラーヤちゃんに手を引かれ、食堂に通される。火山館のメンバーの一人を紹介してくれるそうだ。
食堂は閑散としており、暖炉の前に腰かけている男以外に人影はいない。
岩のようなゴツゴツとした鎧に身を包んだ重装歩兵だ。騎士かもしれないけど。
手にしている武器は、とぐろを巻いた蛇が特徴の大きなハンマー。
ヘルムに隠れて見えないが、こちらの一挙手一投足を観察するような、落ち着いた視線が絡むのを感じる。
「こちらはベルナール様です。ベルナール様、こちらの褪せ人様は、新たな一員になって下さった雷斗様です」
「どうも雷斗です」
ぺこっとお辞儀すると、ベルナールさんは威圧するような低い声で言う。
「貴公……何故、こんなところにやってきた。火山館は祝福を冒涜し、同胞を狩る背律者の巣。その意味を、分かっているのか」
えっ、同胞を刈るなんて知らないんだけど。なにそれ怖っ。
「も、もちろんっすよ」
「……分かっているのなら良い。だが、冒涜の行く末は惨めな死よ。同胞を狩る前に、よくよく考えることだな」
火山館、思ったよりヤバイところかもしれない。
後でタニスさんに確認しなければ……。