イシュトバーンさんが語った己の半生は、同じ褪せ人として同情出来るものであり、それ以上に驚愕に満ちた内容だった。
エルデンリングを求めて旅をしていたイシュトバーンさんには、アーネルヘンデという指巫女が供をしていたらしい。
彼女の言葉は二本指の言葉。彼女の導きが二本指の導きであるため、アーネルヘンデの言葉に従い順調に旅を進めていた。
一時は大ルーンを二つも獲得し、エルデの王にもっとも近い褪せ人の一人に数えられ、巫女との仲も良好。
共に苦難を乗り越え支え合ううちに両思いとなり、子供は二人は欲しいなど将来に想いを馳せていたイシュトバーンさんだが、何故かアーネルヘンデさんは曖昧に頷くのみ。
その真意を知ることが出来たのは、王都ローデイルの先にある、飛竜の山嶺に着いてからだった。
「指の巫女たちは、巨人の劫火に身を投じて、褪せ人を導かなければならない。吾の言葉も、アーネルヘンデに届かなんだ」
「巨人の劫火に、身を投じる⋯⋯?」
何のことを言ってるのか分からなかったが、文字通りの意味だった。
ローデイルに辿り着いた巫女は最後の導きに従い、飛竜の山にある巨人の釜へ身を投じる。釜の中にある滅びの火で身を焦がし、褪せ人を最後の地へ導くのだそうだ。
指の巫女である限りこの宿命からは逃れられない。相思相愛であったアーネルヘンデさんも、最期は釜の中へ身を投じた。
エルデの王になりなさい。そんな言葉を遺して。
「汝の側にもいるのだろう、汝を支え導く巫女が。彼女を失いたくないないのなら、己が使命と今一度向き合うのだな」
話は終わりだ、と言わんばかりに素振りを再開するイシュトバーンさん。
エルデの王になった雷斗くんは嫁たちとイチャイチャチュッチュしながら幸せに暮らしましたエンドを迎える俺としては、到底看過できない情報に思わずタイムをしてしまう。
少し離れた祝福に戻り、神妙な顔をするメリナに向き直った。
「どういうことだ、メリナ」
「⋯⋯何がかしら」
「しらばっくれるのは無しだ。巫女が最期、焼かれ死ぬなんて聞いてないぞ!」
王都に着いてからの具体的な話はしてこなかったけと、死別するなんて予想外にも程がある。
そんな事態になるなら王都に着く日は永遠に来ませんよ!
「聞かれていなかったから⋯⋯ハイハイ。分かったからそんな顔しないで」
どんな顔をしていたのか分からないが、余程酷い形相をしていたのだろう。
しょうがない人ね、と小さく微笑んだ彼女は俺の手を取ると、諭すように優しく語り掛けてくる。
「私の使命は、母から授かったもの。それがどんな使命だったのか、思い出せなくて⋯⋯自分の使命を取り戻すために、王都へに行く必要があるの」
その話は初耳だった。メリナ自身、あまり自分のことを語ろうとしないからなぁ。
この旅でメリナの色々な側面を目にしてきたが、まだまだ知らないことが沢山ある。
「その使命が、彼の巫女と同じものだったとしたら?」
「そうね⋯⋯私の使命が、彼の言う通りこの身を焦がすものだったとしても、私は私が納得出来る選択をしたい」
うーん、そう言われると困っちゃう。
自分が納得しても他が納得するとは限らないから、争い事が起きるんだろうし。
果たして、メリナが自分の意志で燃やされる選択をした時、俺は何を選ぶのだろうか⋯⋯。
「ねぇ、雷斗。改めて、私を王都に連れて行ってくれる?」
何処か不安気な表情を浮かべるメリナ。
メリナとの仲は良好だし、自惚れでも何でもなく事実として相思相愛だ。此処に来て彼女を見捨てる、なんて選択はあり得ない。
それは彼女も判っているだろう。だが、思考と感情が別物であることは、俺も分かっている。
大きく頷いて肯定の意を示した俺は、同時に告げるべきことを告げた。
「もし、その使命が彼の巫女と同じだったら⋯⋯。その時は、キミが何を選ぼうと、俺は俺のエゴを貫くぞ」
俺にとってのハッピーエンドとは、誰一人欠けることなく幸せを享受することなのだから。
1
「⋯⋯吾を火山館に?」
「反黄金樹であるのなら、火山館にとっても大きな戦力になるでしょうし。どうですかね」
再びイシュバーンさんの元へ赴いた俺は、当初の予定を大きく変更。
元より同胞殺しに乗り気ではなかったのに彼の事情を知った今、尚更刃にかける気は失せてしまった。
愛する人を失い復讐を誓う。到底他人事のようには思えず、なら火山館に誘致しちゃえばいいじゃんと思い至ったのだ。
アンチ黄金樹の火山館との相性は悪くないように思える。
「有象無象に付き合うほど、吾の懐は広くない」
