火山館に在籍するようになってから一か月。
火山館からの依頼は不定期で、討伐系の依頼もあれば探索系のものと幅広い。
討伐系は黄金樹に与する古参の褪せ人がメインターゲット。大体半数は言葉も解さない生ける屍のような奴らで、目的以外忘れてしまった、そんな哀れな存在だった。
半ば解釈の意味も込めて斬首しているが、もう半分は理性の残った褪せ人たち。そういう人たちは並ならぬ信念をお持ちなので、交渉不可。では、御免! の流れでバトル羽目になる。
んで、探索系の依頼は専ら遺跡やダンジョンに眠る武器や遺灰集め。
こちらは、火山館に収めるのではなく、俺の私物として回収しても良いとのことで、情報提供ありがたく受け取っている。
まあ、武器や防具の類は大体被るから、要るとしたら遺灰くらいだけど。
ちなみに新たにゲットした遺灰は“しろがね人”と“調香師トリシャ”だ。
中でもトリシャを仲間に出来たのは大きい。彼女はかつて癒やし手と呼ばれ、混種や忌み子、あらゆる穢れの治療を志したまさに聖女のような人だ。
竜の御子についても噂程度に知っていたようで、俺がエルデの王になった暁には最先端の医療を提供することを約束し、愛人契約を交わしました。
メリナにペチペチ叩かれ、ミニラニ様にゲシゲシ蹴られたが、チャンスを逃すなと俺のゴーストが囁くんだから仕方ないじゃん!
そして、この一か月で火山館にも馴染み、タニスさんやラーヤちゃんとの仲も上々。
館に常駐しているメンバーは基本的にタニスさんとラーヤちゃんのみで、他は各地に散らばり自由に行動している。皆、英雄になるべく邁進しており「俺より強いやつに会いに行く」を素で行っているのだから驚きだ。英雄の条件って何ですかね。
何故、英雄を目指すのか、それはタニスさんが英雄を求めているとしか言いようがなく。そのために英雄の道を選んだらしい。反黄金樹を真面目に掲げているのはごく一部という悲しい現実を見知ったね。まんま動物の求婚でワロタ。
こうなると、タニスさん悪女説が有力になってくるんだけど、あのしっとりとした声で「頼むよ、貴公」と言われると条件反射で頷いてしまうのも分からなくはない。未亡人感が凄いのだ。
俺にはメリナやミニラニ様というお目付け役がいるから、何とか誘惑に抗うことが出来ているが、ただの童貞なら即傀儡になってたね。
夜も更けてきた時分に火山館へ立ち寄った俺は、タニスさんたちの好意に甘えてディナーを共にしていた。
テーブルマナーが必要となる食事だし量も少ないが、味は素晴らしい。シェフを褒めたいところだが、誰が作ってるのか教えてくれないのだ。これがタニスさんの黒騎士だったら笑える。
食事の席だと流石に仮面を外してくれるが、それでも鼻から上は隠すという徹底ぶり。この一ヶ月、タニスさんの素顔はまともに見れていないのが唯一の不服か。
もちろん素顔は透視でバッチリ確認済みだ。綺麗な顔立ちをした赤毛の女性で、何処となくミリセントちゃんを彷彿とさせる。
あり得ないと思うが、まさかミリセントちゃんの実母じゃないだろうな⋯⋯。
「貴公には、そろそろ伝えておくべきだな⋯⋯火山館の真の主、我が王ライカードについて」
複雑な家庭環境に想いを馳せていると、唐突にライカードのことを語り始めた。
なお、従者のボックにも俺と同じ料理が提供されており、霊体化しているメリナに至近距離からガン見されている。冷や汗が止まらない様子のボックだけど、メリナは雷斗の愉快な仲間たち随一の腹ペコキャラだから仕方ないね。
俺とタニスさんは既に食事を終えているが、ラーヤちゃんはまだお食事中。結構ゆっくり食べるのね、この娘。
「黄金樹は褪せ人に祝福を与えた。だがそれは、導きの使命に対して、とても小さい⋯⋯故に褪せ人は力を漁り争う。そうすることを求められる」
丁寧にスプーンで掬ってスープを飲んでいるラーヤちゃん。
お気に召したのだろう。そのまま平らげてしまったのだが、まだ飲み足りないのか丁寧に丁寧に、それこそ一雫までスプーンで掬う。
直接お皿を舐めるんじゃないかと思うほどの勢いというか、執念のようなものを感じだ。普通におかわりすれば良いのでは?
腹ペコラーヤちゃん、それもまた良し。
「かつてエルデンリングが砕けたとき、大ルーンの君主たちが求められたように、我が王はそれに憤った。分け与えられたものを漁りあう、そんな浅ましい生き方など受け入れられぬと。黄金樹が──神が我らを愚弄するならば、背律の冒涜を犯してでも、尊厳の反旗を翻す。それが我が王、ライカードの決意であり火山館の意志なのだ」
あ、俺の視線に気づいた。照れてた顔も可愛いね。
そして、人の頭をペチペチして食事の催促するのは止めなされ。早く此処から出て私にも食べされろ、と声なき言葉が何故か聞こえる気がするから。
我関せずとお人形さんに徹しているミニラニ様を見習いなさい。
「──貴公が、このまま英雄の道を行くのならば、いずれ我が王に見えるだろう。戦う者たちの邂逅は、いつも美しいものだ⋯⋯。その時が楽しみだよ、ふふふ」
「⋯⋯? アッハイ」
やべぇ、話聞いてなかった⋯⋯。
困ったら取りあえず相槌を打つのは、日本人の習わしである。
1
火山館からの依頼がある場合、自室に封書が置かれている。
通常は白い普通の封書を、火山館のシンボルである蛇の封蝋で閉じているのだが、その日は見慣れぬ赤い封書が置かれていた。
何か特別な依頼なのだろうか。少し身構えながら封書を開けてみると、【血湖の騎士ユーノ・ホスロー】を始末して欲しい旨が書かれている。
いつもの討伐系の依頼だ。
「なんで赤なんだ?」
いつもの白い封書を切らしていたのかな。
一応タニスさんに一声掛けておこうとリビングに向かうが、彼女の姿はなかった。
ご飯の時以外はいつもリビングに居るのだが、珍しいこともあるものだ。
「んー、取りあえずホスローさんがいる場所に向かうか」
場所は飛竜たちの山嶺。凍てつく霧ボレアリスが治める雪山だったと記憶している。
飛竜たちの山嶺は、アルター高原を越えた先にある。まだまだ道のりは遠いらしい。
洞窟から出た俺は、地図の方角目掛けてトレントを進めた。谷を下から登ると火山館ルートだから、大体反対側だな。
直ぐ側に水没した廃墟があり、ディビアの呼び舟と呼ばれるババアが小舟を動かしているのが見える。
見つかったら面倒なため廃墟には近づかない。
緩やかな下り坂を降りると新たな祝福を発見。同時に思い掛けない人物にも遭遇した。
「──君、また会えたな」
「ミリセントちゃん!」
ケイリッドで出会った隻腕腐敗系美少女のミリセントちゃんだった。
彼女と邂逅した時は、その身を腐敗の病に犯され幾ばくもない余命だったが、腐敗を抑える【無垢金の針】によってある程度回復出来た。
今も心臓の裏側にぶっ刺さった針の効果で、その身に宿った腐敗は休止しているようだ。
「ああ、私の方は問題ない。あれからずっと、朱い腐敗は蠢いていないよ。お陰でこうして旅を続けられている。⋯⋯だが、歯痒いことだ。もし私が、この右腕を斬り落としていなければ、剣で君の助けになれたものを」
ミリセントちゃんの右腕は肩から先が欠損している。
類まれなる剣技の持ち主であるため、右手が無事だったらとても心強いだろう。
剣技じゃなくても床技で助けになってくれてもいいんやで? なんて本人に聞かせるわけには行かない冗談を胸の内で呟いていると、メリナに肩を叩かれた。
邪な気配を感じ取ったのか、思わず身構える俺に首を傾げるメリナ。
「日陰城で見つけたアレ、使い道がないならこの娘にあげたら?」
「日陰城っていうと⋯⋯ああ! アレがあったな!」
メリナの助言でその存在を思い出した俺は、早速ポーチからそれを取り出す。
火山館の依頼で偶然見つけた、黄金の義手。
解析眼によると、かつてマレニアが使っていたらしい。極めて精巧な造りで、前腕には何かしらのギミックが仕掛けられているようだが、部品が足りないのか今は正常に機能しない。
だが、普通の義手として使うに当たっては申し分なく、鍛錬と才能があれば本当の腕のように扱えるだろう。
ちなみにコレをキープしていた理由としては、俺のポーチにもない物だったのと、いつか義手プレイをするかもしれないという邪な動機である。
「君、この義手は⋯⋯私に譲ってくれるというのか?」
「もちろん。俺が持ってても仕方ないし、是非使ってくれ」
「⋯⋯感謝する。君には、世話になるばかりだ⋯⋯だがもし、この義手が私に扱えるのなら、また剣を振るえるかもしれない」