「いや、ごもっとも! なので、どうでしょう。此処は俺が勝ったら火山館に来てくれるというのは」
一人の武人として戦ってみたい、という欲もあります。
「汝を試金石にせよと申すか。だが、それでは吾にとってメリットがあるまい」
「もちろん。イシュトバーンさんが勝利した暁には、火山館からの勧誘は一切無し。その上で、こちらを進呈したいと思います」
「ほぅ、これは⋯⋯」
四次元ポーチから取り出すのは、数々の業物。
斬馬刀を愛用しているなら大曲剣の武器が良いだろうが、剣というカテゴリーだけでも“短剣”、“直剣”、“大剣”、“特大剣”、“刺剣”、“重刺剣”、“曲剣”、“大曲剣”、“刀”、“両刃剣”。計十種もある。
今後も使用することはないだろうから、死蔵されているくらいなら使われた方が武器たちにとっても嬉しいだろう。
「中々の業物の数々。神域の武器もあるとは……余程の好事家か、あるいは……いや、下手な詮索は不要よな。よかろう、汝を一角の人物とお見受けした」
「それで、どれがいい?」
「これほどの武器を有する猛者であれば、一太刀交えるだけでも価値があるというもの。得難い経験こそが、何よりの報酬であれば」
「……武人の血が滾るようなことを言うなぁ」
葦名さんといい、生粋の武人というのはこうも竹を割ったような性格をしているのか。
愛刀の長牙を抜いた俺は、胸を借りる思いを込めて一礼した。
両手持ちした斬馬刀を肩に担ぐように構えるイシュトバーンさん。
姿勢は半身。刀身の影に体が隠れているため、正面から攻めるのは難しいだろう。
臓腑を握るような重々しい重圧。心を鎮めないと気が逸ってしまう。
共に間合いを測りながら、ジッと機を待つ。
「……釣れぬか。ならば、こちらから行くぞ」
地面を這うような独特のステップで間合いを詰めて来ると、真っ直ぐに斬馬刀を振り下ろしてきた。
大気が唸り、空間を圧し斬りながら、銀色の刀身が頭部へ迫る。無駄のない太刀筋から何千、何万と繰り返した努力の積み重ねが見て取れる。
唯の人であれば、振り下ろされた瞬間に避けるのは不可能だ。
攻撃した瞬間の間というのは、脳が情報を受け取り、肉体へ伝達するまでの時間よりも速い。なので武術的には初動の起こりを見抜き、相手が攻撃する瞬間と同時に回避しなければならない。速すぎれば相手も修正し、遅すぎれば避けきれず。等速で初めてカウンターを成す。
しかし、全ステータスがカンストしたこの肉体は動体視力、反射神経、筋力、それらすべてが常人を上回るため、通常では不可能な「見て避ける」を可能とする。
体を開き、鼻先一寸の距離で見切った俺はそのまま腰を切り、回避行動と同時に水平抜刀。居合切りをカウンターの形で叩き込む。
狙いは胴。太刀は狙い通りに胴へと吸い込まれたが──。
「浅いか……!」
速度が乗る前に一歩踏み込んだことで威力を半減させられた。
流れるような肘打ちからの膝蹴りを転がり回避。
再び間合いが離れ、下段に構えて機を探す。
(剣術もそうだが、警戒すべきは戦技だな……)
褪せ人との戦いで特に注意すべきは戦技だ。
剣技はカンストステータスによるゴリ押しでどうとでもなるが、戦技は未知数。
元の使い手が好んでいた術や技が武器に宿ったものを戦技というため、武器の数だけ戦技がある。斬馬刀なら俺も持っているが、この人が使う戦技とは恐らく違うだろう。
理想は戦技を使わせないこと。そのために最適な手段は──。
(手数による封殺⋯⋯!)
今度は俺から仕掛けた。
ステップで間合いを詰めると同時に怒涛の連撃を叩き込む。葦名流・浮舟。
剣で防ぎ、逸らし、弾いて連続の太刀を凌いでいくイシュトバーンさんは、技の終わりに合わせて太刀を返す。
お手本のような後の戦。だが、それを狙っていた!
「むっ」
猟犬ステップで背後に回り込み、延髄に向けて刀の柄を叩き込む。首回りもヘルムで守られているから斬撃は効かないが、衝撃なら通るはずだ。
金属と金属が衝突する特有の甲高い音が響き、イシュトバーンさんの体幹が揺らぐ。その決定的隙を見逃さず、刀を手離した俺は彼の両肩に手を置き、膝裏を蹴って後ろに引き倒した。
そのまま体を入れ替えてフロントポジションを確保し、抜き放った脇差しで眉間を貫く──寸前で切先を止める。
イシュトバーンさんの左手に握られていた短剣が、俺の横腹に突き刺さろうとしていた。
「これは、引き分けかな?」
「否。汝の勝ちだ。致命の一撃と掠り傷では釣り合いが取れぬわ」
良き、仕合いであった。
その言葉に俺も大きくジェスチャーを返すのだった。
定期的に戦闘シーンを書きたくなる。