懸念すべきはマレニア専用の義手であるため、サイズ的にフィットしない点だが⋯⋯。
右肩に義手を押し当てると、小気味よい音が鳴り響いた。
調子を確かめるように軽く腕を動かすミリセントちゃん。腰に差した剣を抜き、流麗な剣舞を披露する。
「まるで自分の腕のように、剣も振るえる⋯⋯素晴らしいな、この義手は」
通常のそれではなくマレニア製の義手だ。並外れた努力を積み重ねた上で、非才の者が扱える。そんな特別性の義手なんだが。
なんのトレーニングも無しにいきなり使い熟すとか、一体どれほどの才能なのか。
天才ミリセントちゃん、恐るべし⋯⋯。
「君の前でいうのも烏滸がましいが、剣だけは自信がある。だから、君が必要な時は戦いに呼び出して欲しい」
白い指輪を渡される。【白い秘文字の指輪】というアイテムで、魔力を通すことで遠隔にいる対象者を呼び出す事が出来るものだ。
指輪の裏側には“Millicent”の文字が刻まれている。
「ありがたい。ところで、使命というのは果たせたのかな?」
本当は我がハーレム軍団の一員に勧誘したかったが、メリナと同じように自身の使命を果たすために旅をするとのことだったので、断腸の思いで言葉を噤んだ記憶がある。
「いや、まだだ。⋯⋯私は今、マレニアの足取りを追っている。ケイリッドの野、将軍ラダーンとの戦いで腐敗の力を解放した後、何処かに消えてしまった彼女に会いたいんだ」
そして、マレニアは北にいるらしい。それもあの黄金樹を超えた、その先の地に。
ていうことは、王都ローデイルを越える必要があるということで。なら途中まで一緒にどうかな?
「それは願ってもない申し出だ。ありがたく引き受けよう」
こうして俺の旅に賑やかさが少し増したのであった。
「⋯⋯先ほどから気になっていたんだが、随分可愛らしい人形だな。君が作ったのか?」
これまでは前にボック、背中にメリナという形でトレントに乗っていたが、それだとミリセントちゃんが置いてきぼりになるため徒歩での移動に。
のんびりと目と鼻の先にある黄金樹に向かって歩いていると、肩に乗ったミニラニ様の話になった。
ミニラニ様は話し掛けない限り、本当に人形のように振る舞う。依代であることを見抜けないのは仕方ないが、俺にそんな器用さはない。
「この依代は私の手製だが、そう褒められるのも悪くないな」
「貴女は⋯⋯」
「私はラニ。我が王の月にして未来の妻だ。⋯⋯先に言っておくぞ新入り。我が王の懐は広いが、私は寛容ではない。数少ない側室の座を争うがよい」
まさかの牽制に頬が引き攣るミリセントちゃん。
俺の穏やかだった心臓も引き攣る。
「⋯⋯これは手厳しいな。別に正妻の座を争っても構わないのだろう?」
「奪えるものならな。この指輪を見るがいい」
そう言って胸元から取りだしたのは、何時ぞやの指輪。
確か【暗月の指輪】だったか。シルバーの鎖で首に掛けられるようにしてある。
てっきり本体のラニ様が持っていると思ったが、ミニラニ様が所持していたのか。ご丁寧になくさないように首輪にして。
チラッと見えた女心にズキューンと射抜かれる心臓だが、この状況を思い出して冷や汗が出てきた。
ていうか、ミリセントちゃんの好感度もしっかり稼げているようで嬉しい!
「これは我が王から賜った特製の指輪だ。この人形だと些か大きいから、こうして首から下げているが⋯⋯通常は薬指に嵌める。その意味が分からない訳ではあるまい?」
「まさか⋯⋯そういうことなのか?」
「そういうことだ。我が王の正妻は既に決まっている。まあ、精々頑張るのだな」
新入りにマウントを取るミニラニ様も可愛い。
それはそれとして、ギスギスした雰囲気はどうにかならないものか。
「久しぶりね。⋯⋯そこの人形の話は適当に聞き流して。そもそも婚約の話だって彼女が一方的にそう思ってるだけだし」
「⋯⋯なんだと?」
「だってそうじゃない。あの時、雷斗は承諾した? 指輪を貰ったって言ってるけど、そう仕向けたんじゃない。そういうのをね、マッチポンプと言うのよ」
メリナァァァァァ! 火にガソリンを注ぐなァアアアアア!
その後、女三人による姦しくはないけど居心地の悪い空間に苛んだ俺は、ボックとともに『男はつらいよ』を歌うのであった。
一般投稿に変更しました。
R18版も投稿しました。そちらの更新はゆっくり待ってください。